24、魔王の凱旋
パリンッ!
エルフの森から数百キロ離れた、とある大きな山の崖の上。何もなかったはずの空間が、突如として乾いた破碎音を発した。そして、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。見る間に亀裂は急速に拡大し、最終的には完全に弾け飛び、半径三メートルはあろうかという巨大な空間の洞窟が形成された。洞窟の内部は漆黒で、まるでブラックホールのようであった。
タッ、タッ。
幽玄な足音がブラックホールの中から響く。続いて片足がブラックホールから踏み出し、崖の大地を踏んだ。
「…………」
歩み出たのはシェリス本人。彼女がブラックホールから完全に姿を現すと、ブラックホールは急速に消滅し、空間は元の静けさを取り戻した。
彼女は黙って崖下を見下ろす。「パシャア」という音が繰り返し聞こえてくる。清涼な海風がシェリスの頬を撫で、目の前にはどこまでも広がる大海原。先ほどの音は、岸に打ち寄せる波の音であった。
この山頂はいずれの国にも属してはいないが、その頂からの眺めは美しく多彩で、海を眺めるには絶好の場所であるため、かつては多くの旅人が訪れていた。しかし、魔界による人間王国への侵略戦争が始まってからは、危険を冒してまでここを訪れる者はいなくなった。
だがシェリスは違う。彼女は意に介さずここに現れた。もちろん、景色を見に来たわけではない。
シェリスが手を上げ、五指を開くと、手のひらに黒い光が明滅し始める。周囲には渦巻くような気流がまとわりつき、落ち着きなく揺れ動いている。
「フンッ!」
続いて、シェリスはその腕を海面に向けて振り抜いた。シェリスの腕の数倍は太い巨大な闇の光線が、螺旋を描きながら咆哮を上げて飛び出す。海面すれすれを、地平線の彼方へと飛んでいく。闇の螺旋光線が通過した海面は完璧に切り裂かれ、数百メートルの深さがある海底世界の姿を露わにした。分かたれた波の間は数十メートルも隔たり、視界の果てまで続いている。
シェリスは眼前に広がる、自ら作り出した奇観を見つめ、次いでこの一撃を放った腕に目をやった。初めは平静を装っていたが、やがて口角を吊り上げ、微笑から軽笑へ、そして大笑、ついには狂笑へと変わっていった。
「クク……フフフ……ハハハハハハハハハハハハ!!」
シェリスがこれほどまでに晴れやかに笑ったのは何年も前のこと。しかし、それも無理からぬこと。なにしろ、我が身に起きたことはこれほどまでに喜ばしく、驚きに満ち、痛快なのだから。
「余の力……戻ったぞ!余の魔王の力が復活したのだ!!ハハハハハ!!」
原因不明のままシェリスから離れ、シェリスがいくら試みても取り戻せず、永遠に回復不能と宣告され、絶望したシェリスが記憶の彼方へ追いやろうとし、もう少しで完全に忘れ去ろうとしていた魔王の力が、今再びシェリスの体内で蘇った。シェリスはもはや、盗賊にすら敵わなかった痩せっぽちの小娘ではない。全世界を恐怖に陥れた大魔王が、再びこの大地に降臨したのだ。
なぜこのタイミングで力が戻ったのか、何がきっかけで回復したのかは分からない。だが、シェリスが先ほど五人を殺害した際に使ったのは、まさしく彼女が最も熟知する、魔王としての技であった。彼女をエルフの森からここまで転送したブラックホールも、海を割ったあの渦巻きも例外ではない。全てシェリスが掌握する数多の能力の一つ。
しかし、これらの基本的な能力の他にも、シェリスは予想外の収穫に気づいていた。
「余の力はただ戻っただけではない。純度も、強度も、魔力量も、かつての余を遥かに凌駕している……。力が体内で絶えず高まり、まるで噴火しそうだ……。しかし、魔力が暴走したり、制御を失ったりする感覚はない。魔力の制御は以前のどの時期よりも、さらに意のままに、さらに自由自在になっている……。これは一体どういうことだ?」
シェリスは両拳を握りしめる。指の間から、幾筋かの黒い霧がゆっくりと漂い出る。シェリス自身でさえ信じ難いほどの力が、そこに集中していた。
今の自分であれば、あるいは……。
……あの一撃を、完璧に制御できるやもしれぬ。
その考えは非常に危険。なにしろ、かつての自分はその技を不用意に発動した結果、力を失い、長年弱者として過ごす羽目になったのだ。もし再び失敗すれば、取り返しのつかない結果を招くかもしれない。
しかし、シェリスは試してみたかった。彼女は今の自分の力の強度、力の掌握度合いに絶対の自信がある。今の自分であれば、あの一撃を完成させられるかもしれない……。
よし……ならば試してみよう!
覚悟を決めたシェリスは、あの日と同じように両腕を高く掲げ、それぞれの手に強烈な炎の力と雷の力を凝集させる。赤と金の二つの巨大な光輪が崖全体を覆い、ゆっくりとシェリスの両手へと収束していく。先ほどまで万里の空であった青空は、たちまち夜のように暗転し、大気の流れもシェリスを恐れるかのように乱れ、騒ぎ始めた。
両手の魔力が安定すると、シェリスは片手を高く掲げたまま、もう一方の手をゆっくりと下ろして水平に構える。彼女は天空の彼方を狙い、掲げた手と水平に構えた手を鋭く交差させ、雷火二重の力を織り交ぜ、星々に向けて放った。
巨大なエネルギー光球が空を切り裂き、耳をつんざくような破空音と共に、肉眼では捉えきれない世界へと飛んでいった。尾のような長い光の軌跡を残し、それはいつまでも消えようとしなかった。
前回とは違う。今回、シェリスは技を巧みに収束させた。魔力制御は極めて完璧。一切の無駄も流出もない。技を放った後も、体内の力に衰えの兆しは見られない。
先ほど大笑したシェリスが、再び豪放に笑い声を上げた。
「ハハハハハハハハハハハハ!!!!完成したぞ!!エンペラーズ・エンドがついに完全体となったのだ!!!!」
元々は実験段階に留まり、実戦投入されることのなかった破壊的な奥義、エンペラーズ・エンド。今この時、この場所で、ついに単なる理論を脱し、シェリスが真に意のままに発動できる通常能力の一つとなった。それどころか、今のシェリスが放ったエンペラーズ・エンドは、予想された最大威力をさらに上回る破壊力さえ秘めている。古代文明を滅ぼしたあの小惑星はおろか、月が大地に激突したとしても、今のシェリスならそれを破壊する自信がある。
「素晴らしい……」
全身に満ち溢れる、想像を絶する巨大な魔力を感じながら、シェリスは言葉にできない達成感と優越感に包まれた。今の自分は、技の威力、身体能力、反射神経、魔力管理、その全てが未だかつてない新たな高みに到達している。かつての自分ですら万物にとって高嶺の花であったというのに、今の自分はさらにその上を行く。
力と共に蘇ったのは、シェリスがほとんど忘れかけていた野心、平和な生活によって抑圧されていた邪悪な感情であった。これらの感情が再び心に込み上げてきた時、シェリスはもはやクルイが知る妻でも、子供たちが敬愛する母親でもなくなっていた。
「これで余は魔界へ戻り、再び我が国を掌握し、世界征服計画を継続できる……。だが……」
シェリスが手を上げると、再び眼前の空間に、世界のいかなる場所へも通じるブラックホールを創り出した。それは全ての転送、移動魔法を遥かに凌駕する、最高位の空間跳躍能力である。
「……王位に返り咲く前に、いくつか片付けておかねばならぬ邪魔者がいるな……」
残忍にして無情な笑みを浮かべ、シェリスの姿はブラックホールの彼方へと消えていった。
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