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5、調査する魔王

「ふん …… 次は …… あちこちぶらぶらしてみるか」

一人になったシェリスは次の行動について考え始めた。

子供たちは皆学校へ行き、クルイも畑仕事へ行った。今、家には誰もいない。自分が帰っても、特にやることはない。

この機会に、シェリスはこの町をよく観察してみることにした。ついでに、この森に関する機密情報が見つからないかどうかも見てみよう。

魔王として敵情視察に来ることも、彼女が今回帰省した目的の一つである。

しかし、彼女は明確な目標がまだ見つからない。ただ散歩のように、目的もなくぶらぶら歩き回る。できるだけエルフの数が多い地帯へ行くようにする。

歩いているうちに、シェリスは荘厳で神聖な建物の前に来た。建物は高い塀で守られており、巨大な鉄の門が唯一の出入り口。怪しい雰囲気が漂っている。

「ここ … 秘密の匂いがするな。もう少し観察してみるべきか … 」

「おい!そこの!」

シェリスがこの建物をさらに調査しようとした時、厳しい声が彼女を止めた。シェリスが振り返ると、鎧を着て長い槍を持ったエルフの兵士が歩いてくる。彼はシェリスをじろじろと見て、尋ねた。

「お前、エルフ族じゃないな?なぜ我々の森にいる?」

「私の夫がエルフだ。結婚した時に出入国許可の登録をしたから、結界は私を止めなかった」

シェリスは冷静に答え、左耳の耳たぶについたエメラルドのイヤリングを衛兵に見せる。エルフ族の習慣によれば、既婚の女性エルフは夫から贈られたエメラルドの装飾品を婚約記念と配偶者がいる印として身につける。それは人間が指によって異なる意味を持つ指輪をつけるのと似たようなものだ。同時に、エルフと結婚した異種族の者が親族訪問をしやすいように、エルフと結婚した者は入籍と同時に入国許可も登録する。これにより、外敵を阻む結界はエルフの配偶者を持つ者には効かなくなる。これが魔王であるシェリスがエルフの森を自由に出入りできる理由。

「そうか … それで、ここで何をしている?」

「別に、ただ見てるだけだ」

「見終わったらさっさと立ち去れ。ここは貴族の方々が集会を開く場所だ。一般庶民が近づくべきところではない」

「貴族か … ?ああ、なるほどね」

どうりでここに衛兵が見張りをしているわけだ。すなわち、ここはエルフにとって非常に重要な場所に違いない。彼女は建物を一瞥し、不気味な笑みを浮かべる。

「わかった、兵士さん。立ち去ることにしよう」

そう言うと、シェリスは身を翻して去っていった

「 …… 」

大通りを歩きながら、シェリスは自分の計画を練る。自分はエルフの森を自由に出入りできるが、自分の部下たちは決して通ることができない。エルフの森を攻撃することはすでに決定しているが、どうやって部下の軍隊を結界の保護を突破させるか、今のところシェリスには見当もつかない。しかし、さっき訪れた場所はエルフの貴族たちが集まる場所。あの貴族たちは結界に関する何らかの秘密を知っているかもしれない。エルフの貴族たちを狙える場所があることを知っただけでも、今回の調査行動は収穫があったと言えるだろう。

「でも今日はあの貴族たちはここに来ていないようだ … まあいい、日を改めてまた来よう」

調査時間はもう終わり。これからは、レジャータイムだ。

「クルイと子供たちが帰ってくるまでまだかなり時間がある … あちこち見て回るか」

せっかく帰ってきたのだから、エルフの森の今の発展状況をもっと知っておくべきだとシェリスは思う。

歩いているうちに、彼女は商店街のような場所に来た。通りの両側には様々な種類の店が軒を連ねている。買い物、食事、娯楽、何でも揃っている。

「そこの奥さん、布地はいかがですか!」

「ん?」

絹織物店を通りかかった時、店先で呼び込みをしていたエルフがシェリスを呼び止めた。シェリスの耳にあるエメラルドのイヤリングを見て、彼女がエルフと結婚した女性だと知り、店主はシェリスに自分の商品を売り込んできた。

「うちの布は全部上等な良い布ですよ。服を作るにも、布団やカーテン、シーツにするにも、一番ぴったりですよ!奥さん、少し買って帰って仕立ててみませんか?」

「 ………… いくらだ?」

「高くないですよ、一尺でたったの三十エルフコインです!」

「 ……… よし、買う」

「毎度ありがとうございます!」

シェリスは熟考の末、少し布地を買うことに決めた。せっかく外出したのだから、手ぶらで帰るのもあまりにも残念だ。それに、夫であるクルイは貧乏だから、家の中を少しでも豊かにするのも彼女の役目だ。

「奥さん!化粧品はいかがですか!」

「 …… 買おう」

「焼きたてのサツマイモだよ!」

「 …… 一つもらおう」

こうして、その商店街の全ての店を、シェリスは一通り見て回った。日が沈みかける頃になって、ようやく彼女はそこを離れた。

貧しい家族とは違い、魔王であるシェリスは非常に裕福だ。


「ふう … 今日はこれくらい買っておくか」

ようやく満足したシェリスは腕にかかった買い物袋を見た。中には今日一日の戦利品がいっぱい詰まっている。その量は袋から溢れ出しそうなくらい。もう日も暮れかけているから、シェリスは片手に袋を持ち、もう片方の手で買ったばかりのパイを食べながら、放課後のランシェを迎えに行く準備をする。

しかし、彼女が数歩歩いたところで、足を止めた。

「ん?」

目の前少し先に、高校の制服を着たいくつかの人影がシェリスの前を通り過ぎる。ちょうど下校したばかりの女子高生エルフ数名も、この通りに買い物に来ていた。その小さなグループは楽しそうにおしゃべりしながらシェリスの前にやってきた。

「ねえ、聞いた?今日新しく来た算数の先生、超イケメンじゃない?」

「そうそう!」

「それに今日、君のこと褒めてたよ。ほんと男運いいね、ローラン」

「あいつ、あたしのタイプじゃないし。あたしは別に … うわっ!?」

女子高生のグループの中に、シェリスが非常によく知っている姿が見える。ミニスカートと短い靴下を履き、白い太ももを丸出しにし、口には棒付きキャンディをくわえ、だぶだぶのセーターを羽織り、他の似たような格好の女子エルフたちと笑いながらシェリスの方へ歩いてくる。そしてその姿がシェリスに気づいた時、驚いて奇妙な叫び声を上げ、足を止めた。

その姿は他の誰でもない、シェリスの長女、ローラン ・アーシュだ。娘のこの格好を見て、同じような格好の女子たちと一緒にいるのを見て、シェリスは思わず眉をひそめ、心の中でため息をついた。

「お前、それは何の格好だ?女の子としての慎みと操守を忘れたのか?」

「う、うるさいな … 」ローランは俯いて、小声で文句を言う。

「こんないかがわしい連中とつるむのはやめろ。早く私と家に帰りなさい!」

そう言って、シェリスはローランを引きずって行こうと手を伸ばす。しかし、彼女がローランに触れる前に、ローランと一緒だった女子エルフの一人がローランの前に立ちはだかり、大声で尋ねた。

「あなた誰よ?ローランとどういう関係?どうして私たちをいかがわしいなんて言うの?」

「 …… 少しは敬意を払え、長耳族。そうしないと痛い目に遭うぞ … 」

シェリスは魔王。これほど無礼な態度をとられたことはないし、ましてや相手はシェリスが見下しているエルフだ。彼女はたちまち青筋を立て、相手に脅しをかけた。

「あの!」

母とクラスメートの間の険悪な雰囲気が急速に高まるのを見て、ローランは急いで二人を分け、間に立つ。何か説明して雰囲気を和らげなければならないと悟ったローランは、ため息をつき、クラスメートたちに紹介し始めた。

「ごめん、この人 … あたしのお袋なんだ」

「ええっ?ローランのお母さん?」

シェリスがローランの母親だと聞くと、女子高生たちは口々に噂し始める。

「ローランのお母さん、すごく若いね?妹かと思った」

「あの … うちのお袋、ちょっと発育が遅れてて … 」

「ていうか、ローランの母さん、耳が長くないね。エルフ族じゃないの?」

「お袋は人間族の旅人なんだ … 」

「ええ?ローラン、君ってエルフと人間のハーフなの?でも、この前の身体検査の時、君の報告書には純血エルフって書いてあったと思うけど … 」

「はは … それはどういうことなんだろうね … あたしもよくわかんないや … そ、そうだ!」

クラスメートの質問に答え終えると、ローランは急いでシェリスの肩に手を置いた。母親がいる場所と手の中の袋を見て、逆に話を聞いた。

「お袋、ここで何してるの?今日はランシェを迎えに行くって言ってたはずじゃ…」

「あの子を学校に送った後、時間潰しにここをぶらぶらしてただけだ。いけないか?」

「い、いけなくはないけど … 」

「お前がこんな娼婦みたいな格好の連中と道端で時間を潰す暇があるなら、私と一緒に妹を迎えに行った方がましだ。そろそろ授業が終わる頃だと思う」

「そうかな … でもあたし、まだ用事が … ああっ!」

ローランが答える間もなく、シェリスは彼女を引っ張って歩き出した。ローランはどうしても逆らえず、クラスメートたちに申し訳なさそうな表情を向けるしかない。

「ごめん!先に戻るね!また今度!」

「おい!ローラン! …… 行っちゃった … 」

シェリスの足は速い。ローランのクラスメートが気づいた時には、彼女はすでにシェリスに連れ去られている。仕方なく、残った数人の女子高生たちは、自分たちの買い物を続けるしかない。まあ、これらは後の話だが。

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