40、少女エルフ作家のこだわり
「お前のこの本の主人公と宿敵は、どう見てもそういう関係だろう? そうだよな? 私の目に狂いはないはずだ」
シェリスはまるで何か珍宝でも発見したかのように興奮しきっており、ダッシュの挿絵を手に、作者であるヒロカに自分の推測が正しいか何度も確認を求めている。
「え、あの、それは……」
「母さん、何言ってるんだよ? あの二人、宿敵同士じゃないか。魔王軍の幹部が主人公の一家を殺したんだ。主人公は骨の髄まであいつを憎んでる。愛してるわけないだろ?」
シェリスの発言と、その過度な熱意にヒロカが気圧されたのか、彼女は言葉に詰まり、シェリスの問いに答えられない。ダッシュはその様子を見て、先輩であり雇い主でもある彼女の助け舟を出すべく、突拍子もないことを言い出した母親に、辛抱強く作品の設定を説明し始めた。
「それに、この絵は僕が描いたんだ。筆を入れる時、そんなこと微塵も考えてなかったよ」
「へえ? そうなのか? だが、この主人公、どう見てもそういう気のある男の特徴だらけだぞ」
「え? どこが?」
「見ろ。右耳にピアスをしているだろう。これはそういう男の特徴の一つだ。ピアスをしているだけでなく、この主人公はエルフ族で、その長い耳にいくつもピアス穴を開けているではないか。これ見よがしではないか? それに髪型だ。明らかに念入りに手入れされていて、長さも形も非常に凝っている。ただ戦場で敵を殺すだけなら、ここまでする必要があるか? 服装に至っては言うまでもない。上着は腕全体を露わにしているだけでなく、肩まで全く隠していない。しかも非常にタイトで、この男の体のラインが一目でわかるほどだ。筋肉の筋までくっきり見える。下半身を見てみろ。なんと、チェック柄の九分丈パンツに、足首の見える半透明の靴下だ。まともな男がこんな格好をするか? 私は少なくとも見たことがない。それにあいつのライバルとやらは、魔物のくせに坊主頭にあごひげ、唇も妙に薄く描かれている。それだけじゃない、お前の描いた尻を見てみろ。男の尻があんなに突き出ているなど、普通の戦闘訓練で鍛えられる体型ではない。絶対に、個人的に特別な鍛錬を積んでいるに違いない。最も重要なのは、この魔物が使う武器だ。まさかのトンファーか? 私の言うことを信じろ。この武器は殴れば痛いかもしれんが、致命傷を与えるのは非常に難しい。嗜好品としては合格だが、敵を殺す時にこんな効率の悪いものを使う将軍などいない。明らかに、彼らはただ戦闘にかこつけて公然とイチャついているだけだ。これだけの証拠があって、まだ彼らがそういう関係ではないと言えるか?」
「……本気で言ってるのか…? 考えすぎじゃないか? この作品、ヒロインもいるんだぞ」
「ヒロインがいる? 誰だ?」
「エルフの国の王女だよ。王女が魔王に攫われて、主人公は国を担う者として、一人で王女を救い出し、同時に自分の復讐を果たすために冒険に出る。それがこの本の主なストーリーだ」
「フン…………。聞けば聞くほど、王女というのはただ、主人公とこの幹部を戦わせる理由を作るための、物語を進めるのに都合のいい道具にしか聞こえんな。それに、私は王女と英雄がくっつくという展開は好かん。全くお似合いではない。 百歩譲って、女主人公が必ず男主人公と恋愛関係にならなければならないという決まりもないだろう」
「でも、いくらなんでもエルフと魔王軍の幹部が恋愛なんて…。魔物は僕たちエルフの敵じゃないか」
「誰がエルフは魔物と恋愛してはいけないと決めた? そんな法律でもあるのか?」
「そ、それは…別にないけど…。ヒロカ先輩、本当にそういうことなんですか?」
ダッシュは元々、母親に馬鹿なことを考えないでほしいと思っていたが、逆に彼女の一方的な反論にぐうの音も出なくなってしまった。エルフの森は平和友愛、公平自由を謳ってはいるものの、貞操や倫理観といった問題に関しては、比較的保守的な民族だ。森の教育を深く受けたダッシュが、創作時にそこまで考えるはずがない。決して故意ではないのだ。
だが、挿絵の内容やキャラクター設定などは、全て小説の作者であるヒロカのアイデアだった。かつて一対一で、ダッシュにキャラクターの頭のてっぺんから爪先までのデザイン案を詳細に提示した。シェリスが指摘したそれらの要素も全てヒロカが加えたものであり、ダッシュはただ命令に従っただけ。彼は、これらの些細な部分に、何かより深い意味が隠されているかもしれないなど、考えもしていなかった。
ダッシュは男同士の恋愛の特徴など全く知らなかったが、母親がこれほど生き生きと、もっともらしく語るのを見て、ダッシュも本当に母親の言う通りなのではないかと疑い始めた。彼もまた、呆然とヒロカを見る。事実がどうであれ、最終的な解釈権を持つのは彼女という作者だけだ。
ヒロカはしばらく考え込み、難しい顔をしている。どうやら否定したいようだ。だが、最終的には耐えきれず、白旗を上げた。
「は……はい……。その、そういうことで……」
「えええええ!?」
「マジかよ……」
ダッシュとキアナがヒロカの下で働き始めてから、もうかなりの時間が経つ。ヒロカの小説も当然読んでいる。だが、ヒロカが彼らにこのことを話したことは一度もなかった。彼らも小説の行間から、そのような情報を読み取ったことはない。今になって作者本人がこんな重大な秘密を暴露するとは、実に彼らを驚かせた。
だが、それ以上に彼らを驚かせたのは、たった一枚の挿絵からそれだけの情報を見つけ出し、さらには作者の心の中まで見透かしたシェリスだった。今の彼女は両手の指で二つのVサインを作り、「イエーイ」と小声で呟いている。どうやら自分の推測が当たったことを祝っているようだ。
「こ、このお方! いったいどうやってお分かりに? この二人の関係は、あたしが最終回の直前まで隠しておいて、満を持して発表するつもりの伏線だったんですよ! ダッシュ君もキアナちゃんも…それに森中の読者だって、誰もここまで考えてなかったのに、どうしてあなた様は一目で見抜けたんですか!?」
ヒロカはこの設定を起爆剤として、熱烈な議論を巻き起こすつもりだった。だから、細部に至るまでこの結末への伏線を張り巡らせると同時に、細心の注意を払って様々なミスリードを仕掛け、読者が早々にこの展開を予測してしまい、伏線が明らかになった時の新鮮味が失われるのを避けていた。そして、その全ての隠蔽工作が、シェリスの前ではまるで無意味だったかのようだ。ヒロカは思わず疑い始めた。この女は、いったい何者なのだ? 彼女は興奮してテーブルを叩き、大声で叫んだ。全く、何日も寝ていない人間とは思えない。
一方、シェリスの答えは非常に落ち着いており、平然としたものだった。
「私の趣味が、小説や画集、演劇といったメディアを通して、BLを研究することだからだ。私が見てきたそういう関係の男たちは、お前たち三人がこれまで見てきたエルフの数を合わせても、それより多いぞ」
「な……なんですと?」
三人のエルフは皆、呆然としている。
エルフの森には、男性同士の恋愛を描いた文学作品が大ヒットした前例などない。ましてや、そういう人々が集まるバーやクラブのようなものも存在しない。その手の文化は流行していないのだ。だからこそヒロカは、自分の伏線が明らかになれば、天地を揺るがし、心に衝撃を与え、忘れられないものになるだろうと考えていた。何しろ、既に一定の読者層を持つ自分なら、エルフの森の文芸界にこの先鞭をつけられるかもしれないのだから。
だが、それはエルフの森での話に過ぎない。一度も森を出たことのないヒロカは知らない。同様の文化が、とっくの昔に魔界では極めて一般的な娯楽となっていたことを。しかも、それはシェリス本人が自ら命令を下して育成した産業だったのだ。政策が打ち出された後、高い知能を持ちながらも戦場には不向きな多くの魔物たちが、新たな活路を見出し、次々と作家へと転身した。数年のうちに、魔界の文化娯楽産業は飛躍的な発展を遂げる。
そして、この結果を推進したシェリス本人は、真っ先に魔界国内で名の知れた男性同士の恋愛をテーマにした小説を、ほとんど全て読破していた。さらに何度も男性だけの演劇や歌舞団の公演に足を運び、その道の団体を見学して知識を深めた。今の彼女は、極めて高い「そういう関係」を見抜く鑑定能力を有している。そして、隠された男性カップルを発掘することに情熱を燃やしている。この趣味は、時折魔王としての本業に影響を及ぼすほど深刻だった。
客観的に言えば、これは別に誇れることではない。タヴァル参謀も何度もシェリスに、道楽に現を抜かさぬよう諌めた。だが、シェリスは全く聞く耳を持たず、楽しんでいる。何しろ、世界征服を企む大魔王とて、一日中玉座に座ってしかめ面で人を威嚇していなければならないわけではないのだから。どんなに邪悪な人間でも、適度な気晴らしや娯楽は必要だ。
ただ、シェリスの考え、知識、価値観は、エルフの森にとってはあまりにも前衛的すぎたということだ。彼女のこの方面への情熱と執着は、男性同士の恋愛文化の領域に足を踏み入れようとしていたヒロカでさえ、少々耐え難いものがあった。
「はは……。ダッシュ君、君のお母さんは本当に鋭くて、想像力豊かな女性だねえ…。感服したよ…。ただ、読者が皆彼女のようだったら、あたしはとっくに食いっぱぐれてるだろうけどね…」
苦笑いを浮かべ、お世辞を言いながら、ヒロカは再びペンを手に取る。残りの内容を書き終える準備を始めた。シェリスの乱入と口出しは、結局のところただの事故だ。本業を遅らせるわけにはいかない。
だが……。
「ううう……」
元々筆が進む気力もなかったのに、先ほどのシェリスの一連の騒動で、ヒロカはさらに作者としての自信を失ってしまった。これからどんな筋書きを書こうとも、全て見透かされ、新鮮味もなく、読者を満足させられないだろうと感じてしまったのだ。彼女は途端に恐怖を感じ、ペンを握る腕にも全く力が入らない。最終的に彼女の心はそのような打撃に耐えきれず、ペンを机に叩きつけ、顔を覆って泣き出してしまった。
「もう書けないよぉ! これ、本当にあたしが書いた作品なの!? なんだかどの文字も知らない文字みたいに見えるよ! 本当に死んじゃう! うわあああああん!」
「先輩! しっかりしてください! ……母さん、さっきのは言い過ぎですよ!」
ダッシュは急いで癇癪を起こした先輩を宥めに行き、同時にシェリスに非難の視線を送る。たとえシェリスが自分の母親でも、先ほどの行動は少しやり過ぎだ。
だが、シェリス本人は、全く悪びれる様子もない。
「え? 私、何か間違ったことをしたか? ただ、ごく当たり前のことを尋ねただけだが」
「おばさん、先輩は元々スランプ気味だったんですよ。それに、自分でも自慢の伏線だったのに、おばさんに本も見ないであっさり見破られちゃったでしょ。きっと相当ショックで、やる気もなくなっちゃったんですよ~」
「そういうことか? うーん……」
シェリスはただ、同じ趣味を持つ仲間を見つけたことに興奮し、相手が自分の同志かどうかを確認しただけだった。何しろ、男性同士の恋愛文化を好むエルフ族というのは、非常に珍しい存在なのだから。まさかこんなに大きな騒ぎになるとは思ってもみなかった。キアナの指摘で、ようやく問題の根源に気づいた。
ヒロカが執筆を続けられるかどうかなど、本来シェリスの知ったことではない。だが、彼女が原稿を書き終えなければ、書籍の出版や発売に影響が出る。ダッシュも給料が遅れるかもしれない。それに、シェリスはダッシュの母親であり、シェリスがここで問題を起こせば、必ず息子に影響が出る。ダッシュが今後も安心してここで働き続けられるかどうか、疑問符がつく。
シェリスは、自分にはどうやらこの窮地を解決する義務があるらしいと気づいた。
しかし、それと同時に…。
「おい! ヒロカ! あと二時間で午前零時を過ぎるぞ! 締め切りだ! お前の原稿はまだできてないのか! 死んだふりするな!」
入り口から焦ったような叫び声が聞こえ、教室のドアも外側からドンドンと叩かれる。その声を聞いて、ダッシュは慌ててヒロカの体を揺さぶる。
「まずい! 先輩、編集長が原稿を取りに来ました! 早くしっかりしてください!」
「ううう……。原稿取りに来たなんて、ただの催促じゃないか……」
「それは先輩がいつも締め切り守らないからでしょ!」
皆、ドアの外の声の主に怯えているようだ。ダッシュの言葉から察するに、来たのはヒロカが契約している出版社の編集長のようだ。ヒロカがなかなか原稿を提出しないため、彼女は自ら学校へ来てヒロカの執筆を監督しに来たのだ。
そう、ドアの外の声は女性の声。甲高く、鋭い。決して男ではない。
さらに重要なのは、この声にシェリスはどこか聞き覚えがあるような…。
「誰もいないフリするな! お前たちがいるのはわかってるんだ! サボってないで、さっさと仕事しな……あれ?」
ついに、編集長はドアを蹴破って教室に乱入してきた。彼女はヒロカを大声で急き立てる。だが、中へ入って、編集長の目に最初に映ったのは、この部活動のメンバーではないシェリスだった。
シェリスの姿を見た瞬間、編集長は固まった。そして、運悪く、シェリスもまた非常に驚いていた。彼女は指を差し、あの奇妙な大きなとんがり帽子を被った銀髪の少女を指した。
「お前は……ラルヴィ!?」
様々な意味でシェリスと浅からぬ因縁のあった森の魔女が、今、再び魔王の前に姿を現したのだった。
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