47、恋を語らないエルフ少女 中編
「ダッシュ、この本の挿絵、あんたが描いたんだろ? 正直に言いな」
キアナは友人から借りてきた『魔愛』の最新刊を手に、休み時間、単刀直入にダッシュに真相を問い詰めた。問い詰めると言ったが、実際には尋問に近い。何しろ、キアナは自分がダッシュの画風を見間違えるはずがないと確信しているのだ。幼い頃からずっと見てきたものだ。いくら鈍感でも、見覚えがないはずがない。ましてや、キアナは元々、非常に鋭敏なのだ。たとえダッシュが否定しても、キアナは彼が嘘をついているとしか思わないだろう。
そして、キアナのその追及するような様子を見て、ダッシュも内心穏やかではいられない。彼は元々嘘が下手な上に、相手は自分の幼馴染だ。これまで数え切れないほどの絵を彼女にプレゼントしてきたのだから、一目で見破られるのも当然だ。ダッシュは、キアナが『魔愛』を読まないことを知っていたからこそ、この仕事を引き受けたのだが、やはり彼女の目からは逃れられなかったようだ。
「う、うん……僕が……」
最終的に、彼はうなだれて認めるしかなかった。別にこれは原則的な過ちでもなく、意地を張るようなことでもない。ただ、秘密にしてほしいと頼まれており、もしバレたら、仕事がなくなる可能性が高いのだ。
「この本に書いてあるイラストレーターの名前、ダッシュじゃない。なんでわざわざペンネームなんて使うんだ? なんでこのことを僕に教えてくれなかったんだよ。それに毎日僕を避けて、どういうつもりだ?」
「だって、身元がバレたら、君やクラスのみんなに迷惑がかかると思って…」
「迷惑? 何が迷惑だって言うんだ?」
「それは……僕、言えないんだ…」
「言えない? ……ふーん、もしかして、秘密保持契約とか、そういうの?」
「ま、まあ、そんな感じかな」
「わかった、もういいよ……。そうだ、あんたがこの本の挿絵を描いてるってことは、この作者と知り合いなんだろ。へえ……。あんたも隅に置けないねえ…。僕はこの本を読んだことないけど、それでも『魔愛』が森中で有名な名作だってことくらいは知ってるよ。あんたがそんな名声も富も手に入れた作者と知り合えるなんて、まさに玉の輿じゃないか。やるじゃないか、ダッシュ」
「なんだよ、その変な例えは……」
「お祝いしてるんじゃないか。これで安定した収入もできたんだろ。家の経済状況もきっと良くなるじゃないか。あんたとローランの食事だって、豪華になったじゃないか。もっと切り詰めてるのかと思ったよ」
「せっかく少し金が入ったんだ。家族にも、もっと美味しくて、栄養のあるものを食べさせてあげたいじゃないか…。特にランシェは。あの子、今一番体が大きくなる時期なんだ。いつもあんなに質素で薄味のものばかりじゃ、体に良くないよ」
「ふーん……。ずいぶん妹を気にかけてるんだな…。まさかダッシュ、あんた、実の妹にそういう気があるんじゃないだろうな?」
「はあ!? ……馬鹿なこと言うな! なんでさっきの話からそんな意味になるんだよ! 僕はただ、家族を心配してるだけだ!」
「はっはっは! 慌てちゃって、可愛い!」
ダッシュが慌てふためく様子を見るのは、キアナの趣味の一つだ。幼馴染をからかうことほど楽しいことはない。
実際のところ、キアナは怒ってはいなかった。ダッシュが他人のために働くのがいけないわけではない。キアナの家はアーシュ家よりは裕福だが、大金持ちというわけでもない。いつまでも彼の面倒を見続けることはできない。彼が自立してくれるのは、誰にとっても良いことだ。ダッシュが自身の安全を確保し、画家になるという夢を追い続けられるなら、それで構わない。彼女が少し不満に思っていたのは、ダッシュがこのことを自分に隠していたこと、まるで、ずっと一緒に育ってきた幼馴染の自分を、他人のように扱っているように感じたからだ。だが、ダッシュに何か言えない事情があるなら、キアナもそれ以上問い詰めるつもりはない。
その日、二人の会話もキアナの冗談交じりの言葉の中で終わった。彼女はそれ以上深くは考えなかった。むしろ、ダッシュが安定した仕事を得られたことを喜んでいた。
本来、キアナはこの件はこれで一段落し、もう新しい展開はないだろうと思っていた。もし本当にそうなら、キアナは恐らく一生、真相を知ることはなかっただろう。
だが、事実は再び、彼女の認識を覆した。
………
その日、ダッシュは学校を休んだ。先生の話によると、昨日の夕方、土砂降りの雨に遭い、遅く帰宅したダッシュはずぶ濡れになった。そして朝から高熱を出したため、病欠したという。
定時に下校したエルフたちは、その雨には遭っていない。たとえ部活動があったとしても、それぞれの部長の指示で早めに切り上げていた。ただダッシュ一人だけが、なぜか学校で長いことぐずぐずしていて、不幸にもその雨に遭遇したのだ。
先生の話を聞いて、キアナは非常に意外に思った。ダッシュは全国的に有名な小説家のイラストレーターをしているのではなかったか? なぜそんなに長いこと学校に留まっていたのだろう? 本業は放ったらかしか? これでキアナは初めて、ダッシュがいつも授業が終わるとすぐに教室を出ていたが、実は学校を離れていたのではなく、校内のどこかへ向かっていたのだと知った。
あるいは、その「白香」というペンネームの作者は、実はこの学校の中にいるのだろうか?
「………まあ、僕には関係ないか」
だが、キアナはすぐに頭の中の疑問を振り払った。彼女は『魔愛』に興味はない。作者が誰で、どこで執筆していようと、彼女には関係ないのだ。せいぜい、少し感心する程度。
「あの全国に名を馳せる作者が、実はまだ高校生だったなんてね…。そんなに若くしてあんな名作を書けるなんて、大したものだ」、ただそれだけだ。
もちろん、ダッシュが白香先生のために挿絵を描いていることを、キアナは誰にも言わなかった。ダッシュの秘密を守ってあげたのだ。学校全体で、ダッシュの仕事を知っているのは、彼女以外には誰もいない。
「放課後、ダッシュの家に見舞いに行こうかな……」
窓の外に広がる、まだ虹のかかった空を眺め、湿気を含んだ空気を吸い込みながら、キアナは放課後の計画を考えていた。
だが、意外な出来事は、放課後になる前に訪れた。
♦
「ふぁ……」
休み時間、キアナは手持ち無沙汰に机に突っ伏し、退屈そうにあくびをする。普段なら、こんな時はダッシュと話して退屈を紛らわす。だが、今日ダッシュはいない。彼女もすることがなかった。まだ半日しか経っていないが、ダッシュのいない日々は、予想以上に退屈だった。
「ねえ、キアナ、何してるの?」
その時、キアナに『魔愛』を読むよう勧めてきたあの女友達が走ってきた。今日、彼女は『魔愛』の話はしなかったが、かといって特に気の利いたことを言うわけでもない。開口一番、この、わかっているくせにわざと尋ねるような言葉だ。キアナもぶっきらぼうに彼女に答える。
「何してるって……。見てわかんない? 次の授業のベルが鳴るのを待ってるんだよ」
「へえ、珍しいじゃん。キアナっていつもあんなに元気なのに、今日はおとなしいんだね…。もしかして、旦那さんがいないから、寂しいとか?」
「はあ? だ、誰が僕の旦那さんだって?」
「聞くまでもないでしょ? もちろん、ダッシュ君だよ。あんた、休み時間のたびに彼のところへ行くじゃない。絶対、彼のことが好きなんでしょ」
「違うって!」
キアナは大声で否定する。
「ダッシュは僕の親友で、僕の兄弟みたいなもんだ! 僕、あいつにそんな感情ないって! ない……ったら……」
だが、言えば言うほど、キアナの声には自信がなくなっていく。
彼女は幼稚園の頃からダッシュと一緒に遊んできた。ダッシュはこれまで一度も、キアナを女の子として扱ったことはない。肩を組むなどの身体接触は日常茶飯事で、話す時も、思春期の男女にとっては少しデリケートな話題も、二人は全く気にしない。ダッシュが自分を兄弟として見ているから、キアナも同じようにダッシュを兄弟として見てきた。
だが、この関係は、いったいいつまで続けられるのだろうか?
キアナだって、どうあれ女の子だ。もしダッシュが将来彼女を作ったら、自分はまだ「兄弟関係」を口実に、ダッシュの彼女の前で堂々と彼と親しくできるだろうか? たとえ自分が気にしなくても、ダッシュが気にしなくても、ダッシュの彼女は? 彼女は、自分の彼氏が他の女の子とそんなに親密にしているのを受け入れられるだろうか? キアナとダッシュは兄弟として付き合えるかもしれないが、この関係は、おそらくどんな第三者をも説得できないだろう。
自分はダッシュをどう思っているのか? 二人の関係について、どんな展望と覚悟を持つべきなのか? いったいどうすれば、長くダッシュと良好な関係を保ち、同時に第三者に壊されることのないようにできるのか? キアナは非常に悩んでいた。
「もし……現状を変えたら……。ダッシュは、受け入れてくれるかな……」
そんな考えが、キアナの心にふと浮かぶ。だが、彼女はダッシュが受け入れてくれないことを恐れ、なかなか本当の決断を下せないでいた。
だが、まさにその時、天の悪戯か、あるいは運命が仕掛けた冗談か。キアナに変化を迫る、一つの転機が訪れた。
「あの……。ダッシュ君は……いますか?」
クラスの皆が盛り上がっている最中、非常に弱々しい、だが存在感のある声が、入り口から響いた。キアナが振り返ると、そこには、よれよれの制服を羽織り、顔色の悪い、陰気な少女が教室のドア枠に張り付くようにして、震えながら室内の人々に話しかけている。
無理に言えば、この少女の顔立ちは悪くない。だが、いかんせん彼女の身なりはあまりにも汚く、乱れている。直視し難い。そして、それがこの少女の際立った特徴となっていた。多くの同級生が、数回見ただけで彼女の正体に気づいた。
「おい、あれって三年生のヒロカ先輩じゃないか?」
「ダッシュを探してるって? 何の用だよ?」
「すっごい浮いてる変人だって噂だよな…。授業にも出ないで、一日中小さな教室に閉じこもって、何してるかわかんないって」
「確か、小説研究部の部長だったはず…。でも、彼女のせいで、小説研究部の他の部員はとっくに全員辞めちゃったんだって。今、あの部活、彼女一人だけらしいよ」
「それに、一度も家に帰ったことがないらしいぜ。学校に三年間住み着いてるって。もう学校の七不思議の一つだよ。小説研究部の教室からは、毎晩なんか不気味な音が聞こえるって噂だ。悪魔の儀式でもやってるんじゃないかって…」
「うわ…。なんかヤバそうだな…。関わらない方がいいか…」
同級生たちはしばらく噂話をした後、皆この奇妙な少女を無視することに決めた。彼らが中断された話題を再び続ける。
「うぅ……」
後輩たちの自分に対するあまり友好的でない評価に気づいたのだろう。ヒロカは非常にがっかりしてうなだれる。泣き出しそうな様子だ。
「怖いなあ。学校にまだこんな人がいるなんて。どうやってこの学校に受かったんだか…。ねえ!? キアナ?」
女友達はまだ何か言いたそうだったが、キアナが突然椅子から立ち上がり、教室のドアの方向へ駆け出していくのに気づき、彼女を止めることもできなかった。
他の同級生は気にしなくても、ダッシュの妹のローランが彼女の話を無視しても構わない。だが、キアナだけは、この機会を逃すわけにはいかなかった。
なぜなら、この女の口から、ダッシュの名前が出たからだ。それはつまり、ダッシュがキアナに隠れて、見知らぬ少女と付き合っているということ。いったいどういうことなのか? キアナは、必ず真相を突き止めなければならない。
「こんにちは、先輩。ダッシュなら、今日病気で休んでますよ」
いずれにせよ、いきなり藪をつついて蛇を出すのは得策ではない。キアナは作り物の笑顔を浮かべ、礼儀正しくヒロカに事情を説明した。それを聞くと、ヒロカはさらにがっかりした。
「え…ダッシュ君が……そんな……。うぅ……。じゃあ、あたし、どうすれば……」
彼女の反応は特別だ。明らかにダッシュとはただの知り合い以上の、深い関わりがある。キアナは待ちきれずに問い詰める。
「先輩は、どういうご用件でダッシュを探しに来られたんですか? 僕はダッシュの友達です。もし何か用事を頼みたいなら、僕が代わりにダッシュに伝えますよ」
「…………失礼します」
だが、あの先輩も馬鹿ではない。そう簡単に罠にはかからず、本当のことを話そうとはしない。ダッシュがいないと聞くと、彼女も長居するつもりはないようだ。ヒロカはキアナの質問には答えず、踵を返して去ろうとする。自分の聞き込み作戦が失敗したのを見て、キアナは慌てて彼女を引き止めた。
「え? ちょっと待ってくださいよ、先輩……」
「ぐにゃ」
だが、キアナがヒロカを掴む前に、ヒロカは突然、糸が切れた人形のように、全ての力が一瞬で抜けてしまったかのようだ。彼女は膝から崩れ落ち、そのまま床に倒れ込んだ。
「おい! 大丈夫か!? どうしたんだ!?」
この光景は、実に人を驚かせる。事情を知らない者が見れば、ヒロカが突然の病気で、その場で急死したとでも思うだろう。キアナもあれこれ考える余裕はなく、急いでしゃがみ込んで様子を見る。
「ぐぅぅぅぅぅぅ~~~~」
キアナに答えたのは、ヒロカの腹部から聞こえてきた、天を揺るがすほどの腹の音だった。
「お……お腹、空いた……。ご飯……ご飯を……」
ヒロカは口の中で、今の自分の食欲を絶えず叫んでいる。助けを求めるように腕を振り回し、まるで幻覚の中のご馳走でも掴もうとしているかのようだ。彼女はもう、空腹で目がくらんでいる。
「……………」
キアナはクラスの中を見る。同級生たちは皆、自分には関係ないといった顔で、こちらを一瞥だにしない。さっきまでキアナの机の前に立っていた女友達も、いつの間にか自分の席に戻っている。まるで何も起こらなかったかのように。
「はぁ……。まあ、僕がツイてなかったってことか……」
キアナは目の前の惨状を見て、後始末は自分以外にいないことを悟った。
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