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エルフの“奥様”は、世界最強の魔王様でした  作者: XMEGA
第一章 エルフの森の魔王様
52/78

52、一人ぼっちの末っ娘

 直接この目で見たわけではないが、ローランはずっと感じていた。母親のシェリスは絶対にただの強者ではない、と。エルフ騎士団の一員になるため、ローランは昼夜を問わず必死に自分を鍛えてきたが、それでも母親とは比べ物にならない。母親が今日のこの境地に至ったのは、ただ単に手練れの者たちと手合わせを重ねてきたからだろうか? ローランはそうは思わない。

 それに加え、先ほどの母親の発言が、ローランのその確信をさらに強固なものにした。


「お袋、あんた、人を殺したんだろ…? そうなんだろ?」

「……なぜそう思う?」

 シェリスはすぐには認めず、ローランもすぐに自分の分析と見解を説明し始めた。

「お袋が前に言ってたじゃないか、喧嘩する時は相手を殺すつもりでやると。それに、あたしがレストランのマネージャーとそっくりの男に会ったって話を聞いた後、お袋、すぐにエルフの森に死者を蘇らせる魔法があるかって聞いた…。それってつまり、あんたがあのマネージャーを殺したから、死者が蘇らない限り、彼が二度とあたしを襲うはずがないって意味じゃないの? あの日、忘れ物したからってレストランに戻ったのも、口実だったんでしょ…。あの時間、お袋はあのマネージャーを殺したんだ…だからあのマネージャーが行方不明になった、っと」

「フン………」

 ローランの推測は、実に的を射ていた。シェリスは思わず感嘆する。ローランはさすが自分の娘だ。戦闘の才能が自分と同じく優れているだけでなく、観察力と分析力も、見事に受け継いでいる。

 だが、ローランはなぜ自分にそんなことを言うのだろうか? シェリスはあっさりと認め、そして探りを入れる。

「その通りだ。私はあの日、確かにあのマネージャーを殺した。奴だけではない。十一年前、我々を襲ったあの五人の仮面の男も、私が殺した。あの時、お前とお前の兄に見せなかったのは、あまりにも血生臭く暴力的な光景が、お前たちに悪い影響を与えるのを避けたかったからだ…。どうした? 我らが偉大なる騎士団予備メンバーのローラン様は、大義のために親を滅し、母親が犯した殺人罪を当局に告発でもするつもりか?」

「ち、違う…。そんなこと、できるわけない…」

 母親がどこか皮肉っぽく自分を嘲るのを見て、ローランは慌てて手を振って否定する。彼女が母親に殺人の有無を尋ねたのは、最初から母親を告発するつもりだったからではない。彼女は、ただ一つの問題を確認したかっただけなのだ。

「お袋、十一年前のあの仮面の男たちを殺したってのは理解できる…。でも、なんであのマネージャーを殺したんだ? あいつ、何かしたのか? あたしには、全然わからなかったんだけど?」

「それはだな…」

 当時シェリスは意図的にこの件を隠していた。ただ、この件がこれほど早く次の事件に繋がるとは、思っていなかったからだ。今、新たな状況が発生した以上、彼女ももはや黙っているつもりはない。ローランには、真相を知る義務がある。

「あの時、あの男は我々四人のケーキに毒を入れていたのだ」

「え……毒を!?」

「致死性の毒ではなかったがな。だが、たとえお前でも、その場で意識を失い、深い昏睡状態に陥ることは免れなかっただろう。ましてや、ソラやその母親なら尚更だ。あのマネージャーが決して善意でなかったことは、それで十分わかるだろう。私も最初は殺すつもりはなかった。なぜそんなことをしたのか、誰の指示なのか、奴を問い詰めたのだ。だが、奴は死んでも口を割らなかった。ならば私も、彼のその忠節を全うさせてやり、黄泉路へと送ってやるしかなかったというわけだ」

「そ、そうだったのか…。お袋が、あたしたちがケーキを食べるのを止めて、全部自分で取ったのは、そういう理由だったんだ…。どうりで、お袋がただ食い意地が張って人の食べ物を奪うようなヤツじゃないとは思ってたけど…」

 こうなると、あの日の晩餐の最後に見せた母親の異常な行動も、筋が通る。当時ローランは、この裏には何か事情があるのだろうと感じていた。今思えば、やはりその通りだったのだ。

 だが、それに伴い、また一つ新たな疑問が浮かび上がる…。

「でもおかしいじゃないか? お袋、あの時そのケーキ四つとも食べたんだろ? もし毒が入ってたなら、なんであんたは平気なんだ?」

「私の体はあらゆる毒素とウイルスを無効化する。この世に私を倒せる薬など存在しない」

「……はは」

 自分のこの母親は、昔からこうだ。どこをとっても人を驚かせ、まるで無限の秘密を持っているかのようだ。母親の能力を勝手に推し量っていた自分が、あまりにも視野が狭かった。ローランは今、シェリスがなぜあれほどローランの送迎を自ら買って出たのか、ようやく理解できた。もしかしたら、この世界に本当に、母親にとって不可能なことなどないのかもしれない…。そう思うと、ローランは笑うしかない。彼女は幼い頃から家族を守ると誓ってきたが、結局のところ、自分は母親に守られていたのだ。

 彼女はそれを恥だとも、悔しいとも思わない。ローランは、自分が力の及ぶ範囲で最善を尽くし、限界までやったことを知っている。母親シェリスは、根本的に想像を絶する怪物なのだ。彼女と比べられないのも仕方がない。それはまるで、一個人が、古の時代に世界を滅ぼしたあの小惑星と自分を比べるようなもので、全く無意味だ。人間は、天災に抗うようにはできていない。それは、努力するしないの問題ではない。たとえローランも、シェリスをそう形容するのは多少大げさだと思っていても、シェリスが与えてくれる安心感と信頼感は、それほどまでに確かなものだった。

 ローランは、シェリスが自分の母親で本当に良かったと心から思う。もし敵だったなら、ローランは本当にどうやって彼女と戦えばいいのか、全くわからないだろう…。

 だが、それはあり得ないことか。ローランは余計なことを考えるのをやめ、非現実的な考えを振り払った。ただ、母親にこう言った。

「あんたがいてくれて、本当によかったよ、お袋」

 シェリスはただ冷ややかに微笑んだ。それ以上は答えず、手元の服の裁縫を続ける。リビングには、ミシンの踏み板の「ギシギシ」という音だけが響き渡る。


「……………」

 しかし、二人が全く気づいていない場所で、一対の瞳がある部屋のドアの隙間から外を窺っていた。先ほどの二人の会話の全過程を目撃していたのだ。言うまでもなく、彼女たちが議論していた内容も、全てはっきりと聞こえていた。

 シェリスとローランが和やかに話している様子を見て、末娘のランシェの心に、誰にも知られていない感情が芽生えていた。


 ♦


 姉と一緒に襲われた関係で、今日の朝早く、母親は姉のローランと一緒に家を出て行った。末妹のランシェは、長男のダッシュに学校まで送ってもらうことになった。兄が嫌いというわけではないが、ランシェの気分はどうしても晴れない。

 通学路を歩きながら、ランシェはずっとうつむいて地面を見つめている。彼女は自分の表情を兄に見せなかった。その瞳にきらめいているのが、いったいどんな感情なのか? 兄のダッシュにも推し量ることはできない。

「ランシェ…。大丈夫か?」

「………心配してくれて、ありがとう、お兄ちゃん」

 たとえダッシュが心配して彼女の様子を尋ねても、返ってくるのはランシェの、ほとんど何の感情もこもっていない、か細い返事だけだ。ダッシュは昨日ランシェを迎えに行ったローランから、ランシェが放課後、非常に落ち込んだ様子だったと聞いていた。理由を尋ねても彼女は話さない。あの強気なローランでさえ聞き出せない答えを、ダッシュが聞き出せる自信は、さらになかった。

 ダッシュは知っている。自分のこの末の妹、ランシェは、幼い頃からほとんど自分の心を閉ざしており、たとえ家族と普通にコミュニケーションが取れても、それは最低限のレベルに留まっている。ましてや、他人と付き合うことなど。ダッシュは、ランシェに今まで一人の友達もいないことを知っている。主体性が非常に強いローランとは違い、ランシェはどちらかというと、流れに身を任せるような子供だ。彼女は自分の意見を述べず、ただ他人の指示に従って機械的に自分の仕事をこなす。まるで、好きに操られる人形のようだ。誰かが話しかけなければ、彼女は一人静かにそこにいて、自分の悩みを誰にも明かさない。これは良いことではないが、ダッシュにも、誰がランシェをこの桎梏しっこくから導き出せるのか、思いつかなかった。

 どうしようもないとは思いつつも、今自分がしてやれるのは、ただ長兄として、傍らで静かに彼女を見守ることだけだ。いつかランシェが、明るく、活発になってくれることを願って。


 ……


「じゃあ、ちゃんと授業受けるんだぞ、ランシェ。放課後になったら、またお兄ちゃんが迎えに来るからな」

「うん。お兄ちゃん、またね……」

 ランシェを小学校の校門まで送った後、ダッシュは少し言葉をかけると、休む間もなく自分が通う第三高校へと急いだ。

 そしてランシェは、黙って兄が去っていく後ろ姿を見つめる。その青ざめた顔に、再び一筋の闇が差した。

「あたしが消えちゃえば、みんなにとって、その方がいいのかな……。どうせ、誰もあたしのことなんて、気にしてないもん…」

 誰も気づかない場所で、ランシェは固く拳を握りしめた。

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