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エルフの“奥様”は、世界最強の魔王様でした  作者: XMEGA
第一章 エルフの森の魔王様
65/78

65、激震の女神祭 そして、もう一方

 護衛隊長の極度の恐怖によって歪みきった絶叫が、最後の藁のように評議会ホールにいた者たちの崩壊寸前だった意志の堤防を完全に打ち砕いた。


 時間はまるで凝固したかのようだ。あの歪んだ空間、荒れ狂う闘気、恐るべき威圧、そして老兵の顔に浮かぶ骨の髄まで染み渡った決して偽りではない絶望…。その全てが氷のように冷たく、シェリスの言葉の真実性を証明していた。

 マータ公爵家の護衛隊長、あの元エルフ騎士団の精鋭でさえこう断言するのだ。もはや疑う余地などどこにもない。彼女は本当にこのエルフの王国を瞬時にして滅ぼす力を持っているのだ。


「どさっ」

 ある年老いた貴族が膝から崩れ落ちもはや体を支えきれず、椅子へと頹然と倒れ込み、鈍い音を立てた。その目は虚ろに前を見つめ唇は音もなく震え、まるで一瞬にして全ての生気を抜き取られてしまったかのようだった。誰かが無意識に口を覆い喉の奥から込み上げてくる嗚咽を押し殺す。さらに多くの貴族たちがまるで目に見えない巨槌に打ち据えられたかのように魂を失った様子で、次々と席に崩れ落ちていく。重い体が椅子に叩きつけられ連続した鈍い音が響いた。


 評議会ホールは死の静寂に包まれ、先ほどまでの団結した悲壮な雰囲気は跡形もなく消え去り、そこにはただ果てしない絶望と骨の髄まで染み渡る恐怖だけが残されていた。呼吸さえも慎重になり、ほんのわずかな物音でさえ再びあの破壊の視線を招いてしまうのではないかと恐れていた。もはや誰も椅子の前に立つ、あの終末の気配を放つ人影を見上げることさえできない。エルランは顔面蒼白になり、その体はまるで篩にかけられたかのように震え、先ほどの鋭い疑念はとうに粉々に砕け散っていた。


 主賓席に座る長老、エルフ族の最高の知恵と尊厳を象徴するあの老人も今やその体を丸めていた。わずかに震えている。その濁った視線はいかなる実体にも焦点を結ばず、ただあの歪んだ空間を通り抜け、分厚い壁を通り抜け、まるで月の光に優しく包まれた森の奥深くを見ているかのようだった――

 彼は見た。月光の下、小さなエルフの子供たちが夜光茸に飾られた林の中の広場で追いかけっこをし、その澄んだ笑い声が銀の鈴のように森の中に響き渡るのを。彼は見た。若い母親たちが古い木の根に座り微笑みながら走り回る子供たちを見つめ、その目には優しさだけが満ちているのを。彼は自分自身を見た。かつて生命の古木の下に立ち、一人一人の生まれたばかりのエルフの赤子に最も敬虔な祝福を捧げ、その指先に宿る生命の光をそっとその幼い額に点じたのを…。あの輝く瞳、無邪気な笑顔、そして森の中で数え切れぬほど安らかに眠る生命たち…。


 彼が生涯をかけて守ってきた森。彼が祝福した数え切れぬほどの命…。まさか今日この日自分自身の頑固さのために、あの虚ろな誇りといわゆる守護の誓いのために、完全に粉々になり、魔王の怒りの炎の中で消え去ってしまうというのか?


「残り五分だ。お前たちは五分後に森の半分と共に消え去るか? それとも今すぐ森全体と共に消え去るか? あるいは大人しく私の問いに答えるか? これが最後の警告だ」

 シェリスが時計を一瞥する。エルフたちに残された時間は既に半分が過ぎ去っていた。


 長老の体が激しく震えた。まるで目に見えない電流に打たれたかのようだ。その唇は震え何度か開かれたがまた力なく閉じられた。最終的に彼は全身の力を振り絞り、ようやく乾ききった喉の奥から枯れた声を絞り出した。

「ま…魔王…閣下…」

 その一言一言が千の重みを持ち、まるで魂が引き裂かれるかのような苦痛を伴っていた。

「もし…もし我らが…あの秘密を…貴女に話したなら…」

 彼は一呼吸置きその濁った老いた目から涙がもはや抑えきれなくなり、音もなく深い皺の刻まれた頬を伝い落ちた。

「き、貴女は…本当に…我が同胞たちの命を…見逃してくれるのか?」

 彼は固くシェリスを見据えた。まるでその人生最後の力を振り絞りこの唯一の僅かな希望にしがみつこうとするかのように。


 全てのエルフ貴族が息を呑んだ。その絶望的な視線が全てシェリスの上に集中する。


 シェリスのその身に纏う荒れ狂う破壊の闘気がまるで引き潮のように、瞬時に収束した。あの歪み引き裂かれていた空間の光景も素早く元に戻り、正常な状態へと回復した。ただ床に広がる亀裂とひっくり返り砕け散った椅子だけが、先ほどの恐るべき光景が幻覚ではなかったことを音もなく物語っている。

 彼女の顔から暴怒と獰猛さも消え失せ、再びあのほとんど完璧な静けさを取り戻し、その口元にはどこか有るか無きかの弧さえ残っていた。

 彼女は長老のあの涙に濡れた懇願に満ちた瞳を見つめ、いかなる余計な約束もいかなる偽りの慰めもなく、ただはっきりと言葉を紡いだ。

「私は約束を破れん」

 その声は高くはない。だがそこには奇妙な疑う余地のない氷のような力が宿っていた。それは慈悲の保証などではない。むしろ高位の者が蟻けらに対して自身のルールに基づいた一方的な宣告のようだった。


 長老の体が激しく震えた。まるでその言葉に最後の支える力さえも抜き取られてしまったかのようだ。彼は目を閉じ二筋の濁った涙が音もなく流れ落ちる。しばらくして彼は再び目を開き、その眼差しにはただどこか麻痺したかのような決意だけが残されていた。彼は深く息を吸いその一息がまるで彼に残された全ての命を使い果たしたかのようだった。

 彼はマータ公爵を見た。他の顔面蒼白の貴族たちを見た。その視線には音のない別れと重い託付が含まれている。マータ公爵は首を横に振った。もはや彼にもいかなる手立てもなかった。


 最後に長老はシェリスの方へと向き直り、その人生最後の力を振り絞り丸まっていた背筋を伸ばした。

「よろしい…。ならば…話そう」

 その声は嗄れ重く、その一音一音がまるで自分自身の魂を引き裂いているかのようだった。


 ♦


「ふぅ…花火やっと終わったね」

「編集長、すごい張り切ってたね。でも、あれだけやったら魔力も相当使ったんじゃないか? なあダッシュ、明日あたりマジでベッドから動けなくなって、僕たちに面倒見させる気かもしれないね~」

「それ、本気でありえそうだから、怖いんだけど…」


 三十分も続いた花火ショーがようやく終わった。子供たちはどこか物足りなそうに近くの屋台で買った軽食を食べながら楽しげに語らっている。特にダッシュとキアナは花火ショーの主導者であるラルヴィの性格をよく知っている。あの怠け者の大人が次の日ベッドの上で廃人になっている可能性は十中八九だろう。もっとも彼女は普段から廃人と大して変わらないのだが。


「ローラン様! ご覧ください! 今撮ったばかりのお写真ですわ! 花火×月光×ローラン様、これこそまさに最も完璧な構図の公式! 必ずや一生大切に保管し毎日これをおかずにご飯をいただきますわ!」

 ソラもローランのそばで興奮した様子で、彼女が今しがた魔法の記録機で撮ったばかりのローランの写真を見せびらかしている。ローランは花火にあまり興味がなかったためショーの間ずっと無表情だった。ソラが撮った写真もどれも大差なく明らかな違いは見られない。だがそれでもソラは優に百枚以上は撮っていた。ローランもソラのこのどこか病的な愛情表現に少し慣れてきており、ただ苦笑いを浮かべて受け流している。


「ん? お袋は?」

 だが皆がその場を離れようとした時ローランは不意に一つの問題に気づいた。母親のシェリスがいつの間にか姿を消していたのだ。花火を見る前は確かに子供たちの後ろにいたはずだ。花火が打ち上がった時母親とソラが何か話しているのが微かに聞こえたが、花火の爆発音でその内容はよく聞き取れなかった。そして気づいた時にはソラは自分のそばにいて母親はいなくなっていた。


 前もって打ち合わせていた通りクルイがすぐにフォローを入れた。

「あ、ああ…お母さんなら…便所へ行っている」

「便所?」

 ローランはどこか奇妙な答えを返した父親を訝しげに見つめ、そして自分の反対側へと視線を移した。

「便所ならすぐそこにあるけど?」

 彼らが花火を見ていた場所から二十メートルも離れていない場所に小さな公衆便所があった。ここから彼らのいる場所まで歩いて一分もかからない。そしてその公衆便所の扉には全て「空室」と書かれた札がかかっていた。


「あ……」

 そのことを全く考えていなかったただ口から出任せを言っただけのクルイは、瞬時に言葉を失った。今から何か言い繕おうとしてももう遅い。


「シェリス様なら先ほど私の父がどこで会議を開いているのかとお尋ねになって、それからいなくなりましたわ…。本当に不思議ですわね。シェリス様はどうしてそんなことをお聞きになったのかしら…?」

 ローランの言葉を聞き、ソラも今更ながら先ほどの自分とシェリスの会話にどこか奇妙な点があったことに気づき、不思議そうに首を傾げた。その言葉を聞きローランはすぐに問い詰めた。

「ん? お前の親父も近くに来てるのか?」

「ええそうですわ。ただ父は私と一緒ではなく重要な会議がある、と申しておりました」

「それでお袋にそれを教えたのか?」

「はい。何しろローラン様のお母様のご質問ですもの。お答えしないわけにはいきませんわ…。私の父は村の西にある迎賓館にいるとお伝えしました。私シェリス様にその方角も指し示してご覧にいれましたわ」

「どこだ?」

「あちらですわ」

 そう言うとソラはかつてシェリスに方角を指し示した時と同じように、迎賓館の位置をローランに指し示した。


 わずかに考えた後ローランは決断を下した。

「お袋そっちへ行ったのかもしれないな…。親父、兄貴、お前たちはソラとランシェを見ててくれ。あたしがお袋を探しに行く」

 母親が再び何も言わずにいなくなってしまうことを心配しているのか、あるいは何か別の懸念があるのか。ローランは自らシェリスを探しに行くと言い出した。そして父や兄が返事をするのを待たず逸る気持ちを抑えきれない様子で歩き出そうとした。


 事態が露見する寸前クルイは慌てて大声で叫んだ。

「待て! 行くな!」


 ローランは普段あまり父親の言うことを聞かないわがままな娘だ。だが父親のこれほど焦った緊張した、そしてどこかあまりにも唐突な叫び声にローランは足を止めた。彼女だけでなくダッシュ、ランシェ、キアナ、そしてソラさえもが呆気に取られていた。普段のクルイは温厚でいつも笑顔を絶やさない。とても優しい男だ。決してこのように子供に大声で怒鳴りつけるようなことはしない。


 父親の叱責にローランは一時足を止めただけだった。すぐに彼女はゆっくりと振り返り探るような目で父親に問いかけた。

「…親父…。その口ぶりだと…。お袋どうやらただ便所に行ってるだけじゃなさそうだな?」

 ローランの鋭い視線が罪悪感に苛まれる父親を観察する。その胸中には既に自分なりの答えが浮かんでいた。

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