12、信用できないやつ。が…
「待て」
だが、シェリスが瓶に口をつけようとした時、ふと重要なことを思い出す。まだラルヴィと合意に至っていないことがあった。
「……この薬はいくらだ?」
相手は商売人だ。ただで薬をくれるはずがない。それに、ラルヴィは何日も客が来ていないと言っていた。この少し頭のおかしい魔女のことだ、法外な値段をふっかけてくる可能性がある。シェリスは念のため確認することにした。もし相手がとんでもない値段を言ってきたら、こんな物は飲まない方がましだ。あるいは、力が戻った後に代金を払わず、この魔女を始末するか…。
「とっても安いよ! たったの五百エルフコインさ!」
「五百……?」
「そうだよ! 材料費、調合費、税金、店の維持費、今日の晩飯代、それに爆発の治療費も込みで、まあ、そんなもんだろう!」
「……」
費用の内訳に、いくつか妙なものが混じっている気がする。五百エルフコインは安くはないが、出せない額ではない。シェリスは少し迷ったが、やはり力を取り戻す方が重要だと判断する。彼女は懐から、食費を切り詰めて貯めた五百エルフコインをゆっくりと取り出す。相手に渡す前に、ラルヴィがひったくるようにそれを受け取った。興奮した様子で金を数えながら言う。
「毎度あり! いやー、本当に久しぶりの収入だよ! お金の見た目も触り心地も忘れかけてたね! 今日はやっと腹いっぱい飯が食えるぞ! へへへ…」
「…じゃあ、飲むぞ」
ラルヴィの奇行はさておき、代金を払ったシェリスは、今度こそ薬を飲む決心をする。
(よし、鼻をつまんで、息を止めて、一気に飲み干す…)
味への不安が拭えないシェリスは、苦い薬を飲む子供のように自分の嗅覚を遮断する。心の中で、力が戻り再び世界を思いのままにする自分の姿を思い描きながら、目を閉じ、一気に薬を口へと流し込んだ。
小瓶の薬を全て飲み干すと、シェリスはぐったりと両腕を垂らし、目は虚ろ。まるで魂が抜けたような反応だ。しばらくしてようやく我に返り、乾いた唇を開いて、感想を述べる。
「……まずい……。クルイのスープよりまずい……」
シェリスは、今しがた自分が飲み込んだものが、口に入れられる物だとは到底思えなかった。苦くて、いつまでも後味が残る。焦げた干し草のような匂いが口の中に住み着いたように、いつまでも消えない。強烈な吐き気を催す。
力を取り戻すためとはいえ、この代償は想像以上だ。だが、これで力が戻るなら……。
「あれ?」
しかし、シェリスが拳を握り、以前のように魔力を高めようとした時、ぴたりと動きを止めた。
力が戻るのではなかったのか? シェリスは依然として、体内から何の魔力も感じない。両手もふにゃふにゃで、力が入らない。シェリスの力は、全く戻っていなかった。
「おい! この詐欺師! 私を騙したな!」
怒りに燃えるシェリスは、ラルヴィの襟首を掴み上げ、激しく詰め寄る。
「力が全く戻っていないぞ! 私に何を飲ませたんだ!」
「目覚めの薬だよ! あんたの力を起こすための…。ああ、でも言い忘れてたけど、この薬は毎日続けないとダメなんだ。一瓶飲んだだけじゃ、そりゃ効果ないよ。毎日ちゃんと飲まないと」
「なに!? なぜそれを先に言わない!」
「あんただって聞かなかったじゃないか」
「毎日こんなまずい物を飲めと?」
「良薬は口に苦し、ってね! しばらく我慢すればいいのさ!」
「どれくらい飲めば力が戻るんだ?」
「さあねえ…。効果は人それぞれだし。元の力が強ければ強いほど、戻るのも遅くなるだろうね」
「なんだと…。もう頼まん! 金を返せ!」
「そりゃ無理な相談だね。薬はもう飲んじまったんだろ? 今更どうやって返金しろってんだい?」
「今すぐ吐き出してやる…!」
「おっとっと! 吐くんじゃないよ! 店を汚したら、掃除代をもらうからね!」
「くそ…。なら、これから毎日ここへ薬を飲みに来ればいいんだろう!」
「ああ、それとね。五百エルフコインは今日の薬一瓶の値段だよ。明日来るなら、また五百コイン払ってもらうからね」
「殺してやる!!!」
「ひぃっ…! ま、待ちな! もし金がないなら、あたしのために飯を作ってくれればいいよ! 金を稼ぐのだって、結局は飯のためだろ? あんたが毎日晩飯を作ってくれるなら、タダでいいよ!」
あからさまな殺気を放つシェリスに、ラルヴィも流石に折れたようだ。料理はシェリスにとって難しいことではない。だが、いかがわしい魔女の料理番に成り下がるのは、やはり不愉快だ。しかし、力を取り戻すためだ。シェリスは耐えるしかない。彼女はラルヴィを解放し、重い足取りで店の外へ向かう。ドアを出る間際、彼女は一言――あるいは、警告を残していく。
「これから毎日来る…。もし金だけ取って逃げるつもりなら、試してみるがいい。地の果てまで追いかけて、必ず貴様を最も惨たらしい方法で殺してやる…」
「し、しないよ!」
「……そう願うことだな。さもなくば、力が戻ったあと、真っ先にお前を殺す」
バン!と音を立て、シェリスはドアを乱暴に閉めて出ていく。
後に残されたのは、店の中に一人きりのラルヴィ。シェリスの足音が遠ざかるのを待って、ラルヴィはようやく大きなため息をつき、額の冷や汗を拭う。
「ふぅ……。なんとも物騒なお客さんだったね…。エルフの森なんて、ろくな場所じゃないや。客は来ないかと思えば、あんなのばっかりなんだから…」
彼女は魔女帽子を取り、自分の顔をパタパタと扇ぐ。相手には力がないようだったが、それでも滲み出る威圧感と迫力は、ラルヴィを息苦しくさせた。
「力を取り戻したい、ねぇ……。あの子、いったい何者なんだろうね…。あの冷たい殺気、まるで人の命なんて何とも思ってないみたいだった…。何も話そうとしないのは、秘密主義? それとも……。ああ、よそう。あたしは商売人だ。金が手に入って飯が食えれば、それで満足すべきさね。あの子が何者かなんて、あたしには関係ない…。薬が効けば、もうここへは来ないだろうし…。ま、これで向こう数年の食い扶持は確保できたかな~?」
頭の中の疑問を振り払い、ラルヴィはレジを開け、シェリスから受け取った五百エルフコインを中に入れた。




