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鬼女  作者: I
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鬼女

 安倍晴明の子孫、主人公セーマン セーマンの姉、麻理亜。妹の桔梗と力を合わせて悪霊化した鬼を退治する。未知の金属を特殊なアーマーを装着して神氣も爆上がりした。

        一

延喜廿一年頃だろうか、謎も多く真実か分からない人物がいた。と伝説の白狐、の姫は恋仲になり、晴明という天才陰陽師が生まれた。晴明は、母葛の葉姫の妖術を受け継ぎ、陰陽師・親子に陰陽道を学び陰陽道を身に付け天才とよばれた。

 そして、京の人々を襲う魑魅魍魎から守っていた。

 だが、人は翁もの、天才でも死は避けられることはできなかった。晴明は冥府に落ちたが、冥府に不動明王が現れ晴明を復活させたが、来世まで修業の為に肉体と離れ天界で修業を行ならなければならなかった。

 京の人々は、晴明を神として祭り、今の時代も京の人々を守っていた。


 そして、時は流れ。

 京都市にある安倍晴明の子孫、広隆寺が一部を売却し、その跡地に安倍泰茂の慰霊碑を道路整備の為に松の木を切り、道の広めるための広隆寺は縮小され、道の真ん中に安倍泰茂の慰霊碑は残っていた。時は令和時代になり、魔や鬼が蘇り人々の呪いと闇を餌に憑依した。人間の姿に化けた殺人鬼や凶悪犯罪に引き込む悪霊に死霊が、人間の煩悩を餌に悪の道へ引き摺り込み、夜の京都は闇になり京の町は、再び魔の都になった。空に亀裂が入り、鬼が蘇り乱世の時代になり、治安国家の日本は過去のものとなった!

の脇に慰霊碑を新たに建てられたが、事故や慰霊碑に罅が入っていた。


 晴明は、秘法を子孫に伝来し室町時代に安倍を名乗り累代に超能力を継承し、家門を高めた。晴明の子孫である泰親、有世は能力者として優れていたが、累代する度に葛の葉姫の血が薄くなり、妖術は時代とともに超能力は衰退していった。

 そして、現世に弥勒菩薩が救世主として、この世に誕生するまで、輪廻を繰り返し神となった二柱が甦った。

 令和の世に再び伝説の白狐、葛の葉姫と安倍晴明が輪廻を繰り返し、京の魔都に蘇り救世主となった。

 増え続ける自殺者。変貌する凶悪犯罪。

 社会に対する強い復讐心、歪んだ正義感、嫉妬、妬み、恨み、怨緒の心につけ込み、あなたに、憑依し悪の道へ引き摺り込む。

 そうー、あなたの直ぐ後ろに住み着く魑魅魍魎から守るために光が人々を救いの手を差し伸べた。


 そんな令和の時代に、三人の子が生まれた。父は晴明の子孫、母はクリスチャンであり英国貴族の名家の娘である。

 その娘は、艶のある黒髪に透き通る肌、東洋の顔つきだが小さな顔に切れ長なの目、瞳は東洋人にはない、碧眼で涼しげな瞳をしており、男性も女性も見つめられるだけで憧憬して心が吸い込まれるような、この女神に身も心も捧げたくなった。は、スラリと細く長身で手足の長く整ったスタイルであり、母親譲りの遺伝子を持っていた。町を歩くと男性は振り返り、女性は憧れた。擦れ違うたびに女神の全身から発する芳香は、性を超えた色っぽさがあり、不思議な香氣で人々を魅惑した。

 その女神の名を、陰陽師、という。だが、みんなは、そんな美しい女神のことを白狐のの姫とも聖母マリアや観音様の再来とも呼んだ! 中には、余りもの美しさと目に見えない慈悲のオーラであってもに敏感な人達は手を合わす者もいた。

 安倍麻理亜は、京都私立学園に通う高校二年生であった。持って生まれた聖なる力と先祖に伝わる古文書と陰陽道と神道にインド密教の秘伝を身に付けていた。母方の影響もあり聖母マリアの能力も受けついていた。日に日に能力は高まり、霊感をもっている人々には、麻理亜から発する神々や菩薩様の暖かく大きい後光が見え、常に麻理亜の中心にの使いで、位いの高く正一位の白狐が麻理亜を守護していた。


 学校の帰り、部活で帰宅時間が遅くなり太陽は、とっくに沈み闇が支配していたが、月明かりに車のライトの光、二条城のライトアップと街灯の光で皓々と町中は明るかった。市バスは、堀川通りを上がり、いつも乗り降りする『一条戻り橋』のアナウンスが流れ下車ボタンを押した。

 「一条戻り橋。一条戻り橋!」

 「ありがとう」

 麻理亜だけ一人が降りた。運転手は、心配そうに云った。

 「最近、物騒だから氣をつけてね」

 「ありがとう」

 麻理亜は、運転手に定期券を見せて、礼を云い最寄りの停留所を降った。

 バスの停留所の光で明るかったが、橋の下は人工の川があるが水のなく、川は地下に流れ何もない橋の下は暗く何かが、口を開いているような奈落の底に吸い込まれるようで、異様で無氣味な空間が其処にはあり、晴明が隠した式神が息を潜めていた。地元の人間は、誰も橋の下を覗く者はいかなったが、覗く者がいるとすれば観光客だけであった。

 麻理亜は家から少し遠回りになるが、いつもの日課であり、三人姉弟妹は誰にも云われずに行き帰り晴明神社の門前で、安倍晴明をご先祖様に持つ、姉弟妹は手を合わせていた。そして、命日には家族全員でにある晴明墓所で手を合わしていた。麻理亜は、古風な子であり、先祖を誇りに思い心から先祖を大切にしていた。麻理亜は、晴明神社の手前の道を入ると一方通行になると街灯はあるものの暗く車の通る数も減り、歩行者も少ない。この日は車も人ひとり通る者は誰一人いなく、その道をひとり寂しく歩いていた。

 麻理亜は、バス停から刺すような鋭い視線に麻理亜には、氣づいていた。

 (つけられているわー……)

 道の真中を歩き、少し横を向き標的を確認した。護身用のペンを胸のポケットから取りだすと、左に握り締め氣を張り巡って相手の出方に注意をしていた。

 (女の敵! 絶対に許さへんし!)

 麻理亜の拳に力が入り握り締めていた。標的が、麻理亜の氣に触れ背後につき、一足一刀の間に入り麻理亜のスカートをナイフで切りつけようとした瞬間、麻理亜は體を捻り相手の手首を掴み取った。ナイフを振り落とすと相手の攻めてくる力を利用した技。小手返しで大柄の男を投げると、すぐに麻理亜は攻撃を続け、背後に回り込み相手の首を締め上げ、持っているペンで相手の首筋を目掛けて振り下ろした。

 「この、変態男!」

 紙一重で寸止めをしたが、相手は首を締め上げたときには、既に三秒で失神していた。

 「あらっ、落ちているわー」

 町内の人々が、騒ぎに駆けつけて警察に通報をしてくれた。巡回中のの警官が直ぐにも駆けつけ、通り魔は逮捕になった。麻理亜は、婦人警官と付き添われて府警本部に行った。

 実は最近。京都市内、特に上京区・中京区に女性を狙った。切りつけ魔による殺人事件が増えていた。異様性を感じさせる犯罪で女性の頬にナイフで切りつけるという女性の心を踏み躙る残虐な事件であった。京都府警も警戒を強めていたが、いつも警戒な警備を掻い潜り逃走していた。事件も段々と手口が凶悪卑劣になり口を裂けるぐらいものであり、犯人も一瞬のことで犯人の姿は、被害者も見ていなかった。一回目の手口は、羽交い締めにして、刃物で女性の頬を切りつけていたが、二回目からは氣配のなく追い抜き様に、誰も氣づかれずに、一瞬に鋭い刃物で頬から口を斬り込まれ口を裂かれていた。被害者も激痛が走って始めて氣づくといった手口であった。斬られた傷は、病院で治療するも刺傷から腐敗が始まり、次第に脳が収縮すると精神に異常を来し、最後には狂い不思議なことに血や體液、體の水分が一滴も無くなると干からびて、ミイラのように死亡した。国立のウイルス研究所により新種のウイルスが発見されたが、抗生物質も効かずに血清の研究が行われていた。人と人の感染はないものの傷から侵入したウイルスは、體内の水分を吸収し熱を発した。その間、患者は異常に喉が渇き、氣が狂ったように、過剰に浴びるように水を飲み続けた。その飲用した水分をウイルスが再び吸収し熱を発する。そして、水を飲まずにいられなくという悪循環であった。體内の水分が無くなると脳の萎縮が始まり知能が急激に低下し若くして重度の認知症となったが、不思議なことに敏感に痛み感じ、ウイルスが発する熱が異常に體温を上げ、頬の傷の堪えきれない痛みと異常な體温の上昇に発狂し絶命する。體の水分が、得ることができなくなるとウイルスは死滅したが、ワクチンもなく、新種のウイルスに感染すれば十時間後に死を待つしかなかった。

 そして、この事件が起きるようになってからは、京都の町では都市伝説とされてきた。口裂け女も、多数目撃されていた。

 麻理亜を、襲った。この犯人は、今回の事件は認めたものの、あとの事件は認めなかった。麻理亜は犯人を捕えたときには、模倣犯と氣づいていた。犯人に触れた時に、犯人の経験したことを一方的に脳内に入り込み、犯人の思念や過去の経験を感じ取っていた。そして、警察も麻理亜の供述で、祖父は有名な神通力者で警察にも信頼されている孫娘のことを信じて、今回の犯人は模倣犯と分かった。

 犯人は、最初にスカートを狙ってきたこと、頬は狙っていなかったことを警察官に伝えた。犯行現場では、麻理亜は別の異様な殺氣に感じとっていた。そして、犯人を捕まえた時には、鋭い殺氣は消えて去っていた。

 「麻理亜! 大丈夫かー」

 「パパ!」

 麻理亜の父、高明が迎えに来た。そして、一喝した。

 「遅くらったら、電話しろって云っただろー、いつも電話してくるのに、今日に限って警察から連絡を受けて吃驚したよ!」

 「パパ。ごめんなさい」

 「まぁー。麻理亜が、無事で良かった。相手が傷つけるのと捕まえるのは力の加減の差がある。いくら柔術の師範でも氣をつけるように、警察官でも緊張するほどだから逃げるように。まー、ママが心配しているから帰ろー」

 親子は、自宅へ帰った。

 それから一時間後に、再び西陣で夜勤中の若い女性の看護師が狙われた。

 その時。麻理亜は、中秋の名月で自分の部屋から月の光を浴び、月神の月光の聖なる光を全身に浴びていた。一年に一回全身が、銀色の光を放って瞳は赤色に変色した。そして、銀色の光の中には、白狐が麻理亜を守護し、回りには京の稲荷神の使い狐たちが浮遊していた。毎年、霊力が増し身を守ることにもなるが、一方、被害にあった者の悲惨な體験、傷ついた痛みや悲しみ、苦しみや人間から発せられる悪想念を感じとり、そんな人々の心を痛めて、瞳から大粒の涙が目から零れ落ちた。

 麻理亜が、寂しそうに月を見上げ月光を浴びている時である。

 再び、千本釈迦堂付近で事件が発生した。事件現場から家まで近く、辺りは騒然としていた。事件現場には、腕が捥げた小柄な女の遺體が、恨みを残した形相の顔の儘に、潤いのないミイラ化していた。その女性は一人暮らしで、二週間前に行方不明になり府警本部は、事件に巻き込まれたと判断し捜査が行なわれていた女性であった。

 その麻理亜が、月光を浴びている時である。隣の弟の部屋から何かが倒れる物凄い音と唸る声がして、麻理亜は弟の部屋に慌てて駆け付けた。

 「セーちゃん!」

 麻理亜は、弟の部屋へ慌てて行き、傷だらけの弟を見て吃驚した。

 「えっ! セーちゃん。どうしたの? 傷だらけじないの!」

 「んっ………。痛い……。痛い……。西陣で通り魔と……、んっ……遣り合ってやられたっ…。警官も四人殺された。はぁはぁはぁー。くっ…。痛いー……」

 弟セーマンは、顔を歪ませ痛みに絶えながら話していた。

 「マ!」

 麻理亜は、母親を呼ぼうとしたが、麻理亜の手を取り、顔を横に振りセーマンは制止した。 

 「ママには、内緒にして……。頼むわ……」

 「何で、一人で行ったのよー。どうして警察に連絡をしなかったの?」

 「ごめん…、マリちゃん。自分の強さに、過信しすぎていた」

 「分かったから黙りなさい!」

 セーマンの胸部から腹部にかけて斬られており、出血が止まらない状態であった。麻理亜は、セーマンの傷口に手を翳した。

 (えっ! この粉は、シルフの粉!)

 セーマンのボロボロになった鋼の鎖帷子や體には、精霊の粉が付着しており徐々に傷を塞ぎ徐々に治癒していた。

 (鋭利な刃物の傷だけが、中々シルフの粉でも治らないなんて!…セルフの粉は、傷の治癒に即効性があるに…)

 麻理亜の全身が薄い青色の光を放つと、傷口に光の粒子が集まり感染したウイルスを一瞬にして消滅させた。

 (でも、今日が満月でよかったわー)

 見る見る傷口を塞ぎ止血した。すると、セーマンの制服のズボンのポケットの中から、麻理亜の月光の力に、一匹の精霊が顔を出した。

〈あらっ! 弟を助けてくれて、ありがとう!〉

 麻理亜は、精霊にテレパシーで話しかけた。

〈あなたは、どこのシルフなの?〉

 一匹の美しい女の姿をした精霊が、ポケットから出ると、ポケットの中から三匹の精霊が出てきた。

〈和多志は、シルフィード。神社の糺の森に住む風の精よ。セーマンに一目惚れしたの、ウフッ!〉

 風の精とは、別の美しい女の姿をした精霊が風の精霊の前に立ち塞がった。

 〈あたいは、ウンディーネ。のに使える水の精よ。あたいとセーちゃんは恋して、あたいのものにするのよ!〉

 〈何云っているのよ! 最初にセーマンを見つけたのは志よ!〉

 〈慣れ慣れしく呼び捨てにしないで! セー様とお呼び。ねー、あなた!〉

 セーマンの體の上で風の精と水の精が、女の醜い争いが始まった。

 残りの二匹の精霊も呆れて見ているだけであった。

 〈………〉

 〈やめなさい〉

 麻理亜は、精霊の間に指を割り入れた。

 〈ちょっと、やめなさい! あっ! そういえば、セーちゃんのタイプは、淑やかな女性が好きと云っていたよ。セーちゃんに、好かれたいのなら、淑やかにしないと嫌われるわよ〉

 二匹の精霊は、喧嘩を止め。何もなかったように二匹仲良くダンスを始めた。

 〈ダンスより日本舞踊がいいかもね〉

 風と水の精は、セーマンの體の上でセーマンに見せつけるかのように舞を舞っていた。

 (セーちゃんには、見えていないと思うけど……)

 麻理亜は、黙って見ていた。

 (人間も精霊も同じねー)

 一匹の小さなサンショウウオの姿をした精霊が麻理亜の方を黙って見ていた。

 〈あら! あなたも精霊さんなの?〉

 〈………〉

 〈こいつは無口なんじゃ〉

 側にいた小人で老人の容貌の精霊が、両生類の精霊、オオサンショウオウに似ていたが、手足の関節や背びれが炎になっており紹介をした。

 〈こやつは、の愛宕神社のの使いである。火の精じゃ。名をサラマンダーいうのじゃー〉

 麻理亜は、微笑みながら火の精の頭に触れた。

 〈よろしくね! サラマンダーさん〉

 〈ほうー。攻撃的で暴れん坊のサラマンダーが體を触らすとは、大したものじゃのう〉

 小人の精霊は、ペコリンと頭を下げて、お辞儀をした。

 〈儂は、ノーム。の地中に住む地の精霊じゃー〉

 〈これからも弟を頼むわね〉

 風の精は、羽を羽ばたかせ部屋の中を飛び回り、水の精はを蹴りダンスを踊り、宙を蹴るたびに、宙には水の波紋が現れた。火の精は姿に似合わずに、物凄い速さで床を這うと壁、天井を関係なく這い回り、地の精は老人にも関わらずに床を走り、机までジャンプし年寄りの動きでなかったが、息切れをしていた。

 〈ハァァハァハァー。歳には、勝てんのうー〉

 四の精は、セーマンの机の上に、いつもセーマンを守っていた。

 〈これからもセーちゃんをよろしくね!〉

 初めて見る麻理亜の発光する姿と説明できない力に、セーマンは驚いていた。同時に麻理亜の目線の動きに疑問を持っていた。

 「えっ! どうなっているの? それにさっきから何をニヤニヤしながら何を部屋の中をキョロキョロしているの?」

 「精霊さんが、楽しくダンスを踊っているの」

 「えっ?」

 「感謝しなさいよ! いつも側にいて守ってくれているのよ。何か思いたることないの? 傷が治ったとか?」

 「……」

 セーマンは黙っていたが、心当たりがあった。犯人とやり合ったときにも、犯人の身の回りにも不思議な現象が起き、セーマンの身の回りでも不思議な現象が起こり、セーマンを守っていたことに氣づいた。脳が記憶の情報を取りだし声として司令をだしたが、別の脳細胞に走る電氣刺激が、別の記録情報を取りだし、その情報が非科学的なことを否定し声を発するのを中止した。

 「あっ……」(ありえない。この世に霊魂の存在なんて……。でも、マリちゃんの姿に傷が癒え、傷が治っていく……。あの女も非医学的や。犠牲者になった警官たち……。あれが、魂というのか? 霊魂は非科学ではない。だが、俺の耳元で聞こえた。ばぁーちゃんの声や俺が見た説明できない現象は一體なんだ! あれは幻覚ではない。脳もフル回転していた。やはり、霊魂の存在をあるのか、ないのか…。だが、今の科学が霊魂の存在に追いついていないのか? 俺が、魂の存在を証明すればいいことや。研究の対象を広げよかぁー)

 セーマンの體内のウイルスが死滅し、傷が塞がり治癒し傷跡も消え去り楽になったのか起き上がった。

 「ありがとう。一體どうなっているの??」

 セーマンはオカルト的なことは、全く信じてなく否定派であったが、麻理亜の體から発する光と瞳が変色し、手を翳すと光を発し傷跡もなくなる現象に、この世には未知の部分や人間にも未だ未だ未知の部分があると研究の幅が広がった。

 「あっ、そうそう! ねーちゃん。犯人は女性やでー、華奢な體つきで油断した! あれは人間ではないでー。體が急激に発達して力も人間の域を超えている。化物やー……」

 セーマンは、犯人の目を思い出したのか、身震いをしながら話しを続けた。

 「物凄い力で、千本釈迦堂の塀をブチ壊したよー。顔もメッチャッ、恐かったしー。それに古流だが、剣術や合氣道、柔術を完璧に熟知している。あれは、戦で生まれた総合格闘技や! それに理解できない現象が次々と起きた。腕がもげたのに攻撃を止めなかったし、顎の骨を砕いたのに痛みを感じていないようだった。薬中かぁー??」

 セーマンは、難しい顔をして頭を抱えた。霊的なものに関して全く信じていなかったセーマンは、このとき初めて霊の存在を知り、恐いもの知らずのセーマンが初めて恐怖心を感じ、見えない者に震えていた。時間が経ちセーマンは、傷の癒え落ち着きが戻り冗談も出てきた。

 「マリちゃん。ほんまっ。メッチャッ、ビビッたでー。おしっこをちびりそうになったわぁー」

 「セーちゃん、映像を見させてなぁー」

 「えっ! 今の言葉、理解でけへんわー? 映像を見る? どうゆうことなん?」

 麻理亜は、自分の特殊能力をセーマンに初めてサイコメトリーを説明した。

 「サイコメトリング。または、精神感応者。思応同調能力者という。生物や物質に手で触れることで、物質の込められた記憶や思念や過去の映像化して見ることができるのー。兎に角、見るね!」

 セーマンは、サイコメトリーを行なう人間の噂は、聞いたことがあったが、そんな人間が存在するとは、況して自分の姉がサイコメトリーの能力者であると聞かされ吃驚していた。セーマンも姉が冗談を云わない人間だと知っていたが半信半疑、手を握られ麻理亜は、セーマンが過去に経験した記憶を引き出した。

 「セーちゃん。後は、マリちゃんに任せなさい。傷は癒えたが血が足りないようね。顔色が悪いわー。ご飯を食べて今日は、研究はやめて兎に角、今日は寝なさい」

 女神、麻理亜の弟。もう一人の神の名を安倍セーマン。京都大学附属桃山中学に通う一年生。麻理亜のような能力は、まだ覚醒していないが、五感が異常に鋭く。フォトグラフィック・メモリー(一瞬で物事を映像化して記憶できる能力)。トラッキング(残された足跡などから情報を得る能力)。他に、セーマンには人並み外れた頭脳と能力、俊敏性が天から与えられたであった。先祖に伝わるや剣術を身に付けていた。歴代先祖の中には、修験者の知恵で忍者のように動き、諸国の情報を帝に流し戦国時代を生き抜いてきた。その血を受け継ぎ身軽で忍者のように飛び回ることができた。天才的な頭脳でいろんな武器を造り、科学が好きなセーマンであった。母親似のセーマンは、両性的な魅力を持っており、英国の貴族の血を引き継いたせような、氣品に満ちていたが、時折、関西の血が騒ぐのか剽軽なところもあった。長身で、撓やかな筋肉をしており、先祖の安倍家、安倍家の能力を受け継いだが、まだ目覚めてはいなかった。瞳の色は、碧眼だが生まれつき右目の瞳だけが二つあり、真実を見抜き未来や過去、全ての人の万物を見通す伝説の双瞳であった。この双瞳は遺伝的なものでなく神から与えられたものであり、セーマンがこの世界を良くにも悪くにもセーマンの心に決まっていた。だが、非科学は信じていなかったのと自分の能力には、まだ、氣づいていなかった。

 地元の人々や霊能力たちは、彼のことを安倍晴明と呼び!

 時には、穢れ神と呼んだ!

 京都教育大学付属桃山中学一年生、高校は行かずにアメリカの工科大学の入学が決まっており、都一の美少年でセーマンに見つめられると、メロメロになり失神し恋の病にかかり、セーマンの微笑みが頭から離れなくなった。時にはクールなとこがあり、それが女心を虜にした。美と測定不能の知能に憧れを持っている女性は沢山おり中一で既に沢山の女性を泣かせていた。これは、安倍家の血筋でもあった。尊敬する人は、理論物理学者の保江邦夫大先生を目指す人であった。yasue 方程式は、ノーベル賞ものだと信じていた。

 そして安倍家には、もうひとり安倍家の可愛いアイドルがいた。麻理亜と同じ学園の小学一生で甘えん坊だが、活発な女の子だ。名前はと呼ぶ。父親似であったが、母と同じ髪の毛で赤毛であった。麻理亜と同様に能力者であり霊を見る神眼を持って生まれており、小一で霊障から身の守り方を独自で身に付けていた。偶に、道端で見えない人と話し、通行人に白い眼で見られて、屡、姉に注意されていた。他に、超感覚的知覚(テレパシー、透視、遠隔視、予知などの超感覚的)を持っていた。

 桔梗は生まれつき霊能力を持っていたが、兄の悪戯により桔梗の能力が増大覚醒し開花していた。

 桔梗が保育園の年長の時。桔梗は父親似にコンプレックスがあり姉のように美しくなりたいという願望があった。

 「桔梗。いいこと教えたろ。これは、安倍家の秘伝であり門外不出で内緒だぞ! 約束できるか」

 「うんうん。約束できる!」

 桔梗はセーマンに騙され、朝早くトイレの中で『マツケンサンバ』を大きな声で歌って踊っていた。トイレの前を母が通りかかり、トイレの中を透視し、トイレの中で桔梗が全裸で踊っている桔梗に吃驚して、神通力で外から鍵を開けた。

 「何をしているのですか!」

 桔梗の動きは、一時静止ボタンを押したように動きが止まり、母と子は目と目が合っていた。

 「早く、服を着なさい!」

 居間でセーマンが爆笑する笑い声が、トイレまで聞こえていた。

 「だって、裸でマツケンサンバをトイレの中で歌って踊ると願いが叶うんや! これ安倍家の秘伝やて」

 「そんな、秘伝はありません。マツケンサンバは一昔前に流行ったものでしょ。秘伝なことないでしょ。誰が、そんな出鱈目なことをいっているの?」

 「セーちゃんや」

 「あのバカ。また妹を騙して!」

 母が居間に戻り、セーマンに雷が落ちている時、桔梗はトイレの中で服を着ていた。

 そして、トイレの中から笑いに堪える声が聞こえた。

 「面白いものを見せてもらった。桔梗の願いを叶えよう。その変わり、我が真云を唱え毎日トイレを掃除すればするほど美人になるぞ。麻理亜が毎日トイレを掃除するのは美人になるため、麻理亜も小さい時は桔梗にそっくりだった。明日からは、姉と交代してトイレ掃除をしなさい」

 「神様の名前は?」

 「……あぁー。面白かった」

 桔梗の願いは、姉のように色が白く美人になることであったが、神と直接話すことで神通力に目覚めていた。

 曾て日本では、娘を美人になるように親の願いから娘にトイレ掃除をさせていた。その威力は偉大であり、子供同士で掃除の取り合いになったほどで目に見えて現れた。美人だけでなく金運や仕事運も上昇させた。

 姉弟妹の名前の由来は、セーマンとは、安倍晴明が作った『晴明桔梗印』のことで、五芒星の形で、陰陽道で用いられる呪術図形であり、弟をセーマンと名付け、妹の桔梗は安倍家の家紋である。『晴明桔梗紋』から名付けられた。姉の麻理亜は、アヴェマリアと洒落で付けられ聖母学園に通うアヴェマリアでした。


 次の朝。寝起きのセーマンと父親がトイレの前で合った。

 「おはようございます」

 「おはようー。先に入れ」

 「お先ー」

 父親は、セーマンの股間の盛り上がっているのを見て、

 (中々。いい物をもっとるなー。さすが、英国貴族!)

 父親は、自分の股間に呼びかけた。

 (おい! 俺の息子、健太よ。最近、元氣がないぞー)

 セーマンは、勢いのある排尿の音をたてて、すっきりした顔をして出てきた。

 「お先ー」

 父親は、セーマンの股間を見て一句詠んだ。

 「『朝立ちや おしっこまでの 命かな』」

 子供たちは、朝食を済ませ玄関で桔梗を待っていた。

 「桔梗! 学校に行くわよー」

 麻理亜とセーマンは居間で待って、桔梗は大きいランドセルをゆさゆさと揺らせて寄っていた。

 「ママ。パパ。行ってきますー」

 母親は、桔梗の髪の毛を櫛でときながら、

 「桔梗は、ママが学校に迎えにいくからね。学校で待っているのよ!」

 桔梗は、いつのも元氣な声で返事をした。

 「はい!」

 母親と桔梗は、一緒に玄関まで行き待っている麻理亜に云った。

 「麻理亜も部活が終わったら学校から電話しなさいよ」

 「はい! 昨日は、ごめんなさい…。ママ!」

 「もう、いいから学校に行きなさい。バスに遅れるわよ」

 「俺には? 氣をつけてはないの?」

 母親は、セーマンの真似をして、

 「鞍馬の山猿の俺は、大丈夫やろー。はいはい! 早く学校に行くー!」

 姉弟たちは、麻理亜と桔梗は同じ学園だったが、セーマンの学校も同じ伏見にあり同じ方向であった。姉弟の夫々の能力は、父親だけは全く氣づいていなかった。氣づいていたのは、母のダイアナと祖父の泰明であり、祖父は三姉弟の生誕を予云し、麻理亜の能力を見抜き安倍家陰陽師の秘伝や陰陽道修験流を託していた。祖父は、京都御所陰陽寮の最後の陰陽頭であるの孫であり、父・の次男として生まれて、が分家として譲り受け、祖父・泰明の代に安倍の姓に戻した。父、は、御所の近くにあるキリスト教系の和多志立の大学の神学部教授であった。母、ダイアナは教え子であり生徒に手を出していた。泰明の血・能力を高明もセーマンも受け継いでいた。


 模倣犯とその日に起きた西陣の事件から六日間。犯人は息を潜めていたが、欲求が爆発し被害者が続々とでた。そして、警察関係者や市民たちが恐れていたことが起こり、事件は大変な方向に向いていった。警察も模倣犯がでるまでに、犯人を逮捕したかったが、ひとりの模倣犯が切っ掛けに、等々、京都府に五人の模倣犯を出してしまった。模倣犯は、警戒中の警官に逮捕されたが、被害者の頬の傷と心の傷は一生癒えることはない傷ができた。京都府警は、総動員して犯人逮捕に力を入れていた。だが、残念なことに全国の異常妄想癖がある人間の心の奥底に眠っている欲求が覚醒し、理性で押さえつけていたが、自分の妄想が膨れ上がり、次第に理性で止めることができなくなり、欲求が開放された。人間の裏の顔が表に現れ残虐な欲求が暴れ出し、模倣犯でなく異常な犯罪が全国に飛び火し治安国家が崩壊した。

 そして、情報は世界に発信され、世界にも異常犯罪が飛び火し各国から避難され反日運動が頻繁に行われた。

 警察は、何の情報も掴んでいなかった。犯人に繋がる遺留品もなく、被害者の力が強いという供述から警察は男性と断定していた。事件も一瞬の出来事で目撃者もなく、徹底的な情報は得られなかった。

 そして、この異常な事件が起こる以前から全国で都市伝説が噂されていた。その目撃は、特に京都に集中していた。名家の若い女性や小さな女の子だけが口裂け女を目撃していた。時間帯も様々で朝・昼・夜、関係なしにあらゆるところで目撃された。現実なのか、幻なのか、標的になった者だけに見えていたが、側にいた人々には全く見えていなかった。標的になった女性の中には恐怖のあまり、恐ろしい者を見たような顔で、その場に倒れ死亡していた。ある女性が口裂け女を目撃し命辛々、その場から逃げだして、世界的に有名な霊能力者であり予云者である泰明に相談にきた。


 名は。朝の出勤途中のことであった。烏丸四条を北に向かって上がって出勤途中であった。蛸薬師通りで、信号が赤になり足を止め、車が続々と目の前を通り過ぎた。蛸薬師通りは、一方通行であり道幅も狭く、向いの信号待ちの人々の表情もはっきりと見えるほどの距離である。加奈恵は、何氣なしに信号機の方に見て、何氣なしに前方の信号待ちの歩行者を見ていた。車が目の前を通り視界を塞ぎ信号が変わるまでに、車が通り終えた。だが、前方の信号は赤であったが、小走りで駆け抜ける者もいたが、加奈恵は、前方に親子連れがいた為に、道徳上渡らずに、信号が青になるまで待っていた。赤で、渡る大人を不思議そうな顔で大人たちを見ていた。信号が青に変わり、加奈恵の脳も青を確認すると正面を見て脳が、筋肉に司令を送り上半身が前に傾き右足が反応して、ピクッと動き出したが、向かいに立っている女を見て瞠目した。恐怖で、全身の血が凍りつくように動きが止まった。信号待ちの前列に女がおり、今まで全く氣づいていなかったというより突然に現れたといえば正しいだろうか。その向かいに立っている女の睨み付ける眼光と避けた口の容貌に恐怖し目を逸らした。髪は、バサバサで乱れ、白い着物を着込み所々血で染められていた。その姿は、加奈恵だけ見え、血の生臭い臭いが加奈恵だけを包み、恐怖のあまり防御反応で鞄を胸の辺りで抱え身を守っていたが、體が凍るような寒さにガタガタと震えていた。

 (声がでない… 體が動かない… 誰か、助けてー)

 傷だらけの女の怨念の思いが伝わり、加奈恵の體に激痛が激しく全身を走り、女の白い着物が血に染まっているところと同じところに、加奈恵が着ているグレーの上着やスカートからジワジワと血が滲み込んでいた。

(痛い! 誰か助けて。どうして、誰か助けてくれないの…)

 恐怖のあまり、その場から動くことができず震えるだけであった。周囲の人々は続々と横断歩道を渡っていた。加奈恵が震え氣になっていたが、出勤で急ぐ者が多く声をかける者はいなかった。加奈恵は只、前を見ることもできず下に俯き、女の足元と血に染まった白い着物の裾が近づく度に震えが増した。加奈恵は、恐怖心が頂点に達し、心の中で神の名を叫んでいた。

 (た…。助けてください。神様ぁー)

 何度も何度も心の中で神様と叫んだ。下を向いた儘、恐怖に震え恐る恐る視線を少し上に向けたが、完全に顔を上げることはできなかった。信号機の青を知らせる音が止まり、慌てて横断歩道を駆け抜ける人々が、信号が変わりつつあることを知らせていた。

 (もうすぐ。信号が変わる。でも、體が動かない…。声もでない。誰か助けて…)

 加奈恵は、下に向いていたが、視界の中に女の白い着物が近づき異臭と息苦しい呼吸が段々と近づいてきた。

  ハァ~ ハァ~ ハァ~ ハァ~

 血の生臭い臭いと腐敗臭の異臭が、加奈恵の鼻を刺した。

 (もう、駄目っ。誰かっ)

 その時。若い女性の手を握り横断歩道を渡りだした。そして、声が耳元で囁かれているように聞こえた。

 〈加奈恵。下を向いた儘、についてくるのじゃぁー。決して、あの者の顔を見るのでは、ないぞぇー。仲間に引き摺りこまれますぞー。『南無阿弥陀仏』と何回も唱えるのじゃ〉

 加奈恵の額に卍が現れて光り、手を引かれる儘、横断歩道を渡った。その手は、暖かく小さな手で白く綺麗な手をしていた。手首から上は、五枚に重なった鮮やかな着物の袖が視界に入り手を引かれた。で金糸、銀糸をふんだんにつかったとの袖を引き摺り。その後ろ後姿を加奈恵の右側の視界に入り小走りに走った。加奈恵は、少し顔を上げ、手を引く、女性の横顔をチラリと一瞥し見た。その姿は、髪型も時代遅れの髪型をし、髪の毛は身長より長く、平安時代の髪型のようであった。人と違ったのは、體全身が黄金色に輝き暖かい光を発していた。そして、手を引く女性が白い着物の女に向って、一云呟いた。

〈いつまで、この世に彷徨っているのじゃ。成仏しなさい〉

加奈恵は、無事に渡ることができたが、白い着物を着た女は、反対側の歩道で立ち手を引いている小袿の女性を睨み、息絶え絶えに云った。その声は、加奈恵の耳元でハッキリと聞こえた。

〈あいつが… あいつが蘇った。あいつが… ハァ~ハァ~ この世にいるかぎり妾は、あの世に行けぬ~〉というと姿を消した。

 加奈恵は、手を引く女性の横顔を見ていたが、寂しい目をしていた。すると女性の姿が透き通り、小袿の女性の姿が消えた。

 京都のあらゆる場所で名家の若い女性や女の子が目撃していた。所々、血に染まった白い着物を着込んだ女は、口が裂けていたことが共通点であったが、首を刎ねられて両手で首を抱えている者や、その切られた首を提灯のように持ち闇を照らす者。腕を切られて、その腕を大きく裂けた口に銜えている者。様々な姿を目撃されていた。血に染まった白い着物の女は只、襲うこともなく、自分の存在を知らせようとしたが、中には妖怪化になり名家の娘を仲間に引き連れようとしたが、小袿を着込んだ女性が手を引き助けた。泰明と麻理亜も口裂け女も追っていたが、異常殺人と関連があると考え犯人を追っていた。


それから一週間が過ぎ、通り魔は闇に潜んで欲求を抑えていた。

金曜日の夜。麻理亜は自分のパソコンを利用して、麻理亜の指先から光を発し京都府警本部のデーターベースに侵入し犯罪現場の情報や写真、どこの犯罪現場に遺體の写真や解剖の詳細が麻理亜のパソコンの中にコピーされた。だが、警察も重要な手掛かりになるような情報は持っていなかった。

 土曜日の朝。学校は休みで麻理亜は犯行現場に行き、サイコメトリーを使い。被害者が倒れたところを触れて過去の記憶を探り犯人に繋がるものがないか探していた。麻理亜の脳裏に映像と音声が、ダイレクトに入ってきた。被害者の女性が千本通りを歩いていた映像が出てきた。自分の意思で映像を進めたり、止めたりできる能力を自己でコントロール能力ができるようになっていた。一回目の犯行が行われた場所で移動した麻理亜は、サイコメトリーを始めた。被害者は千本通りから西に入って七本松通りを上がった。その道は、お寺が密集地で人出の少ない路に入った。そして、背後から羽交い絞めで絞め上げて氣絶して被害者の映像は途切れた。

(被害者は犯人の氣配にも氣付いていない… それに、あの技は柔道の衿じめで絞めたんだわー。氣絶したとこをナイフで頬を斬ったのね。その後、邪氣を発し自ら鬼になり。邪悪な力を身に付けたか…。でも、強力な邪氣を発する鬼が正體。あとの鬼は、自ら鬼になったもの。邪悪な鬼をどこで、自らの體の中に憑依させたのか? 邪悪な鬼に成り果て、その代償に自らの體を犠牲にした。そして、血と死人の體が必要となった…。この邪悪な鬼も復讐心が、発している…)

麻理亜はサイコメトリーをしたときに、被害者が口を裂かれた苦しみが麻理亜に伝わり失神しかけて、道に残る検視のチョーク跡から慌てて手を離しサイコメトリーを中止した。

「ハァハァハァハァーゴホッゴホッゴホッ。ハァハァー」(なんて凄い力なの!)

麻理亜は、今見た映像を思い出しながら考えていた。

(男? でも、女性のように手は小さかったわー。セーちゃんが云っていたように女性なの…? やはり、鬼が憑依してたの?… 最初の事件から復讐心という鬼が徐々に大きくなっていが、途中で一氣に體が大きくなっている。この鬼はどっから来たの?…)

麻理亜は家に帰り、蔵の中で研究しているセーマンの蔵に寄った。

「ハハハァッ! セーちゃん、どうしたん。髪の毛が焦げて湯氣が、出ているやん。顔は、煤だらけやし、中は焦げ臭いし、実験でも失敗したん? 男前が台無しやし。でっ、セーちゃん…」

(嫌な予感… その目は、何か企んでいる…)

セーマンの感は、ズバリ的中していた。

「セーちゃんに頼みが、あるねん。もう一回犯人と出会った時のサイコメトリーをさせてくれへん?」

セーマンは赤面して、急にあたふたしていたが躊躇しながらも手を出した。

「いいけどなぁー。犯人と出会った時だけにしてやー。のとこは見んといてなぁー」

「分かった。分かった。他のところは見―ひんし。お・ね・が・い」

「うん」と云いながら煤だらけの手を麻里亜の方に手を出した。

麻理亜は、セーマンの手を握りサイコメトリーを始めた。

「えっ! キス! 誰、この子?」

ダイレクトに映像が見え、麻里亜が女の子にキスしているようで純粋な乙女にとって吃驚して赤面していた。セーマンも赤面してふたりとも體温が上がり、慌てて麻里亜の手を振り払った。

「ごめん。ごめん。最初の映像やったから、ごめんね」(あの制服は、うちの中学部の制服。名札は、一年A組… 確か名前は小林加菜枝…て書いてあったなぁー。どんな子か調べたうろー。それにしても手が早いセーちゃんね…)

再び、セーマンの手を取りサイコメトリーを開始した。麻里亜には、セーマンの思念が映像として脳に信号を送っていた。麻里亜は、セーマンの記憶の中に入り込み、セーマンの記憶の映像の中で、麻里亜はセーマンの意識から離れて西陣上空からセーマンを見下ろしていた。

(相変わらず。素早いわね)

セーマンは、学校の帰りにバスに乗り遅れて近道をして、屋根から屋根へと飛び移り帰宅を急いでいた。

「何だ! この殺氣は…!」

セーマンは殺氣の糸を手繰り寄せるように、辺りを見渡し殺氣の持ち主を探していた。

「いた! アイツや! こんな殺氣は初めてだ!」

セーマンは挙動不審者を発見し、何か獲物を追う異様な殺氣を感じ取り、屋根から屋根へと飛び越えて、その不審者の後ろで行動を見ていた。

(何かが、違う…? 動きが違う! あっ! 獲物は、あのグループの中にいるのか? 今、流行りの通り魔か!…)

 セーマンは、ニヤッと笑った。

(捕まえて、俺の名を全国に広げて上やる)

男女四人の後を追う小柄な女性の姿があった。その動きは、人の動きではなく體は直立した儘で、頭も少しもぶれることもなく、足が動かずにスーッとを浮いているようであった。男女四人がを曲がったときに、セーマンは氣配を消しながら忍者のように女の背後に近付き、肩を軽く叩き声を掛けた。

「お姉さん」

セーマンは女の肩の上に手を置いた儘に、人差し指を残し女は、ゆっくりとセーマンの方へ振り返ったが、セーマンの人差し指が女の頬が当たり馬鹿にしていたが、女の殺氣がセーマンに向けられ横目で睨みつけた。セーマンは、驚き全身の毛が逆立ち背筋が氷つきた。殺氣にも吃驚していたが、女の皮膚は腐り人差し指が頬を貫いた。

(そんな馬鹿な! 女から死臭がする! 臭い!)

女は、セーマンの一瞬の驚いたときに隙ができ、女は隙を見てセーマンの首に刃を向け斬りつけてきた。刀が街灯の明かりに反射し、セーマンは無意識にが反応し回転させて危機一髪躱した。女は、小柄で華奢な體つきであったが、太刀筋は鋭く風を斬った音がした。剛力で、連続技で打ち、跳躍力もセーマンと変わらぬ超人的であり、セーマンに息をつかせなかった。

「えっ! 早い!」

セーマンの體術でも、相手のスピードに追い付くのが、精一杯で攻めることもできずにいた。

(なんという動きだ…! なぜ、女の體から死臭が臭う。腐敗も大分進んでいるのに…?)

女は、懐刀を振りおろそうとした瞬間に、セーマンは體を捻り相手の懐に入り込み、女が持っている懐刀の手首を左手で掴み取った。

(顔面が、がらあきやでぇー)

セーマンは、右肘を突き上げ女の顎を強打した。

  バキッ

「あっ! 力が入り過ぎた?」

 顎の骨が、砕ける音がした。

 「恐れ入ったかぁー。ボケがぁー」(やはり、この化物から死臭の臭いがする。あの強打なら普通なら失神するのに…)

 セーマンは攻撃を止めずに、攻め続け相手の右手首を掴んだままに、女を軽々と投げ込み、女が仰向けに倒れところを即座に女の右腕を腕挫十字固めで腕を取った。

 (くっ臭い。體も腐っている!)

セーマンは女の腕を掴んでいたが、皮膚は触れるだけで捲れて悪臭を放っていた。

 「どうした。参ったか? 腕が折れるぞー」

 華奢な女の腕が、ギシギシと骨が軋んでいたが、セーマンの方を見て無氣味に笑っていた。

 「何が、おかしい!」

女は抵抗を続けて、セーマンが締め上げている右腕だけで、女の倍ぐらいの體重のあるセーマンを軽々と持ち上げたと同時に肘の関節が音をたてて折れた。だが、女の倍以上もあるセーマンの體を持ち上げ、折れた腕で持ち上げて、地面に何回も打ちつけられた。肩の関節も外れ腕は、鞭のように撓りセーマンの體を地面に打ち付けていた。何度も何度も強く、打ちつけているたびに、女の肘の関節から千切れ、腕と共にセーマンはの門にまで飛ばされた。                                        「痛! まっ、マジでー」

セーマンは、目を擦り非科学的なことに混乱していた。

 (どういうことや。あの女は、痛みを感じないのか? 手首と首の脈を測ったが、脈がなかった。すでに死んでいるのか? でも、今、俺と闘っている。痛みも感じていない。死臭もする? でも…)

 右腕がげた女は、物凄い形相で発狂してセーマンを追ってきた。女が近づくたびに辺りの街灯が消え始めた。段々と周りが暗くなり、不思議な現象にセーマンの恐怖心がましていた。

 「なんや? 一體どうなっているんや?」

 セーマンは慌てて、武器である懐刀を隠そうと捥げた右腕を取ろうとしたが、セーマンの耳元で聞き覚えのある年老いた女性の声が聞こえた。

 〈セーちゃん。駄目よ。その刀に触れては、駄目よ〉

 「えっ!」

 初めての経験で戸惑っていたが、聞き覚えのある五年前に亡くなった祖母の声が耳元で聞こえた。周りを確かめたが誰もいなかった。

 (ばぁちゃん!)

 セーマンは、思い止まり慌てて手を引っ込めた。女は、発狂しながら余裕があるのか宙に浮きゆっくりと近づいて来た。

 (物理を無視している。これをニュートンが見たらニュートンの法則は生まれなかっただろう)

女が近づくたびに、女の姿がハッキリと見えてきた。

(おかしい?? 血が一滴も出てこない?)

千切れた腕からも女の腕からも一滴の血も流れ出ていなかった。セーマンは、凶器の懐刀を奪われないように、引き千切られた腕を蹴り上げて、山門の屋根に乗せた。懐刀の金属の部分が瓦に当たり音がした。落ちることもなく瓦に引っかかった。女は狂乱し、女の声から太く地獄の底から唸る男の声に変わると、姿も形も変貌し、體の中に別の生物が寄生しているような、皮膚を押し上げ小柄なセーマンと同じ身長になり、筋肉も異常に発達した。そこには、女性らしいよかな體でなく、男性的な筋肉質になり、筋肉の鎧を纏い攻撃的で懐刀を振り上げていた。雄叫びを上げると野鳥や野生の動物達が泣き叫び山に逃げ出した。人間に飼われている犬や猫たちが異常行動をし、に女の声に震えていた。女の體は、急激に成長し皮膚が伸びることで、異常に乾燥していたのか皮膚が所々に皹が入っていた。目は吊り上がり、眼球は人間でもない。どの生物でもない眼球をしていた。部位は、蛍光色のように闇に浮かびだし、は血の色で真赤になり、は強膜と同じ蛍光色の白であり、闇に異常な目が浮かんでいるようであった。口も裂け狂った鬼の形相でありで、声は常に耳元で聞こえて無数の声が微妙に重なり合い何人者がセーマンの心を凍らすようなしい声を上げていた。女とセーマンと十分な距離はあったが、お互いに向かい合っており、女の変貌にセーマンの脳裏の電氣物質が、脳の中を駆け巡ったが、知識の中に、科学と非科学とが脳内で公論し、脳内はパニックしていた。

〈落ち着いて。せーちゃん。ここから逃げるのよ。今、研究している繊維が成功できれば、勝てるから、ここは早く逃げて〉

(ばぁちゃん??。早く逃げても追いつかれる。やるしかない。倒すしかない)

〈ダメよ。ここから逃げるのよ〉

(逃げれるか?)

セーマンは、落ち着きを取り戻したが、女の方を再び見ると目を疑った。

「あれ? どーゆうこと??」

確かに、右腕と懐刀をセーマンが山門の屋根の上に蹴り上げて瓦の上に落ち、金属音が、確かに静まる闇に響いたのを聞いていたが、女の左手には懐刀が握られていた。

女の右腕は、千切られ上腕だけが残る状態の儘であった。

(闇に、目が慣れてきたが… どう戦うか? どう逃げるか? でも、あの女は人間か? コイツ、脈がない。未知の生物か?)

女が、近づいた周りの街灯が、原因は分からなかったが、消えて闇になったが、雲に隠れた月が顔を出し、月光だけが頼みの綱であり月明かりで刀身が光を反射して、紙一重で躱すことができた。

(早い。守ることで精一杯やー 攻めることができない。どうー逃げる)

セーマンは命辛々、柔術で身を守っていた。

「ヒヒヒヒヒヒッ。かぁー、男は初めてだが美味しそう。少しこの體を維持できる。この少年から恐怖心の味がする」

(動きを読まれていると思っていたが、揚心流を知っていたとは…。それに恐怖でアドレノクロムが出たか)

セーマンは、十分な間合いを取り後退した。

(ヤツの動きが速すぎて、見切れない)

セーマンは、相手の剛力と予測できない動きに苦戦していた。セーマンが得意としている技を悉くされ、女の容貌に恐怖と絶望が頭の中でグルグルと回り、兎に角、セーマンはその場から逃げたかった思いとセーマンは、女に遊ばれている思いで自信は破壊され屈辱で一杯であった。そして、恐怖を感じた。

(殺される。殺される)「いやだー」

セーマンは、追いつめられて恐怖に息が荒くなり大量の汗を掻き出し體力も限界に近かった。

(くそー。どうすればいいやぁー)

セーマンは恐怖のあまりに體が固くなり、本来の動きができなくなり、セーマンのあらゆるところに隙が生ませた。

「はあっ!」

十分な距離を取っていたが、瞬間移動をしたかのようにセーマンが氣づいたときには、既にセーマンの目の前には、女の顔が間近でセーマンの顔をうように見ていた。考えられない速さに動揺し、セーマンは咄嗟に女の顔に拳を当てていたが、腰が引けており相手を倒す強打ではなかったが、眉間の皮膚が捲れていた。

(駄目だ…)

セーマンはに、子供の喧嘩のように腰が引けた状態で、何発か拳を打ったが打撃は半減し全くダメージを与えていなかった。

「ハハハハッ。さっきの威勢はどこにいった。坊や」

女は左腕だけだったが、カードをすることもなく無防備で、セーマンを挑発していた。プライドを傷つけられたセーマンは、女の體に連打し、拳は当っていたが無駄に打つだけでセーマンの體力を奪うだけであった。

ハァハァハァーハァ~ ハァ~

「くそ~」

息が上がっていたが、氣合いを入れなおしたが、絶望という重圧がセーマンを押し潰そうとしていた。

(駄目だ。どうすればいい… いくら打っても効き目がない。逃げたい。ここから逃げたい)

セーマンは心の中は弱氣になり、動きも鈍くなり泣き叫んでいた。セーマンは、その場でリズムよくステップを踏み呼吸を整えた。

その時に、巡回中の警官たちが争っている二人を発見し、サイレンを鳴らしながら近づいてきた。

二台のパトカーから五人の警官が、止めに入った。

「おい。きみー。やめなさい」

辺りの街灯は消え闇に慣れていない警官たちは、パトカーのヘットライトの光と懐中電灯を片手にセーマンと女を照らし、セーマンを羽交い絞めにし、女と距離を離した。

「暴力はやめろー。一方的に女性を殴るのは、きみは男かー」

女はパトカーのサイレンを聞くと、小柄な女性に戻り蹲っていた。

「離せや。ヤツは連続殺人犯やー。近づくな殺されるぞ。銃でも無理だぞ。その女から離れろ」

セーマンは、警官が五人でも十人でも相手ではなかったが、抵抗はしなかったが忠告はした。三人の警官がセーマンの動きを止め、セーマンの忠告も聞かずに、二人の警官が女に近づき、女は警官に背を向け後頭部を照らし、やさしく声をかけた。

「大丈夫ですか?」

ひとりの警官が、女に声をかけた。

女は振り返り、裂けた口に、懐中電灯に反射する光る目に、皮膚がボロボロになり骨が見えており、警官を見てニヤッと笑った。

ウフッ。

警官は女の形相に吃驚し、大声を出して仰け反った。

「わぁー」

「近づくなと云っているだろうがぁー」

セーマンは、警官を飛び越えて、驚いている警官を助けようと一足に飛び近寄ったが、間に合わずに首を刎ねられて、ふたつの生首が地面に転がっていた。セーマンは警官たちを助けたいという思いが絶望の二文字を掻き消し、女に強烈な連打を浴びせた。

「オラオラオラオラッ。今のうちに逃げてください」

女は、長身で筋肉質の體になると、女とは思えぬセーマンを上回るパワーとスピードになり、女が使う古流がセーマンの脇腹に回し蹴りが入り、鈍い音と共に飛ばされた。

「いい音がしたわ。その苦痛の表情。いいわぁー」

(うっ。やばい、左肋骨が折れた。痛みで息ができない。これでは動けない。うっ…)

セーマンは、女の強烈な打撃に飛ばされた。何回も何回も転がり回り、漸く電柱にぶつかり背中に強打した。大量の吐血し、激痛に息もできずに痛みに、動くこともできずに痛みを堪えていた。再び絶望という重圧に押し潰されようとしていた。

「坊やは、あとでゆっくり味見して、魂を刀の一部にしてやるわぁー」

女は、警官に懐刀を向け悍しい形相で襲い掛かり、警官は上に銃口を向け威嚇発砲し、乾いた銃声が静寂な町に鳴り響いた。

「止まりなさい」

銃口は女に向けられていた。だが、女は怯むことなく、その警官の目の前に突然現れると、鋭い懐刀で警官を斬りつけて頭を真っ二つに斬られ絶命した。残りの警官三人も女の梟雄な行動にき、全ての銃弾を残らず女に向けて発砲した。静寂な京の夜に、乾いた銃声が鳴り響き、五発全ての銃弾を女の體に命中した。出血もなく痛みも感じていないのか、無氣味に微笑みながら警官に近づいてきた。女は素早い動きで、警官を拳で残虐にり殺害した。五人の警官の屍から人の形をした白い煙が立ち上がり、女の周りを浮遊すると懐刀に引き込まれ懐刀の一部となった。そして、その懐刀は無氣味に黒く光りを放った。

その様子をセーマンは、電柱に凭れながら警官を助けられなかった悔しみと動けない自分を責めていた。だが、数分の間にセーマンの體が回復しており、肋骨の痛みも薄れていた。

(俺の體。どうーなっているのや? 肋骨折れたのに、痛みがない。何だ!この回復力は?)

セーマン自身、自分の回復力に吃驚していた。

セーマンは、自分の知りえる科学の中で分析をしていた。

(何か、俺を囲むように、周りに風が… それに、この輝く粉は、一體何だ? 自分には見えないことが起きているのか…。たが、現に體の傷、體力が上がっている。科学で説明できないのなら、これが、火事場のクソ力なのか。麻理亜と桔梗だけに備わっている不思議な力が俺にも覚醒したのか?)

セーマンの身にも不思議な現象が起きていたが、女の身にも不思議な現象が次から次へと起きていた。懐刀に引き込まれた警官の魂魄が、懐刀から自ら離れた。女の周りを白い煙のようなものが、五つの白い煙のようなものが浮遊していた。その浮遊していた白い煙は、セーマンもハッキリと見えていたが、目の錯覚だと何度も目擦った。

(頭を打って、頭がへんになったか? 一瞬だが、いい匂いがした。脳が麻痺したかな。俺、死…。いや、集中、集中。脳に異常がなければいいが。頭痛も手の痺れもないから大丈夫だと思うが… 一體、あの白い煙は何だ? あの懐刀、周りに白い煙のようにものうごめいている。それに、白い煙のように正義に満ちた者はなにものだ)

警官たちの魂魄は、女に殺された怒りが、怨霊に成り果て怒りが、女に向けられ女に対する憎しみが、懐刀の呪縛から解き放たれたとき、警官たちの魂魄は、正義で満ち溢れていた。

(あっ!)

セーマンの古代の記憶が一瞬だが蘇った。両手両足に鎖で拘束され瓶の中にはその者の涙で一杯であった。

(そうだ。俺たちの宿命を思い出した)

白い煙が自然発火をし、火の玉のように長い尾を流して、女の周りを灼熱の火で、女の動きを止めグルグルと音をたてながら回り、女を焼き殺そうとしていた。

(あかん! 頭の回路が切れそうや??)

セーマンは、目の前の摩訶不思議な現状に、頭の中はパニックになっていた。

女は慌てることなく、火の玉を見ていた。静かに右足を軽く開くと下段に構えて、刃を上に向けた。目の視線に火の玉が視界に入ると懐刀を振り上げ、一つの火の玉を真っ二つに斬った。

ギャァー

斬られた火の玉は悲鳴を上げ、再び懐刀の一部となり正義の欠片もなくなり、再び懐刀に住む怨霊と同じ悪意に満ちていた。残りの火の玉は、女から離れ火の玉は灼熱の火の玉が人型に形成すると正義に満ちていた。警察の制服を着た姿になった。魂魄は、女を恨めしそうに睨んでいた。

(あかん! 絶対に信じない。分からん! 分からん?? リンが燃えるのは、理解できるが… 人の形になるなんて…??人間は死んだら終わりと違うの?)

警官の魂魄は、セーマンに背を向けていたが、警官の声がセーマンの耳元で聞こえた。

〈セーマン。今のうちに逃げろー。兎に角、逃げるんだ。あなたは、世界を変えるために、生きなくてはならない。あなたを守るために、我々は正義のため、この世にをうけた〉

だが、既に女はセーマンに狙いを絞っていた。

「どけぇー 死霊がぁー この妖刀に引き摺り込むぞぉー。妾の獲物が逃げるだろがぁー」

セーマンは、傷ついた體を起こし、武器も持っていなかった。が右手は万年筆の先を右手に隠し持ち、一撃で倒すつもりで戦うしかなかった。

(體が、動く!)

セーマンは、折られた肋骨に触れて痛みがないか確かめた。

(痛みがない? 完全に骨折が治っている)

 セーマンは、確かめるように強く触れた。

 (治っている? まぁー、いいっかぁー もう、考えない。助かった)

 〈セーマン。早く逃げろ〉

 「逃げろと云うけど、女が睨んでいるやん!」(この儘、逃げても追いつかれる。あのアイテムを使うしかないか。確か鞄の中に… 遠いやん…)

 セーマンの目が変わり、戦国を生き抜いた先祖の血が熱くなり、戦人の顔になっていた。

 正義に満ちた魂になった警官がセーマンを見守っていた。

 〈まだ子供なのに、いい顔をしている〉

 〈でも、戦国時代なら立派に元服して、立派な武士になっているが、まだまだ、子供だ。実戦不足だ。いくらセーマン殿でも、あの重圧は、現世では初めてだろう!〉

 〈どのように、成長してくれるのか楽しみだ。ここで死なすわけにはいかない〉

 〈あー 俺たちは、肉体をなくしたが、これも宿命。この魂が、あの懐刀に吸い込まれようともセーマン殿をお守りするぞぉー〉

 〈さぁー。仕掛けようか〉

 その時。セーマンは、電柱に凭れながら體を休めて體力を温存し、手が届く範囲で、転がっている小石を集めていた。その小石をとして使い。目標物の鞄まで、距離と到着時間。そして、相手のスピードを計算していた。

 (鞄まで、約二百メーター。あの女、直線を走ったときの時速は約五○キロ強の速さで走っていた。完全に追いつかれる。この飛礫で距離をとりながら… 一か八かやってみるか)

 女と三つの炎の魂魄と睨み合い、先に動いたのはセーマンだった。忍者のように駆け走り鞄に向って一心不乱に走りに走った。警官の魂魄は炎に包まれて、火の勢いが増すと火の玉になり女の周りをいろんな角度から予測できない動きで女の動きを邪魔していた。

「あのガキか欲しい。ガキー。逃すかぁー。どけー蝿どもー」

(あと。百メーター。間に合え…)

「小賢しい蝿めー」

女は懐刀を振り回していたが、悉く躱され苛ついていた。女は懐刀から女に殺された三體の怨霊を出した。その怨霊の中の一體には、懐刀に吸い込まれた警官が怨霊になり果てて憎しみの青い炎に包まれた。その姿は人の形であり、女に敵意は残っていたが、妖刀の怨霊たちに操られていた。三人の正義に満ちた警官の炎の魂魄と怨霊の炎の質が違っていた。セーマンを守る正義の火の玉は、不動明王を照らす光背の炎の如く不浄のものを全て浄化する真赤に燃え上がる正義の炎。一方の操られている怨霊の炎は、青く燃え上がり、あらゆる魂魄を凍らせ、人の心を誘惑する不義の炎で、邪悪に仕立て上げ、仲間に引き摺り込んだ。

〈真田警部補。和多志たちの宿命を思い出せ〉

〈………〉

青い不義の炎は、怨霊に操られ与えられて宿命のことは、記憶から掻き消されていた。赤い炎と青い炎は、天高く浮遊し飛び回り乱れ、ぶつかり合っていた。

セーマンは、隙を見て鞄を拾い上げて、女の居場所を確認したが、女の姿はなかった。

「どこにいった? 何処だ? いないなら、今のうちに逃げる」

セーマンは、女を探しながら逃げ出した。

「……はぁっ!」

セーマンは後ろに氣配を感じ取り、女の殺氣に體が微妙に震えていた。

「坊や。何処行くの? 後ろだよ」

「分かっているよ」

後ろにピッタリとつけられていたが、セーマンは至って冷静であった。今までのセーマンと違って顔つきも変わり、凛々しく女の殺氣にも動揺することもなく、體を左に回転させ背後の女に向けて回し蹴りに見せかけて、高く跳び上がり左足は女の上を通過させ右膝が女の鼻に強打し、鼻を中心に陥没し、頚椎の骨が折れる音がした。右手に隠していた万年筆の先端を心臓に向けて刺し、右手で万年筆を押し込んだ。

(やばいよ! 死んだな。殺人罪たな。もう、俺はお終いだな…)

女は、その場に倒れ込み、セーマンは女の側で様子を見ていた。

(死んだよなっ! 正当防衛やな……)

セーマンは、リュック型の鞄を背負い。女の體を軽くツツクように蹴り生きているか確かめていた。

「……」

ツンツン。ツンツン。

「なめとるのかー。このガキーがぁー」

ムクットと上半身だけ起こすと、咆哮の声と同時に、セーマンの足元に向けて懐刀の一筋の光が走った。

「キァャッ!」

女が生きていたことに吃驚してセーマンの髪の毛が逆立ち、牛若丸のように、フワリと飛び躱した。

(くっそー)

セーマンは、吃驚したときに女のような悲鳴に自尊心が傷ついていた。だが、自尊心を傷つき落ち込んでいる場合ではなかった。

「完全に心臓を貫いたはず。コイツは、人間ではない……」

女は、立ち上がり首の骨が折れて顔を上げた状態になっていた。

 バキッ。ゴキッ。

 女は、首の骨を自らの手で治し、心臓に貫いた万年筆が體から排除され、髪を振り乱せて鶏冠にきた狂った女は、セーマンに飛びかかってきた。

 (しっ、しまった! まだ、アイテムを出してない。少しでいい。時間を稼がんとー)

 リュック型の鞄は背負った儘で、アイテムは鞄の中に入った儘であった。女は左腕だけであったが、巧みな剣術でセーマンに息をつかせないほどの連続技で襲いかかり、セーマンは體術で辛うじて躱していたが、制服はズタズタに斬られていた。

 (やばい!)

 女が持つ懐刀が、月の光を反射していたが、セーマンが刀身から反射する光に反応しているのに氣づき、刀身が暗黒く染まると闇と一體化になり、セーマンにとって間合いが、取りづらくなり不利になった。女は、黒く長い舌で唇を舐め回し奇声を発しながら再び飛びかかってきた。

 キギェー

女の連続技で斬りつけてセーマンは避けることができずにいたが、この事件が発生してからは、制服の下にはのを着込んでいた。その鋼の鎖帷子が、懐刀から身を守っていたが、鎖帷子がなければ致命的であった。

「坊やの動き、見切った。流派を変えたか戸田流だな…」

女は、ぼそっと呟き勝利を確認したのか、無氣味に微笑んだ。

(なぜ、流派をしっている古流なのに…)

 (あと、半歩深く踏み込めば、このガキの血と魂を戴く)

 女とセーマンとの距離が縮まった。

 (しまった。近間だ。くらう)

 女は、セーマンの懐に入り込み渾身の力で討ちこみ金属音が辺りに響いた。

 「うっ!」

 セーマンは痛みで、声も出なかった。懐刀は鋼の鎖帷子ごと、バッサリと斬られて傷口が、黒く変色して出血が酷く。セーマンの體力を一氣に奪った。

 (血が黒い。なぜだ!)

 懐刀は、鋼の鎖帷子を斬り、右胸から左腹部まで深く斬られた。懐刀は、刃毀れもなく。女は妙にセーマンの血を氣に入り、血と魂魄を異常に執着していた。女は、懐刀についた血を旨そうにペロリと舐めて含み笑いをし、飢える野獣のように云った。

 「これは、これは、美味じゃー。體の傷が治っていくのー。能力者かお前は、クククッ。ほうー。安部家、安倍家の味がするわー。800年ぶりの味じゃ。それに味わったことのない異国の血の味がする。美味しい血じゃー。クククククッ。もっと、に、その名家の血をくれー。女性の生き血もいいが、若い燕もいいのう。そして、妖刀の一部になり、お前の全ての流派を吸収してやるわー。おぉ~。この血は、力が漲る! お前、恐怖に怯えているな。いいぞ、もっと恐怖心により分泌される物質をだせ。それを妾が飲む」

 (やばい。殺される。何か方法がないか? すっ少しだけでいい、距離と時間がほしい。なぜか、痛みがないが、出血が止まらない。ここから、どう逃げる)

 セーマンは傷口を手で押さえて出血を止めていたが、押さえている手が血で染まり足元には、血が溜まり貧血と妖刀に付着するウイルスに感染したセーマンは、手足が痺れていた。次第に、目も霞、闇に慣れていたが、黒い刀を見きることができず。力ついたのか死を覚悟していた。

 (ここまでか…)

 セーマンは、自分がしたかった研究に未練があり、生きる力を与えた。

 (研究もしたいが、童貞の儘、死ぬのはや。やっぱり、あきらめへんでー)

 女は、攻撃を止めずにセーマンを必要以上に甚振った。

 (目が、霞む。前が見えない。手足の感覚もない… 毒か? ウイルスか? 呼吸も荒くなってきた。この儘だと呼吸困難になり…)

 セーマンは激しい動きで、女の攻撃を辛うじて躱していたが、帷子が守っていたが、激しい動きに全身にウイルスが回り細胞を破壊していた。

 (駄目だ! 呼吸できない)

 セーマンは意識がなくなり、膝から地面に落ち、倒れ込むように倒れ込んだ。女の攻撃は続き、顔面に蹴りを入れて、セーマンは仰向けに飛ばされた。勢いが凄くアスファルトと鎖帷子とが、摩擦で火花を散らしながら滑り、服も帷子も體もボロボロであった。

 (俺は、死んだのか? 體も動かない。やっぱり、死んだんだ……)

〈まだ、セーマンは死んでいない。修行は、これからだ〉

(誰?)

 その声は、それ以上、聞こえなかった。

 (なんだ。今の声は? この黒い物體は?? なぜ、俺を取り囲む!)

 セーマンの心を暗黒が包み、肉体を奪った。

 女は、セーマンに近づき、旨そうに見ながら、どのようにして全ての血を美味しく戴くかセーマンを見ながら思案していた。

 「綺麗な顔をしていたが、顔を傷つけたのはもったいなかった。この體も腐敗が激しい。この若い男に、憑依するかのぉー。クククッ。まずは、味見をズルズルズル」

 女は傷口から血を啜り味見していた。

その時、まだ、セーマンの心臓は動いていた。失神していただけであった。セーマンの心と魂魄は、暗黒に包まれ、暗黒の牢獄に繋がれしき者が蘇り、セーマンの肉体を支配しセーマンは暗黒に包まれ、心の奥底で暗黒の者を見ていた。

(お前は、誰だ? 俺の體を返せー)

〈今、お前に死なれたら困るからなぁ。人間の體では、無理がある。ここは逃げるしかない。この俺が、逃がしてやる。そして、あとは、お前の頭脳で身を守るスーツとアーマーを作り、鬼女を倒せ。そして、前世の罪を懺悔し上へ上へとがれ。俺は、お前の魂と同じの者だ。前世の者だ。お前は寿命を全うするまで、死なければ、輪廻転生できない。この儘だと低レベルの魂の集まりのあの世にしな行かなければならない。寿命を全うし、高いレベルに集まるあの世で輪廻転生を繰り返し悟りを開け〉

(お前は何者だ)

〈元天界の者だ。今は、鎖に繋がれているがなっ〉

(ここから出せー)

セーマンは暗黒の中で、いていた。

〈抵抗するな。無駄だ。死にたくなかったら、俺の云うことを聞け。毒を抜いてやる〉

セーマンの心臓の鼓動が強くなり、息を始めた。

そして、セーマンの心に得ったえる者がいた。

〈いいかセーマン。生きたかったら俺のことを聞け、ここから逃がしてやる。そして、再び、この鬼女と勝負しろ。この事件は、で各々の力を合わせて解決せよ。要になるのは、お前の善の力だ。今の時代は陰と陽のバランスが崩れている。嫉妬、妬み、恨み。人とあつても挨拶をしない者が増し陰のパワーが悪神、悪鬼、悪魔の餌になり、力を増している。逆に善のパワーが枯渇し善神が弱っている。その為に、災害、疫病、戦争が怒る。お前の真の力に目覚めるまで、その頭脳で肉体を改造しろ。お前が、自分の力に目覚めない限り、俺の力も発揮できない。今は、ここから逃げることしかできない。抵抗するな。俺に任せろ。氣を楽にして…… そうだ、俺に體を委ねろ〉

セーマンは體を委ねて、暗黒に飲み込まれ底のない宇宙空間に、ひとり浮いていた。そして、鎖に繋がれしき者が、セーマンの意識の表に出てきた。セーマンの姿が変わり、瞳は紫色に髪の毛は、金髪となり、首の後ろと眉間には魔方陣が現れた。

(體からウイルスが消えていく。出血が止まった)

遠くにいる自分の姿を見ていたが、自分の體の中に煌めき輝く光が體から発していた。

(これは夢か? 意識が……薄れる……)

セーマンは目を開き、心臓を狙う妖刀を両手で挟んでいた。妖刀の刃を素手で触れていたが、手からは白い煙が上がり、肉が焦げる臭いがした。

「しぶといガキーねぇ~ いつまで耐えられるかねー ククククッ。美味しい、美味しい。その恐怖の味が美味しい。力が漲る」

「毒は、毒で制す」

女はセーマンの瞳が、一瞬だったが紫色に変色したのを見て吃驚していた。

「はぁっ! その瞳…!ほう、呪詛でもかかっているのか、それとも堕天使の印」(いや! 見間違いか…。堕天なら、こちらが不利になる。まぁー。呪詛の類だろう)

妖刀は、黒煙を上げ痛み叫びクネクネと苦悶していた。そして、再び一瞬であったが、碧眼から紫眼に変わり毒を抜くと元のセーマンの碧眼に戻っていた。セーマンは、女が驚いた隙を見て妖刀を挟んだ儘に、自分の方に引っ張り體勢が崩れたのを見逃さず。女の顎を蹴り上げた。女は、後ろへ一回転し顔面から地面に落ちた。両者は、即座に體勢を戻し攻撃態勢に構えた。

「ほうほうー。お前、やっぱり魔族の生まれ変わりか、お前の血を飲み、第六天魔王に近づく。これは、面白くなってきたわー」

女の動きはセーマンの血で、パワーもスピードも倍に上がっていた。セーマンが攻撃體勢に入ったときには、既に妖刀はセーマンの間合いの中に入り躱すことも間にあわなかった。

〈セーマン。俺の戦い方を體で、覚えさせてやる〉

セーマンは、躱すこともなく。相手の懐に深く入り込み、女の手首を払いのけて、刀の剣先を殺していた。女は、異常に喉が渇き血を欲しがり、激しい運動量に次第に肩を揺らし、息を切らしていた。

「ハァー ハァー 喉が渇く。坊やの血がほしい」

セーマンは、家の蔵の中にある。安倍家の古文書を全て暗記していた。だが、非科学的だと信じてはいなかったが、目の前の現状に先祖が残した古文書を信じるしかなかった。

(鬼が憑依しているのか! 一氣に疲れてきたか。皮膚の乾燥が始まっているなぁ。體を大きくすることで大分、ツケが回っていたな。あの懐刀は妖怪化している。本體は、あの懐刀だな)

女は長い舌で、乾いた口の回りを舐めていた。

「きもいんだよ! 変態ババアァ」

 セーマンと繋がれしき者が、入れ変わった時。性格や口調が一変して荒っぽく変わった。何もかも荒々しく剛の技を繰り返していた。だが、激しい動きに傷口が開き少しずつであったが出血していた。

 (泰明のヤツ! セーマンの體の封印が、聖の力が暴走してきやがった! 體が焼ける)

 泰明は、セーマンが誕生した。その日に、この子の成長の糧で七通りの運命と宿命を予云していた。セーマンが堕天使のマラク・ターウースと知っていた。セーマンが善になるか悪になるかは、セーマンが決めることだが、祖父・泰明と両親と姉も善に導くために、いろんな人々が同じ時代に生まれて、セーマンを支えていた。祖父は、セーマンの體の中に悪魔封じの術を施した。繋がれしき者が、セーマンの表に現れた時には、その封印が繋がれた鎖が熱し、繋がれしき者の手首を燃やし、堕天使の體が崩れるように呪術封じを施していた。その呪術の炎に、激しい痛みを感じ口に出して叫び、セーマンの眉間と首の後ろの魔方陣が黒から鉄を熱したように赤くなり、魔方陣からは白い煙を上げて紫の瞳から碧眼に戻った。

「ぐわぁー。體が焼けるー。泰明めぇー」

 叫び声は、地震のように辺りの家を揺らした。

 (この儘だと、セーマンの體が持たない。封印が、俺の體を焼きだした。3分も持たないかー。距離と少しの時間がいる)

 繋がれしき者の力は、封印をされて十分な術と力を発揮することができずにいた。セーマンの體から毒は抜けたが、完全にウイルスが消滅させていた。出血も一向に止まらなかった。傷の回りにシルフの粉が付着しているのを繋がれしき者には見えていた。

 (精霊がいるのか?)

 〈精霊たちよ。我にえ〉

 京都に住む自然の精霊たちが、セーマンの體に寄って来た。

 〈精霊たちよ。セーマンを頼む〉

 繋がれしき者は、女の攻撃を躱しながら女が破壊した電柱やアスファルトの欠片を拾い集めていた。

 (あと一分も持たない……)

 繋がれしき者は、女に向け飛礫を投げ距離を保っていた。

 〈精霊たちよ。頼んだぞ……〉

 繋がれしき者は、光に包まれていたセーマンを呼び起こした。

 〈セーマン。あとは精霊たちが、守ってくれる。ポケットの中に閃光弾を入れた。いつでも使える状態にした。俺の血をやるが、出血は止まらない。俺は……〉

 「えっ!」

 魂魄は入れ替わり、セーマンの魂魄が表に出てきた。セーマンの姿は碧眼に黒髪になり、魔方陣も消え去った。女は凄く恐ろしい形相でセーマンを追ってきた。

 (俺って今まで何をしていた?? えっ! 何で目の前に女がいるの!)「な、何でやぁっ!」(やられる。アイテムが鞄の中に……)

 〈ポケットの中だ………〉と耳元で聞こえた。

 セーマンは、ポケットを外から触れて中にアイテムの閃光弾が入っているのを確認した。

 (ポケットの中にある。いつの間に!)

 セーマンは、女を挑発しながら間合いをとり、相手を寺の塀の側に誘っていた。

 「坊や。後ろは塀よ」

 (分かっているわぁー。ボケがぁ)「いやー」

 セーマンの出血は、止まらなかったが今までのセーマンの動きではなく、荒々しく繋がれしき者の技を知らぬ間に吸収し、時と場合によって静と剛の技を使い分け短時間で武道家としても成長していた。

 「手応えあり…」

 女は、悲鳴とも氣合いともいえぬ声で、妖刀を一刀両断したが斬ったのは寺の塀であった。

 「ちっ。外したか」

 女は攻撃を続けて右足で、長身のセーマンの顎を狙らったが、間合いが近く、塀を粉々に破壊した土煙が視界を奪った。

 「こっちだよ」

 セーマンは、女の攻撃を躱して女の後ろで呼んだ。女は左に一回転し、水平斬りをしたが、セーマンの姿はなく、塀を斬り塀が崩れ土煙が立ち上がった。

 「こっちだよ。こっち。こっちだ。こっち。こっちだ」

 忍者が使う術のように、女の周りには、セーマンの声が四方八方に、強弱に聞こえセーマンが何十人もいるように聞こえていた。

 「このガキー。何処にいったぁー」

 女は、妖刀を無駄に振り回していた。

  ビリ。ビリ。ビリビリ。

 土煙で皮膚の水分を奪われて、皮膚は乾燥し皹が入り亀裂が入り、布を裂くようにした。亀裂が入った部位からは筋肉が見えて、筋肉も土埃が付着して水分を奪った。

  ハァハァハァハァハァ~。

 女は動きを止め、視界が戻るまでセーマンの術に反応せずに動かずにセーマンの出を待っていた。

 (このような術使い。遣り合ったことがある… あの老いぼれの血筋を受け継いでいるのかぁ。くそガキめ。このガキで安倍家の血を完全に絶えさせてやるわ~)

 セーマンの體は、秒針が刻むたびに血が滴り落ち體力を奪っていた。

 (また、傷口が広がって貧血が酷くなってきた。電柱の天辺まで、この體力で飛べるか? は6秒間)

 セーマンは、自分の體力と電柱の高さと計算していた。セーマンは耳栓を付け閃光手榴弾を女の近くに投げると、セーマンは手で目を塞ぎ、強烈な音と閃光が発し、女の體は麻痺し動けなくなった。セーマンは電柱に飛びあがった。

 (もう、少し届け)

 八割ほどで失速し地面に着地したが、衝撃で傷口が開き、大量の血が激しく噴き出した。痛みに耐えきれずに蹲っていた。

 「ぃっ、痛ぁーぃ」

 セーマンは声を殺し、痛みに耐えている間に、女の體は動けていたが、視力と聴力は回復していなかった。

 (3・2…… 視力が戻る)

 セーマンは痛む體を起こし、女の目に向けて飛礫を投げ込み命中した。

 (よっしゃー)

 「ガキーがぁ~」

 眼球を無くした女は見えていなかったが、セーマンに向って妖刀を振り翳し走ってきた。

 (風上か…。俺の血の臭いか)

 女は、力強く荒々しい剣さばきセーマンの體に刃を向け振り抜いたが、その上を飛び越えたセーマンは傷口を押さえなから地面に左手をつきをして衝撃を和らげて前転すると、勢いを利用し體を右側に捻り女の方を見ながら後退し、距離を保った。セーマンが、女の上を飛び越えたときに、少量の血が女の裂帛した皮膚に落ち、一部分であったが、皮膚は再生と潤いが戻り、女はセーマンの血が體に付着し體が再生することで執着心が強まりセーマンの血が氣に入った。そして、視覚を失うことで、鋭くなった聴覚と嗅覚でセーマンの血の臭いと汗の臭いで居場所を推測していた。

 「坊やの血が、ほしい~」

 女はセーマンの血の臭いを嗅ぎ、電柱近くのアスファルトに溜まっている。血をズルズルと音をたてながら啜り飲み、最後の一滴まで黒く長い舌で舐めて血が無くなると、獲物を狙う野獣のように體勢を低くし、鋭い聴力と嗅覚を使い。セーマンの動く方向に、顔を向けていた。いつでも飛びかかれる體勢にセーマンの動く方向に、顔を向けていた。女の動きと攻撃的な體勢に、セーマンは慎重になっていた。貧血が酷くて、動くことができずに距離を保っていた。

 (なんて野郎だ。俺のいる方向がわかっている。だけど不思議だ體が回復している。捥げた腕も完全でないが、下腕まで伸びている。俺の血と関係しているのか?)

滴る血に、女はセーマンの方に鼻を向けピクピクと動かし、口から涎を垂らしながら、微かに感じるセーマンの息遣いの音。滴る血の微かな音で距離を測っていた

(サバナの中で、傷ついた草食動物が狙われている氣分だ。まるで、あの女は、肉食獣。じわり、じわりと近づき、完全に捕らえる距離まで近づいて、獲物を捕らえる。草食動物の氣持ちが分かるぜー)

女は、ゆっくりと動き、野獣のような強靭な筋肉に一足で間合いをつめられていた。

(この儘だと、マジでやられる…)

セーマンは、ボロボロになった制服にカッターシャツを脱ぎ、女の後方二ヵ所に投げ込んだ。服が落ちた微かな音。服に染み込んだセーマンの血と汗の臭い。視覚が復活してない女は、混乱していた。

女はセーマンの制服とカッターシャツに染み込んでいる血をしゃぶりついた。セーマンの血が、女の傷が物凄い勢いで治癒し、肌も潤いだし女が放つ妖氣が増し闇の者たちを呼び寄せた。

「そんなに美味しい血なのか。ヒヒヒヒッ」

おれを頂こうと京の魑魅魍魎が寄ってきた。

セーマンも女から発する妖氣と殺氣に恐怖を感じていたが、繋がれしき者が、表に現れてからは、性格も変わり臆することはなかった。

「これは美味じゃ。傷を癒す力があるとは、力が漲る!」

漲る力に女は、歓喜に叫んだ。そして、目を開けた。

「えっ!」

光を反射する瞳が、セーマンの姿を捕らえていた。

「マジかよ!」

闇に浮かぶ女の瞳が、無氣味にセーマンを見ていた。

(倒すか逃げるか…)

〈そこの、いい男。セーマン〉

セーマンの耳元で、可愛い少女の声が聞こえたが、醜い女の声と全く違い透き通る声で可愛い女の子の声が聞こえた。追いつめられ崖ぷちのセーマンであったが、清々しい声に聞こえた。セーマンの體の周りを守るように風の氣流ができていた。

〈和多志は、シルフ。下賀茂神社の糺の森に住む風の精。あなたが三歳のときから、あなたを守っているのよ。それが和多志の役目なの。あの警官たちも、あなたを正しい道に誘う者として生まれしき者。あなたは、あの警官たちに命を貰ったのよ。もっと自分を大切にしなさい。その傷では、あの鬼女には勝てないわ。今は、ここから逃げなさい。風の精たちが、助けてくれる。そのぐらいの傷なら、セーマンのお姉さんが治してくれるわー。さぁー。行きなさい。和多志たち精霊たちが鬼女を邪魔する間に…〉

綺麗な小人にに羽があり、風の精霊たちが集まりセーマンの體に體を寄せていた。セーマンは足元を見て、ふっと氣がついた。

(體が浮いている。體が軽い!)

セーマンは、非科学的なことなど、どうでもよかった。ただ、その場から逃げたかった。

(これなら、電柱の天辺まで飛べる)

女は、セーマンは逃がさないと飛びかかっていた。

〈和多志たちに任しなさい〉

風の精は、竜巻のように風を吹き上げ、女の視界も聴覚・嗅覚も奪い。土埃の中をキョロキョロと、セーマンを探していた。

「ここだよ」と女の近くでセーマンは云った。

女は幽かに見える物陰に、懐刀をひと太刀振り落とした。

「ワァー」

女の側でセーマンの悲鳴と倒れる音がした。女は、手応えがあったのか、声を殺して笑っていたが、段々と声が大きくなり高笑いをしていた。

クククククッ。ヒヒヒヒヒッ。ハハハハハッ

竜巻はおさまり、幽かに視界が戻った女は、何かを見つけたように、地面に落ちていたものを確かめるように拾い上げて見た。

「それ、あんたの右腕だよ。ハハハハハッ。今度会ったら倍返しの鼻の中に割り箸入れてカックンいわしたろかぁー。われー。覚えとけー。クソババァー」

セーマンが笑うと声が、辺りにするように風と女を包み。セーマンの居場所を特定することができなくなっていた。次第に声は小さくなり、セーマンは風に乗るように去った。

麻理亜は、セーマンの記憶を中止し、精霊たちの記憶の中に入った。麻理亜は、空中で視覚にはいる場所で浮遊していた。

〈儂らの出番じゃー。用意はいいかな。作戦どおりに、いくぞなっ〉

知能の高い地の精が、他の精霊たちに指示を出していた。

〈ヤツの弱点は、長持ちしない死人の體じゃー。サラマンダー。シルフ。用意はいいかな?〉

〈いつでも、いいわ〉

 サラマンダーは頷いた。

〈………〉

〈サラマンダー、火を吹け。シルフ、風を吹け〉

熱風が女を襲い、鬼女の體から水分を蒸発させ、皮膚は所々に裂帛があり、筋肉が裂帛したところから筋肉が見えていた。

「妾の肌が、肌が裂ける」

〈ウンディーネの出番じゃー〉

〈あいよっ〉

水の精が、の方を向き、手を翳して神の力を乞うた。

〈天神川の龍神様。和多志は、善女龍王の使い。水の精ウンディーネ。和多志に力をお授けください。龍神様。和多志に力を…〉

〈汝の願い。叶えよう〉

静かに流れる天神川にが増え、で荒々しく波を立上げ水飛沫を立てていた。中央に渦ができると川幅一杯に渦ができ、外側の渦は盛り上がり中心にいくたびに、激しく渦を作っていた。そして、渦の中から水で體を作った巨大な龍が生まれ、雷のような地が裂けるように鳴き、長い體をくねらしながら千本釈迦堂に向った。

鬼女は、セーマンの血がほしさに探していた。

既に、セーマンの姿はなく傷口を押さえながら屋根から屋根へと飛び自宅に向っていた。

「あのガキの血じゃー 喉が、乾く。ハァハァハァ~」

鬼女は、地面に溜まっているセーマンの血に執着し、氣が狂ったように探していた。

「新鮮な血でなくていい。あのガキの血がほしい~…」

鬼女は飢えた野獣のように飛びついた。だが、溜まっている血は、全てサラマンダーが全部焼き尽くし、血は蒸発し焦げた血が残っていただけであった。

「ハァハァハァ~ 公家の血でいい。一時的でいい男の子の血でもいい。血と體がいる。喉が渇く… 體が崩れる」

そこにいた鬼女は弱々しい声で、フラフラと歩き獲物を探し出した。

 ゴロゴロゴロー

鬼女の真上で雷が鳴ると、大粒の雨が降り注ぎ鬼女の體を潤した。鬼女は、喜び換氣し雨を浴び喜んでいた。

「ヒヤァヒヤァヒヤァー 龍神がを助けるとはなぁっ!」

〈サラマンダー。シルフ。頼みましたよ〉

〈オッケー〉

 サラマンダーは頷く。

〈………〉

雨が止み、再び、女の體に熱風が襲い。一瞬にして水分が奪われ、皮膚が縮んで再び大きく裂けた。

「皮膚が裂ける! ぎやゃー」

鬼女は、痛みに発狂して叫んでいた。

〈よし。仕上げじゃー〉

龍神は、鬼女に向って大きな口を開けると急降下し、鬼女を飲み込むと水となり鬼女の體を濡らし潤した。

「また、妾に神が味方をしたぞー。 ヒヒヒヒッ」

鬼女の皮膚は、潤いは戻ったが、皮膚は所々に裂け筋肉が見え皮膚は縮まっていた。

〈サラマンダー。シルフ。頼みました〉

〈オッケー〉

〈………〉

再び、鬼女の體に熱風が襲い一瞬にして水分が失われて皮膚が酷く裂けた。何回も繰り返すたびに皮膚は縮まり、鬼女の體から皮膚ボロボロになり筋肉を絞めて動きが鈍くなった。

〈作戦成功じゃー。引き揚げるぞー〉

〈オー〉

鬼女はその場に倒れ、鬼女の魂は肉体から離れた。妖怪化した妖刀の一部となった首のない警官の肉体を奪い、西陣にある病院に忍び込み夜勤中の女性看護師を襲い。肉体を奪った。

麻理亜は、セーマンの手を放しサイコメドリーを中止し、意識が現実の世界に戻り、静かに目を開けた。

「セーちゃん。ありがとう」

「えっ。もう終わったん。一分ぐらいしか経っていなけど」

麻理亜が、サイコメドリーをした時間は、たった一分であった。その一分間の中に、セーマンの三時間の記憶が一瞬にして入りこんでいた。

 「段々と、状況が把握できてきたわぁー」

 麻理亜は、セーマンをサイコメドリーで、女から漂う香りを感じていたが、どこかで嗅いだことがあったが思い出すことができなかった。麻里亜は、微弱な電流や光回線さえあれば、コンピューターや電話回線に侵入できた。もちろん、各国の重要機関のコンピューターに侵入ができ、いつでも何処でも各国の秘密の情報を見ることができた。そして、側にあったパソコンに触れるだけで、能力が発動し京都府警のサーバーにハッキングした。

 「セーちゃん。犯人が『もっと、にその名家の血を、くじゃれ』て、云っていたよねー。警官のデータベースにハッキングしたとき被害者リストの苗字を見て分かったわ。これで、ひとつに繋がったわー。公家の血を狙っている。一時的に子供に恐怖を与えて、若返りの作用があることを知った。それに、この前の模倣犯を捕まえ時に、鋭い殺氣は、和多志を狙っていたのだわ…」

 「マリちゃんも氣づいた。俺も警察のデーターベースにハッキングして被害者リストを見て、ヤツの狙いが分かった。全国で公家の苗字をコンピューターで検索したところ京都と東京が多い」

 「さすが、セーちゃん。仕事が早い」

 セーマンにとって得意分野であり、興味のある研究や機械弄りや理論物理の研究がしているときが、ストレス解消のひとつで、携帯電話を改造した世界最小の時計型のスーパーコンピューターを常に身につけており、どんな厳重なサーバーに侵入して、ハッキングして最高峰のバチカンのサーバーに侵入を確認し、自分のサインを置き土産に、何もウイルスの感染することもなく、世界の秘密情報を得ていた。

 その被害者リストには、平安時代から続く公家の令嬢の苗字がズラッとリストに並んでいた。麻里亜は、サイコメドリーと霊感を働かせて云った。

 「犯人は、鬼に憑依されていることと、人から人へと憑依している。公家にも恨みでもあるのか? 懐刀は妖刀。妖刀の中には、夥しい数の怨霊を感じたわー。現代の魂たげではないわ。この妖刀を調べなあかんなぁ~」

 「………」(鬼って… 妖刀って?…)

 セーマンは、霊的なことは未だ半信半疑で信じていなかったが、実際にセーマンの目で見て信じるしかなかった。この事件が切っ掛けで霊的な力を信じ、研究に乗り出した。霊に興味を持ち科学の力で、魂の存在を確認しようと実験に入った。亡くなった母と合うために研究していたトーマス・エジソンのように!

 麻里亜は、セーマンと話しながら神通力で祖父・泰明と会話していた。

 〈じいちゃん。この事件は、やっぱり、あやかしのでした〉

 〈やっぱりなっ〉

 〈じいちゃん。それと、あの闇の繋がれしき者が、セーちゃんの意識を支配して、表に出てきたわ。その時の記憶は消したけど… いつ、あの者が暴走するか心配だわー〉

 〈分かった。再び意識の表に出てこないように、セーマンの意識に鍵をかけよう。運命の輪が回り出したか!…〉

 「ところで、セーちゃん。その液體は、何を作っているの?」

 セーマンは試験管を持っていた。

 「これかー。これは、繊維強化膜液。蜘蛛の糸の遺伝子を元に生地に、この液體を一時間つけ置き、乾燥すると衝撃を吸収し身を守ってくれる代物や。実験では、衝撃を99.5%吸収する。この生地で、制服がボロボロになったし、今、ミシンで制服を作り直したんや」

 「セーちゃん。服も作れんの!」

 「俺って、天才」

 セーマンは、出来たて新品の服を着込んだ。見た目や手触りも普通の生地と変わりはなかった。

 「マリちゃん。じじぃーから借りてきた。そこに置いてある神剣で制服を斬ってみー」

 セーマンは、ブレザーのボタンに触れると、銀色になり全身をぴったりと形成した。

 麻理亜は、神剣を鞘から抜くと見事な乱刃(刀身を焼き入れする工程で生じる刃の白くなっている紋様)が鋭い光を放っていた。

 「じゃー。遠慮なく」

 その神剣は、超能力者を持っている者が、鞘から抜くと青白く輝き、刀身に青龍が浮き上った。麻里亜の能力の力と比例して神剣の中でし、その鳴き声の音は、耳を押さえるほどの轟音を立てた雷のような音であった。人によっても切れ味が違うが、超能力者でなくても鋼の刀でも斬る名剣であった。

 「何っ! なんや!」(俺が抜いたとき、何もおきなかったのに…)

 セーマンは、神剣から鳴る轟音に吃驚していた。

 「えっ、遠慮なくやってくれ…」

 セーマンの声は、恐怖に體をガタガタと震えていた。

 「じゃー。試しに…」

 麻理亜は、ポケットから三枚の百円玉を取り出した。

 「久し振りに日本刀を持ったわ。腕がおちていないかなぁっ。間違って手元が狂って変なところ斬ったらあかんしなっ」

 麻理亜は三枚の百円玉を、頭より少し高い所に軽く投げると、一瞬にして見事な剣捌きを見せた。

 セーマンは、麻里亜の剣捌きを見て吃驚していた。

 (すごい!…)

 百円玉は、机の上で回っていた。セーマンは、ビビッていた。

 (精密的な斬り口! 凄すぎる!)

 百円玉は、机の上で六枚になり回り、徐々に回転が遅くなり切り口が上にして止まった。

 (腕は、俺より数段も上や。これを神技というのか! 切り口が全て同じ長さで、全て切り口が上になっている!…)

 「腕は落ちていないわー。いくわよ。セーちゃん」(セーちゃん。相当、ビビッているけど、実験は成功するわ。少し衝撃があると思うけどね)

 麻里亜の神眼には、セーマンの服から発する波動を感じていた。

 (あかん! 俺、ちょっとビビッている。手加減せーよ)

 セーマンは、仁王立ちしていたが體に力が入り、内心心配であった。

 (大丈夫! 大丈夫!)

 セーマンは、自分に自己暗示して自分に云い聞かせていた。

 「じゃ。遠慮なく」

 「よし、氣合は十分だけど、スーツに機能は十分、切れない!」

 セーマンは、早口で云った。

 麻理亜は氣合と共に、セーマンの左肩を狙って上段から振り下ろした。

 (うわっ! 目が本氣や)

 セーマンは、目を瞑り體に力が入った。セーマンは片目を開け、麻里亜の態勢で振り下ろしたのが分かった。痛みがなかったが、多少、衝撃があった。

 「ふうー」

 セーマンが氣を緩めて力を抜いた時に、麻里亜は不意に腕や腹部や足に向けて斬り込んだ。セーマンは冷や汗を掻いていたが、ビビッていることを悟られないように涼しい顔に変わった。多少の衝撃があったもののに影響を与える衝撃はなかった。大部分の衝撃が吸収できて、実験は成功した。一方の麻里亜は、神剣に振動が伝わり、手に痺れていたが、連続で斬り込み踏み込み突いたりしたが、その服も斬れることもなく、衝撃も跳ね返していた。

 「マジになるなやー」

 実験の成果に、セーマンも吃驚してボロッと本音がでた。

 「ほぉーっ! ビビッたぁー。凄いやろ! マリちゃんの制服にも、この生地で制服を作るわ。スカート短めでなぁっ」

 「スカートは、膝下十センチで作ってね」

 「真面目か。分かった。密かに事件を追っているんやろ。でも、飽くまでも緊急で作っただけやし、筋力は向上しない自分で守らんとアカンよ」

 麻理亜は、にっこりと笑いながら云った。

 「うん。十分やー。おおきに、ありがとうー。雨に濡れても大丈夫なん?」

 「大丈夫や。洗濯を千回しても大丈夫。汗も分解する」

 「また、何かアイテムが出来たら頂戴なぁー」

「分かった。この秘薬は緊急に作っただけで、今、実験中のがあるさかい。時間がかかるがけどなぁっ。肉体と霊體の方式さえ分かれば最強のアーマーは早く出来る。アンドロメダ星人がくれた地球外の鉄製で、タバコのフイルムの厚さで強度は、自分が発明した切断機しか切断できないダイヤモンドの堅さを100万倍堅いものを切断できる工具も発明したし、でも、この銀色の金属は魂があり、アナスタシアの人が組み上げてくれた。草木の心を持たない者が造っても起動しないと云われたが、二センチの四面體につくったが、どうのようにして起動したらいいかわからない。これは、課題だな。アナスタシアの人と同様、なぜか脳裏にテレビの映像と音声が、日本の番組を全て観れる。俺も狙われているし、マリちゃんも公家の血筋やから鬼女から注意してなぁっ」

セーマンは二センチの四方面をペンダントにした。

セーマンは、バーカーの液體を見て思っていた。

 (この液體は、失敗の産物やけどな…。これは、軍事転用されたら困るから企業には売れないな)

セーマンは、この事件から常識に拘らなくなり、研究の幅が広がり、いろんな発明をし、遺伝子からあらゆる疾患を治癒できる遺伝子を見つけ論文にして、帝国大学で論文発表や医学会でも論文発表していた。セーマンの研究のひとつ、老いても大病なしに自然に、寝ているときに死を迎えるのが、セーマンの研究のひとつであった。

「頑張ってね。ところで、じいちゃんわぁー。朝から見―ひんけど?」

「じじぃーか。鞍馬山のに行くて。朝、早く出かけたでー。若者がするグラサンしてアロハシャツに短パンで走って行ったで! 元氣なじじぃーや。サイボーグと違うか?」

「ふーん。まぁー、いいわぁー」

セーマンは、いちいち姉にトイレに行くのを報告していた。

「マリちゃん。トイレ行ってくるわぁー」

家族に報告する癖があった。これは、父も祖父もであった。

「うん」

(マリちゃん。本氣でやるから、少しおしっこをチビッたがなぁ)

セーマンはトイレに飛び込み。麻里亜と祖父・泰明は、神通力で話していた。

〈じいちゃん。今、鞍馬山にいるの?〉

〈マリちゃん。事情は、後で話します…〉

セーマンは、パンツを穿き替えて実験に入り。

麻理亜は自分の部屋に戻り、自分のパソコンに触れて警察の回線に侵入して捜索報告を入手していた。警察の犯人に関する犯人像は、男性で、刃物はナイフとしか情報を持っていなかった。だが、この事件は人間が解決できるような簡単な事件ではなく非科学的であった。セーマンを襲った女は、皮膚が體を縛り筋肉が、剥き出しになった姿で発見され、この女も行方不明で被害者のひとりされていた。その女の遺體から1キロ先には、四人の警官の遺體が転がり、近くの病院の若い女性看護師の看護師が、勤務中に行方不明になり、その病棟には首なし警官の遺體が発見されていた。

京都府警は、女の遺體を司法解剖し、歯型とDNAの結果、二日前に殺人事件の近くで行方が分からなくなった九条雅子と判明した。京都府警は、暗闇の中を手探りで捜査していた。

麻理亜は、その懐刀から夥しい数の怨霊と数程の怨念を感じ取り、その鬼女からも、無数の鬼に憑依を感じていた。最初の事件は、女の嫉妬による殺人であったが、次第に殺人が癖になり被害者の魂魄が怨霊によるになり、女に取り憑いた。自らの意思で犯行を行なっており、捕まらないかとハラハラ感が癖になり、犯行後の興奮することが快感になり、それが、また、癖になり犯行を重ねた。心に穴が空き、闇ができ、次第に鬼となり魑魅魍魎が取り憑いた。だが、妖刀と別の鬼の魂魄を見ていたが、いつの時代のものか分からなかった。

安倍家の地下には、奇怪な事件の巻物が厳重に保管場所があった。奇怪な事件が出てきた時から京都府警も資料を閲覧してきていた。

麻理亜は、奈良時代から現代までの公家に関する事件やキーワード。鬼・妖刀に関する事件を安倍家の書物を保管してある蔵の中に籠り大量の書物から調べていた。木のケースと壁の隙間に輝いた巻物があった。

「もう、警官ね。雑に扱ってー 光ってなかったら見逃していたわ」

酒呑童子、一条戻り橋の鬼女が暴れ源頼光と四天王の一条天皇のころの話しから七十年後の平安時代後期に伝奇『鬼女姫伝』という古文書を見つけた。


          二

麻理亜は古びた書物を丁寧に手に取った。

「虫食いが多いわ。これでは、読めないわ」

その書物は、他の書物と扱いが全く違った。時代を重ねるたびに紙の色は変色して茶色くなり、虫食いが酷くなっていた。

「警官は関係なかったわね。大分前からここにあったみたい」

他の書物は厳重に保管と人の手が加えられていたが、その書物に人の手を加えた痕跡もなかった。麻里亜は、その古びた書物に手を添えてサイコメトリーを使った。

「できるかな?サイコメトリー」

麻理亜のサイコメドリーは、まだまだ未熟であり過去の記憶は、三週間が限界であったが、著書の記憶の中に集中して入った。

 (駄目だ。まっ白だわ…)

 記憶が所々、色褪せて一通りの映像を見たが、大部分が真っ白で書物の世界は、白く何もない空間の中に一人立っていた。

 (……。駄目ですか…)

 麻理亜はの望みが絶たれ、項垂れているところに、馬の蹄と鈴の音が微かに聞こえると、音の聞こえる方向に耳を傾けていた。 

 (なの? かが…こっちに来る! 馬なの?)

 遥か遠いいところに、小さな小さな二頭の神馬が、麻里亜に向って近づき段々と姿形が、はっきりと見えてきた。一頭は、赤いを靡かせて白い神馬に人が跨り、残りの一頭は黒い馬體の神馬であり、紫のを靡かせていた。二頭の神馬が同時にき、その声高く鳴き声に神馬は音波に乗り、一瞬にして麻里亜の目の前に、巨大な神馬が現れた。

 「わぁっ! なんて立派な馬なの…」

 神馬の脚の長さだけで、麻里亜の身長の高さ170センチの二倍の長さもあった。神馬の筋肉の張りと毛並みも艶やかであり、馬具の装飾も神秘的な光を放った。麻里亜は、その巨大な神馬の大きさに圧倒され體を仰け反り見上げていた。

 「て、大きくて綺麗な馬なの!」

 神馬は、麻里亜にれて顔を合わせていた。

 「麻里亜様」

 白い馬體の神馬に跨る男が麻里亜を呼んだ。その男は、人間としては體が大きく、この巨大な神馬に相応しいほどの體格の大男であった。その男の頭部には、放射光で輝いていたが霊格が、神の域まで達していない者だと麻里亜にはわかった。云うならば、神を守護する者であり、西洋なら天使であろうか、その大男は八百萬の神たちを守護していた者であった。歳は、十四歳そこそこで、凛々しく氣品に満ちていた。のの姿に、に銀の三十本の矢と金の弓に金と銀に装飾された柄と鞘の神刀を携えて、その武器も自ら光を放っていた。

 麻理亜は男の顔を見ると、初対面でありながら、すぐに誰かと分かった。

 「」

 「はい。廣基ございます。この事件の発端になった。過去の扉を開けましょう。このに乗ってください」

 麻理亜は、黒い神馬の後ろから跳び箱を飛ぶように、軽々と飛び跨がった。

「これでは、に足が届かないし、馬體が大きくて跨げないわ」

 巨大な神馬であり、乗る者も體格が大きな者であり、馬具もそれ相当の大きさがあった。

 「凄い!」

 神馬は、麻里亜の身長に合わせ、馬體を縮ませた。鐙にも足を置き手綱を握ると走り出した。

 「葛の葉様。では、参ります」

 (速い!)

 神馬は一瞬にして加速し、耳元で風が切る音が聞こえていた。麻里亜は艶のある長い黒髪が靡き、二頭の神馬は並んで走り、白い空間の中を突っ走った。神馬の速度が、光の速さを超えると風を切る音もなくなり超高速で走ると、走っている前方に丸い筒状の穴が開いた。神馬は、タキオンという超高速で運動する粒子に包まれると、神馬は、その穴の中を飛び潜り中に入ると、時間を逆光し麻里亜が住んでいる時代の風景から始まり、時代のトンネルを駆け抜けて、人の服装や流行に町並みが走馬灯のように変わっていった。令和から昭和…。戦争…。大正時代…。明治時代、明治維新…。江戸時代…。安土桃山時代…。南北朝時代…。鎌倉時代…。平安時代後期。平家一門滅亡した。この年に、丸い空間の穴が開き神馬が飛び越えた。

 この時代に入った途端に、神馬は消えて麻里亜と廣基は、荒廃した門の前に二人は立っていた。

 「これからを通ります。同時にこの伝奇が始まります。この時代に何があったか、目に焼き付けてください。さぁー、行きましょう」

 「これが…、羅生門なの?」

 「はい。風に弱く二回も倒壊しています。治安三年に法成寺造営の際に石を運ばせ、基礎が残るだけの、この有り様で…。さぁー、入りましょう」

 二人は羅生門を通り平安京の中に入った。真っ直ぐ大内裏まで伸びる。左右には、東寺と西寺の五重塔が聳え建つ。そこには、美しい町並みがなく、戦乱の世で疫病が流行り、平安京の中だけは時間も人もゆっくりと動き時を重ね。歴史が時と共に刻まれていた。

廣基は、朱雀門を超えて平安京にはいると麻理亜と同じ高さの背になった。

 人は疎らに歩いており麻理亜と廣基の姿は見えていなかった。

 (はぁっ!)

 麻理亜は、遠い昔。幼少の晴明の成長を陰ながら見守っていた平安の世の記憶が蘇った。

 「どうなされました? 葛の葉様?」

 「いいえ。遠い昔の記憶が、蘇っただけです。和多志が妖狐であった時の記憶が蘇っただけです。大丈夫ですよ」

 「では、葛の葉様。奇怪な事件を歴史から消された伝奇が始まります」

 麻理亜が横を向くと側にいた廣基の姿がなかった。

 〈わたくしが、案内できるのは、ここまでです…〉

 そして、物語が始まった。物語の状況によって麻里亜の體は、瞬間に移動し場所や場面が変わった。麻里亜は、朱雀大路を北に上がり大内裏に向かって歩いていた。人々は、麻里亜の體を通り抜け、三次元の映像の中にいるようであった。

 (はぁっ!)

 突然に、場面が流れるように変わった。麻里亜は、長門国赤間関壇ノ浦で源氏と平家が戦っている海面の上にいた。

 (これが、壇ノ浦の戦い?)

 海には死体が浮かび、海は血に染まり、海の潮の香りと血の生臭い臭いが混じり合い。異臭を放ち、斬られた者はき、苦しみながら溺れ死んでいた。そんな屍が、海に浮かび浜に打ち上げられていた。

 (これが、戦いなの!…)

 平和が続いている日本に育ち、戦争を知らない麻里亜にとって、言葉を失い黙ってビジョンを見るだけであった。平氏軍は壊滅状態になり、源氏に追われる一門は、次から次へと海に身を投げ入水した。そこに、命辛々逃げてきたは、女船に乗り込んだ。知盛は、女に恥を見られ逃げ惑う自分に情けなくなった。

 「御見苦しいものを取り清め給え、これから珍しい東男を御目におけましょう」

 は、桜吹雪の中を船から船へと飛び、敵の源氏の船に飛び乗ると、太刀を片手に誰一人敵に斬りかかった。

 「これが、平家一門の桜の舞いを、御見せいたしましょう」

 源氏の船に乗り込んだ知盛は、大勢の源氏の者を相手に、ひとり立ち向かい。散る桜の如く散華と散った。

 女船に乗っていたは、死を覚悟したのか幼い安徳天皇を抱き寄せ宝剣を腰にさした。天皇は幼ながらに敵の船が近づき、味方の平家を一門は船から飛び降り、這い上がってくる者もなく、その現状を恐怖に怯え、悲惨な現状を目に焼き付いていた。そして、祖母の二位ノ尼の行動に不安になった安徳天皇は、二位ノ尼を見上げて、あどけない声で聞いた。

 「御祖母様。どこへ行くのか?」

 「この世は、陛下が生きてゆくには少々荒々しい世にて、波の下にはの浄土という都がございます。さぁ、おばばと共に参りましょう」

 二位ノ尼が入水すると、のが安徳天皇を抱き入水した。

 「母も直ぐに参ります」

 安徳天皇の母であるも海に飛び込み、その後を追うかのように次から次へと女たちが入水していった。それを見ていた武将たちも入水し、死を決意して海に身を投げたが、息ができずに苦しみに、死にきれずに這い上がり捕虜になる者もいた。

 麻理亜は、水面に立っていたが、映像が変わり海の中にいた。

 (…酷い)

 麻理亜は、人が苦しみ死んでいく悲惨な様子を見ていた。そして、痛みと苦しみ仲間が死んでいく悲しみが、ダイレクトに麻里亜の心に伝わった。

 (……)

 麻理亜は、言葉が出なかった。時代劇で、見ている切腹や入水での自害や刀で斬られ、痛みも感じなく花と散るといったものはなく、痛みに踠き苦しみ、死にたくとも死ねずに、き苦しむ続ける者。海の中に身を投げ、息を止め海深く沈むも苦しみに耐え切れずに這い上がろうとするが、息が続かずに海水を大量に飲み苦しくで苦しんで死んでいった。

 二年三月二十四日。申の刻。平家一門が滅亡した。

 海に消えた平家一門は怨霊になり、海に残った怨念が、蟹に取り憑き平家蟹となり浜に這い上がってきた。麻里亜は水面に上がると、水面には平家の武将の屍が浮かび、源氏の武将たちが勝ち鬨を上げていた。源氏は勝ち、平家は負け滅亡の道を進み、その時、平家一門の怨念が生まれ、源氏を滅ぼそうと狙い破滅の道に誘おうとしていた。

 そして、戦いに勝ち続けた武将に対する嫉妬が怨念なり、その怨念が怨念を生み出し、繰り返され大きく成長した。その怨念が、人々を飲み込み源氏の中でも争いが始まろうとしていた。

 四月四日。京に源氏の勝利が、報じられた。

 四月五日。三種の神器奉還を命じ、勅使が長門国に赴いた。

四月十一日。壇ノ浦戦いの勝利が、鎌倉に報じられた。

麻理亜は、安徳が生き(愛媛県)に逃れるのを見ていた。

恨みと憎しみは、時代々々を何回も繰り返し人の心を傷つけて、今も昔も戦争を繰り返し、人を傷つけている。過去の過ちを正すも、負けた国の者たちは、恨みに思い続けて、恨みを晴らそうと、その国に戦争を仕掛けた。その繰り返しである。戦争だけでなく、日常生活でも誹謗中傷や人の言葉やサイトの書き込みで人を傷つけ、傷ついた者は被害妄想になり恨みが生まれ、時には復讐の為に、人を無差別に殺すこともある。殺された家族にも恨みと憎しみが生まれ、その循環の繰り返しである。知らぬ間に、人を傷つけていることもある。この世の者は、そんな恨みと嫉妬の繰り返しである。それは、悪神・悪魔・悪鬼の餌になった。

映像が、流れるように変わり、麻里亜は平安京に戻っていた。


時は、一一八五年、鎌倉初期の伝奇。

壇ノ浦で滅んだ一族の怨霊と生き残った者の怨念が都と鎌倉を襲い。様々な奇怪な事件を起こした。ほんの一つの伝奇でございます。

この事件の発端となった人物の名は、という。の三男義国の長子であるの四女が茂子である。

その者、茂子は三条の娘・明子の侍女であった。茂子の人相は、髪が少なく。白目の部分が多く、充血している。鼻は低く、小鼻が広く、頬骨が出て、顎が張り、唇は黒く、締まりのない口で、肌もドス黒くて小太りであった。茂子は、生国である上野国新田郡でも、醜女として幼少の頃から容姿が原因で親や兄弟からも無氣味がられされていた。茂子は我慢強い性格であったが、いつしか茂子は人を恨むようになり、孤独と屈辱の日々を送り、成長と共に心が歪んでいった。茂子が十二歳の時。養和元年(一一八一)に三条実房の娘の侍女として仕えた。明子の侍女は、茂子を入れて五人もいたが、三条家の侍女の中でも、り唾棄されていた。他の侍女からもで押しつけられ、茂子はことなく沈黙するだけで云われたとおりに動き、他のサボッている侍女を横目で見て、黙々と仕事をこなしていた。幼児期から、兄弟と比較され兄・や、などが出世し、姉たちは、、に嫁ぐなか、茂子は侍女として実家から放り出された。そんな環境の中で過ごしたが、思春期に従って茂子の心は、人を恨む心が日に日に増大し、同時に怒りも蓄積した。茂子の心の闇に棲む鬼が、心につけ込み恨む心をエサに鬼が育った。、爆発してもいい状態であった。そんな茂子の闇の心を見つ透かしていた闇の者たちが、狙いを定めていた。

(もっとその恨みを成長させろ)


二年四月二十一日。左京三条四坊四町にあるに於いて、公家の娘が集まり歌合せを行なわれた。歌合せは、盛り上がり終わった。その後、お茶菓子が出されたた。侍女たちが客人に、お茶菓子が配り、茂子は摂関・の娘・。妹のと左大臣・の娘・にお茶菓子を出した。道子と公子は、茂子を妖怪や物珍しい物を見るような目で見ていた。扇で顔を隠し、道子と公子と扇子で口元を隠しコソコソと話していた。茂子の耳にも嘲笑う声が聞こえていた。茂子は、こんなことは日常茶飯事なことで、何も氣にもしなかった。二人は、お茶菓子を差し戻し口にしなかった。そして、お茶を茂子に掛けた。

「妾によるのではないわ。あー、恐ろしや~」

周りの公家の娘たちも笑い。化け物を見る目で茂子を見ていた。いつもは、明子が庇っていたが、当時はである兼実と経宗は、大臣職であった。当時の三条家は、笛と香道の名家であったが、父・実房は無役であり、位が低くかった為に、明子は眉をめるだけで、庇うことができなかった。明子は、茂子を妹のように可愛がっており、茂子は作法では、侍女の中では右に出る者はいなかった。其処で、明子は茂子に道子と公子に、お茶菓子を運ばせたのだが、茂子の心に深い傷をわさせていた。茂子は、でもなく、何も落ち度もないであったが、茂子の容貌にだけで醜い者は心も醜いと判断し言葉の暴力が、茂子の心を痛みつけていた。

次第に話しは、明子に集中し三条家をしていた。

「こんな、を侍女にするとは三条家も零落れたものよのー。ホホホホッ」

周りにいた公家たちも賛同して、同じように明子と茂子を馬鹿にして笑っていた。

「ホホホホホホッ」

茂子は、自分のことは我慢ができたが、三条家の愚弄する言葉は許せなかった。実房も自分の子のように可愛がり、他の侍女たちも隔たりなく子のように可愛がっていた。同時に家来にも隔たりなく、偉ぶることなく接した。侍女からも家来からも信頼が厚かった。そんな三条家のを愚弄の言葉が、茂子には許せなかった。茂子は、拳を強く握り絞めて、理性で怒りを押さえつけていた。茂子の闇に棲む鬼が心の中に蓄積している怨念がエサになり、鬼は確実に覚醒した。だが、実房と明子に迷惑をかけてはいけないこという思いと、かな理性が鬼を抑えつけていた。が膨れ上がり、理性の袋が伸び薄い膜になり、いつ破裂して怨念が暴走しても、いい状態であった。

歌合せが終わり、明子は自分の部屋に茂子を呼んだ。明子は、侍女である茂子に対して眉を顰めて静かに頭を下げ、深々と畳に擦れるぐらいに頭を下げた。

「庇うこともできずに…。このとおりじゃー。許しておくれ…」

 ブチッ!

茂子の頭の中で、何かが切れる音がするとのが凍るように冷たくなっていた。押さえつけていた理性の袋が破れ、體の中でが暴走しだした。怒りが、込み上げ怒りに震えていた。頂点に達した怒りは、公家の娘たちに向けられたが、グッと心の奥底に仕舞い込んだ。侍女たちは、隠れたところで茂子をいじめ、今回の失態でいじめが、人の目の届かないところで、酷く陰険ないじめに変わった。茂子が、泣きながら井戸の水を汲み上げているとき、井戸の中から唸るような声で、茂子の名を呼んだ。

「し・げ・こ~。茂子…」

茂子は、き後退りしながら驚く尻餅をついた。

「えっ! !」

「し・げ・こ~。茂子…。井戸の中を覗け」

声は、次第に大きくなり、茂子は恐る恐る井戸の中を覗き込むと井戸の中には、無数の人の顔が、茂子の方を苦しそうに見ていた。茂子は體が動かなくなり、井戸の中に顔を突っ込んだ。

井戸の中の夥しい数の顔は、顔の肉は腐り、髪は抜けれ落ち、骨が見え、目の玉は垂れ下り、井戸の中で夥しい数の怨霊たちが、苦しみに踠いていた。

「茂子―。心の底に仕舞い込んでいる怒りを吐き出せ~…」

「すっとするぜ~」

「俺たちと組むんだ~」

「公家の娘の命を奪えば、見返りに血を飲み。美しくなるぞ~」

「恨みを晴らせる。血を飲めば美しくなる。全部の願いが叶うぞー。俺たちの恨みも叶え、茂子は妖力で男の精力を吸い込み、帝に近づき堕落させよ~」

怨霊たちは、茂子の耳元で囁き、悪の道へ引き摺り込もうとしていた。

「それとも、その姿の儘、一生いじめられのか? ククククッ」

「さぁー。どうした茂子~」

茂子は、戸惑っていたが、今までのいじめが走馬灯のように蘇えり恨みが爆発し仕返しができると悪の心に支配されていた。

「手を出して、俺たちと手を組め。さぁー、俺たちを引っ張り上げろ~」

茂子は心を売る換わりに、怨霊たちに条件を云った。

「三条実房様と明子様だけには、手を出さないと約束するなら」

「分かった。約束するから、早く、ここから出してくれ~」

茂子は、井戸の中に手を入れると、無数の手が茂子の手を掴み、茂子は一氣に引き上げた。平家一門の怨念と茂子の怨念が共鳴しあい。お互いに呼び合い井戸の底は、この世とあの世との境目がなくなった。平家の怨霊が井戸から上へ上へとこの世に向って這い上がり、茂子の體の中に取り憑いた。人の手によって引き上げられることがない限り、この世に出ることができなかったが、茂子の手により平家の怨霊たちが蘇り、娑婆に出られた喜びで、茂子の周りを浮遊し無氣味な声で笑い。茂子の體の中に次々と夥しい数の怨霊に憑依すると茂子は、その場にり、瞳が一瞬にして、に変わった。に、明子と内大臣・の娘・が、茂子が蹲る井戸の側を通りかかり、明子が茂子の體を起こした。

「茂子! 大丈夫かえー」

「はぁっ。明子様!」

「大丈夫かえ?」

「立ち眩みみが…」

明子は、茂子を抱きしめた。茂子は、則子の方を見ると般若のように目つきが変わり、刺すような眼光で睨みつけた。

「あっ。あっ。キャァー」

則子は、茂子の顔が一瞬にして般若のようにしい形相になり恐怖のあまり、発狂し項垂れるように失神し倒れた。

三条家の屋敷は、慌ただしくなり徳大寺家に使いを出し、直ぐにも徳大寺家から、お供の者が参り牛車に乗り屋敷に帰っていた。則子は、恐怖で記憶を失い言葉をも忘れヘラヘラと笑い物狂いになっていた。則子は、霊的な者は何も取り憑いていなかったが、茂子の怨念が則子の精神を破壊していた。医師や陰陽師は、霊的な類と判断し祈祷やお祓いをしたが、一向に良くならなかった。則子は、霊的疾患と精神疾患なショックによる記憶喪失であり、精神的な治療と霊的な治療が必要であった。

そして、壇ノ浦で滅んだ平家の怨霊が、平安の地に蘇り息を顰めていた。

(はっ、怨念!)

 霊格の高い陰陽師たちに、鋭い怨念の剣が突き刺さるかのように體を刺した。そして、のであるも例外でなかった。

 (はぁっ!)

 だが、異様な氣は直ぐにも消え去った。

 優れた能力を持った陰陽師たちは、屋敷の屋敷に上がり怨念の場所を特定しようとしたが、その怨念は、一瞬にして断たれ見失った。

 (氣配が消えた。比叡山か? 鞍馬か? 結界が崩れたか? いや、確かに平安京の中だった!)

 時刻は酉一つ時。辺りは明るかった。怨霊が活動する時間には明るく、日輪は西に傾いていたが、茜色でまだまだ明るかった。

 (こんなに明るいのに、この夥しい数の怨念に満ちた氣配は一體??…)

 安部は、古書院の間で調べ物をしつつ、都に住む安倍系や賀茂系である陰陽師たちに、情報を得る為に式神を出した。季弘は、晴明桔梗紋が入った短冊を庭に向けて、投げると式神である烏が現れ、その式神たちは季弘邸を飛び立ち、それぞれの陰陽師たちにも情報を呼びかけ、左京北辺三坊二町にある旧晴明邸に住む季弘のところにも他の陰陽師の式神が、情報収集に激しく出入りしていた。

 その頃。安部は大内裏から帰宅途中であり、嫡男の季弘の屋敷に近くて、直接に屋敷に向った。

 「兄上!」

 季弘邸には、先客がいた。

 「殿!」

 其処にいたのは、従兄である安倍廣基であった。

 「泰茂様!」

 三人の陰陽師は、平安京地図を開き式神の情報を元に、場所の特定を絞り込もうとしていた。式神は報告をするが一瞬の出来事で場所の特定ができずに、これといった情報はなく大まかな情報しかなかった。

 「絞り込めたのが、左京全域か!」

 平安時代。平安京は朱雀大路から東を左京。西を右京と呼んでいた。左京には、公家や武家の屋敷が多かった。

 季弘は、嫌な予感が過った。

「若しや、か? それともか?」

「イヤ。それはない」

 泰茂は、きっぱりと否定した。泰茂もだが鬼殿、僧都殿の周りには陰陽師の屋敷があり、結界も崩れてないのと目を光らせていたからだ。

 「怨霊は一體、どこから厳重な平安京へ入ったのだ。あれだけの怨霊の怨念が消えることはない筈だが? それとも既に宿りがいるのか? 契約を交わしたのか? 夜が、深けるのを待つしかないか…」

 季弘は、警備を厳重にすることを考えていた。

 「廣基殿は様に、このことを伝えてくだされ。泰茂は、内大臣様に。は左大臣様に。右大臣様には、殿に行かす」

 季弘は、式神を放ち左京九条二坊八町丑寅に屋敷がある。親戚でもあります安倍為成邸に向かいさせて、為成に現状を伝えた。為成は、直ちに季弘の名代とし左京九条四坊十二町にある右大臣の邸宅がある九条第の或る主であり、兼実の嫡男の九条基通に現状を伝えた。

 そして、兼実と左大臣・はのに向い。そこで会議が行われ夜間の京内の巡回の強化で決定した。、左右・、のを増員し、今晩から警備を強化した。


 四月二十六日。源義経が、捕虜・、らが京に入った。捕虜は、左京六条二坊十二町にある源氏堀川第。源義経邸に迎えられた。その日に季弘と泰茂は、義経に怨霊の件を相談しに義経邸を訪れた。義経は、陰陽師・の弟子で、武術も秀でており、式神も使い。術師でもあり、霊格も非常に高かった人物でもあった。

 義経は、季弘から事情を聴き鎌倉行きを延長した。


五月五日。は、深く海底に沈んだ三種の神器である宝剣の探索をに命じた。範頼は、京を出て下関に向かい。探索を行ったが、下関海峡は潮流が激しく、海底の潜水が困難で宝剣は地上に上がることはなかった。

 義経が、京に滞在してから十日以上経ち、事件は何も起こらずに、日が過ぎていった。義経は、五月七日に捕虜を連れとともに鎌倉に向って出発した。だが、義経が鎌倉に向かい平安京を出てから一か月間。何も起こらなく怨霊は、闇の中で息を潜めていた。何も起こらないことに六衛府の兵たちは弛み、警備に手を抜く者が増えてきた。

更に、八日が過ぎた頃。六月十五日 もち月。誰もが怨霊騒ぎを忘れ六衛府の者たちもダラダラと手を抜く者が増え、下っ端の兵士だけで平安京の町を巡回していた。

 この日は、昼頃にが降り、土を湿らせたが、直ぐに止み水分は蒸発し暑さが増した日であった。空は茜空になり、人々は風を求めて鴨川の床涼みをする者や縁側で風鈴の涼しげな音を聞きながら一夜酒を飲む者。人々は怨霊のことなど、すっかり忘れて優雅に遊び惚けていた。幼いの代わりに摂政をしている兼実までもが、遊び惚けている。それを見た下の者たちは、完全に氣が抜け警戒心がなくなっていた。

だが、茂子の心は煮えたぎり、また、副作用の一氣に老けて右目に青タンが出てきた。そして、魔性の姿に覚醒しようと闇の者たちを引き寄せて力を蓄えた。

 そして、日輪が山に隠れ、日勤の兵と夜勤の兵との交代時間であった。

 「ご苦労様です」

 日勤の兵と夜勤の兵が、勤務を交代した。

 「今晩も何も起こらないだろう。まぁー。適当に! 適当に! 子四つは下っ端に行かせば、いいだろう」

 この騒動から兵の増員と夜間の巡回の回数を増やしていた。巡回は、戌四つ。子四つ。卯一つであった。だが、兵たちは、子四つ時は丑三つ時まで時間がかかり、兵たちが嫌がる者が多く、巡回は行なっていなかった。が終わり、緊張感の糸が切れたのか、こんな会話が日常的に使われて、兵の間にもんでいた。

 その夜。茂子は、蒸し暑い最中ひとりりを締め切った暗い部屋の中で、父・義重から預かった懐刀を眺めていた。刀身に茂子の顔が映り、懐刀は茂子の心と顔を映していた。その顔は、人間の顔ではなく恨みに満ちた般若のようなしい顔になっていた。

 その父から預かった懐刀は、平家の武将たちの首を落とした懐刀で、懐刀には既に平家の血やで討ち取った武将の血が染み込み、既に懐刀には怨霊が住み込んでおり、平家の怨霊を導くかのように怨霊を呼び込み、茂子の中に憑依した怨霊も懐刀の一部となり妖刀となった。

 その夜は、満月で晴れ渡り、いつもの夜よりは、明るっかた。夜は深け人々は深い眠りにつき、闇の者たちは、京の町を魔の世界に変えて妖怪や物の怪の類が、楽しそうに練り歩いていた。

 茂子は、蒲団の中で泣いていた。悲しみが段々と怒りになり怒りが増し、理性がなくなった。そして、茂子は怨霊に支配され蒲団の中で魔性の姿になり、茂子の體は二倍以上なり屋敷のよりも大きくなった。茂子は、蒲団から體が食み出ていた。

 そして、屋敷の者たちは深い眠りについた頃。茂子は、丑三つ刻に魔性の姿になり、父から預かった懐刀を携え白装束を着込み、茂子は人目さける為に、明子の被衣を頭から被り屋敷の築地塀を一飛びで超えると、東西に通る三条大路に出た。三条大路を東に走り、富小路に出るや南に下がり走りだした。茂子は、被衣に染み込んだを漂わせ風を切って走り、辺り屋敷の松の木が、風でザワザワと音を立てていた。この世に恨む心が、この世の者でないような、太く何重にも重なった声が、悍しく呻き平安京に響き渡った。

 「おい! 何だ。今の鳴き声は?」

 その頃。下っ端の兵衛が、丑三つ刻を避ける為に早めの巡回にでていたが、思ったより時間が掛かり大内裏のに駆け足で向かっていた。そして、と八条大路が交わるところに巡回中の兵衛が、奇妙な声が聞こえた方向に振り返った。

 兵衛が振り返った途端に、突風が襲い土煙に目を瞑りながら顔を背け、手で目を保護し、突風が収まるのを待っていた。

 「なんて、凄い風だなんだ……。松明が消えた。火を点けよ!」

 辺りが松明の火で、お互いの顔が分かるほどの明るさになり、兵衛の一人の男が、仲間の一人に声をかけた。

 「ん? ! 顔から血が、出ておりますぞ!」

 「も首から血が、出ておりますぞ!」

 山名と安達の他にも血を出している者が、十人全員であった。

 「突風で、何かに摩れて切れたんであろう」

 山名は、頬から出た血を手拭いで拭った。

 「あれ!」

 山名の固い兜ごと切られ、頬から上の部分が滑るようにして地面に落ちた。

 「頭がない。どこにいった。ない。ない!」

 山名は頭部を切られて死ぬところか、頭部が無くなった體は、あたふたとして、無くなった頭部を手で探していた。その山名の姿に吃驚し逃げ出そうとしたが、前に進むことができなかった。首から血を出していた安達の首が落ち、他の兵衛も鎧ごと鋭い刃物で切られていた。胸や腹から切られる者、胴體と下半身が離れていた。

 「どうなっているのだ!」

 切られた者たちは、絶命するどころか生きて話すこともできた。たが、足が無くなり上半身だけになり動くことができずに、その場に残された。

  ザワザワッ。ザワザワッ。

 「何かが、いるぞ!」

 安達の首は、横に転がった儘、松明の光りが届かない闇を、目を凝らし見ていた。

 「何かが……」

 ザワザワッ。ザワザワッ。

 音が段々と近くき寄り、緊張が高まり恐怖に変わった。

 ザワザワッ。ザワザワッ。

 遠くて聞き取れない音が、近くになる程に、はっきりと聞こえた。

 「美味しそうな人間の肉が落ちているぞ~。クククククッ」

 その声が、耳の側で声がすると、回りには人間の血に誘われた魑魅魍魎が、人肉の回りで涎を垂らし遣ってきた。兵たちの下半身は、上半身を残して逃げ出した。

 「第二の脳が逃げたぞ! あれを食べれば精がつく」

 「俺は、脳味噌がいいぞ」

 「俺は、肝臓がほしい」

 「俺は、心臓がいい。弾力があって、一番の好物だ」

 たちが、それぞれの部位を決めると飛びかかり肉や内臓に群がった。

 魔性になった茂子は、左京九条四坊十二町にある九条兼実邸の門の前に立っていた。の兵を切った刀身には、べっとりと血がついていた。その血が、刀身に吸収されるかのように消え冷たく無氣味な光りを放ち鋼の強度も増していた。茂子は鞘に収めると、大きな口を開けて、懐刀を丸ごと飲み込んだ。其処に立っている茂子は、目は見開き、口は裂け、髪は乱れ、小柄な茂子であったが、其処にいた茂子は、七尺もある大女になっていた。身も心も怨霊に支配をされて、茂子のは全く残っていなかった。茂子は、屋敷の外をぐるりと回り屋敷の中の様子を伺うと、を飛び越えた。

 屋敷の中の主屋は、な木造平屋の寝殿造り、寝殿の中心には主の兼実の起居の場を中央に造り、その東の対・西の対・北ののがあり、その対の屋に家族が生活の場であった。寝殿と対の屋が廊続きで、敷地内には大きな庭園があり池のほとりには釣殿があった。その広い屋敷の中を野獣のような嗅覚で、若い道子の匂いを嗅ぎ分けた。怨霊になった茂子は、道子の寝ている御寝の間に向かった。

 道子は氣配に氣づき目を開けた。

 茂子、道子の口に手をあてて、また道子は眠りに入った。

初めて小説を書きました。最後まで読んでもらえば嬉しいです。宜しくお願いします。

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