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33、魔王・シェリスの狙い

 もしその目的のためでなければ、シェリスが見知らぬ相手と食事をするために時間を無駄にすることなどあり得ない。ましてや、相手はエルフなのだ。シェリスにとっては、一口も喉を通らないほど気分が悪くなるだろう。

 だが、相手がエルフの国の高度な情報を握る貴族となれば話は別だ。招待を受け入れ、途中で娘を巧みに遠ざけたのも、全てはその目的のため。                                                      

「この森を守る巨大な結界について、あなたはどれほどの内情をご存知ですかな?」

 シェリスが今回エルフの森へ戻ってきたのは、久しく会っていない家族に会う以外に、もう一つ目的があった。それは、エルフの森を外界の侵入から守っている巨大な結界の秘密を探ること。

 シェリスは、配下の侵略部隊がエルフの森へスムーズに侵攻し、一挙にこの国を陥落させることを企んでいる。そのため、結界の解除方法を見つけ出すことは、極めて重要な戦略目標だった。関連情報を得るため、彼女は逆にソラの招待を利用し、ソラの母親と二人きりになる状況を作り出したのだ。

 彼女が家族を深く愛しているのは事実だが、同時にシェリスは自分が魔王であるという身分と、世界を支配するという夢を忘れてはいない。それは彼女にとって家族と同じくらい重要…いや、あるいはそれ以上に。


「アーシュ夫人…あ、あなた様は、それをお聞きになってどうなさるおつもりでして?」

「どうもしない。私はエルフ族ではないからな。お前たち一族特有の守りの傘に興味を持つのは、ごく自然なことだろう?」

「そ、それは…確かに、わたくし少しは存じておりますけれど…。申し訳ございません、アーシュ夫人。お話しすることはできませんの…」

 シェリスの魂胆に気づいたマータ夫人は、口を固く閉ざすことを選んだ。結界の秘密は、普通のエル

 フでさえ知ることはできず、ましてや異民族に教えることなどあり得ない。何しろ、それは森全体の存亡に関わる大事なのだ。情報を知る者は、その一部しか知らされず、しかもその内容をいかなる者にも漏らしてはならないという厳格な秘密保持義務を負う。もしそれが発覚すれば、弁解の余地なく反逆罪として死罪を賜り、一族郎党全てが誅殺されることになるのだ。

 マナが話さないのも無理はない。それはシェリスの予想通りだった。彼女とて、この森で数年暮らした経験がある。エルフ族の誇りと、団結心の強さは見知っている。自分が一言尋ねただけで相手が正直に答えるなど、微塵も思っていない。

 だが、マナ自身が話したいかどうかなど、全く重要ではない。シェリスは最初から、彼女の考えや意思など気にかけていない。マナが情報を握っていることさえわかれば、それでよかったのだ。


 カタン。


 シェリスは勢いよく立ち上がり、後ろの椅子を蹴倒した。

「そうか、お前が話さないのなら、構わんが……」

「……何をおっしゃって…?」

「私には、お前に話させる方法がある!」

 マナは危機が迫っていることを悟る。目の前のアーシュ夫人は、ただならぬ敵意を露わにしている。彼女が逃げようと、助けを求めようとした、まさにその時、シェリスは右腕を掲げた。

 その瞬間、シェリスの掌から黒い霧が湧き出し、瞬く間にマナへと襲いかかり、その全身を包み込んだ。マナは叫び声を上げようとしたが、もう遅い。纏わりつく黒い霧は、完全に彼女の体を支配した。指一本動かせないどころか、声帯から音を絞り出すことも、眼球を動かすことさえできない。全身の毛穴に至るまで、完全に固定されている。彼女は完全にその場で硬直し、まるでまな板の上の魚のように、なすがままだった。


「これは私が使いこなす数多の魔法の一つ、空間束縛魔法だ。相手を捕縛するための専門の能力。お前ごときではどうにもできまい。最高位の魔竜種や、魔王軍の首席将軍ですら、この術にかかれば手も足も出ん。お前はもう、袋の鼠だ、マータ夫人」

「!!!!!」

「わかっている。今すぐ大声で叫び、他の者の注意を引き、助けを求めたいのだろう? 無駄だ。私が自ら魔法を解かない限り、外部の者には凝固した空間に指一本触れることすらできん。誰もこの窮地からお前を救い出すことはできない。だから、私を満足させることが、お前が解放される唯一の方法だ。さあ、話せ。結界の秘密を私に教えろ。安心しろ、お前は声を出せないが、もし心から屈服することを選べば、私にはすぐにわかる。その時は魔法を解いてやる」

「!!!!!」

「まだ降伏しないのか…。本当に強情だな。だから私はエルフ族が嫌いなのだ。お前たちが耳にタコができるほど繰り返す、団結だの、正義だの、真善美だの…実に反吐が出る。やはり、思想の違いというのは永遠に埋められず、互いに理解し合うことなどできんのだな」

「!!!!!」

「だが、構わん。お前がどうしても話したくないというなら、私には無理やり話させる方法もある! フン!」

 マナが死んでも口を割らない様子を見て、シェリスもこれ以上彼女と時間を無駄にするつもりはない。彼女は再び右腕を掲げる。今度は、いくつかの光輪のような物体が彼女の掌から飛び出し、マナの頭部の周りに留まった。シェリスが拳を握ると、それらの光輪も頭蓋を締め付けるように、マナの額にきつく食い込んだ。

「!?!?!?」

 光輪が頭部に触れた瞬間、マナは天地がひっくり返るような感覚に襲われ、目の前が真っ暗になった。すぐに、彼女の意識は目の前の光と共に遠のいていった…。


 マナが意識を失うと、シェリスも空間凝固魔法を解いた。もはや彼女の行動能力を制御する必要はなくなったからだ。

「私が今使った二つ目の術は、相手の心身を意のままに操る洗脳魔法だ。この術にかかった者は、無条件で私の命令に従う。いかに意志が強い者でも抗うことはできん…。まあ、お前にはもう聞こえんだろうがな。言っても無駄か」

 シェリスは一つ咳払いをすると、支配下にあるマナに指令を下す。

「マナ・マータ。お前たちエルフの森の守りの結界の秘密を話せ」

「…………この結界は、古の時代のエルフ族の大聖女、アビオン様が、世界を滅ぼす隕石が大地に降り注いだ時、ご自身の力と生命の樹を共鳴させ、我らエルフ族の血脈を守るために生み出された絶対防御障壁…。アビオン様が亡くなられた後、その御身と魂は生命の宝玉へと練り上げられ、絶えず生命の樹と共鳴しております…」

「ほう。では、どうすればその結界を破壊できる?」

「……生命の宝玉を破壊するか、あるいは生命の樹が枯れれば、結界は消滅いたします…」

「では、その生命の宝玉と生命の樹はどこにある?」

「その二つの物の場所は、現エルフ族聖女、フレイア様のみがご存知です。生命の宝玉の外見は、普通の石と何ら変わりありません。生命の樹も、見た目はただの普通の木です。人目を欺くため、歴代の聖女様のみがその詳細な情報を知っておられます…」

「フレイアはどこにいる?」

「存じません…。聖女様の行方は定まっておらず、国家に報告することもございません」

「………なるほどな」

 マナの意志とは関係なく、洗脳魔法は本人の意思を飛び越え、直接対象者の記憶にアクセスし、完全にその心身の制御権を奪う。こうしてマナ本人は、全く知らないうちに、自分の知る情報を全てシェリスに漏らしてしまったのだ。

 だからこそ、洗脳された者は絶対に魔王に嘘をつけない。マナが知らないと言えば、それは本当に知らないのだ。シェリスはこれ以上情報を引き出せないと悟り、それ以上問うのをやめた。今得られた情報は、まだ結界を解除するには不十分だが、それでも大きな進展と言えるだろう。


 無理やり言うなら、シェリスが何も考えずに直接結界にエンペラーズ・エンドを打ち込み、力ずくで破壊するという方法もなくはない。だが、結界の防御能力の上限は不明確であり、古の時代の文明を滅ぼした小惑星の衝突からエルフ一族を守り抜いた結界を、決して軽視することはできない。たとえ小規模な天体を消滅させることができる奥義、エンペラーズ・エンドであっても、それを粉砕できるとは限らない。

 内部から無差別攻撃を行い、森全体を直接更地にするということも不可能ではないが、シェリスの目標はあくまでこの森を支配することであり、大規模な破壊攻撃で森全体を焦土と化すことは望んでいない。そんなことをすれば、災害後の復興作業に膨大な人的資源、物的資源、そして時間を費やすことになり、この森自体が持つ開発可能な資源も無駄になってしまう。

 それに、エルフ一族は安価な労働力および生産道具として魔界に奉仕させる価値があり、彼らを奴隷とし、建設に参加させることは魔界の発展にも繋がる。だからシェリスは、大虐殺のようなことはしたくない。魔界にとって最良の結果は、やはり侵略という形で、部下たちに兵を率いさせてエルフの国へ攻め込み、一挙に森の支配権を奪い、戦闘能力のないエルフを奴隷として統一管理し、ここを植民地として統治し、全ての資源を魔界のために利用することだ。そうしてこそ、この戦争は割に合うと言える。


「ふむ、今日はひとまずここまでとするか…」

 侵略計画はまた一歩前進したが、同時にこれ以上すぐには進められない。そこでシェリスは、潮時だと判断した。知りうる情報を全てシェリスに漏らしてしまったマナも、シェリスにとってはもはや何の利用価値もない。

 彼女は手を上げ洗脳魔法を解くと、マナの体はコントロールを失い、音を立てて床に倒れた。シェリスは歩み寄りしゃがみ込むと、マナの頭頂部に手を置く。眩い光がシェリスの手の中で閃いた。


「………う? わたくし、いったい……」

 まもなく、マナは意識を取り戻し、シェリスに支えられながら頭を押さえてふらふらと立ち上がった。シェリスを見ると、彼女の最初の言葉は、

「あら、アーシュ夫人…。わたくし、どういたしましたの…?」

「貧血か何かだろう。先ほどお前が気を失ったのでな。五分ほどだったか」

「ま、まことに失礼いたしましたわ……」

 マナは申し訳なさそうな笑みを浮かべ、再び椅子に座り直す。不可解そうに首を傾げた。マナには、自分が貧血を起こした記憶などない。実に奇妙なことだ。


 シェリスが彼女の頭に触れたあの動作には、一定時間内の記憶を削除する効果が含まれていたため、マナはシェリスが本性を現した経緯の全てを完全に忘れてしまっていた。彼女は依然として相手をローランの母親だとしか思っておらず、何も深くは追及しない。

 起き上がると、彼女は再びテーブルの前に戻り、シェリスと一緒にお茶を飲み始める。まるで何も起こらなかったかのように。ただ、自分の失態に対し、シェリスに申し訳なさそうな微笑みを向けるだけ。もちろん、シェリスがそれを気にするはずもない。


「お母様! ただいま戻りましたわ!」

 さらに三十分ほど経つと、買い物を終えたソラとローランが戻ってきた。彼女たちは、ここで先ほどどんなドラマが繰り広げられたのか、知る由もない。無邪気にそれぞれの母親のそばへと駆け寄る。

「マネージャーさん! 最後のデザートをお願いいたしますわ!」

「かしこまりました!」

 全員が揃うと、マナはロビーマネージャーに、コースの最後の料理を出すよう命じた。まもなく、美しく飾られた小さなケーキが、それぞれ四人の前に置かれる。晩餐の最後のステップが、こうして始まった。

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