番外編 ASMR体験 魔王ママに耳かき
(部屋のドアが静かに開く音)
「ランシェ、いるか?」
「…なんだ、薬草の調合か。熱心だな」
(シェリスが部屋に入り、ランシェのそばまで歩いてくる足音)
「ふむ…これは何の薬だ?いい匂いがする」
「…そうか。安眠効果のある薬か。お前らしいな」
(短い沈黙。衣服が擦れる、かすかな音)
「…ランシェ」
「少し、話がある」
「母さんは…近いうちに、またここを離れなければならない」
(薬草をすり潰す、すり鉢の音が止まる)
「…そんな顔をするな」
「前に、祭りの夜に約束しただろう。必ず帰ってくると」
「お前の兄や姉も理解してくれている。お前も、もう小さな子供ではないのだから…」
「…そうは言っても、寂しいか」
「…そうだな。すまない」
(優しいため息)
「…そうだ。お前がそんなに寂しい顔をしていると、私も落ち着かない」
「こちらへ来い」
「出発する前に、最後に母さんがお前の耳を綺麗にしてやろう」
「ほら、ここに」
「そう、私の膝に頭を乗せてごらん」
「…よしよし。いい子だ」
(衣擦れの音、小さな道具を準備するカチャリという音)
「じっとしていなさい。少し、くすぐったいかもしれん」
「大丈夫。母さんが優しくやってやるから」
「まずは、右の耳からだ」
(耳元で耳かきが耳にそっと触れる感触)
「…うん、少し汚れているな。綺麗にしよう」
(カリ…カリカリ…と、壁を優しくかく音)
「痛くないか?…そうか、良かった」
(サリサリ…サラサラ…と、小さなゴミを集める音)
「お前はいつも静かだな」
「そういえば、アガサ先生から少し聞いたぞ」
「お前が少し寂しがり屋で…友達の輪に入るのが苦手だとな」
「…そうか。やはり、そうなのか」
「別に、無理をする必要はない。母さんも、昔はそうだった」
「くだらん連中と、無理に群れる必要などないのだ。お前が心から共にいたいと思える相手がいなければ、一人でいる方がよほどいい」
「お前は私の娘だ。もっと誇りを持て。友はお前が選ぶのだ。選ばれるのではない」
(ふーっ…、ふーーっ…と、温かい息が耳に吹きかかる)
「仕上げに、このふわふわので掃除してやろう」
(梵天が耳の中で、ふわ…さわさわ…と、優しく撫でる音)
「ふふ…どうだ、気持ちいいだろう」
「よし。右の耳はぴかぴかになったぞ」
「じゃあ、次は反対側だ。ゆっくり、こっちを向けるか?」
(寝返りを打つ、衣擦れの音)
「そう、上手だ」
「では、左の耳も綺麗にしよう」
(再び、耳かきがそっと触れる感触)
「…なんだ、この耳のことか?」
(シェリスの指が、ランシェの尖った耳の先に、そっと触れる)
「母さんがエルフを嫌っているから、この耳も嫌いなのではないかと、そう思っているのか?」
「…馬鹿なことを」
「私がお前の耳を嫌うわけがなかろう」
(カリ…カリ…と、再び優しく耳をかく音)
「いいか、ランシェ。よく聞け」
「この耳は、他のエルフの耳とは違う」
「私の、愛しい娘の耳だ」
「…特別で、何よりも綺麗な耳だ」
「ダッシュ、ローラン、そしてクルイの耳も当然」
「私の最愛の耳だ」
「お前たち四人は皆、私の宝物だ」
「だから、私に嫌われたなど…一瞬だけでも考えるな」
「天地がひっくり返ろうと、そんなことはあり得ん」
(コリ…と、小さな塊が剥がれる音)
「よし、取れた」
「ふーっ…」
「さあ、こちらも、ふわふわで仕上げだ」
(梵天がさわさわ…ふわふわ…と、耳の中を撫でる音)
「もう、何も心配するな」
「…よし、終わりだ。両方ともすっかり綺麗になったぞ」
(道具を置く、小さな音)
(優しく、頭を撫でる手つき)
「ランシェ」
「…母さんが、ここにいなくても…お前の母であることには、変わりない」
「必ず、必ず、また帰ってくる」
「だから、そんなに悲しい顔をするな」
「笑って、母さんの帰りを待っているがいい」
「約束だ」




