29、ソラお嬢様の真心
エルフ騎士団の新団員募集の日。ソラも両親に付き添われ、その人材選抜の盛況ぶりを見学に訪れていた。
エルフ騎士団は女王メディシン直属であり、騎士団員の身分はエルフの国の戦士にとって最高の栄誉を意味する。武の道を選ぶエルフたちの究極の目標だ。そのため、騎士団のメンバー数は非常に厳しく制限されている。エリート中のエリートでなければ、到底加入することはできない。非正規団員である予備役ですら、極めて厳しい条件が課せられる。ゆえに、予備団が新人を募集するたび、大量の戦士が落選するのだった。
彼らが予備団に不合格だったからといって、決して弱者だと断じることはできない。何しろ、予備団への入団試験の難易度の高さは、国中の誰もが知るところなのだ。試験に参加できること自体、既に十分に評価に値する。そのため、多くの大富豪や王侯貴族がこの試験に注目する。落選した戦士の中から素質の良い者を選び出し、自宅の護衛や傭兵として雇うためだ。ソラの両親も、まさにその目的で試験会場を訪れていた。
そこで、ソラは初めて、試験を受けに来たローランと出会った。
全ての受験者の中で、ローランは最も若い部類に入る。最初は誰も、この世間知らずの小娘に期待などしていなかった。だが、ソラはローランの、どんな状況でも動じず、冷静かつ率直で、自信に満ち溢れたその姿に惹きつけられた。彼女がどこまでやれるのか見てみたい、と。彼女は両親に、自分と同年代のこの少女に注目してくれるよう頼んだ。マータ公爵夫妻は子供を溺愛する親であり、特に深く考えることもなく、その通りにした。
もちろん、最初から最後の結果を予想していた者など誰もいない。マータ公爵夫妻も、ローランという少女がこんなに幼くして試験に参加するとは、実に勇気があると感心した程度だった。たとえ彼女が不合格でも、育成すればそのポテンシャルも計り知れない。娘の専属護衛として雇うのも悪くない、と。
だが、最後の結果は、全ての人を驚愕させた。ローランは最年少の体でありながら、最も驚異的な戦闘の才能を発揮し、試験では他の強者たちを圧倒、首席の成績で見事予備団への入団を果たしたのだ。
その日から、ソラは完全にローランの虜となり、彼女に夢中になった。
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「あなたが試験に合格した日から、わたくしはずっとあなたを見ていましたのよ! あなたを独り占めしたくて、あなたの気を惹きたくて、だからずっとあなたに印象を残そうと、たくさんの悪戯をしてしまいましたわ。本当にごめんなさいね~。昨日も、わたくしがあまりにもローラン様の戦うお姿を拝見したくて、わざわざ家の護衛にあなたと戦わせたのですわ!! もちろん、その戦いの全過程は、わたくしが魔法記録器で全て録画し、永久保存版にいたしましたのよ!」
「あんた……」
「大好きですわ! ローラン様!」
ローランの呆気に取られた表情などお構いなしに、ソラはそのままローランに飛びつき、きつく抱きしめた。幻覚かどうか、ソラの瞳の中からは、絶えずピンク色のハートマークが飛び出しているように見える。
そう。ソラは全くローランを困らせようとしていたわけではない。あのような、ほとんど脅迫に近い口調で彼女を呼び出したのも、ただ彼女と二人きりになる機会を作りたかっただけなのだ。彼女のローランへの愛は、ローランのファンクラブのメンバーたちをも凌駕するほど。ただ、名門貴族の令嬢という体面があるため、平民の前であまり露骨な態度は取れず、ローランに不快感を抱いているかのようなふりをし、その機会に乗じてローランとの距離を縮めようとしていただけだった。
だが、ローランがこの現実を受け入れられるはずがない。
「あんた……ふざけないでよ! さっさと離れなさい! この変態女!」
彼女は嫌悪感を露わにソラを突き放そうとする。この頭のおかしい女から少しでも離れたい。だが、ソラを傷つけるのを恐れて、あまり強くは押せない。結果、ソラを突き放すどころか、かえってソラの更なる欲望を刺激してしまった。
「ああ……最高ですわ……。ローラン様に罵られるなんて、これ以上の幸せはありませんことよ……。ローラン様、わたくしはあなたを離しませんから、もっと罵ってくださいまし……。もしよろしければ、数発殴ってくださってもよろしくてよ…」
「うっ!?」
「はぁはぁ……ローラン様の匂い、とても良い香りですわ。抱き心地も柔らかくて暖かくて……。もうやめられませんわ……」
「変態がああああ!!」
ローランは彼女から逃れようともがくが、相手を罵れば罵るほど、ソラはますますきつく抱きついてくる。しまいには自分の体臭まで嗅ぎ始めた。ローランにはソラがどんな大病を患っているのかわからないが、もしこれ以上彼女を罵れば、彼女はさらに興奮するかもしれない。同時に、ローランは弱者に暴力は振るわない。それは騎士道精神に反する行為だ。結果、抱きつかれたローランは完全に手も足も出なくなってしまった。熱狂的なファンには見慣れていたが、ソラはその中でも特に重症の部類に入るだろう。
「…………ええと、何と言えばいいのかわからんが……。とにかくおめでとう、ローラン……」
古風で堅物なシェリスが、こんな場面に出くわしたことがあろうか。しばらくして、ようやく目の前のこの混沌とした場面が何を意味するのかを理解したが、大いに衝撃を受けた。相手も悪そうな子供には見えない。ならば、手荒な真似をする必要もないだろう。彼女はただ、ローランが職権乱用による嫌がらせから免れたことを、傍らで祝うしかなかった。どうやらローランは、退学させられることはなさそうだ。
だが、それと同時に、ソラもシェリスの存在に気づいた。ローランと二人きりの時間を過ごすため、彼女はシェリスにこう言った。
「そちらの可愛らしいお嬢様、特にご用がなければ、もうお帰りになってよろしくてよ。あなた様のお姿から察するに、ローラン様の妹君でいらっしゃいますかしら? ご心配なく、お姉さんはローラン様に何か意地悪をするつもりはございませんから、あなたもお姉さんをお困らせにならないでくださる? お姉さんはローラン様と二人きりになりたいのです。ね、いい子だから、邪魔しないでちょうだい」
「………………」
返事もせず、表情も変えなかったが、ローランにはシェリスの瞳の奥に、刺すような殺気が宿り始めているのがわかった。これ以上ソラが好き勝手なことを言えば、今夜彼女はここで命を落とすかもしれない。流血沙汰を避けるため、ローランは慌てて説明する。
「あの……この人、あたしの妹じゃない。お袋だよ! 少しは敬意を払いなさいよね!」
「なんですって? ローラン様のお母様ですの?」
ソラは信じられないといった様子でローランを見、それからシェリスを見た。この母娘は髪の色こそ違うが、顔立ちは確かによく似ている。ついでに、シェリスの耳にあるエメラルドのイヤリングにも気づき、すぐに驚きの声を上げた。
「まあ! わたくし、ローラン様にお兄様と妹君がいらっしゃることは存じ上げておりましたが、お母様はずっとご旅行中だとばかり…。まさかあなた様が…。先ほどは大変失礼いたしましたわ! お母様! わたくし、ソラ・マータと申します! いやいや、お母様は本当にお若くてお美しいですこと。わたくしったら、すっかり勘違いしてしまいましたわ!」
ソラはローランを放し、シェリスの手を掴んでぶんぶんと振り回す。彼女のその熱烈な態度は、シェリスを宥めるどころか、ますます彼女を怒らせた。
「私は貴様の母親ではない。 気安く呼ぶな」
「今はまだ違いますけれど、将来わたくしがローラン様と結婚したら、お母様はわたくしの母も同然ですわよ! いえ、お義母様、と呼ぶべきかしら? それとも姑様? ……まあ、どちらでも同じですわね! とにかく、どうぞよろしくお願いいたしますわ! お母様お義母様姑様!」
「今日こそてめぇの命日だ、長耳の小娘め……」
シェリスの額に青筋が浮き上がり、殺気満タンの言葉は歯ぎしりの音と共に発せられる。明らかに、もう我慢の限界だ。
「も、もう良いから! ソラ!これ以上何も言うな!」
状況がまずいのを見て、ローランは急いでソラを引き離す。そして彼女に忠告した。
「うちのお袋、見た目はこうだけど、喧嘩したらあたしよりずっと凶暴なんだから…。あんたがこれ以上失礼なこと言ってると、どうやって死んだかもわかんないうちに殺されるよ…。お袋が本気出したら、あんたのことなんか百人がかりでも守れないんだから」
「ええ、わたくし、打たれるのは好きですけれど、まだ死にたくはありませんわ…。わかりました、ローラン様のおっしゃる通りにいたします~」
「ふぅ……。お袋、気を静めて。こいつ、頭はあれなんだけど、別にわざとあんたを怒らせようとしてるわけじゃないと思う……たぶんね………とにかく、あんまり相手にしないで…」
娘のとりなしで、シェリスも一応は殺意を収めた。やはり娘の前で人を殺すのは良くないから。だが、これ以上ソラの馬鹿騒ぎに付き合う気もなかった。
「帰るぞ、ローラン」
シェリスは背を向けて歩き出す。ローランも黙ってその後ろに続く。だが、ソラはまだ諦めきれない様子で、彼女たちを引き止めようとする。
「え? もうお帰りですの? こんなに遅い時間ですし、ローラン様もお母様も、まだ夕食をお済ませではないでしょう? ご一緒にお食事でもいかがかしら? わたくし、近くの高級レストランに一番大きなお部屋を予約してありますのよ!」
「…………」
誰も彼女に構わない。
「そこのお料理、本当に美味しいんですのよ! 珍味を食べ慣れているわたくしですら、時々利用するくらいですもの!」
「………」
やはり誰も答えない。
「明日は授業もありませんし、深夜まで語り明かして、もっとお互いを理解し合うのはいかがかしら!」
「………」
ソラはまるで空気に向かって独り言を言っているようだ。
「それに、わたくしの母、マータ公爵夫人もあちらでお待ちですの! ずっとローラン様にお会いしたいと申しておりましたのよ!」
ピタッ、とシェリスの足が止まる。
「お袋? どうしたの?」
前の数言にはシェリスは全く動じなかった。だが、最後の言葉には反応した。ローランにはそれがかなり意外だった。シェリスは娘には答えず、ソラに問いかける。
「……お前の母親は公爵夫人……つまり、エルフの国の上流階級の者か?」
「ええ、そうですわ」
「ということは、お前の母親は、上流階級の者しか知らない秘密を知っている、と…?」
「え、ええ、まあ、そう申しましても…」
「ならば、よかろう」
なぜか、シェリスの態度は突然百八十度変わった。彼女は振り返り、穏やかな口調と表情で、ソラの提案を受け入れる。
「では、お言葉に甘えさせていただこう」
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