第1話 守りたいもの
街という華やかさからは切り離された辺境の村ラウタッカ。
そこで15年間暮らしていた少年ラスティ・ラストゥール。
辺境の村ゆえに村民の数は非常に少ない。
ラスティには友達が1人もいなかった。
もしも友達を欲するなら「好きだよ!」その言葉を素直に相手にぶつけなさい。
そう教わって生きてきたがその機会にはまだ恵まれていない。
村には同年の子供がほとんど居ないのである。
少数の幼き子は居たが近年生まれたばかりの言葉も持たぬ者たちだった。
ラスティは優しい両親と3人暮らしだったが、近ごろ流行り病で床に臥せってばかりいた。
両親はラウタッカで代々にわたり道具屋を営んでいた。
ラスティの身体は呪いに侵されていて余命幾ばくも無いと囁かれていた。
呪いは彼の生命力を喰らい蝕み、彼は今や虫の息だった。
◇◇
「ラスティさえ生き延びてくれるなら、なんだって出来ます! 長老、許可を!」
「本当にあれをやるのか? ラスティが目覚めたらさぞ悲しむぞ?」
「もう時間がありません。私たちはあの子なしでは生きられませんっ!」
「おぬしらの後を追うと言い出すやも知れんぞ?」
「為せば成る、為さねばならぬ何事も! 長老がお守り下さると信じています」
「長老様……あとはお頼み致します!」
ラスティの両親は悲痛の想いを漏らし、決意を露わにする。
2人と向き合う長老の瞳に力がこもった。
「それも止む無しじゃな。よし認めよう!」
大人たちは何かを決意した様子。
「長老のご英断に感謝します」ラスティの両親はそう言い、目頭を熱くした。
長老の御前で片膝をつき、深々と頭を下げ、礼を尽くす。
「採庫のカギを使用することを特別に許す。さあ、その決意が揺らぐ前に!」
頷き決然と立ち上がる2人。父親は託されたカギをその手に握りしめた。
2人は長老宅の窓から自宅の方を気にした。
そして顔をぶるっと振ると互いの名を呼び合い、手を取り合った。
2人は長老より託されたカギを譲り受けると、すぐさま前方に掲げた。
その場に白き扉が出現し、決意に満ちた2人はその扉の向こうへと姿を消した。