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鬼女  作者: I
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鬼女

鎌倉時代から令和の時代へ。

セーマンは、蔵の中にある。研究所にとじ込み特殊なアーマーの製作していた。と同時に名刀の模倣品だが、神氣を放っていた。

季弘は、神通力を使い源義経と話した。

 〈義経様。季弘です〉

 〈おう。季弘殿!〉

 源義経は、陰陽師・鬼一法眼の弟子でもあり鞍馬山で剣術や兵法、陰陽道を学び、義経も式神や術が使える陰陽師でもあった。その優れた術師でもある義経は、頼朝が恐れる存在でもあり、邪魔な存在でもあった。

 〈義経様。南と東の兵の補充をお願いします〉

 〈分かった。あの童子と戦っているのは、泰茂とあのチビは誰だ?〉

 〈はぁっ。あの者は、泰茂の嫡男・泰忠でございます〉

 〈あの幼子が、いい剣筋をしている〉

 義経は、兵を強化する為に家来たちに指示をした。

 〈弁慶と三郎は、南の兵の強化。常陸坊と次郎は、手前と東に参れ〉

 義経軍は二つに分かれ、南に義経四天王である武蔵坊弁慶と同じく四天王の伊勢義盛(通称・三郎)に義経の家臣の鷲尾義久、源有綱、土肥宗遠、渡辺綱の子孫である渡辺授が、名刀髭切りの太刀を携えて南を守護に向かい。そして、東は源義経を先頭に義経四天王である常陸坊海尊と同じく四天王の駿河清重に、義経の家臣の故・佐藤継信の弟である忠信。堀景光。そして、源頼光の子孫の源廣綱が名刀蜘蛛切り丸を携えて、廣綱の義弟である有綱も義経と共に行動していた。義経軍は二手に分かれ兵を待機させると、義経は白馬に乗馬した儘、邪氣童子にいる場所に向かった。その白馬は、魔羅鬼神に恐れることなく駆け走り、宙を翔け走った。

 「オン アラハシャ ノウ」

 義経が、印を結び真云を唱え心に仏の姿を現れると、白馬が青獅子になった。義経は童子の姿になり文殊菩薩と同體一神と人間の中で、もっとも神に近い人間となった。義経は、宝剣を手に騎獅して宙を翔け走った。

 「泰茂殿。子供たちの體力が心配だ。現に、光が弱まっている。徐々に、平安京の碁盤の目から発する光が、弱回っているぞー」

 夜っぴて続けられる。子供たちの舞いや歌う声が掠れ、神の波動が薄れていた。邪氣童子は、光が届かない東山三十六峰まで後退し、得意な術で戦おうと姿を消した。

 (光が弱まってきたか。俺にも勝算がでてきたか)

 義経や泰茂親子には、姿が見えていなかったが微かな氣配を感じ一点を集中していた。

 〈華頂山から氣配が…〉

 近くにいた泰忠が氣配を読み取った。義経も泰茂も華頂山の方に視線を向けると氣配が、山々に散らばった。

 「どうだ。俺様の術わぁ~」

 邪氣童子の声は、山々から聞こえ義経や泰茂を惑わした。

 〈義経様、泰忠。一時的に平安京の中に入りましょう。いい考えがこざいます!〉

 三人は、平安京の中に入ると東西南北の兵たちが、一斉に刀を振り上げた。弱まりつつある平安京から輝く聖なる光を利用して、兵士たちが抜くた刀身に反射してキラキラと東の山々を照らした。

 「鬼さん。みぃーけっ」

 泰忠は、近くにいた義経派の藤原頼衡に重藤の弓と八幡大菩薩の神氣が籠もった尖り矢を借りた。

 「どうするつもりだ。子供には無理だ」

 「大丈夫。こうゆうふうに使うの」

 泰忠は、地面に足を伸ばしたまま座り、弓幹に足を縄で縛ると體全體で弓を引き、足を少し上げ紫雲山の峰に照準を合わせると矢を射った。矢は、放物線を描くことなく一直線に向かった。

 矢は、刺さることはなかったが、邪氣童子は矢を掴み取り手の中にあった。

 「正體を出しよったか、泰忠! 行くぞー」

 「あっ! ちょっと待って!」

 泰忠は、弓を縛り付けた縄を切った。

 「おまたせ!」

 泰忠は、宙を蹴り父の後を追った。

 時刻は、丑三つ刻が近づき、夜が深まることに邪氣童子の魔力も増していたが、平安京からの光は、弱まり鴨川から東は光が届かなくなっていた。邪氣童子の動ける範囲が広がり、邪氣童子は分身の術を使い邪氣童子は三人の分身の術を使い義経、泰茂、泰忠と一対一の戦いとなった。三人になった邪氣童子は、太刀や金棒、さすまたを持ち攻撃を仕掛けた。

 〈廣基殿。泰忠の助に。頼む!〉

 廣基は泰忠の助っ人に行かせ、季弘は南に留まりて西南北、三方を守護し鬼女に備えていた。

 邪氣童子の攻撃は衝撃があるが、逆に攻撃を仕掛けるも実體がないのか體には掠りもせずに、體の中を剣が通り抜け全く手応えはなく無駄に體力を奪い防御するだけで攻撃をすることができなかった。平安京の碁盤の目から発する光は、月と星々が動き時を重ねる度に弱まり、邪氣童子が動け回る行動範囲が広がっていった。

 

 丑三つ刻。

 宿り主が化け茂子は、嵯峨野の山荘に現れた。

 その山荘は、高倉範季の山荘であった。その山荘には、範季の妻と子である重子が、山荘に居留していたこともあり、当家山荘の周辺や嵯峨野の別邸一體には、厳重な警備がされていた。だが、厳重な警備に関わらず、山城国は治安が悪くなっていた。その原因は、中央の批判であったが鬼女が現れてからは、より酷くなり模倣犯が続々と増えて強奪も続いていた茂子が罪を重ねるたびに山城の治安は、更に悪くなり嵯峨野も例外ではなかった。嵯峨野は、貴族の別邸や山荘が多く建てられていたが、戦に負けた者の隠れ家や多く山賊も多く現れては、別邸を襲っていた。狙われるのは弱い女ばかりで、犯す。身に付けている雅な着物や金品を奪っていた。そんな寂しい山の中をひとり寂しく宿り主を変えて新たな肉体は、茂子の姿で歩いていた。

 「こんな夜更けに、どこ行くの?」

 山賊は、和子を見つけ声を掛け、着ている金の物を奪おうと群がってきた。

 「いい。被衣を着ているね。脱ぎなぁ!」

 「嫌~。助けてくだされ」

 茂子は、弱々しい声で羊の毛皮を被っていた。山賊に被衣を追い剥ぎに合い。魔性の力が開放された。

 「護身用の刀にしては、大きいな! これも戴く」

 山賊は、茂子の妖刀を奪おうとしたとき、美しい顔から想像できない太く悍しい声で怒号した。

 「触るな。山賊どもがぁ!」

 白装束になった茂子は、妖艶な素顔から目が釣り上がり、鬼女の悍しい形相に変わった。声は、か細い声から何重も重なった太く低い悍しい声になった。

 鬼女は思い止まり、盗賊に妖刀を抜くようにいった。

 「その刀が抜けたら、くれてやる」

 そして、妖刀を奪った盗賊が、刀を抜き剣先が鬼女に向けられた時。その盗賊は、妖刀に支配されて仲間の山賊を次から次へと襲い妖刀で殺害し魂魄を吸収した。その妖刀を持った盗賊は、鬼女に妖刀を返した。

 「肉体がほしいのだろう。好きにするがいい。その変わり、妾のことをきくのじゃー」

 鬼女は亡霊にいった。

 その亡霊は、京内で勃発し反乱で犠牲になった亡霊たちがいた。鬼女は、亡霊を利用して山荘の中の衛兵を殺害するように指示し、その混乱の隙に娘を拉致しようと企んでいた。

 茂子が、鬼女に姿を変えたとき、能力者は鬼女の邪氣を感じていたが、詳細な場所は分からなかった。鬼女は被衣を被り、魔性の氣を掻き消され邪氣を見失っていた。だが、兼吉が放った式神の白蛇が草叢の中で一部始終、ルビーのような赤い目で見ていた。

 (鬼女がでたか! 鬼女を捕まえれば、我が奥州流の安倍家は、安泰だ!)

 鬼女が出て喜んでいたのは兼吉だけであった。兼吉は、誰にも知らせずに全てを自分の手柄にしようとしていた。今まで公家の娘を殺害してきた鬼女の罪を重ねる度に、泰親流と廣基流の名を汚し、鬼女を倒すことで貞光流の名を上げようと思惑があり動かずにいた。この機会を虎視眈々と狙っていた。

 (これで、出世、昇進は間違いなし。正従四下、中宮職の大夫が、固いぞ…)

 透かさず貞光は間者のように、あらゆる障害を飛び越え出世を思うと笑顔が零れ、にやけながら駆け走り向かった。

 (亡霊を仲間に、引き摺り込んだか!)

 山賊の屍は亡霊が支配し、仲間の亡霊を増やそうと、高倉家の山荘を襲おうと衛兵に襲いかかった。刀を抜き、衛兵を次々と斬り襲い出した。

 「出会え! 出会え! 山賊だ」

 屍は、太刀を振りかざし兵士を襲い出した。

 「何だ! コイツらは? 斬っても、斬っても、死なないぞ!」

 闇の宿り主である者を斬りたとしても、ただの肉の塊であり痛みを感じることもなく腕を切り落とそうが、足を切り落とそうが、首を落とそうが、腸を引き摺り歩こうが、全く痛みを感じなく兵士を殺すまでは襲い続け、仲間を増やそうと殺害を楽しんでいた。

 衛兵の兵士たちも、何回斬っても死なない山賊に息が切れ、刀は血糊で切れ味が悪くなり、無駄に體力を奪われた。兵士は追いつめられ恐怖が増し、戦闘不能になる者や逃げる者も出てきた。そして、斬り殺され兵士たちは成仏ができなくなり、殺された衛兵の魂魄は、亡霊となり京の町を彷徨い人々を悪の道へと誘い引き摺り込んだ。山荘の中は、悲鳴と逃げ惑う人々で混乱していた。そんな最中、鬼女は和子の姿で侍女に成り済まして山荘の中で幼い重子を探していた。

 「ちっ! 嫌なヤツが来た!」

 兼吉は、式神の目を使い。動きを追い山荘の前に降りたった。

 (ここは、逃げるか!)

 兼吉は、入り乱れている山荘の庭の中に入った。

 「どいつも、こいつも。俺の足を引っ張りやがる」

 兼吉は、亡霊を浄化するために式神である白蛇を人格化して、山荘の四方に式神を配置させた。そして、回りに注連縄で結界を作り、山賊や衛兵の中の亡霊を浄霊した。屍は、バタバタと倒れ動かなくなった。兼吉と生き残った衛兵と共に建物の中に入り、重子を捜しに入った。

 「其方、待たれよ」

 その時に、兼吉は不審な女に声をかけ、その場に止まるように促したが、不審な女は被衣で顔を隠し逃げるように、襖を締め納戸の中に入った。

 (また、麝香の香りが…)「待たれよ!」

 衛兵は、女の後を追い。襖を開けようとしたが、兼吉は静止した。

 「待たれよ!」

 兼吉は、被害現場に残る匂いと同じ麝香の匂いが、女からも漂い慎重になっていた。兼吉は、白蛇の式神を納戸の天井に移動させ中に様子を見た。

 「逃げたか! やはり、あの者が魔性の者か!」

 引き手に手をかけ襖を開けた。入り口が一つしかない納戸の中には、誰もいなかった。二云三云話した寸秒の間に、人間が消えていなくなるとこは有り得なかった。

 「どこへ、行ったのだ?」

 (結界を作り、魔性の者は浄化する筈だが?)

 納戸の中には、一匹の白い蛇しかいなかった。

 「……」

 衛兵は、納戸の中を隈無くさがしたが、さっきの女の姿はなかった。

 兼吉は、重子の無事を確認に御寝の間の中に入った。

 (この香りは、沈香木)

 「重子殿。もう、大丈夫です。魔性の者は、逃げ申した」

 御寝の間には、沈香木を焚かれていた。その部屋で、重子は侍女たちに囲まれていた。

 (隣の間だったが、どうして、見つけられなかった?)

 兼吉は、香炉の方を見た。

 (沈香木の香は、魔が嫌がるのか? 人の穢れや心を清める効果があるとは、聞いていたが…)

 兼吉は、重子の側で考えいた。

 「手前は、朝になるまで、ここにおります。安心してくだされ」

 霊感の強い重子は震えて、兼吉の手を力強く握り締めていた。貞光は、重子を宥め、朝になるまで重子に恩着せがましく側を離れなった。重子も恐かったかのか、兼吉の袖を掴み離れようとはしなかった。

 高倉重子。この時は、まだ三歳であったが、後に後鳥羽天皇妃になり、子・守成親王(順徳天皇)を授かることになった。修明門院と名乗る。

 

 同じ時刻。丑三つ刻。三體の邪悪童子。

 邪悪童子の術に翻弄されていた義経と泰茂親子は、三體の邪悪童子に攻撃もできずに、一方的に攻められていた。義経は、式神であり仏に帰依した五體の鬼神を呼び実體を隈無く探させ、泰茂も八百萬の神の五體の鬼神を呼び実體を探させていた。

 (実體は、どこだ!)

 攻撃を受けるだけに、義経は泰忠の體力を心配していた。

 その時。義経に神通力で話しかける者がいたが、声を聞き愛するとわかった。

 〈義経様。妾におまかせくだされ!〉

 〈頼む。静!〉

 静御前は、武官姿で神泉苑の放生池に架かる。朱塗りの丸橋、法成橋の上で善女龍王の真云を唱えた。

 「おん めい げしゃにえい そわか」

 放生池の水が盛り上がると、巨大な善女龍王の半身が立ち昇り、静御前を見下ろした。

 「其方の願いをひとつ叶えよう」

 「我が守護神。善女龍王様から発する聖なる光で、邪氣を祓い給え」

 堪えず天地の霊氣を吸収している龍王の體からは、金色の放射を放つと、目からは、それ以上の金色の光の筋を放射し始めた。

 東西南北。

 その金色の光を放たれた。

 龍王に睨まれ、光を浴びた邪悪童子の分身は、強力な光に幻影の粒子が、砂塵のように飛ばされ消滅した。龍王は、東西南北に光を放ち終えると天高く昇ると長い體を曲げ、放生池に目掛けて急降下し始めると、放生池の中央には渦が発生し、その渦の中央に目掛けて入り大地の中に帰っていった。

 「邪悪童子は、何処にいった!」

 人々の目には、邪悪童子の姿を見えていなかったが、義経らの神眼には邪悪童子の姿を捕えていた。泰忠は、白々しく云っていた。

 「何処じゃ。邪悪は、何処にいったのじゃ!」

 泰茂も義経も賛同して、白々しく芝居をしていた。

 (今のうちに、逃げる!)

 邪悪童子は、茶山の麓付近の上空にいた。陰陽師たちの神眼でも、見えていないと勘違いしていた邪悪童子は氣配を消し、こそこそと逃げようとしていた。

 〈泰忠は、父の許へ来い。邪氣の方を見るなよ〉

 泰茂は、如意ヶ岳の麓から北西にいた。泰茂は、泰忠を吉田山付近から呼び寄せた。

 (めをいれてやる。覚悟しとけ!)

 泰忠の側を邪悪童子が、そこそこと擦れ違い側を通った。邪悪童子が、泰茂親子に背を向けたときに泰忠は上段に、泰茂は下段に構えていた。

 「鬼は外!」と泰忠が、うように云った。

 泰茂の刃身が炎の渦を巻き、泰忠の刃身には竜巻が発生していた。親子は同時に、泰忠は振り下ろし、泰茂は振り上げ、炎の渦と竜巻が邪悪童子の背を襲い。體は、灼熱の炎の渦に包まれていた。邪悪童子の地獄の炎と質が違う聖なる炎にき苦しみ叫び、その叫び声が響いていた。

  ギヤャ~。ギアャ~。

 踠く邪悪童子に、義経は激しく體当たりをし、邪悪童子は如意ヶ岳の西側の前峰に大の字で山に減り込んでいた。

 〈泰忠。破魔矢で無にせよ〉

 泰忠は、瞬時に弓を構え破魔矢を射った。矢は命中して背中から心の臓を射られた邪悪童子は、無となり大の字の炎だけが残っていた。

 寅二つの刻。邪悪童子の戦いは、義経軍が加わり童子を消滅できた。だが、邪悪童子の魂魄は、この世に留まり新たな肉体を求め彷徨っていた。

 この日は、鬼は出なかったが、兵は夜が開けるまで待機していた。魔羅鬼神は、三日間、人間の血の変わりに睡眠が必要があった。

 

 既に日は、六月廿二日。東から日輪が上がったとき、如意ヶ岳の火は鎮火していた。その鎮火した後には、大の字がくっきりと残り、草木も生えなくなった。それから、京の人々は、如意ヶ岳のことを大文字山と名付けるようになった。

 この日。の要求で、を南都に引き渡されることとなった。だが、道中の木津川畔で処刑された。

 また、ひとつの怨霊が生まれ、都に舞い戻り妖刀の一部となった。

 そして、日は暮れ、月が現れた。

 この日は、静寂の夜を取り戻し、魔性の者は現れなかった。


 六月廿三日。平宗盛の首が三条河原に曝された。この日も静寂な夜であったが、宗盛の回りには四つの鬼火が青白い光を発して、首は鎌倉の方に向くと、目は鋭い目つきで睨みつけ歯を食いしばり、源氏や帝、中央の対する恨みの言葉や冒涜を云い、呪いの言葉を口にしていた。口からは血が滔々と流れ落ち、血は鴨川に流れ込み、川の水は真赤に染めていた。

 この二日間。鬼女も現れなかったが、怨霊は続々と都に集まっていた。

 鬼女に関しては、兼吉は沈香木が魔性の者たちが嫌う香りの物と氣づき、鬼女は血に飢え獲物を探していたが、沈香木を避け被害者も少なくなった。魔羅鬼神の體も癒え、夜には泰忠とともに警備にあったていた。鬼女が現れなくなってから十日たった七月四日。人々が平安京に戻りつつある中。再び鬼女が、現れ公家の娘だけを狙い血を啜っていた。邪氣を祓うとされていた沈香木にも関わらず、娘が浚われていた。手掛かりは、被衣の柄と現場に残る麝香の香りだけであり、鬼女の捜索は一向に進展しなかった。被害は、都だけでなく全国にまで公家の血を引くたちやの娘までもが狙われた。鬼女は、公家の娘の命の根源である血を飲むことで、美貌を維持していた。ただ、それだけの理由だけで娘たちは犠牲になっていた。そして、夜な夜な茂子は公家の娘を襲い生き血を飲み、残虐な姿で放置した。茂子は、もっと美しくなりたいと血を求めて、次々と蔑んだ公家の娘を襲っていた。夜になると血の味と人を殺す快感と興奮、見つからないかという、はらはら感が癖になり自分を止められない状態に陥り益々癖になり、落ちるところまで落ちた。欲望が暴走し、公家の娘なら手当たり次第に襲った。鬼女の側には、いつも血の臭いと魑魅魍魎たちが共に行動して、死体の肉を貪り食い散らかした。

 被害にあった屋敷には、麝香の香りが漂っていた。義経四天王も安倍四天王は鬼女にだけ集中していた。だが、鬼女や魑魅魍魎の邪氣に氣づくが、いつも鬼女の姿はなかった。式神使いの者たちに義経や安倍四天王、貞光の式神たちは平安京を中心に配置をしていたが、式神の目を掻い潜り大内裏の結界の中に入り込み女官をも襲い。體をバラバラにされていた。鬼女は、野獣が獲物を狙うように大量に襲うことはなく腹を満たすほどの血だけでよかった。だが、被害者は公家の娘二十人。妖刀は、何人もの人を斬っているというのに、刃先が刃毀れはおろか、曇りもせずに人を斬る度に異様な輝きを増し強度も増した。その妖刀も又、血に飢えていた。そして、仲間を増やす為に、成仏して天に向かう魂魄をも無理矢理に吸収し、妖刀の一部していた。だが、鬼女は公家の娘たちとその魂魄だけは、じわじわと地獄の苦しみを与えて、生き血を吸われ、首と胴體に分けられて永遠に孤独を与えて、平安京を彷徨い、自分の首を捜し続けて、夜な夜な丑三つ刻になると、姿を現し目撃されて、陰陽師や僧侶が成仏するように、諭しても成仏することはなく首は胴體を探し、胴體は首を探し続けていた。

 朝廷の命で陰陽師たちが、集められが平安京に鬼が蔓延り鬼門を穢し陰陽師の術の邪魔をし、内裏の中でも摩訶不思議な事件が起きていた。平安京に百鬼の鬼たちが蘇り、陰陽師にも手がつけられなくなっていた。『大内裏』の中に鬼門の方角に鬼封じの為の茶園の茶畑と梨本の梨の木が枯れ、『内裏』の中にある帝がいる『にある『』の鬼門の方角には『二間』という二畳敷きの部屋があるが、其処で僧侶による祈祷が行なわれている。その僧侶たちが、次々と姿なき者に噛み殺され、裏鬼門の『鬼の間』のという部屋があり、其処には鬼が切り殺す掛け軸が自然発火して灰になった。原因不明の出火であった。

 出火した次の日。

 深刻なことに、帝を狙う事件が起こった。その事件は、泰茂の予知で未遂で事無く終えた。その日は、重要な儀式があり『』にて行なわれ、帝の御座である『』の鬼門の方角から、空間に黒い穴が開くと、鬼の太い腕が出て天皇を壁の中に引き摺り込もうとしたが、聖域の八角形の高御座に拒まれ鬼から免れた。安倍泰茂の娘、雅子が秘宝の短刀で鬼の腕を刺し痛みに、黒い空間の中に腕を引っ込めた。直ぐ様、大内裏にいた安倍四天王や陰陽師たちが大内裏内の穢れた鬼門を祝詞で浄化し、黒い空間を消し去った。


 七月九日。警備は、鬼女重点に警備されていた。平安京を粒揃いの武将が囲み、平安京の中を安倍四天王が守護し、魔羅鬼神は朱雀門を守護していた。貞光は、を守護していた。雅子は、幼い帝に付き添っていた。

 そして、義経四天王は、平安京の四方位を囲む大将軍を祭った神社に待機させた。北にある西賀茂の神社に、武蔵坊弁慶を北の大将として二百の兵力と共に守護をしていた。東には

、東三篠軍神社を拠点に、を東の大将として騎馬隊二百の兵を連れ守護をし、南は藤森神社内にある大将軍社には、が南の大将として騎馬隊二百五十の兵力。西の大将軍八神社には、が西の大将として二百五十の兵力で平安京を守護していた。源義経は、兵を持たずに単独で動き、変化童子と共に朱雀門の上から平安京を見渡し監視していた。

              

 丑二つの刻。

 山城の国に、直下型の地震が襲った。段々と震度が強くなり、崩壊する家も出てきた。

 (地震だ! それも長い…)

 「地震じゃ…ない!」

 魔羅鬼神は、鬼女の邪氣を感じて上空に上がり南の方角を見ていた。

 〈鬼女が、上鳥羽から現れました〉

 魔羅鬼神は、神通力を使い安倍・義経四天王に伝えられ、瞬時に兵士たちにも伝えられた。兵は、一斉に南に向き矢や槍が向けられていた。

 義経は、南の大将である駿河清重を平安京の南に移動させた。

 〈次郎。騎馬隊を羅生門に、狩りの陣だ!〉

 駿河清重は、兵に指示し羅生門より南の路を挟むように兵士たちが、三列に並び弓を構えていた。

 「構え!」

 鬼女が巨大化し近づいて来た頃。駿河清重は兵士たちに地が揺れる中を、弓を構えことを指示した。兵士たちは、巨大な童子を見上げても怯むことなく、弓を精一杯引き大将の指示を待っていた。兵士は、壇之浦の英雄である義経を信頼し、兵士の大和魂は輝き家族の為に戦った。男は、太刀を取り敵と戦い。女は、襲ってくる敵から子を守る為に長刀を取った。

 〈甲冑の精霊よ。我に力と正義を!〉

 魔羅鬼神は、掌の上に乗せている小さな銀の甲冑が輝き鬼神の體を包むと西洋の甲冑を纏っていたが、少彦名神の秘薬を飲み人間に近づき能力も力も體も人間に近づいていた。

 〈金棒よ。太刀に変化せよ〉

 太刀を振り翳し、宙をひと蹴りすると朱雀大路を一直線に飛び、義経は愛馬である獅子丸を呼び股がると文殊菩薩と一體となり青獅子は宙を翔け走った。

 鬼神は、兵士たちに挟み撃ちにされ両側から矢や槍を放たれた。神氣が宿った矢や槍は、鬼女の鋼の體を射ることはできなかった。

 〈次郎。兵を後退させよ!〉

 鬼女は、正面から飛んでくる魔羅鬼神しか、視界に入っていなかった。

 「鬼神になつた。クソが」

 鬼女は、見上げるほわど大きかった。中指の先から手首までの長さと魔羅鬼神の身長と同じ長さであり、人間なら小指ほどの長さで吹けば飛ぶような人形であった。鬼女は、巨大化した金棒を魔羅鬼神に向けて、巨大な金棒が風の音を魔羅鬼神に向かってきた。

 (あっ。躱しきれない)

 魔羅鬼神は、今までのように俊敏性がなく、金棒を真面に食らい平安京を超え鞍馬山まで飛ばされた。義経は、鬼女を平安京の中に入らせないと突進した。鬼女も金棒を振り回すが、義経は残像が残るほどの速さで躱し懐の中に入った。

 「ちょこまかとー」

 鬼女は、中々当たらなく鶏冠にきた義経に苛ついていた。

 義経は、金棒から躱すと鬼女の手の甲に打ち斬った。そして、十分な間合いを取った。

 「貴様! よくも…」

 鬼女の手の甲からは、血が滴り落ちていた。血は土に染み込み、土の中から蠍や毒蜘蛛、百足などの毒虫が土の中から生まれた。近くにいた兵士たちが、その毒虫に刺された。猛毒は、體を麻痺させ心の臓を停止させ兵士がバタバタと苦しみ息絶えた。

 「俺様の血は、毒の物を生む。斬りたければ斬ればいい」

 「じゃー。試してみるか!」

 官姿で舞いを舞った。その中の巫女たちは、能力に優れた巫女たちで、その中に雅子の姿もあった。

 鳳笙の音色が天から眩い光を差し込み、影を掻き消した。龍笛の音が地中に眠っていた龍神が、龍脈を駆け巡り神泉苑から巨大な龍神が天に向かって駆け昇り、篳篥は人の声であり言霊であり、その言霊が都を囲む山々に反響し谺になり、谺が小玉なり、小玉が木霊になり、木霊が木精になり、木精が神樹になり、平安京に溜まる穢れを払い聖なる音が鳴り続けている間、平安京は聖地となった。平安京の碁盤の目の通は、白い光を放射した。

 〈みんな! ありがとう〉

 泰忠は、みんなの力に後押しされて今まで以上の神氣を放っていた。

 〈泰忠様の戦いぶりをここから見守っております〉

 〈雅子殿。ありがとう。がんばるよ!〉

 (なんだが、断然やる氣になってきたぁ~)

 その光は平安京から漏れ、その漏れている光は邪悪童子の金縛りの術を掻き消した。安倍四天王や兵士たちの體が動くようになった。妖刀の怨霊も搔き消し鬼女の姿が見えていた。

 (何を見ている。俺は見えない筈?…)

 鬼女は、安倍四天王と周りの兵士たちの目線に氣づき、自分の體を見ては、近かった泰忠の方を見た。

 「見えている?」

 「見えているよ」

 自分の姿が、見えていると氣づき再び幻術を使った。

 (あれ? 術が使えない! なぜ…?)

 何度も何度も術を使ったが、同じことであり聖なる光に術の威力を掻き消した。

 「あの光かぁ! 胸糞悪い光だ!」

 鬼女は、聖なる光に押さえ込まれ術が使えなくなり焦っていた。

 泰忠は、兵士の先頭に立ち剣を構えた。

 「大内裏の中を狙っているようだが、ここから先には行かせるかぁ!」

 (ふんっ! 入るか。どんな手を使っても、今日はここか逃げる。仕切り直しだ)

 鬼女は、掌を吹くと、掌から何千何万の魑魅魍魎や怨霊の軍が、泰忠に目掛けてやってきた。

 「鬼ども! あのガキに血と肉を食えば、力は増すぞー」(今の内に、逃げる…)

 鬼女の言葉に、怨霊や魑魅魍魎は我先に泰忠に向かって突進してきた。

 〈泰茂。泰忠の助に!〉

 季弘の南側は、兵士が壊滅状態で持ち場を離れることができず、親子で戦わせた。泰忠は、合槌稲荷から授かった。北斗七星神剣の親子剣を上段に構えると刀身に風の渦が巻き出した。

 (この剣、すっげぇ~)

 「消えて、無くなれやー」

 泰忠は、その場で剣を振り下ろし、手首を返して刃を上にすると斜め上に振り上げ、手首を柔らく、戦っているようには見えずに、神に捧げる剣の舞いを舞うように剣を振り回した。剣先からは、太刀と同じ剃刀のような風圧が、敵に触れることなく魑魅魍魎を斬り、鬼女が率いる怨霊や魑魅魍魎軍の勢力が半減した。泰茂は、西から屋根から屋根へと飛び移り、泰忠の真上を高く飛び上がると、剣を抜きひと振りしただけで、魑魅魍魎が炎に包まれ浄化され、残ったのは鬼女だけであった。

 「鬼女よ。宿り主を地獄に帰り、閻魔大王の裁きを受けるがいい」

 鬼女は、五常楽の舞楽曲と巫女の神楽舞いから発する光の波動が、術を封じ込められ、泰茂親子にとって有利となっていた。季弘の太刀から発する炎の神剣。泰茂の太刀から発する風の神剣。炎と風は、無数の矢の如く飛び、ときには、形を変え竜巻の如く風と炎の渦を巻き鬼女を襲った。武器を持っていない邪悪童子は、逃げ惑うだけであった。

 〈泰忠も。この儘、一氣に押すぞー〉

 泰茂は、舞楽曲と巫女たちが、まだ子供であり曲と舞いを何回も何回も繰り返し體力が続かないと思い。勝負を早くつけたかった。当然、泰忠も父の考えを分かっていた。

 〈分かり申した。父上〉

 泰茂、季弘親子は、阿吽の呼吸で攻めてに攻めていた。

 泰茂は、季弘と泰親と後退し、季弘に指示したと同時に泰忠も加わった。

 その時、漸く九条山を越えていた。義経軍は、豪雨で予定時間から相当遅れていた。

 子二つの刻。粟田口から京に入り、義経が騎乗してやってきた。季弘は、神通力を使い源義経と話した。

 〈義経様。季弘です〉

 〈おう。季弘殿!〉

 源義経は、陰陽師・鬼一法眼の弟子でもあり鞍馬山で剣術や兵法、陰陽道を学び、義経も式神や術が使える陰陽師でもあった。その優れた術師でもある義経は、頼朝が恐れる存在でもあり、邪魔な存在でもあった。

 義経と季弘の軍は、怨霊や魑魅魍魎を相手していた。

 〈義経様。南と東の兵の補充をお願いします〉

 〈分かった。あの鬼女と戦っているのは、泰茂とあのチビは誰だ?〉

 〈はぁっ。あの者は、泰茂の嫡男・泰忠でございます〉

 〈あの幼子が、いい剣筋をしている〉

 義経は、兵を強化する為に家来たちに指示をした。

 〈弁慶と三郎は、南の兵の強化。常陸坊と次郎は、手前と東に参れ〉

 義経軍は二つに分かれ、南に義経四天王である武蔵坊弁慶と同じく四天王の伊勢義盛(通称・三郎)に義経の家臣の鷲尾義久、源有綱、土肥宗遠、渡辺綱の子孫である渡辺授が、名刀髭切りの太刀を携えて南を守護に向かい。そして、東は源義経を先頭に義経四天王である常陸坊海尊と同じく四天王の駿河清重に、義経の家臣の故・佐藤継信の弟である忠信。堀景光。そして、源頼光の子孫の源廣綱が名刀蜘蛛切り丸を携えて、廣綱の義弟である有綱も義経と共に行動していた。義経軍は二手に分かれ兵を待機させると、義経は白馬に乗馬した儘、邪悪童子にいる場所に向かった。その白馬は、怨霊や魑魅魍魎に恐れることなく駆け走り、宙を翔け走った。

 「オン アラハシャ ノウ」

 義経が、印を結び真云を唱え心に仏の姿を現れると、白馬が青獅子になった。義経は童子の姿になり文殊菩薩と同體一神と人間の中で、もっとも神に近い人間となった。義経は、宝剣を手に騎獅して宙を翔け走った。


 「泰茂殿。子供たちの體力が心配だ。現に、光が弱まっている。徐々に、平安京の碁盤の目から発する光が、弱回っているぞー」

 夜っぴて続けられる。子供たちの舞いや歌う声が掠れ、神の波動が薄れていた。巨大化した鬼神は、光が届かない東山三十六峰まで後退し、得意な術で戦おうと姿を消した。

 (光が弱まってきたか。俺にも勝算がでてきたか)

 義経や泰茂親子には、姿が見えていなかったが微かな氣配を感じ一点を集中していた。

 〈華頂山から氣配が……〉

 近くにいた泰忠が氣配を読み取った。義経も泰茂も華頂山の方に視線を向けると氣配が、山々に散らばった。

 「どうだ。俺様の術わぁ~」

 鬼女の声は、山々から聞こえ義経や泰茂を惑わした。

 〈義経様、泰忠。一時的に平安京の中に入りましょう。いい考えがこざいます!〉

 三人は、平安京の中に入ると東西南北の兵たちが、一斉に刀を振り上げた。弱まりつつある平安京から輝く聖なる光を利用して、兵士たちが抜くた刀身に反射してキラキラと東の山々を照らした。

 「鬼さん。みぃーけっ」

 泰忠は、近くにいた義経派の藤原頼衡に重藤の弓と八幡大菩薩の神氣が籠もった尖り矢を借りた。

 「どうするつもりだ。子供には無理だ」

 「大丈夫。こうゆうふうに使うの」

 泰忠は、に両足で縄で縛り、地面に足を伸ばしたまま座り、體全體を使い。全身で矢を引き、足を少し上げ紫雲山の峰に照準を合わせると矢を射った。矢は、放物線を描くことなく一直線に向かった。

 矢は、刺さることはなかったが、人の大きさに戻った鬼女は矢を掴み取り手の中にあった。

 「正體を出しよったか、泰忠! 行くぞー」

 「あっ! ちょっと待って!」

 泰忠は、弓を縛り付けた縄を刀で切っていた。

 「おまたせ!」

 泰忠は、宙を蹴り父の後を追った。

 時刻は、丑三つ刻が近づき、夜が深まることに鬼女は公家関係なく人間の血肉を得て魔力も増していたが、平安京からの光は、弱まり鴨川から東は光が届かなくなっていた。鬼女は瞬間移動のようにあらゆるところに現れ動ける範囲が広がり、鬼女は分身の術を使い鬼女は三人となり義経、泰茂、泰忠と一対一の戦いとなった。三人になった鬼女は、太刀や金棒、さすまたを持ち攻撃を仕掛けた。

 〈廣基殿。泰忠の助に。頼む!〉

 廣基は泰忠の助っ人に行かせ、季弘は南に留まりて西南北、三方を守護し鬼女に備えていた。

 鬼女の攻撃は衝撃があるが、逆に攻撃を仕掛けるも実體がないのか體には掠りもせずに、體の中を剣が通り抜け全く手応えはなく無駄に體力を奪い防御するだけで攻撃をすることができなかった。平安京の碁盤の目から発する光は、月と星々が動き時を重ねる度に弱まり、分身の鬼女が動け回る行動範囲が広がっていった。

 

 丑三つ刻。

 本體の宿り主の鬼女は、嵯峨野の山荘に現れた。その姿は、人間の和子の姿であった。

 その山荘は、高倉範季の山荘であった。その山荘には、範季の妻と子である重子が、山荘に居留していたこともあり、当家山荘の周辺や嵯峨野の別邸一體には、厳重な警備がされていた。だが、厳重な警備に関わらず、山城国は治安が悪くなっていた。その原因は、中央の批判であったが鬼女が現れてからは、より酷くなり模倣犯が続々と増えていた。鬼女が罪を重ねるたびに山城の治安は、更に悪くなり嵯峨野も例外ではなかった。嵯峨野は、貴族の別邸や山荘が多く建てられていたが、戦に負けた者の隠れ家や多く山賊も多く現れ別邸を襲っていた。狙われるのは弱い女ばかりで、犯すことはなく身に付けている雅な着物や金品を奪っていた。そんな寂しい山の中をひとり寂しく美人の茂子の姿で歩いていた。

 「こんな夜更けに、どこ行くの?」

 山賊は、人間の姿になった和子を見つけ声を掛け、着ている金の物を奪おうと群がってきた。

 「いい。被衣を着ているね。脱ぎなぁ!」

 「嫌~。助けてくだされ」

 和子は、弱々しい声で羊の毛皮を被っていた。山賊に被衣を追い剥ぎに合い。魔性の力が開放された。

 「護身用の刀にしては、大きいな! これも戴く」

 山賊は、和子の妖刀を奪おうとしたとき、美しい顔から想像できない太く悍しい声で怒号した。

 「触るな。山賊どもがぁ!」

 白装束になった茂子は、妖艶な素顔から目が釣り上がり、鬼女の悍しい形相に変わった。声は、か細い声から何重も重なった太く低い悍しい声になった。

 鬼女は思い止まり、盗賊に妖刀を抜くようにいった。

 「その刀が抜けたら、くれてやる」

 そして、妖刀を奪った盗賊が、刀を抜き剣先が鬼女に向けられた時。その盗賊は、妖刀に支配されて仲間の山賊を次から次へと襲い妖刀で殺害し魂魄を吸収した。その妖刀を持った盗賊は、鬼女に妖刀を返した。

 「肉体がほしいのだろう。好きにするがいい。その変わり、妾のことをきくのじゃー」

 鬼女は亡霊にいった。

 その亡霊は、京内で勃発し反乱で犠牲になった亡霊たちがいた。鬼女は、亡霊を利用して山荘の中の衛兵を殺害するように指示し、その混乱の隙に娘を拉致しようと企んでいた。

 和子が、鬼女に姿を変えたとき、能力者は鬼女の邪氣を感じていたが、詳細な場所は分からなかった。鬼女は被衣を被り、魔性の氣を掻き消され邪氣を見失っていた。だが、兼吉が放った式神の白蛇が草叢の中で一部始終、ルビーのような赤い目で見ていた。

 (本體の鬼女がでたか! 鬼女を捕まえれば、我が兼吉流の安倍家は、安泰だ!)

 鬼女が出て喜んでいたのは兼吉だけであった。兼吉は、誰にも知らせずに全てを自分の手柄にしようとしていた。今まで公家の娘を殺害してきた鬼女の罪を重ねる度に、泰親流と廣基流の名を汚し、鬼女を倒すことで奥州兼吉流の名を上げようと思惑があり動かずに、この機会を虎視眈々と狙っていた。

 (これで、出世、昇進は間違いなし。正四上、中宮職の大夫が、固いぞ………)

 透かさず兼吉は間者のように、あらゆる障害を飛び越え出世を思うと笑顔が零れ、にやけながら駆け走り向かった。

 (亡霊を仲間に、引き摺り込んだか!)

 山賊の屍は亡霊が支配し、仲間の亡霊を増やそうと、高倉家の山荘を襲おうと衛兵に襲いかかった。刀を抜き、衛兵を次々と斬り襲い出した。

 「出会え! 出会え! 山賊だ」

 屍は、太刀を振りかざし兵士を襲い出した。

 「何だ! コイツらは? 斬っても、斬っても、死なないぞ!」

 死人である者を斬りたとしても、ただの肉の塊であり痛みを感じることもなく腕を切り落とそうが、足を切り落とそうが、首を落とそうが、腸を引き摺り歩こうが、全く痛みを感じなく兵士を殺すまでは襲い続け、仲間を増やそうと殺害を楽しんでいた。

 衛兵の兵士たちも、何回斬っても死なない山賊に息が切れ、刀は血糊で切れ味が悪くなり、無駄に體力を奪われた。兵士は追いつめられ恐怖が増し、戦闘不能になる者や逃げる者も出てきた。そして、斬り殺され兵士たちは成仏ができなくなり、殺された衛兵の魂魄は、亡霊となり京の町を彷徨い人々を悪の道へと誘い引き摺り込んだ。山荘の中は、悲鳴と逃げ惑う人々で混乱していた。そんな最中、鬼女は和子の姿で侍女に成り済まして山荘の中で幼い重子を探していた。

 「ちっ! 嫌なヤツが来た!」

 兼吉は、式神の目を使い。動きを追い山荘の前に降りたった。

 (ここは、逃げるか!)

 兼吉は、入り乱れている山荘の庭の中に入った。

 「どいつも、こいつも。俺の足を引っ張りやがる」

 兼吉は、亡霊を浄化するために式神である白蛇を人格化して、山荘の四方に式神を配置させた。そして、回りに注連縄で結界を作り、山賊や衛兵の中の亡霊を浄霊した。屍は、バタバタと倒れ動かなくなった。兼吉と生き残った衛兵と共に建物の中に入り、重子を捜しに入った。

 「其方、待たれよ」

 その時に、兼吉は不審な女に声をかけ、その場に止まるように促したが、不審な女は被衣で顔を隠し逃げるように、襖を締め納戸の中に入った。

 (麝香の香りが…)

 「待たれよ!」

 衛兵は、女の後を追い。襖を開けようとしたが、兼吉は静止した。

 「待たれよ!」

 兼吉は、被害現場に残る匂いと同じ麝香の匂いが、女からも漂い慎重になっていた。兼吉は、白蛇の式神を納戸の天井に移動させ中に様子を見た。

 「逃げたか! やはり、あの者が魔性の者か! だが、本體ではない」

 引き手に手をかけ襖を開けた。入り口が一つしかない納戸の中には、誰もいなかった。二云三云話した寸秒の間に、人間が消えていなくなるとこは有り得なかった。

 「どこへ、行ったのだ?…」

 (結界を作り、魔性の者は浄化する筈だが?…)

 納戸の中には、一匹の白い蛇しかいなかった。

 「……」

 衛兵は、納戸の中を隈無くさがしたが、さっきの女の姿はなかった。

 兼吉は、重子の無事を確認に御寝の間の中に入った。

 (この香りは、沈香木)

 「重子殿。もう、大丈夫です。魔性の者は、逃げ申した」

 御寝の間には、沈香木を焚かれていた。その部屋で、重子は侍女たちに囲まれていた。

 (隣の間だったが、どうして、見つけられなかった?)

 兼吉は、香炉の方を見た。

 (沈香木の香は、魔が嫌がるのか? 人の穢れや心を清める効果があるとは、聞いていたが…)

 兼吉は、重子の側で考えいた。

 「手前は、朝になるまで、ここにおります。安心してくだされ」

 霊感の強い重子は震えて、兼吉の手を力強く握り締めていた。兼吉は、重子を宥め、朝になるまで重子に恩着せがましく側を離れなった。重子も恐かったかのか、兼吉の袖を掴み離れようとはしなかった。

 

 同じ時刻。丑三つ刻。三體の分身の鬼女。

 鬼女の術に翻弄されていた義経と泰茂と孫の泰忠は、三體の鬼女に攻撃もできずに、一方的に攻められていた。義経は、式神であり仏に帰依した五體の鬼神を呼び実體を隈無く探させ、泰茂も八百萬の神の五體の鬼神を呼び実體を探させていた。

 (実體は、どこだ!)

 攻撃を受けるだけに、義経は泰忠の體力を心配していた。

 その時。義経に神通力で話しかける者がいたが、声を聞き愛する静御前とわかった。

 〈義経様。妾におまかせくだされ!〉

 〈頼む。静!〉

 静御前は、武官姿で神泉苑の放生池に架かる。朱塗りの丸橋、法成橋の上で善女龍王の真云を唱えた。

 「おん めい げしゃにえい そわか」

 放生池の水が盛り上がると、巨大な善女龍王の半身が立ち昇り、静御前を見下ろした。

 「其方の願いをひとつ叶えよう」

 「我が守護神。善女龍王様から発する聖なる光で、邪氣を祓い給え」

 堪えず天地の霊氣を吸収している龍王の體からは、金色の放射を放つと、目からは、それ以上の金色の光の筋を放射し始めた。雅子も何度も繰り返す度に體力を奪い能力も弱まっていた。

 東西南北。

 その金色の光を放たれた。

 龍王に睨まれ、光を浴びた鬼女の分身は、強力な光に幻影の粒子が、砂塵のように飛ばされ消滅した。龍王は、東西南北に光を放ち終えると天高く昇ると長い體を曲げ、放生池に目掛けて急降下し始めると、放生池の中央には渦が発生し、その渦の中央に目掛けて入り大地の中に帰っていった。

 「鬼女は、何処にいった!」

 人々の目には、鬼女の姿を見えていなかったが、義経らの神眼には鬼神の姿を捕えていた。泰忠は、しく云っていた。

 「何処じゃ。鬼女は、何処にいったのじゃ!」

 泰茂も義経も賛同して、白々しく芝居をしていた。

 (今のうちに、逃げる!)

 鬼女は、茶山の麓付近の上空にいた。その下には邪悪童子の屍があり、鬼女の腕から滴る血が邪悪童子の口の中に入り喉ぼとけがうごき、體が再生した。

 陰陽師たちの神眼でも、見えていないと勘違いしていた鬼女は氣配を消し、こそこそと逃げようとしていた。

 〈泰忠は、父の許へ来い。邪悪の方を見るなよ〉

 泰茂は、如意ヶ岳の麓から北西にいた。泰茂は、泰忠を吉田山付近から呼び寄せた。

 (止めをいれてやる。覚悟しとけ!)

 泰忠の側を鬼女が、そこそこと擦れ違い側を通った。鬼女が、泰茂、泰忠に背を向けたときに泰忠は上段に、泰茂は下段に構えていた。

 「鬼は外!」

 泰茂の刃身が炎の渦を巻き、泰忠の刃身には竜巻が発生していた。親子は同時に、泰忠は振り下ろし、泰茂は振り上げ、炎の渦と竜巻が邪悪童子の背を襲い體は灼熱の炎の渦に包まれていた。邪悪童子の地獄の炎と質が違う聖なる炎にもがき苦しみ叫び、その叫び声が響いていた。

 「ギヤャ~。ギアャ~」

 踠く鬼女に、義経は激しく體当たりをし、鬼女は如意ヶ岳の西側の前峰に大の字で山に減り込んでいた。

 岩に減り込み失神していた。

 泰茂は神眼を使い宿り主を見ていた。

 「子宮に宿っていたか」

 泰茂は、子宮に向けて剣で刺した。

 御神刀で、子宮を切り宿り主の手で止まっていた。

 宿り主は、腹を破り出てきた。和子は痛みに発狂し死亡していた。

 宿り主は、御神刀に触れることなく、軽く押すと泰茂の體が吹っ飛んだ。

 そこに、兼吉がやってきて矢に自分の血を付け数本、放った。宿り主は、駿足で動き兼吉の矢を嫌った。宿り主は、躱したが容赦なく追跡したが、全て躱した。

 「何! 俺の術がきかない」


 寅二つの刻。邪悪童子の戦いは、魔羅鬼神と義経軍が加わり童子を消滅できた。だが、邪悪童子の魂魄は、この世に留まり新たな肉体を求め彷徨っていた。

 この日は、鬼は出なかったが、兵は夜が開けるまで待機していた。

 

 既に日は、六月廿二日。東から日輪が上がったとき、如意ヶ岳の火は鎮火していた。その鎮火した後には、大の字がくっきりと残り、草木も生えなくなった。それから、京の人々は、如意ヶ岳のことを大文字山と名付けるようになった。

 この日。南都衆徒の要求で、平重衡を南都に引き渡されることとなった。だが、道中の木津川畔で処刑された。

 また、ひとつの怨霊が生まれ、都に舞い戻り妖刀の一部となった。

 そして、日は暮れ、月が現れた。

 この日は、静寂の夜を取り戻し、魔性の者は現れなかった。


 六月廿三日。平宗盛の首が三条河原に曝された。この日も静寂な夜であったが、宗盛の回りには四つの鬼火が青白い光を発して、首は鎌倉の方に向くと、目は鋭い目つきで睨みつけ歯を食いしばり、源氏や帝、中央の対する恨みな言葉や冒涜、呪いの言葉を口にしていた。口からは血が滔々と流れ落ち、血は鴨川に流れ込み、川の水は真赤に染めていた。

 この二日間。邪氣童子・邪悪童子も宿り主も現れなかったが、怨霊は続々と都に集まっていた。

 宿り主に関しては、貞光が沈香木の香りが魔性の者たちが嫌う香りの物と氣づき、宿り主は血に飢え獲物を探していたが、沈香木を避け被害者も少なくなった。魔羅鬼神の體も癒え、夜には泰忠とともに警備にあったていた。宿り主も邪氣童子が現れなくなってから十日たった七月四日。人々が平安京に戻りつつある中。再び鬼女が、現れ公家の娘だけを狙い血を啜っていた。邪氣を祓うとされていた沈香木にも関わらず、娘が浚われていた。手掛かりは、被衣の柄と現場に残る麝香の香りだけであり、宿り主の捜索は一向に進展しなかった。被害は、都だけでなく全国にまで公家の血を引く娘、後落胤の娘までもが狙われた。宿り主は、公家の娘の命の根源である血を飲むことで、美貌を維持していた。ただ、それだけの理由だけで娘たちは犠牲になっていた。宿り主は、茂子の姿に化けていた。そして、夜な夜な宿り主は公家の娘を襲い生き血を飲み、残虐な姿で放置した。宿り主はもとの茂子の心を持っており、もっと美しくなりたいと血を求め、次々と蔑んだ公家の娘を襲っていた。夜になると血の味と人を殺す快感と興奮、見つからないかという、はらはら感が癖になり自分を止められない状態に陥り益々癖になり、落ちるところまで落ちた。欲望が暴走し、公家の娘なら手当たり次第に襲った。鬼女の側には、いつも血の匂いと魑魅魍魎たちが共に行動して、死体の肉を貪り食い散らかした。

 被害にあった屋敷には、麝香の香りが漂っていた。義経四天王も安倍四天王は邪氣童子が現れず宿り主にだけ集中していた。だが、鬼女・宿り主や魑魅魍魎の邪氣に氣づくが、いつも鬼女の姿はなかった。式神使いの者たちに義経や安倍四天王、貞光の式神たちは平安京を中心に配置をしていたが、式神の目を掻い潜り大内裏の結界の中に入り込み女官をも襲いバラバラにされていた。宿り主は、野獣が獲物を狙うように大量に襲うことはなく腹を満たすほどの血だけでよかった。だが、被害者は公家の娘二十人。妖刀は、何人もの人を斬っているというのに、刃先が刃毀れはおろか、曇りもせずに人を斬る度に異様な輝きを増し強度も増した。その妖刀も又、血に飢えていた。そして、仲間を増やす為に、成仏して天に向かう魂魄をも無理矢理に吸収し、妖刀の一部していた。だが、宿り主は公家の娘たちとその魂魄だけは、じわじわと地獄の苦しみを与えて、生き血を吸われ、首と胴體に分けられて永遠に孤独を与え平安京を彷徨い続け、自分の首を永遠に彷徨っていた。     


その夜、義経四天王と邪氣童子戦っていた。

「それで、姿を消したつもりか?」

 邪氣童子の目は、新たに十個の目が現れ十五個の蜘蛛のような目で、義経の動を見ていた。近くにいた兵士たちには、義経や獅子丸の姿は見えなかったが、悪牙童子の蜘蛛のような目には完全に動きを捕えていた。義経と獅子丸は左右に分かれて攻撃を仕掛けようとしたが、邪氣童子は両方の攻撃を一遍に見ていた。

 (この目。氣に入った!)

 義経と獅子丸の動きは、完全に捕えていた。その場から動かずに金棒から鞭に変化した。

 〈金棒よ。鞭に変われ!〉

 鞭を振り回し、うねりながら先端が撓ると空氣が圧縮され白くなり、空を裂き強烈な音が鳴り響いた。

 (何て力だ! 受け流すだけで手が痺れている)

 義経は鞭に命中したが、鋼の手甲で鞭の先端を払い除けていたが、強力な鞭の威力に上腕まで痺れていた。

 (あの力は、穢れた力により得た力。まずは、ヤツの力を浄化しない限り勝ち目はねぇーか?…)

 〈次郎。大将軍社に戻り待機せよ。弁慶。海尊。三郎。もし、平安京に入った時には、結界でヤツの力を浄化せよ〉

 駿河清重は、南の大将軍社に馬を走らせて持ち場に向かった。

 道曠は、清水の舞台から見守っていた。

 そのころ、泰忠と魔羅鬼神が助に入っていた。だが、邪氣童子の孔隙を真面にくらい鞍馬山に飛ばされたか、大天狗が受け止めた。

 (さぁー。これからどうする! 義経四天王を動かすこともできない…魔羅鬼神は?…)


 その時。鞍馬寺の魔王尊の祠である奥の院魔王殿の前で魔羅鬼神が氣を失っていた。

 「これ! 起きなされ。これ!」

 魔羅鬼神は目を開けると、ひとりの大天狗がいた。魔羅鬼神は慌てて態勢を起こして、剣を構えた。

 「命の恩人に剣を向けるとは、何事じゃ! 山の中をここまで運んだのは、儂じゃよ」

 「俺を助けた…。あなた様の、お名前は?」

 「鬼一法眼だ。義経は、儂の弟子だ! 三鬼対権現の云うとり、我ら天狗は動きます」

 「そあでしたか、い」

 魔羅鬼神は、邪氣童子に強打され山の岩石に強打されるところを大天狗に助けられたことを思い出した。魔羅鬼神は、太刀を鞘の中に収め頭を下げて、礼を云った。

 「あっ。鬼一法眼様。礼を申す」

 魔羅鬼神は頭を下げたとき、胸甲に罅が入っているのが、視界に入り氣づいた。甲冑を再生するのに自らの血を捧げることは、自分の死を意味しており、後のない重圧感に自分が潰されそうな氣持ちになった。兄弟の倒し魂魄を地獄に帰すまでには、生きたいという氣持ちと心の片隅に死の恐怖もあり生と死が葛藤し、行き場のない氣持ち、る氣持ちで一杯であった。

 「あっ。胸甲に罅が…。アイツを倒すまでは、死にたくない!」

 だが、この甲冑を纏った者の定めであり、この甲冑を纏ってからは死を覚悟していた。

 〈さぁー。甲冑の精霊よ。穢れた血を吸収し甲冑を再生し、新たな主人を見つけよ。そして、裟婆を魔の手から守ることを願う。この世に生まれた限り、死に向かって歩んでいる。必ず、死は訪れる…。覚悟は、できている〉

 魔羅鬼神は、目を瞑り合掌して死の訪れを待っていた。合掌した手には、清らかな大粒の涙で濡れていた。

 「泰忠様。あなた様に会って、魔羅鬼神は幸せ者です。また、いつの時代か、お会いいたしましょう。南無聖観音菩薩…」

 魔羅鬼神は、目を瞑っていたが目の前の光と真云が聞こえ、その声が段々と近づきてきた。魔羅鬼神は、目をゆっくりと開き顔を上げた。

 「オン バ ザラ タ ラマ キリク」

 「オン ベイ シラマナヤ ソワカ」

 「オン ダルマハラ マソバミウン ソワカ」

 鬼一法眼は、姿を変え魔王尊のお姿に変わり、魔羅鬼神がいる場所は、光に包まれた宮殿の中にいた。聖観音菩薩は、千手観世音菩薩のお姿を変えて、魔羅鬼神の目の前に現れて、鞍馬の本尊の三身一體尊天である南無大慈悲千手観世音菩薩。南無護世利民毘沙門天王。南無破邪顯正護法魔王尊のお姿があった。千手観世音菩薩は、救いの御手で魔羅鬼神の心を慈悲の風で救い。毘沙門天尊は、無量の罪障消滅させると、悪鬼を萬里に退く力を授け、魔王尊は破邪顯正の力と甲冑と金棒にひと雫の血を落とした。甲冑の罅は、再生し活力を授けていた。銀製の甲冑は、金色に輝く放射光を放っていた。

 そして、三身一體尊天は目が眩むような光を放ち、魔羅鬼神が眩い光に目を瞑ると魔羅鬼神は魔王殿の祠の前で、仰向けで寝かされていた。

 〈魔羅鬼神よ。急げ!〉

 耳元で聞こえる声に目を覚まし、下界の平安京を見下ろした。

 〈都が、燃えている…〉

 平安京の中で邪氣童子が暴れ、邪氣童子の鞭の風圧に建物が崩壊し、火災が所々発生していた。内裏を目指し、じわじわと前進していた。

 (金星の精の結界でも、邪悪童子の邪氣を完全に掻き消すことができないのか!)と、魔羅鬼神は下界を見下ろしていた。

 金星は太白金星のことであり、玉帝の側近でありながら外敵から守り、戦いを司る神である。

 太白金星の結界でも邪氣童子の體は、り小さくなっていたが、まだまだ邪氣童子子の體は大きく、魔羅鬼神と比べても足から膝までの大きさであった。

 魔羅鬼神は、月の形を愕然とした。

 「一體。今は、何日だ!」

 月は、九日月より十三夜月に近かった。

 「泰忠様!」

 安倍四天王は持ち場から持ち場から動かなかった。だか、貞光と泰忠と魔羅鬼神は義経四天王に助に行っていた。

 義経四天王や義経、貞光も體中に傷を受け、血だらけになり、體力の限界に達していた。魔羅鬼神は、甲冑だけでなく、三身一體尊天の力で自らを神と一體になることができるようになった。変化童子は、人間に近づいた分。自分の肉体を怪力無双で半神半人である神のヘラクレスと千手観世音菩薩の眷属である二十八部衆のひとり金剛力士が混合として現れ、體が三倍に大きくなった。そして、七つのチャクラが活発になると體中の力が漲った。

 ヘラクレスと金剛力士は、同じ神とされていた。甲冑の精霊は、ヘラクレスに反応して分身のゼウス神が現れ、息子のヘラクレスの為に見合う甲冑を与えた。そして、甲冑の風の精霊の王・ジンが現れて、世界の文明が合わさった独特な柄のマントを与えた。無風であったが、そのマントは、風に靡かせていた。

 〈金棒よ。如意金箍棒に変化せよ〉

 魔羅鬼神は、爆音と爆風と共に邪氣童子の目の前に突然に姿を現われ、疾風迅雷の如く巧みな棒技で翻弄していた。巨大な邪氣童子に対し重心を崩して、独特な體捌きて小よく大を制し、あらゆる角度から変幻自在に打った。

 〈泰忠様。あとは、お任せください。體を休ませて下さい〉

 〈生きていたか! 駿足〉

 精魂疲れはてた泰忠の顔に笑顔が蘇った體は未だ未だ子供であっが、顔つきは大人と同じ戦人の顔つきであった。鎧兜は、破損している部分が多くボロボロになり神氣を失って、體中には深手を負い肉が裂け氣力だけで動いていた。魔羅鬼神が現れて、義経四天王は、東寺の境内で式神の術を使い。傷を癒して回復を待っていた。義経四天王や武将の中で動ける者は、ただひとり義経だけであったが、二日間不眠不休の激しい戦いにも関わらず義経の動きは、切れのある動きをしていた。義経は、宝剣に炎を纏わせ毒虫を生む血を蒸発させていた。だが、邪氣童子にとっては、切り傷にすぎなかった。

 〈魔羅鬼神。ヤツの體を斬るな。一滴の血からは、夥しい数の毒虫が生まれる。宿り主の血によって肉体を維持している。宿り主の消滅が優先だ。邪悪童子と邪悪童子は、防御呪術で動きを止める〉

 義経は、東寺にいる泰忠と回復をしている式神たちにも指示を出し、泰忠の回りには五體の式神が回復術で回復を急がせた。

 〈それまでに、泰忠の體を回復するのだ!〉

 魔羅鬼神は、倭の棒術と唐の棒術を混合に取り入れ、未知の動きと伸縮自在の如意金箍棒に苛つき、魔羅鬼神の殴打は相手の動きを鈍くした。棒術で打撃で血が出ることはなく骨に罅が云っていた。

 (あのやろう。兄弟の中で一番であった。この俺が、このクソガキに劣るとは…。俺が闇の者と契約をして闇の力を手に入れたというのに、その上を簡単に超えやがる! 棒術か? 難儀なのは、棒の先端を使えることか、一打目を躱しても反対側の先端で攻撃を仕掛けてくる。それもいろんな角度から!)

 「取り敢えず。ここから出ていってもらおうか。迷惑なんだ!」

 〈如意金箍棒よ。伸びろ!〉

 如意金箍棒は、黄金色に輝き太く長く光速に伸び南側に出そうとした。

 邪氣童子の鳩尾を強打した。そして、その如意金箍棒に體を運ばれ羅生門の方から外へ出そうとしたが、邪氣童子は藁をも掴む思いで、長い鞭で西寺の五重の塔に巻き付け體を止めようとした。

 「わぁっ! 何をするの。この罰当たりがぁー」

 魔羅鬼神は羅生門を出た前の場所におり、十分に出てわけではなかった。

 「術を使ってみなよ。邪氣」

 「おまえも天尊の力を得たようだが、俺も…、俺も、闇の力を得た。後悔するぞ! じゃー、分身の術を見せてやろう。邪氣兄貴と同じと思うなよ!」

 邪氣童子の體が、分身していった。一つが三つ、三つが六つに、六つが十二に體が分身し変化童子を囲んだ。

 「ほうー。それじゃー。オイラも…」

 魔羅鬼神は、邪氣童子を挑発するように分身していき三十の分身を邪氣童子の分身を囲んだ。

 「掛かれ!」

 お互い分身は、力を衰えることなく分身していた。力では邪氣童子が秀でていたが、技と術の質では、魔羅鬼神の方が秀でており、数の多い魔羅鬼神が有利であった。

 「駿足よ。もっといいものを見せてやろう」

 十二體の邪悪童子は、自らの腕を切り、血を土の中に染み込ませた。

 「我が、穢れし鬼どもよ! この裏切り者を、我が闇の神に生け贄として、捧げるのじゃ!」

 土の中からは、十二體の穢れし鬼と夥しい数の毒虫が生まれた。鬼と毒虫は、平安京の中へ入り兵士たちの命を奪った。

 「そんなに人を殺して楽しいのか?」

 「あの苦しむ声、いいねぇ~。この世も地獄に変え、この俺様がこの裟婆の王となる。俺を倒すか、人を助けるどっちにする」

 「そんな、おまえの心にご愁傷様! 何を云っても無理だな」

 変化童子は、千手菩薩の二十八部衆を呼んだ。

 「千手観音よ。我が願いを聞き給う。二十八の善神をこの世に呼び給う」

 内裏を中心に東西南北、海、川、山から善神が集まってきた。

 那羅延堅固王(仁王)・密迹金剛力士(仁王)・東方天(持国天)・毘楼勒叉天王(増長天)・毘楼博叉天王(広目天)・毘沙門天王(多聞天)・大梵天王・帝釈天・大弁功徳天(吉祥天)・摩和羅女・神母天(鬼子母神)・金比羅天・満善車王・畢婆迦羅王(大猿王)・五部浄居天・金色マラク・ターウース・散脂大将・難陀龍王・沙羯羅龍王・迦楼羅天・金大王・摩仙王・摩喉羅迦王・摩醯首羅王(大自在天)・乾闥婆王・阿修羅王・緊那羅王・婆藪仙人が変化童子の許に集結した。

 二十八部衆よ。人々をたすけよ」

 戦いは、魔羅鬼神を率いる。二十八部衆が圧勝で、邪氣童子の分身や鬼を退治したが回復魔法で治癒していた。魔法を使うたびに體力をつかっていた。體力の限界のふたりの童子は。魔羅鬼神の分身と二十八の善神たちが、邪氣童子の回りを包囲し集まった。戦いの好まない善神もいるが、邪氣童子の分身や鬼、毒虫を駆除し、邪氣童子はひとりになり辺りを見回した。

 魔羅鬼神は、同じ姿をした分身を自分の體の中に戻した。

 「ありがとう、二十八部衆! 邪氣兄貴は、俺が倒す。助太刀は無用!」

 魔羅鬼神は、邪氣童子に向けて驀地に飛び刃を向けた。

 「差しで勝負だ! 邪氣!」

 暁光。東の空が明るくなってきた。二人の戦いは、激しさを増し義経にも入る余地もなかった。

 日は沈み、やがて日は昇る。決して消えることのない日輪は、再び日は昇る。

 繰り返し、繰り返し。闇が続くことはなく。光も続くこともなく…。

 戦いは続いた。

 そして、七月十二日。

 日輪が頂点に上がった頃。まだ、戦いは激しく続いていた。

 (ヤツの倒すには、金棒を折るしかないか! それには俱利伽羅剣で斬り、心臓を切り落とすしかない。だけど、おらの肉体はなくなる)

 魔羅鬼神の動きは、日輪の光を浴びることで、密教の最高神の大日如来の力を吸収していた。その聖なる力は、邪氣童子の新たに手にいれた闇の力を超え、素早さは邪氣童子の十五個の目にも、見えていなほど魔羅鬼神の俊敏性は、空間を瞬間移動し神の域に達していた。だが、魔羅鬼神の罪は消えた訳ではなく、神に近づいた訳ではなく、魔羅鬼神の今までの罪は消えず、體には穢れた血が流れていた。

 (ヤツの金棒さえ折れば、勝ち目がある。俺の金棒は、魔王尊の血で強度が数段に強まった。あの鞭をどうするか…。それに、あの目も難儀だ! 破魔矢の数も残り僅か! できれば、未来に魔が蔓延る時の為に破魔矢を残したい。破魔矢なしで戦いたいが……。ヤツを斬ったとしても魔を媒介してしまう…。やはり、ヤツの金棒を折るしかないか!)

 甲冑に宿るヘラクレスが答えた。

 〈魔羅鬼神、相手の近間で戦え! そして、天高く上がり太陽とひとつとなれ!〉

 (そうか。間合いが近ければ、鞭にとって不利になる。元々、オイラたちは闇の者、光を嫌う日輪の光は頂点に達している)

 魔羅鬼神は、天高く飛び上がり、日輪の眩い光と甲冑に宿る大日如来の光が重なり、目が眩む強烈な光が地上のあらゆる全ての物を光に包んだ。その光を嫌っていたのは、悪牙童子だけであった。暗闇を見るように進化した目であったが、太陽の光に十個の目は青い炎に包まれ闇を見る目が失った。

 〈残るは、五つ。お前の針の剛毛で、邪氣兄貴の残りの目を射り盲目にせよ〉

 魔羅鬼神は、邪氣童子の残りの目を狙い、針の剛毛を打ち込んだ。十個の目を燃える痛みと光に目が眩み、魔羅鬼神が何処にいて、何をしているか分からなかった。

  邪氣童子は目が眩むなか、秘策を考えてきた。

 (勝負に出るか! 目を失い勝ち目はないか…。ならば、道連れにしてやる。どっちにせよ。金棒に、血を吸収されて命を奪われる。だが、死ぬまでには少しの時間がある… それまでに人間の血肉を食らえば…)

 〈金棒よ。我が血を全部くれてやる。その変わり金棒の強度を増せ。地球上の最も固い鉱物にまで固くせよ!〉

 (何?)

 邪氣童子が、金棒に血を吸収されているとき、眩い光の中に輝く光の筋が、五つの目が捕えたのも束の間、その光の筋が五つの目に刺さり邪氣童子の視力を完全に奪った。

 「ぐわぁ~」

 邪氣童子は痛み踠くなか、魔羅鬼神は光となり光速の速さで邪氣童子の目の前に現れ、心の臓に向けて太刀で突いた。太刀は炎に包まれ邪氣童子の血を蒸発させ毒虫は発生しなかった。

 「き、貴様!」

 「生憎だったな!」

 剣は、魔羅鬼神の心の臓にも刺さり、邪氣童子の掌には大きな目玉があり魔羅鬼神の動きを見ていた。

 「相討ちか! 丁度いい。お前の魂をこの世に留ませない。地獄に連れて帰る」

 〈金棒よ。不浄の者の全てを祓い給え!そして、倶利伽羅剣になり、邪悪な者を浄化せよ〉

 同時に邪氣童子も金棒に呪詛を云った。

 〈金棒よ。光の者をじょ…。浄化…〉

 太刀は、光り輝くと心の臓は消えてなくなり、體は地獄の炎に包まれ、焼き爛れる痛みに踠き苦しみ、この世に邪氣童子の全てを消し去った。残ったのは、邪氣童子が使っていた魔剣だけで、魔羅鬼神の胸に刺さった儘であった。

 「魔羅鬼神!」

 東寺で體を回復していた泰忠は、魔羅鬼神の異変に氣づき宙を翔走り魔羅鬼神の許に飛んできた。

 「変化どうして…」

 泰忠の目には、魔羅鬼神の幽體が肉体から外れ、邪氣童子の魂を地獄に連れているのが見えていた。幽體が肉体から外れるということは死を意味していた。

 「いややぁ~。魔羅、俺の命令や。この世に留まれ!」

 「いくら泰忠様の命令でも無理でございます。もう霊體が、外れかかっています。でも、泰忠様の側にいてお守りする定め、いつでも会えます。そんな顔をしないで、涙を拭いて、泰忠様に会えて、この魔羅、幸せものです。さぁー。オイラから離れて、地獄の炎に包まれます」

 魔羅鬼神も別れが辛く悲しそうな顔をしていたが、鬼の形相になると泰忠を突き飛ばした。

 〈甲冑の精霊よ。残りの血を吸収するがよい。そして、オイラの最後の願いを二つ叶えてくれ。邪氣童子が、使っていた金棒の穢れた怨念を祓い。オイラが、使う金棒も同じようにして、神氣を混入し穢れた者が使えないようにしてほしい。残りの一つは、オイラの體を全て、この世から消してほしい〉

 〈分かった。願いを叶えよう。だか、最後の祈りは叶えられない。人類がいるかぎり三鬼大権現として人々からあらゆる煩悩をけしされ、日本人以来のイヒンの血を蘇り縄文時代のように争いのない時代をつくれ。たが、八百年後にまた三災七難がくるのがお経に書かれている。その時には三鬼大権現がまもってほしい〉

 魔羅鬼神に突き刺さっていた剣は抜かれ、地面に落ちると金棒に変わった。甲冑は魔羅鬼神の残りの血を全部吸収し、破損した部分を修復すると、甲冑は魔羅鬼神の體から離れ魔羅鬼神の少し離れた目の前に宙に浮かび、近くにいた二十八部衆の神々の姿が光となり甲冑の中に戻った。甲冑は、アグニ神の聖なる炎に包まれた。

 「短い人生であったが、泰忠様に出会えて楽しかった。心残りは、元服した泰忠様の姿を見たかった…」

 魔羅鬼神は、別れに泰忠の姿を焼き付けると静かに目を瞑り、鬼の目には滔々と流れる涙が、日輪の光に燦然と輝きキラキラと反射していた。そして、甲冑の炎が魔羅鬼神に飛び移り全身に炎に包まれた。

 「ぐっ…。あぁ~。さらば、泰忠様…。そして、遊んでくれた友たちよ。ありがとう」

 戦いの最中に泣いたことはなかった。泰忠の目からは、魔羅鬼神はのために涙を流した。

 魔羅鬼神は、灼熱の炎に絶えていたが、絶えきれない痛みに身悶え叫び肉体は溶岩のように溶け出していた。

 泰忠は、魔羅鬼神の苦しむ姿を見ていたたまれなくなり、甲冑の精霊に語りかけた。

 〈甲冑の精霊よ。痛みを和らげることができないのか!〉

 〈この世に生まれてきた者は、すべて死を司るとき、苦痛を伴う。生と死の境目を知る為に…〉

 泰忠は、何も云えず。魔羅鬼神を見守っていた。

 「……」

 魔羅鬼神の肉体が消え去り、小さな霊體だけになったとき、甲冑から馬頭観音の分身が現れた。魔羅鬼神の魂は、馬頭観音の掌の上に乗った。

 〈泰忠様。オイラは、肉体がなくなっただけで、いつも泰忠様の側にいます。泰忠様の成長を楽しみにしております。では、閻魔大王に裁かれた後、畜生道へ行くます。そして地蔵菩薩と共に、地獄を回ります。罪が許されたとき三鬼大権現になります〉

 泰忠は泣きじゃくり、変化童子の魂魄は、馬頭観音の優しい手に包まれ、銀製の甲冑と共に天に召された。

 「いっちゃ。いいや~。変化!」

 馬頭観音の姿が見えなくなり、泣きじゃくり泰忠は、その場に座り込み大きな声で泣いていた。


 その後。平安京の復旧が行なわれた。七月九日の邪氣童子の事件は、公的な記憶から外され、大地震と記録された。そして、十二日に、後白河法皇の命により、源義経に京の警固を命じたことを書き加えられた。

 一週間たち宿り主の被害者は、北は陸奥の古代出雲族の安倍の血まで、南は薩摩の島津氏の先祖である秦氏の血や公家の血を引く者が被害となった。義経に安倍四天王と兼吉は、宿り主は京にいると推測して捜索を続けていた。だが、安倍四天王のひとり泰忠は、魔羅鬼神が散華した場所を毎日訪れて、悲しげな顔をして呆然と見て日輪が沈むと家に帰り、日輪が昇ると、その場所に来ては呆然と見ていた。

 そんな日々が一月たった頃。年号は、改元され元暦から文治に変わっていた。

 泰忠は相変わらずに、石に腰を掛けていた。日輪が傾き腰を上げたときに、一匹の小犬が近づき戯れてきた。その小犬は、虎毛で大きさは、既に中犬の成犬ほどの大きさがあり尻尾が丸まっていた。

 「おい。擽ったいよ。ハハハハッ!」

 魔羅鬼神が散華してから初めて笑顔を見せた。

 「擽ったいてばぁー。俺、帰るからお前も帰んなぁっ!」

 泰忠は、平安京の中に入り家に向かった。

 「お家に帰んなぁっ!」

 泰忠が、追い払おうとするが中犬は、尻尾を振り泰忠に近づいてきた。中犬は柴犬に似ていた。

 「もう直ぐ、夜になるから早く帰んなぁっ!」

 だが、中犬は尻尾を振って近づいてくる。泰忠は、しゃがむと中犬は泰忠の顔をペロペロと嘗め出した。

 「擽ったい!」

 「おい。泰忠! 早く屋敷に帰れ!」

 声を掛けたのは、日輪が沈み警備のために出てきた。南を守護する叔父の季弘であった。

 「見かけぬ犬だな」

 季弘にも戯だした。

 「人懐っこい犬だな。人に飼われているのか? 今日は、屋敷に連れて帰ってやんなさい」

 「はい。帰ろう」

  ワン!

 「ほう! 珍しいのう。京で秋田犬の幼犬を見るとは?」

 近くにいた奥州平泉の藤原の郎党、が犬に近づき戯れていた。

 「秋田犬?」

 「羽後の国の原産の犬だ。この犬は、まだ中犬だが? 子供にしては、大きいな!。この手、もっと大きくなるぞ。この犬は、熊を倒すこともある。土佐犬に継ぐ闘犬だ」

 大河兼任は、羽後出身であり色の白い、日本人離れした顔つきをしていた。

 その日の夜は、京の町は静まり、何も事件を起こることはなかった。そして、朝になり、その犬は、帰る家がないのか屋敷に居座りシロと名付けた。

 「シロ行くぞ!」

  ワン!

 泰忠は、魔羅鬼神のことは忘れてはいなかったが、シロが家に来てから元氣を取り戻し、京の町も活氣を取り戻していた。被害は他の国に移り、情報が京に伝えられるのも時間が掛かり鬼女の事件は、人の記憶から消えて京に集まってきた。諸国の豪族たちも国へ帰っていったが、検非違使の捜査は引き続き行ない。義経四天王と安倍四天王は宿り主の捜査を続けていた。

              

 八月十六日。この日、小除目により義経は、伊予守に任じられた。

 三条明子は、歌会のために八葉の車で出かけていた。宿り主は子供の姿で着込んだ被衣を着込んた゜。その牛車の後ろには、検非違使の平知康が後ろを尾行して付けていた。

 歌会が終わり三条邸には、検非違使たちが待ち構えていた。

 「三条明子様。あなたを宿り主に化けている疑いで幽閉いたします」

 「妾でない」

 「明子様が、着込んでいる被衣が、被害者宅付近で目撃されている。そして、被衣に染み込んだ麝香の香り、申し立ては検非違使庁で聞く」

 明子は、厳重な警備をされた牢屋の中に幽閉された。

 「要らざることを…」

 三条邸の近くには、奸雄な安部兼吉がいた。

 〈式神よ。引き続き屋敷内を監視してくれ。特に茂子という侍女をなぁ〉

 兼吉は、三条家の中で茂子に目を付けていた。宿り主は茂子に化け事件が起こってから茂子の姿が変わり美人となったとこに疑いの目を向けて、式神の白蛇が監視を続けていた。

 〈頼んだぞ〉

 兼吉は、微酔氣分で歌を口遊み帰っていった。

 (兼吉めー。妾に目星を付けたか…)

 その兼吉の後ろ姿を茂子は見ていた。式神に注意して六地蔵のお守りを利用していたが、貞光の監視が厳しくなり迂闊に動くことができなくなり困惑し、明子の無実をどうして晴らすか考えていた。小袿は証拠の品として没収され、六地蔵のお守りは、密かに抜き取っていた。

 二日間。宿り主は息を潜めていた。だが、美しさを維持するために血が必要だった茂子は行動にでた。昼間、茂子は明子の着替え持って幽閉先に向かった。

 (小賢しい。式神め!)

 式神は人に化け、茂子の後を付けていた。

 (撒いてやる)

 茂子は、明子と面会できなかったが、役人に着替えを渡し出てきた。茂子は人の多い場所を選び、式神を撒き、徳大寺則子の見舞いを口実に様子を見に向かった。


 その夜。鬼女は、動き平安京の公家の娘を襲った。

  ワォー。ワン。ワォー。

 シロが微かな妖氣を感じ、北に向いて遠吠えを始めた。

 (宿り主か!)

 丑三つの刻。宿り主の妖氣を感じ、義経や義経・安部四天王が、北に集結した。泰忠も飛び起き、童狩衣姿に着替えて中門を出たとき、シロの首輪が外れており、泰忠の前で前足をやや広げて前に出し態勢を低くすると泰忠の周りを駆け走った。いつもの散歩に行くときの行動と同じであった。

 「シロ。遊びに行くのではない」

 分かっているのか分かっていないのか、シロは尻尾を振っていた。

  ワンワンワンワン!

 「本当に分かっているのー」

 泰忠は屋敷から出て、風と一體になった泰忠は瞬時に、みんながいる一条大路の築地塀の上に集結した。義経四天王・安部四天王は、宿り主の妖氣が南下する前に立ち塞がった。

 「えっ!」

 泰忠の直ぐ側には、尻尾を振るシロがいた。泰忠はシロの目線まで、しゃがみ帰るように諭した。

 「シロ! 遊びじゃないんだ。恐い鬼がでるぞー」

 シロは、戯れて泰忠の顔を嘗めていた。

 「シロ。やめてって!」

 「泰忠。行くぞ」

 平安京の北側を警備していた。数人の警備兵が、松明を手に宿り主を囲み醜い姿を現わした。シロは、宿り主の姿を見るとをつき築地塀から飛び降り兼吉の許へ帰って行った。

 宿り主は、懐刀を抜き警備兵に斬りかかった。警備兵は刀を抜き、宿り主に斬りつけたが、刀身が短い懐刀で不利の中で、駿足を活かした宿り主は、警備兵の首と太刀を斬り落とした。宿り主は、動きを止め警備兵に向けて鋭い眼光を向けると兵備兵は、動くことができなくなり、首を斬り落とした髪の毛を鷲掴みして持ち上げた。そして、その首から滴る血を飲みだした。

 「あれは、宿り主でない…」

 義経は、ぼそっと云った。そして、義経が一喝した。

 「喝!」

 警備兵の動きが自由になり、宿り主の姿からもの狂いの徳大寺則子の姿に戻り、一点をじっと見て黙っていた。

  ポカー

 その時。宿り主に化けた茂子は蒲団の中にいたが、茂子の體と宿り主の體に分身することができた。茂子の體は、寝返りをうち夜中に厠に行くこともあり、だが、話すことはできなかった。ただの人形であり夜中では、寝るだけで人と話すことなかった。茂子自身が屋敷の中にいたことを証明でき、屋敷内にいる式神たちに茂子の存在を見せつけるだけでよかった。実體の宿り主は、どこかの国で帝のご落胤やの血を引く娘の生き血を啜っていた。


 次の日の八月十九日。朝

 源義経と安倍季弘が中央に働き掛けにより、明子は疑いが晴れて直ぐに屋敷に帰されが、その足で明子は氣になることがあり、誰にも氣づかれず高倉宮を出て明子と親類であり信頼ができる。高倉宮から近くにある安倍泰茂邸を訪れた。泰茂邸には、季弘に従兄弟の廣基がいた。

 「義経様。季弘様が幽閉せさているのを助けてくれて、礼を申します。雅子殿が妾に教えてくれたのじゃ」

 明子は、季弘たちに礼を云ったが、明子は胸の奥で引っかかるものがあり、幽閉された屋敷の中で考えていた事があった。

 「季弘殿。妾の侍女のことですが…」

 明子は、胸に手を当てて眉を顰て云った。

 「妾の侍女、茂子のことですが…。鬼女が現れた頃から夜中になると外に出て、朝になる前に帰ってくるようで。茂子の側を通ると體から何人者、血の匂いがするのじゃー。このひと月は夜中に出ることがないが、妾の思い過ごしならいいのじゃが…。そのことを考えると恐ろしゅうて、恐ろしゅうて…」

 「噂に聞く、茂子殿か! 手前は会ったことがないが、と聞く」

 「よくよく考えて見ると、あの騒動から茂子の姿形が変わりだし、都一の美女に! 茂子は、幼少の頃から醜女と云われいじめられ、妾も茂子が美しくなり嬉しく思っていたのですが、人に対する暖かさがなくなり、心が冷たい…」

 「それは、鬼女に取り憑かれているの可能性が、高いなぁ! 分かり申した。手前におまかせあれ」

 明子は屋敷に戻り、季弘は鴉の式神を使い。三条家に偵察に行かせた。茂子は屋敷にはいなかったが、屋敷の中に神氣を放った白蛇がいて、季弘の式神は半時ほどで戻ってきた。

 「ほう。兼吉の式神がのうぉー。兼吉も目を付けていたか!」

 その時。泰忠は兼吉の頼みでシロと大宮大路を南に下がり散歩をしていた。東市に近づくにつれ、人通りも多くなり市場で買い物をする人で活氣に満ちていた。シロは、店からの漂ういい匂いに誘われ、あっちこっちと泰忠を引っ張っていた。

 「シロ。引っ張るな!」

  カガァー。

 縄で首が絞まているにも関わらずに、匂いの誘惑に誘われていた。

  カガァー。

 シロは匂いに誘われて、泰忠は恥ずかしいのと早くその場から立ち去りたかった。

 「ほれ! 食いなっ。坊主、メシを食わしているのか?」

 見かねた店主が餌を与え、市場の立ち並ぶ店一軒一軒から餌をもらっていた。そして、泰忠が七条大路に差し掛かった。そのときに、泰忠とシロの動きが止まった。

 (地蔵菩薩の神氣! の中に…。まさか…。何だ。この神氣に包まれた嫌な感じわー…!)

 シロは、その場で上手でない遠吠えを始めた。

  ホオォォォー。

 シロの遠吠えが、女を包んでいた地蔵菩薩の神氣を掻き消し、邪悪な氣が一氣に放出された。だが、直ぐに地蔵菩薩の神氣が包み邪悪な氣が掻き消された。

 (地蔵の氣が消えて、あのときの邪悪な氣。宿り主か!)

 泰忠は、宿り主と直感し地蔵菩薩の神氣を放つ者を探した。人込みの中、掻き分け掻き分け探した。

 (シロ。お前は、一體!)

 「見失った!」

 泰忠は、シロの縄を解いた。シロは、先頭に立ち神氣と幽かな妖氣を追い泰忠を誘導し始め、屋根から屋根へと忍者犬のように飛び、泰忠もシロの後をつき北上した。六条大路に出ると東に入ると姿の女の姿がいた。

 (いた!)

 泰忠とシロは、路地に入り女の様子を隠れて見ていた。

 (あの女だ。まだ、氣づいていない。この儘、後をつけるか?)

 泰忠は、式神の蜜虫(蝶)に後をつけさせ、女と別の道を選び屋敷に帰り式神の報告を待っていた。

 式神は、女が屋敷に入るのを確認すると泰忠の許に戻り、祖父・泰茂に報告した。泰茂の式神が義経や季弘、廣基、貞光に報告し疑惑が確信に変わり、戦いの準備に慌ただしく動いていた。貞光は、漸く重い腰を上げ、祇園社に参り素戔嗚命の神剣を手にした。

 そして、日輪が沈み三条家の屋敷に四方を四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)の像で結界を作りて魔物を閉じ込め、その回りを陰陽師たちが囲み、その後ろには僧侶がの結界で二重三重に魔物を封じ込んだ。

 準備は、すべて万端であった。

 泰茂は、茂子に知られないように三条家の家来と侍女を数名残し、ほかの者は六角堂に避難させた。あとは、時になるのを待つだけであった。

 時は、一刻一刻と魔の刻に近づき、月と星々が移動していった。

 この夜は、雲が多く月がすこし顔を出すだけであった。回りでは闇の魑魅魍魎が、お零れを貰おうと鋭い歯をガチガチと音をたてて寄り、徳の高い陰陽師や僧侶たちを美味しそうに見ていた。床下や天井裏のから次から次へと魑魅魍魎が目覚め、三条家の屋敷が見える築地塀から様子を見ていた。

  ガチガチガチ……

  ククククッ……

  ヒヒヒッヒヒヒ……

 時は、魔物が活発に動き出す丑三つ刻になった。屋敷の回りをで火を焚き、辺りは明るくなった。屋敷に結界を張られて屋敷の中の怨霊たちが驚き、井戸の中から怨霊たちが這い上がってきた。怨霊たちを結界に抵抗するように四天王の像が急激にガタガタと揺れだした。安倍四天王が、新調した鎧兜を纏い手剣で空に向けて五芒星を書き、金剛界五如来の梵字を唱えた。

 「バン、ウン、タラク、キリク、アク」

 「バン、ウン、タラク、キリク、アク」

 だが、茂子は閉じ込められたことに氣づいていなかった。

 茂子は、血に飢えていた。公家狩りに宿り主に化け、神氣で邪氣を隠し、外の騒動しさに屋敷の外へでようと築地塀を飛び越えようとしたが、見えない壁にぶつかり敷地内に跳ね返され庭に落ちた。鬼女は、鶏冠にきて何回も築地塀を超えようとしたが敷地内に押し戻された。血に飢えていた野獣のように宿り主は鬼女の姿になり、生き血欲しさに自分が止めることができずに、茂子の主人である明子に狙い屋敷の中に戻り明子の寝の間に向かった。

 「明子! 明子はどこじゃー」

 だが、寝の間には蒲団があり、蒲団の上には明子の若い娘の汗が染み込んだが寝かされていた。宿り主は、その人形に飛びかかった。

  ギャーーーーーーーーーーーー

 鬼女は感情をあらわにし発狂して、狂ったように明子を捜しだした。

 「明子の血じゃーー。血じゃーー。明子は何処え~」

 血に飢えた鬼女は、理性がなくなり欲望だけで動いていた。それを怨霊は楽しそうに煽って、明子の魂魄も公家の者たちと同様に浮遊霊にしようと企んでいた。

 そして、怨霊たちは陰陽師の呪術に関わらず。結界を破ろうとして抵抗をし、陰陽師たちの術を内から打ち破ろうとしていた。

 義経四天王と安倍四天王は、塀を一飛びして屋敷に入り込み、先に送り込んでいた。式神が、居場所を告げ式神と共に鬼女を追ったが、平家の怨霊たちが行くて阻み邪魔をした。

 義経は、鞘から神剣を抜き全く無駄な動きがなく、舞いを舞うように怨霊を斬り神剣に吸い込まれ黄泉の国におくったが、三条家の井戸から裟婆の光に向かって、次々と平家の怨霊だけでなく中央に対する復讐や恨みを持った怨霊たちが井戸の中から光と魂魄の光の玉が続々と出ると、裟婆に出られ屋敷内を浮遊する度に光の玉は、殺された無惨な姿になり、義経たちを襲い出した。あまりにも中央に対する怨霊が多く、斬っても斬っても切りがなかった。

 〈義経様。怨霊たちは、我ら安倍四天王にお任せあれ! 義経四天王は、義経様の援護を、義経様は鬼女を追ってください〉

 義経は鬼女の捜索に専念し、屋敷の中の怨霊は安倍四天王が一體一體、確実に浄化した。

 屋敷の外では、結界を形成する為の呪術を行なっていたが、怨霊の力が弱まらなく井戸から迫り上がる光が呪術の力で弱めていた。

 だが、怨霊の激しく抵抗していた。

 屋敷の外では、お経や真云に祝詞の言霊が重なり、お互いの力を増していた。

 怨霊の抵抗に陰陽師や僧侶たちが、段々と疲労困憊で力が弱まった時に、背後から魑魅魍魎が修行して超能力を身に付けた陰陽師や僧侶の血と肉欲しさに襲い掛かってきた。

 〈おい! 知っているか? 徳を積んだ陰陽師と僧侶の肉を食べると力を増すことを知っているか!〉と、中央に恨みを持つ怨霊が、一匹の鬼に噂を流すと、その噂が一氣に回りの鬼たちに広まり、続々と力を強めようと我先に陰陽師や僧侶たちを襲いだした。陰陽師や僧侶たちは、全身を鋭い牙で噛まれて腸が飛び出ても、口から血を吐いても、不動の如く立ち力を振り絞り呪術を唱えていた。

 屋敷の結界が、乱れた時である。闇から義経の青獅子が現れて、魑魅魍魎や怨霊を鋭い牙で噛み殺し浄化した。

 そして、青獅子だけでなく、法螺貝の音が京の夜に鳴り響くと屋敷に向かって数十人の走る足音が段々と近づいた。その者たちは、鞍馬山の修験者であり中には、天狗のような長い鼻に一本下駄に風を巻き上げる扇子を持ている者もいた。地上からは修験者が、上空からは魔王尊の化身である鬼一法眼と使者である天狗が結界の強化と陰陽師や僧侶の守護を行なった。上空の天狗は、屋敷の中に入り黄泉の国の出口になった井戸を封印し、陰陽師の後ろの方から屋敷を包むように、修験者たちが弓の弦を鳴らし邪氣を祓い。同時に陰陽師の呪術を強め、修験者が三鈷柄剣で、僧兵が薙刀で、屋敷の周りの魑魅魍魎を片っ端から斬り地獄に送った。

 〔魔王尊とは、鞍馬山にある鞍馬寺の三尊であり、京の鬼門を守る神である〕

 一方の鬼女は、明子を捜しながら殺戮を楽しみ。魂を妖刀に引き摺り込み怨霊の仲間に仕立てていた。

 「血じゃー。血じゃー。明子は、どこじゃー」

 鬼女は、茂子の心も人間の心も失い。血に飢える獣のようであり本能だけで動いていた。

 「明子!」

 鬼女の巨大な體に、廊下がギシギシと軋む音をたて明子の名を呼び探していた。息を潜めていた一人の侍女が襖に隠れて、鬼女の右脇腹を刺したが、鬼女の筋肉は厚く止まり、内臓まで達することはなかった。鬼女は、侍女の手を掴むと、ゆっくりと懐刀を抜くと傷口からは、緑色の血が飛び散り襖にかかった。鬼女は、襖を破壊すると目と目が合い凄まじい目つきで睨らみつけた。侍女は、恐怖のあまりに戦慄し腰が抜け、その場に座り込み柱にしがみつきガタガタと動くことができなくなった。その侍女は、鬼女の目線を避けようとしたが鬼女は、侍女の顎を掴み鬼女の方へ顔を向けた。

 「今までで、可愛がってくれてありがとう。お礼に倍返ししてあげる」

 鬼女は、白い煙を発し喋り、その煙が、侍女が吸い込み刺激的な匂いに噎せ込む苦しみ、死の恐怖と鬼女に対する恐怖に目を瞑った。

 「そんなに、恐いかー」

 侍女は、答えることもできずに目を瞑っていた。

 「じゃー。その目は、いらないなぁー」

 鬼女は、懐刀で侍女の左側の目の玉を抉り取ると一里四方に凄まじい悲鳴が響き人々は、恐怖に怯えていた。

  ぎぁーーーーーーーーーーーーーーっ!

 侍女は、痛みに堪えきれずに大きな声で叫んた。鬼女は、持っている目の玉を侍女が叫んでいる大きな口を開けた瞬間に、目の玉を口の中にいれ飲み込ませた。

 「自分の目ん玉の味は、どうかしら?」

 鬼女は、左手で侍女の顔を鷲掴みにすると侍女の懐刀で腹を抉るように刺し、痛みに叫んだところを口に目掛けて懐刀で刺し、後頭部を貫通し柱に突き刺した。茂子が産んだ宿り主は、慙愧の欠けらもなくなりに人を殺めていった。

 鬼女は、黒く長い舌で侍女の血を嘗め味見したが、吐き出した。

 「不味いー。穢れている! 雑種の血は駄目じゃー。駄目じゃー。公家の血じゃ。明子の血がほしい! 明子ーーーー」

 「穢れているのは、貴様のほうだ! 茂子!」

 鬼女に目掛けて一筋の光が走った。義経が、鬼女に向かって斬り込んだが妖刀で払い除けられ、火花が散り神剣の刃先が毀れたが、神剣の司る龍神が光輝くと刃毀れが再生し強度が増した。そして、暗黒色に輝く妖刀は、刀と剣を合わす度に黒ずみ、生きているように刀身は不氣味な動きをしていた。戦いは、鬼女が有利で室内の戦いにおいて壁や柱があり義経の剣の長さでは実力が発揮できなかった。

 義経は、四天王たちがいる。広庭に誘い出した。

 「義経様が、乱心なされた」

 鬼女は茂子の姿に戻り、か弱い女を演じた。

 「季弘様。助けてください」

 な視線で、季弘に近づいてきた。

 「それ以上、近づくなっ」

 季弘は、艶かしい茂子に剣先を向けた。

 「その偽りの美貌。神鏡に映ったその醜い姿を見ろ!」

 泰忠は、神鏡を持ち鬼女の姿を映していた。

 「この神鏡はなぁ。真実を映す鏡。これが、本当のお前の姿だ。この、ドブスがぁ!」

 茂子の顔が、鬼女の顔に戻り妖刀を抜き、義経に振り向き連続技で攻撃を仕掛けた。義経は、苦闘をしていたが、義経は戦法を変え舞うような流れるような『静』の動きから力で押さえつける『剛』の動きに切り替えた。鬼女は、攻撃から義経の攻撃に守りの姿勢に入り押されるようになったが、鬼女は不氣味に笑って戦いを楽しんでいるように見えた。

 「何が、可笑しい?」

 「いいものを見せてやろう。分身の術!」

 鬼女は、十人に分身した。

 「その術は、邪悪童子の術!」

 「もっと、面白いものを見せてやる」

 鬼女は術だけでなく、力と俊敏性が高まっていた。鬼女の分身一人一人の動きは早く力も数段に上回り、十人の鬼女の分身と夥しい怨霊たち相手に、九人だけで遮二無二戦っていたが全く歯が立たなかった。

 泰忠の神鏡に写る鬼女の姿だけでなく、酒呑童子の三人の兄弟の魂魄を茂子の體の中に宿し一體となっていた。

 (が三人の兄弟の魂が消えたといっていたが、童子の三つの魂が鬼女の中に宿し、力を得たとは! それにしても、この怨霊が難儀だー)

 義経は、文殊菩薩の神格化になり童子の姿になった。

 「あーあー。大分、押されとるなぁ」

 兼吉は、築地塀の上で高みの見物をして様子を見ていたが、義経たちが段々と不利になり漸く動き出した。そして、式神を使い四方に注連縄を張り巡らせた。

 「九頭龍大神よ。穢れしもの全て浄化せよ」

 注連縄は光輝き、屋敷の中を神の光で一杯になった。怨霊は、一目散に分身の中のひとりの鬼女が持っている妖刀の中に逃げ込んだ。

 「逃げ足の速い奴め」

 〈泰茂! お前が戦っているのが、本體だ!〉

 兼吉は、注連縄を鞭に変えて戦いに加わった。貞光の體の中には、兼吉の守護神である弁財天が入神すると安倍四天王にも守護神である四大天王たちが入神した。

 鬼女の分身たちは、邪氣・邪悪・百目鬼童子の魂魄を宿し三人の力を付けていた。戦いの中、四つ足門から小犬・シロが入ると、白と黒の虎毛になると獅子のように體が大きくなり、本體の鬼女に向けて遠吠えを始めた。

  ワオオォォォー!

 その遠吠えは、白い光と突風が、鬼女の中の三人の童子の魂魄を分離した。鬼女の分身は解けた。

  ワオオォォォー!

 「シロなのか?」

 突然現れたのはシロであったが、泰忠には直ぐにシロだと分かった。本来のマタギ犬の大きさは中犬であったが、その姿は大型犬より大きく倭の国にはいない獅子のように體格が大きかった。義経の愛馬が変化した。青獅子丸のように、この世の動物ではなく、シロもまた、天界の神獣であった。額には、一本の角があり神に使える氣品さを漂わし仄かに白い光を放っていた。シロは、逃げ惑う兄弟の童子を飲み込み地獄に落とした。この犬の腹の中は、地獄と繋がっていた。

 〈泰忠様〉

 〈その声は、魔羅!〉

 泰忠の五歩手前に、姿を現わした虎毛の犬は、泰忠に近づくにつれ角がなくなり、小犬の大きさになった。その姿は元のシロの姿になり、シロは神通力を使い話した。

 〈馬頭観音のにより、泰忠様を守る為に、再び、この世に戻ってきました〉

 追徴鬼神が、輪廻して霊犬として生まれ、予云どおりに十二神将が揃った。

 源義経     守護神 文殊菩薩

 義経四天王

武蔵坊弁慶  怪力無双 七種の武器 薙刀・鉄の熊手・大槌・さすまたなど

  常陸坊海尊  僧兵

  伊勢義盛   通称 三郎

  駿河清重   通称 次郎

 安倍四天王

  安倍季弘   守護神 増長天。泰親の嫡男。

    廣基   守護神 持国天。

    泰茂   守護神 広目天。泰親の次男。

    泰忠   守護神 多聞天。泰茂の嫡男。

 安倍貞光    守護神 青龍音妙弁財天。

 安倍雅子    守護神 吉祥天。廣基の長女。四年後、泰忠と結婚する。

 鬼一法眼    魔王尊の化身。義経に陰陽道と兵法を教える。

 シロ      酒呑童子の末っ子。兼吉の式神。輪廻して霊犬として兼吉を支える。

              

 邪魔をする魔の類がいなくなり、残ったのは鬼女だけになった。シロにより童子の兄弟の魂魄が地獄に落ち、鬼女の魔力も元の力に戻っていた。鬼女は、義経たちに囲まれ狼狽えていた。

 〈茂子の體から鬼女を取り除く。明子殿に頼まれて、どうしても茂子を助けたい。術で、鬼女を祓う〉

 泰茂の神眼には、茂子の正體を見破っていた。

 〈いや、もう茂子はいない。茂子の恨みは残っているが、寄生してる宿り主が本體だ〉

 〈あの者は、阿弥陀様しか救えない。俺には手に負えない。あとは、お前たちに任す。相打ちは勘弁〉

 兼吉は、築地塀を越え帰っていった。

 「相変わらず。難しいヤツめ!」

 寝殿の屋根の上では、雅子が聖矢で鬼女の眉間を狙っていた。

 〈雅子。ヤツを封じ込めよ!〉

 雅子は、地面に目掛け五本の矢を放ち庭に刺さった。矢は、五芒星の結界を形成し、鬼女を結界の見えない壁の中に封じ込めた。その五本の矢の位置には、安倍四天王に義経が我が守護神の手で印を結び結界の強化をしていた。雅子は屋根から飛び降りて、いつでも止めの朱塗りの聖矢が、放てるように構えていた。鬼女には、結界の外側の人間は見えなかったが、声で反応をしていただけであった。茂子の中の鬼女を退治し茂子だけを助けたかった季弘は、懐から三寸ほどの一本の針に青、黄、赤、白、黒の五色の糸を通した五本の針を掌に載せた。片方の手の人差指と中指を二本だけを立て針に向かって五芒星を針に向かって書き、針に呪を入れ込んだ。季弘が真云を唱えると針は掌の上で宙に浮き、鬼女に向かって飛ぶと鬼女の周りを飛び回り、鬼女の背中に目掛けて五芒星の形に突き刺さり、阿弥陀如来の力を借り唱えた。

 「オン、アミリタテイゼイ、カラ、ウン」

 季弘は、鬼女だけを退治し茂子を助ける方法を取った。鬼女は、結界内で踠き苦しみ、茂子、鬼女、宿り主の姿に変わりのたうち回り、阿弥陀如来の力に悲鳴を上げていた。

  ギャーーーーーーーーーーッ

  グアーーーーーーーーーーッ

 茂子の體の中から鬼が苦しみに、堪えきれずに茂子の皮膚を押し上げて、中の鬼たちも苦しんでいた。段々と美人の茂子に戻りつつあったが、中の鬼たちは苦しみに暴れていた。

 鬼女の獣の声から茂子のか細い声に戻り、

 「助けてくだされ! 誰かー」

 六角堂にいた明子が茂子のことが心配で屋敷に戻り、茂子が苦しんでいるところを目の当りにして、明子は禁句されていた。茂子の名を叫んでしまった。

 「茂子ーーーーーーーーーーっ!」

 明子の声と分かった茂子は、踠き苦しみながら助けを求めた。

 「明子さまー、助けてくだされ」

 鬼女になっては、茂子の姿になり繰り返し、繰り返し姿を変えて、五芒星の結界の中でのたうち回ていた。茂子の苦しむ姿に明子は、結界の中に入ってしまった。

 「明子殿! まだ入っては駄目です」

 鬼女は茂子の姿の儘、結界に抵抗し崩そうとしていた為に、安倍四天王に義経はその場から動けずに制止することができなかった。美人の茂子は、まだ宿り主が生きている限り棲む仮の姿であったが、明子は見兼ねて聖矢で形成した五芒星の中に入り、茂子の五本の針を抜いてしまった。

 美人の茂子の儘であったが、何重にも重なる声で明子の耳元で囁いた。

 「明子さまの血がほしい~」

 茂子は、口の中から黒い舌をだけ明子の頬をぺロリと嘗め喉に刃を突き立てた。鬼の形相に変わった。

 鬼女は、結界の外の者の姿が見えてなく、声しか聞こえない状態であった。

 「雅子、もういい。矢を討てー」

 雅子は、朱塗りの矢を鬼女の眉間に目掛けて射った。矢は風を斬り鬼女の眉間に命中し突き刺さった。仰向けに倒れ込み、びくともしなくなった。鬼女、宿り主の魂魄は、茂子の肉体に閉じ込められた。

 鬼女は遠ざかる意識の中で、魔術を使い呪い言葉を発した。

 〈妾を封印したとて、あの御方様が、また妾を復活させてくれる…。その時は、お前たちの子孫の血を戴こう…〉

 〈御方様てっ、誰だ!〉

 鬼女の魂魄と茂子の肉体は、注連縄が鎖と変化し、その何重もの鎖に巻かれ、鬼女の魔術を含む全てのものを封印された。茂子の魂魄の欠片には、鬼女宿り主の魂魄と茂子の魂魄も閉じ込められていた。

 「茂子ー!」

 「茂子ー!」

 明子は、茂子に突き刺さった。痛々しい姿に矢を抜こうとしたが、封印した聖矢は、抜くことはできなかった。茂子の體を揺すりながら何回の名前を叫びながら泣いた。

 時間が経つにつれ鬼女の姿は、美人の茂子になり、宿り主に姿になり、徐々に元の色の黒い茂子に戻り、今までの報いか、時が刻むごとに、茂子の髪は白髪になり肌の艶がなくなり老婆の姿になり、見る見る水分が蒸発しミイラとなった。茂子は鎖の上から白い絹にぐるぐる巻にされ、封印された。

 妖刀は、明子の體に憑依しようとしたが、義経の剣で叩き折られた。妖刀は再び、再生を始めたが、鞘に収め、鬼一法眼によって固く封印され鞍馬寺の魔王尊の祠の中で封印された。幼少からの茂子の人に思う憎しみ、心の弱いところに付け込み鬼は憑依され、中央(京都・都)に対する平家の怨霊が、鬼の暴走を自分の理性で押さえつけていたが、怨霊の甘い言葉に茂子に住み着く鬼は、茂子が罪を重ねる度に、悍しい鬼女の姿となっていた。人の心を弄び魔物に変えた。そして、殺した者の魂を無理矢理仲間に引き摺り込み、妖刀の一部なった。だが、鬼女に殺された公家の魂魄は首と胴體とが分離した儘に、平安京の中を彷徨っていた。

 鬼女の最後の言葉である。御方様の正體は分からなかった。そして、茂子の心の中に埋め込んだ鬼の種子が誰の手によって埋め込められたのか不明であった。同時に御方様と鬼の種子を埋め込んだ者と同一人物なのか不明であった。

 茂子は、広隆寺に封印したが、完全ではなかった。安倍四天王は、茂子の肉体が存在を信じていたが、宿り主の肉体だけがあり、茂子の魂魄の竹らしか残っていなかった。茂子の肉体なら封印を完璧だったが、宿り主に聖矢では完璧ではなかった。

 広隆寺の土葬してある土のなかで、右手が動き眉間の聖矢を抜くと、體を封印していた麻が紫色に燃えて宿り主の子供の姿に戻った。

 安倍四天王や義経四天王が封印が破られたことに氣づき広隆寺に向かった。

 広隆寺には、墓地はなかったが、封印の為に墓をつくつたが、墓石の上に宿り主が立っていた。

 一番手は泰茂であり、聖剣を抜き戦っていた。

 「互角、いや、一歩儂の法が有利だが、聖矢でも封印できなかった。二代目が作った聖剣で封印できるか」

 義経四天王、安倍四天王が来た時には、助にはいるスキがなかった。

 「なんという戦いだ。これでも年長者の泰茂の動きか!」

 「義経様。動きの速さは、泰茂様の方が上ですが、鬼の回復力のほうが増している」

 広隆寺の本堂から空海と日蓮がでてきた。空海の手には銀の破魔矢を持っていた。

 泰茂の目線には、空海の姿が目に入った。

 (此の儘だと、儂の體力が持たない。この年までよく生きた。もう、思い残すことはない)

 泰茂は、神通力で空海と会話した。

 〈弘法大師様、一次的ですか、聖剣で動きを止めます。止めている間に破魔矢の矢で自分ごと射ってください〉

 〈そなた〉

 〈ここまで生きられればいい。射ってください〉

 その神通力は、息子である季弘にも聞こえていた。

 〈これしか、最低、封印しかできない。破魔矢で射った。この鬼と儂を火葬して瓦粘土で焼いて固めて、あの松の下に埋めて封印してほしい〉

 空海は、構えた。

 〈あい解った〉

 〈頼みましたよ。大師様〉

 泰茂は、変化もなしに一直線に光り、宿り主がの腹部に聖剣で刺した。

 宿り主は、聖剣でも平然であつた。

 「切れ込んだだけで、力では俺の方が数段の上」

 泰茂は、聖剣と同じ光を放ち。緑色に光を放っていた。

 「抜ける者なら抜いてみな」

 「えっ。抜けねぇ」

 宿り主は、泰茂の心臓に向けて鋭い爪で心臓を掴み取った。

 〈大師様。頼みます〉

 弘法大師、破魔矢の矢放した。

 宿り主の背中を貫き、一部を爆発して空中から泰茂とともに下へ落ちた。

 宿り主は、爆発した部位だけを徐々に再生していた。

 季弘は、火の神を呼び、泰茂は骨になり、宿り主は灰しか何も残らなかった。季弘は、麻の袋に、泰茂の骨と宿り主の灰を入れた。後日、骨と灰は、瓦粘土と一緒に焼かれた。その塊は、松の下に深く埋められ完全に封印し、この事件は終わった。


 この書物は、三条明子によって書かれた物語として書かれて、本家の季弘と分家の廣基に預けられた。他の者も鬼女に関する書物を残そうとしたが、残虐すぎて後鳥羽天皇が歴史から記憶を消し去った。この時期、平家の怨霊の事件が次々と起こっていた。そして、季弘と廣基によってこの書物も封印され誰にも読まれることもなく、誰も語ることもなく人の記憶から消し去り封印された。

 ここで、奇伝は終わったが、義経と静御前が触れたのか義経の行く末を見せられた。

 義経は、吉野山で静御前と別れの時。

 義経は、鎌倉幕府を倒す程の大軍を平泉の黄金で傭兵し、鎌倉幕府を倒すと告げた。義経は、落ちている枝を手に地面に『吉成りて汗を思う』と書いた。吉野山で誓いを成りて水干(静御前)のことを思うという意味である。義経は、名を捨て『成吉思汗なすよしもがな』と名乗ると静御前に伝えた。

 その後。静御前は頼朝に拘束され、鎌倉鶴岡八幡宮で義経を思い。をった。

    よしの山

    峰のしら雪

    踏みわけて

    入りにし人の

    あとぞ恋しき

    しづやしづ

    賤のをだまき

    くり返し

    むかしを今に

    なすよしもがな

 文治五年四月。頼朝が、奥州平泉の藤原泰衡に「義経を捕えろ」という命令がでたが、義経と泰衡と密約がされており、機密が漏れるのを恐れて、衣川館で偽戦を行なった。義経の影武者(杉目小太郎行信)が館に火を点け自害をした。首は、焼き爛れ本人と確認できなかったが、四十三日をかけて鎌倉に送られた。兄・泰衡に殺害したとされていた弟・頼衡と忠衡に、自害したとされていた藤原基成が、義経のお供に奥州平泉の黄金を手に、大陸に渡った。

 後に、チンギスカン(成吉思汗)と名乗りモンゴル帝国を築いた。

記憶の歴史の麻里亜の傍に日蓮がおり、麻理亜がみえていた。

 「麻理亜殿、三災七難。葉物野菜が高騰し飢餓が起きた時、再び800年後、歴史は繰り返す」

 麻理亜の手が、書物から離れ意識が戻った。

 令和の世に、人の心の弱みに付け込み鬼女と妖刀は血の欲しさに彷徨った。昔も今もいじめ社会である。大人になってもいじめはあるが、いじめられた者は、恨みを抱き復讐の機会をていた。

               三

 鞍馬山から下山して帰ってきた祖父が、麻理亜のいる所蔵庫にやってきた。

 「じいちゃん! お帰り! 鞍馬寺に行ってきたん?」

 「おうー。一時間前に帰っておったが、広隆寺別当(住職)のさんが来られて鬼女のことで話しをしとった。まりちゃんが、ここにいるということは、鬼女の話しを知ったか! 儂も、氣になって鞍馬山に行ったが、封印された妖刀は何者かに持ち出された。魔王尊の祠の中の、妖刀を持ち去るとは、人間並みの能力の持ち主ではない! 人間が持てば忽ち妖刀の怨霊に憑依されるであろうに! 魔族か鬼族でないと妖刀に触れることはできない。ただし、修行しブッタに近づいた人間だけは、例外だがのうー」

 「じゃー、この事件の懐刀は、封印された妖刀なの!」

 「あーっ。難儀な事件になりそうじゃー。秦さんが広隆寺が収縮されて安倍泰茂の慰霊碑を移動し、松を伐り重機で固めた瓦と粘土を破壊し、銀の破魔矢を抜かれて、宿り主の封印の封印が解かれた。と…。儂の式神に見に行かせたが、既に宿り主の魂と茂子の魂は、肉体から離れなくなっておった。この世の何処かで彷徨って、再び人の血を啜り、公家の血を引く人から人へと憑依しているのだ。儂の式神が、宿り主の魂を探しているが、未だに見つけることもできずいる。まりちゃん、手伝ってくれないか?」

 「はい。だけど、魔族も鬼族もこの世から滅びた筈! それに2025年に神との約束で悪魔支配から神支配になり神への祈りやすいはず」

 「そうなのじゃー。修行をした人間がしたとは考えにくい。まりちゃんは、鬼族が滅びたと思っているが、実は血は薄いが、人間との混血が、この世に存在する。人間として生活をしている。本人も鬼族の末裔だと氣づいていないし魔力もない。だが、本の切っ掛けで鬼の残虐な心に目覚める者がいるが、犯罪を犯す者がいる。だが、魔力に目覚める者は今だ見たこともない。一體何者が鬼女の封印を解き、妖刀を持ち去ったのか…」

 その時。五の蔵から爆発音がし、蔵の入り口から煙が上がっていた。セーマンは、五の蔵で研究をしていた。その幾つもの蔵があったが、研究の課題によって蔵を分けていた。研究室の機材は、現代技術・科学の百年以上もの最先端を走っており、世界企業が欲しがるような、最先端な機器や発明機器が並んでいた。

 祖父と麻理亜は爆発音に吃驚して、セーマンのいる蔵に駆けつけた。

 「セーちゃん!」

 「あ~。実験に失敗した。おっ! じじぃー。帰ってたん! 二の蔵の中にあった隕石を実験の材料に使ったでぇー」

 「で! 分析ができたのか?」

 「あれって、隕石! 金属? 地球上にない鉱物が含まれていた。凄いなぁ、あれ! あの隕石は、どの星の隕石やろ! 変わった性質を持った石というか? でも、微弱な電氣刺激を与えたら固かった物質が柔らかくなり、生物のように細胞の組織體。そのひとつの細胞も地球上の細胞と同じだった! どういうことなんだ?」

 「あぁー。あれっ! あの金属を知らんのか! あれは、UFOの欠片じゃーよ。ヒヒイロカネというんじゃ」

 祖父は、セーマンに向かい。世界の常識ともいうような云い方であった。

 「あれって、UFO?!」

 「蓋の裏に、書いてあったじゃろ」

 セーマンは、蓋を裏向けて書いてある文字を見た。

 「見たけど、どの辞書にも載っていない文字やし解読できひんし、何て書いてあるか全く分からんわー。神代文字という象形文字に微妙に似ていたけど?」

 その文字は、古代文字に共通する特色はなく、一つの文字が複雑で、曲線と直線が交差しあい。一つの文字が美しく芸術性があった。

 「??…。で、という文字なん?」

 「その文字は、天使文字じゃ」

 「天使文字?」

 セーマンは、バカにしているのかと祖父を見た。

 「で、何て書いてあるの?」

 「『魔王尊の』と書いてある。魔王尊が、金星から鞍馬山に降臨したとき、天之浮船が破損した欠片なんだ」

 祖父は、降臨したのを見てきたように、未確認飛行物體が存在するかように伝え魔王尊は金星人であることを伝えた。

 「……?? うん~??。金星て暑くて水がなく、生物が生きていけない」

 「まだ、太陽の光が30%弱かったころ地球と同じ環境だつたんだ」

 セーマンは、地球上に存在しない不思議な性質を持った欠片を信じるしかなかった。その欠片は、火に強く衝撃を吸収する性質を持ち、微弱な電氣だけで変幻自在に形が変わった。その微弱な電氣は、人間の脳内に発する電氣信号だけで十分であった。未知なところが多々あり、電子顕微鏡で見ると細胞が集まった組織體で、DNAを持ち破損もない完璧なDNA配列で、人間のDNAに一部を移植すれば人間は不老不死になり、部位を無くしたとしても細胞は再生し認知症やガンにエイズの治療薬になり、市販薬として売られて人から疾患がなくなるほどの完璧なDNAであった。その細胞は、微弱な電氣で簡単に培養ができ、人の細胞に組み込むと万能細胞になった。だが、セーマンは、この新遺伝子の研究発表をする氣は全くなかった。セーマンは、人間も生物も植物も同じ、地球の一部であり誕生し死を迎えて土に返り、地球の命は循環していた。それが、人間が地球の循環を崩し人間だけが不老不死となったとして、人間だけが増え続ける。地球上の資源は限られている。人口が増える。資源は限られている。セーマンの脳裏には資源を求めて、人間が争う映像が思い浮かべ人間同士が傷つけ合うが、不老不死となった體は死ぬこともできず永遠に続く痛みと空腹に堪えながら、食べることに戦い続け、餓鬼のように共食いをし地獄のような世界が脳裏を過った。別にも今までの愚かな行ないが思いだされ、自分の発明を教えることを止めていた。セーマンはいろいろな発明をしてきたが、後々のことも考え人間に不利になるような発明は発表しなかった。

 セーマンの不老不死とは、自分の遺伝子や意志を自分の子供に伝えることが、究極の不老不死という哲学を持っていた。

 セーマンは、この細胞を培養しボディーアーマーを開発していた。大きさと形は、三センチの正四面體の銀色でペンダントであった。

 セーマンはペンダントに触れて念じた。 

 「第一変化!」

 セーマンは、泰明と姉の前で研究成果を披露し変身した。

 「まりちゃん、どうこのボディーアーマー。カッコええやろぉー。デザインにもこだわった」

 麻理亜の神眼には、アーマーから発する氣が、肉体を限界まで引き上げ超人的な力を発すると分かった。

 (セーちゃんのオーラの氣が、倍になった!)

 「カッコいいやん。ヒヒイロカネで作ったん?」

 「うん! あの欠片で作ったんや!」

 (何てヤツじゃ! 我らのテクノロジーを、ここまで引き上げるとは……)

 泰明は、セーマンの頭脳に吃驚していた。

 「これって、戦闘用なの?」

 「うん! あの鬼ババァを捕まえるには、人間の體力では無理やし、ミサイルょも貫通させないインナーと、このアーマーを作ったんや。この欠片に触れることで、何か……。どう伝えたらいいのか分からへんけど、何かを感じる。アイデアが溢れるように教えてくれたんや! これに触れて心の中で形を念じるだけ、思うように変化し性質を利用して、このアーマーを作った。このアーマーが、三段階に変化し能力を引き上げてくれる。一段階は制服や和多志服で人間並の能力だが、二段階、三段階と能力を高めることができる。それ以上に、レベルを上げることができたが、人間の能力では死に至ることになる。三段階が、人間のギリギリの安全ラインなんだ。ただし、第三レベルは制限時間が決まっているが! まぁー、の限界に達すると生命維持装置が働きレベルを一段階下げるか、命に関わる場合は変身を解く」

 セーマンは、アーマーはペンダント。インナーは通学用の制服に戻して、一から説明した。まだ、サイキックを覚醒していないセーマンでも、頭の中で念じるだけで脳波のパターンで変身ができた。

 (第二変化!)

 着ている制服が、黒色の粒子になると、體の回りを高速回転しだし、黒い竜巻が発生しセーマンの體を包んだ。高速した粒子が、パーツパーツに形成し、セーマンの體に装着した。深みのある黒に覆われた戦闘用アーマーに変化した。内側の特殊スーツは、頭から足先まで黒い特殊タイツに覆われ體の一部になり、セーマンの筋肉質なボディーラインが荒神の強さを強調した。ボディーアーマーは、好きな形に記憶もできたが、その人間の心の本質を見抜き、その者にあった形に変形した。そして、特殊スーツの上には、人間の急所がある心臓と脇腹をアーマーが保護し黒光りしていた。そして、膝までのブーツ型のアーマーを装着し、脚力を超人的な力を発することができた。

 (第三変化!)

 更に変化すると戦闘用のアーマーが強化でき、アーマーも形を変えて変化した。その姿は、第二段階の変身はスピードを重視しており、第三の変身はスピードと力を重視した姿になり筋肉が肥大した。その分、體力と體の負担は大きかった。内側に着込んでいる特殊スーツが衝撃を97%吸収し、外側の特殊アーマーが超人的な體をつくりあげた。ダイヤモンドより固いアーマーであったが、その素材は柔らかく柔軟性がありセーマンの體の一部であり装着しても體重は変わらなく何も着ていない解放感があった。その黒に覆われた特殊スーツは、黒より深く宇宙の暗黒の色、全ての光を吸収し闇の真の黒であり、セーマンの魂の根源を現わしていた。

 「どうー。カッコいいやろ!」

 セーマンは氣取り、ポージングをとっていた。

 「五感、筋力、脚力は、超人的になるが、體力は自分で鍛えなければなからないが、慣れるまで筋肉痛になるかも? それと、五つの武器が、戦闘用のアーマーに隠されていて武器の名を云えば武器が現れる」

 セーマンの特殊アーマーの左大腿部には、五の神獣(玄武、青龍、白虎、朱雀、麒麟)が五芒星を形成して描かれていた。その、ひとつの神獣の絵図が空間に浮き上がり、生きた神獣が體の周りを翔走り、セーマンの手元で武器に変化し物體化した。

 「鬼切丸!」

 麒麟の絵図が、浮かび上がると釣鐘を突いた音が響くと、鬼切丸がセーマンの手に握られていた。

 「ほれっ。名剣の鬼切丸! 実はこれ、偽造品やけど、でも、斬り味は本物より数倍。鋭いでぇー」

 「いくら、快刀の刀とて、セーちゃんが戦った者には勝てん! その刀に神氣の力を注入してやろう」

セーマンは、刀の刃を上にして半紙をユラユラと落ちると、刃に触れるだけで半紙は斬れた。麻理亜と泰明は驚いていた。

 「ほかにもあるねん。独鈷剣」

 独鈷剣は、1Mほどの柄に両端に鈷がついており、鈷が鋭い刃になっている。サタンのドラゴンの鱗を粉々に切り刻んだ。

 「まだ、あるねん!」

 セーマンは、次々と特殊アーマーから全部で五つの名剣や聖剣(模造品)を取り出し、祖父に手渡し武器に魔王尊の神氣を注入された。その刀は、普通の刀の三倍の厚みがあり重量感があるように見えたが、手に持って祖父は吃驚した。

 「なんじゃ、この剣わ?」

 麻理亜も剣を持ち、軽さに驚いた。

 「かるぅっ! めちゃめちゃ軽いやん? おもちゃの刀みたい」

 「重さは50gで、軽いけど強度は、ダイヤモンドよりも固いでー。地球上に一番固い金属になった。欠片を培養して、分子の配列を変えた鋼を、組み加えたら特殊な鋼ができた。それに加工もしやすいからなぁー」

 セーマンは、研究室の奥にあるデザイン室から麻理亜の特殊アーマーを取り出してきた。

初めての小説です。最後まで読んでいただければうれしいです。

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