41、森の魔女、再び
シェリスの、誰も聞きたくもないような「そういうのが好き」な話のせいで、元々それほど賑やかでもなかった教室の空気は、気まずい寒気に包まれ、さらに温度を下げた。それに加え、ヒロカが契約している出版社の編集長がドアを蹴破ってまで原稿を催促しに来た行為は、雰囲気を完全に氷点下まで急降下させた。
さらに悪いことに、この編集長は部屋に入るなり、長年顔を合わせていなかった旧友を見つけてしまったのだ。
「…………」
「…………」
シェリスは、編集長と呼ばれたその女を改めてじっくりと確認する。そして、最終的に確信した。その外見、服装、声、そして振る舞い。どれも、十数年連絡を取っていなかった親友、森の魔女ラルヴィと完全に一致する。
たとえ時が流れようとも、この女のいかなる特徴も変わっていなかった。そのため、シェリスは無意識に彼女に挨拶をした。
「お前、ラルヴィじゃないか。クルイとの結婚式以来だな。息災だったか?」
「……あ、あんた、人違いじゃないかい?」
だが、相手は目を逸らし、同時に脂汗をだらだらと流している。頭の魔女帽子をひょいと取ると、背中に隠した。ラルヴィは明らかにシェリスだと気づいている。だが、わざと知らないふりをしている。これにはシェリスも少々意外だった。
「人違いなものか。お前がラルヴィでなくて誰だというのだ?」
「あ、あたしは……」
ラルヴィは否定しようとしたが、ヒロカ、キアナ、ダッシュがその場にいる。この三人はとっくの昔から彼女を知っているのだ。ラルヴィがとぼけても無駄だ。特にダッシュは、母親が直接ラルヴィの名前を口にしたのを聞いて、非常に驚いていた。
「母さん? 編集長と知り合いだったんですか?」
「ああ、ずっと昔からの知り合いだ。お前の父親と結婚した時は、彼女が司会と証人を務めてくれた。まあ、腐れ縁というやつだな」
「ええ!? 父さんとも知り合いなんですか!? そんな偶然ってあるんですか!?」
「それに、この女は生活能力が皆無でな。昔、私が家に行って飯を作ってやったこともある……」
「もういい、もういいって!!」
シェリスが自分の過去の恥ずかしい話まで暴露しようとしているのを見て、ラルヴィは慌てて彼女を制止し、シェリスの腕を掴んで一緒に廊下へと引きずり出した。教室には、まだ衝撃から覚めない三人のエルフが残される。
……
教室から離れ、廊下の突き当たりまで来ると、ラルヴィはようやく不承不承といった感じで唇を尖らせ、帽子を被り直した。
「……うん、そうだよ、あたしがラルヴィさ…。久しぶりだね、シェリスちゃん…」
「だろうな。さっきはなぜわざと知らないふりをした?」
「そりゃあ…。話せば長くなるんだけどね…。コホン…まさかあんたがダッシュ君のお母さんだったなんてね。初めてダッシュ君に会った時、あの子の名字がアーシュだって聞いて、たまたまあんたん家と同じ名字なんだなって思っただけだったんだけどさ…。それにしても、あんたんところの子供たち、もうあんなに大きくなったんだねえ。時間が経つのは本当に早いもんだ。あんたたちの結婚式の司会をしたのが、つい昨日のことみたいだよ…」
「ああ。最後に会った時は、私とクルイはまだ新婚だった。今の私はもう三人の子持ちだ。私の目には、あの子たちはまだ小さな子供のように見えるがな。大きくなったという実感は全くない」
「三人産んだのかい…。へえ……。なんだか、すごく幸せそうだねえ……。はは…」
そこまで話すと、ラルヴィは急に寂しそうな表情になり、元気をなくした。
「それに比べてあたしときたら、何年も経つのに相手も見つからず、ずっと一人ぼっちさ…。羨ましいよ、本当に…」
「お前のような生活能力では、相手がいないのも当然だろう。皆、互いに支え合える伴侶を求めているのだ。誰もお前のような、神棚に飾って世話を焼かなければならないような相手など求めていない」
「ぐっ……その話はもうやめてくれって…!」
「ところで、お前は魔導書や魔法薬を売る店を開いていたのではなかったか? なぜ出版社の編集長などやっているのだ…?」
「きゃっ! だからその話はもうやめてって言ったでしょ!!」
シェリスが職業の話に触れると、ラルヴィは途端に興奮し、手足をばたつかせて何かを誤魔化そうとする。彼女のその落ち着きのない様子に、シェリスは少し不快そうに唇を尖らせた。
「なんだ? 何か聞かれて困ることでもあるのか? 何を騒いでいる?」
「それは……」
「当ててやろうか………ああ、もしや、お前の店は経営不振で潰れたか。だから他人の下で働くしかなくなった、と?」
「ぐっ!? ……あ、あんた、やっぱり相変わらず鋭いねえ、シェリスちゃん……」
「やはりそうか。私の世話がなくなれば、お前の店など遅かれ早かれ潰れるだろうとは思っていたが。今見ると、まさにその通りになったようだな」
「うううう……」
シェリスの言葉は的を射ていた。図星を突かれたラルヴィは、悔しそうに涙をこぼし始めた。
シェリスがラルヴィの所へ薬を飲みに通わなくなり、家で大人しく専業主婦をするようになってから、ラルヴィの店は固定収入源を一つ失ったのだ。
ラルヴィも業務範囲を拡大し、より多くの客を引きつけようと考えた。多くの希少な魔導書や魔道具を大量に輸入しただけでなく、非常にユニークな錬金術の材料も大量に仕入れた。さらには店舗面積も拡張した。
だが、それでラルヴィの貯金はほとんど底をついた。その後の経営状況は以前より多少好転したものの、やはり赤字続き。大量に仕入れた商品は売れ残り、店舗の維持費や家賃はますます重くのしかかる。最終的に、ラルヴィは重荷に耐えきれず、店を畳んだのだった…。
以上の内情をラルヴィが説明したわけではないが、シェリスは自身の推理力と想像力で、おおよそ見当はついていた。だが、彼女には一つ気になることがあった。
「ではなぜ、この森を離れ、どこか別の場所で商売をしないのだ? エルフがお前の物を買わなくても、人間なら買うだろう。お前も森の魔女として、それなりに名は知られているはずだが」
「あ、あたしだって考えたよ…。でも、借りてる土地の契約期間がまだ終わってなくてさ。もし途中で契約を打ち切ったら、ものすごい違約金を払わなきゃならないんだ。契約を打ち切らなくても、毎月家賃を払わなきゃならないし…。契約が完全に終わるまでは、あたし、この森から離れられないんだよ…」
「そんなもの気にしてどうする。夜逃げでもすればいいだろう。この森を出てしまえば、エルフどもが追いかけてきて借金を取り立てられるとでも?」
「あたしに夜逃げしろって言うのかい!? あたしは偉大なる森の魔女だよ!? そんなみっともないこと、できるわけないじゃないか!」
「何がみっともない? 路頭に迷って飢え死にするよりはマシだろう?」
「あたしたち魔女は、評判をすごく気にするんだ! このことが広まったら、たとえ外で店を開いたって、誰もあたしの物を買ってくれなくなるよ!」
「お前たち魔女もエルフと同じで、頭の固い連中だな…」
シェリスはどうしようもないといった様子で首を振る。どうやら二人の間の誠実さに関する見解は全く異なり、合意に達することはできないようだ。これ以上この問題にこだわっても意味がなく、かえって関係が悪化するだけだろう。いっそ話題を変えた方がいい。
「店を開かないなら開かないでいい。どうして編集者などになろうと思った? お前にそんな腕があるとは知らなかったが」
「それはね…」
この問題に関しては、ラルヴィはそれほど隠すことはなかった。何しろ、それはラルヴィにとって口に出しにくい黒歴史というわけではなく、むしろ自分の経験として誇れることだったからだ。
「最初は、ちょっと溺れる者は藁をもつかむ、ってやつだったんだよ。何しろあたしは魔女だからね、肉体労働はできないし、座ってできる仕事でも探そうと思ったのさ。あたしの家が出版社に近かったし、毎日遠くまで通勤するのも面倒だったから、そこで面接を受けたんだ…。あたし、普段から本を読むのが好きでね。エルフの森には有名な著作がたくさんあるけど、あたしもみんな読んでる。だから、まあ、エンタメ分野には多少なりとも見識があるってわけ。それで、採用されたってわけさ…」
最初、ラルヴィもただのしがない編集者で、全て基礎から始めたのだ。だが、ラルヴィは持ち前の鋭い眼力で将来性のある作品を発掘し、次々と作家を育て上げた。元々小規模だった出版社を瞬く間に有名にし、森中の創作の夢を持つエルフたちがこぞって投稿してくるようになった。
ラルヴィは魔女特有の魔法を使えるため、極めて短時間で同時に複数の作品を審査し、まとめて修正案を出すことができる。校正作業をする時など、魔法で直接文章中の誤字脱字を抽出して修正できるため、物語全体を最初から最後まで読む必要すらない。作業効率は極めて高い。彼女一人で、同じ時間内に二十人分の仕事をほぼこなしてしまうのだ。
優れた経歴に加え、一人で多人数分の仕事をこなす効率の良さ。それが最終的に、ラルヴィを入社数年で編集長の地位に押し上げた。出版社の規模と業務も拡大した。以前の、食うや食わずの、明日のこともわからないような生活と比べれば、今のラルヴィはあらゆる面で、まさに暗雲を抜けて光明を見たと言えるだろう。
「……その後、あたしはこの学校に通ってるヒロカちゃんに目をつけたのさ。彼女の小説を出版する手助けをしたんだ。彼女は間違いなく天才だよ。あんなに若くして国中で大評判の作品を創り出すなんてね。まあ、文学的な基礎はまだ少し未熟だけど、努力さえすれば、きっと将来大物になると信じてる。うちの出版社も彼女を高く評価してて、継続的に育てていきたいと思ってるんだ。でも、この子、昔のあたしにそっくりでね。ものすごくズボラでだらしなくて、生活能力ゼロ。向上心も全くない。締め切り日になると、いつもギリギリになってやっと原稿を提出してくるし、締め切り時間を過ぎてから提出してきて、こっちが宣伝や出版のスケジュールを調整しなきゃならなくなったことだってあるんだ。本当に頭が痛いよ。だから、この子の監視を強化して、暇さえあれば学校へ来て、彼女に仕事をさせてるってわけ。それがきっかけで、ダッシュ君とも知り合ったんだけどね…」
「フン……なるほどな……」
シェリスは話を聞き終え、頷いた。どうやらこの数年、この魔女も楽ではなかったようだ。だが、彼女がもう自分に頼らずとも収入を得られるようになったというのは、祝うべき良いことだ。
しかし、一つだけシェリスには理解できないことがあった。
「……いや、待て。では、私に会った時、なぜ知らないふりをしたのだ? お前は別に、何か人に見られて困るようなことをしていたわけでもあるまい。そこまで隠す必要があったのか?」
「それは……」
これは少し言い淀むところがあるようだ。ラルヴィはもじもじと人差し指をいじり、非常に苦しそうに口を開いた。
「……だって、あたしたち魔女は、すごく評判を気にするんだよ。あたしの昔の仲間たちは、みんなそれぞれの専門分野で大活躍してるんだ。大錬金術師になったり、大魔導師になったり、有名な占い師になったりね…。あたしなんて、本業を失った上に、魔法を魔女とは全く関係ないことに使ってる……。そんなこと、シェリスちゃんにどうして言えると思うんだい…」
「……お前は考えすぎだと思うぞ」
「シェリスちゃんだって同じじゃないか! あんただって昔は魔王だったけど、力を失ってただの平民になったこと、他人に知られたくなかっただろ? 同じようなもんさ!」
「ふむ……。そう言われれば、理解できなくもないが…」
そういえば、ラルヴィのシェリスに対する認識は、シェリスが結婚した時のままだ。その後の出来事を、シェリスは全くラルヴィに話していなかった。
だから、一つの事実をラルヴィは知らない。
「だが、私の力はもう戻っているぞ」
そう――シェリスは既に魔王に戻っているのだ。
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