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7話 心折れました?

 しばらくして……



 イタズラを終えた私達は、冒険者達の様子を伺う為に時間を人間に合わせた。


 世界が見慣れた速さに戻り、私達の前にいた冒険者が再び元気よく動き出した。


「死神が消えた……って、剣が折れた!?」

「俺の杖も!?そもそも死神どこいった!?」


 彼らは辺りを見回し……そこで二人の服装の異常さに気付いた。


「うわっ!お前の服どうしたんだ!?何だその派手な柄!?」


 剣の冒険者へ杖の冒険者のビビット過ぎる花柄模様に気付いた。


「お前の服も変だぞ!海の煌めきを閉じ込めたような柄に変わってる!」


 剣の冒険者の服には海の反射を再現した絵を描きました。かなりの力作。


「ど、どうなって……えっ」

「お前、どうしたんだよ……ん?」


 ここで冒険者二人はお互いの鞄の異常にようやく気付き、自身の鞄を急いで確認する。


「う……うゎああああああああああ!?!?」

「鞄が……!?俺の鞄が!?」


 ここで冒険者達は今日一番の悲鳴を上げた。


「か、回復薬の栓が全部開いてる……!」

「道具が全部ダメになってる……!」


 鞄の中からぐちゃぐちゃになった道具を取り出し、絶望の色を見せる。

 どうやらこの勝負、クロベさんの完全勝利に終わりそう。



「おや、どうなさいました?」

「「!?」」


 ここで獄上くんは冒険者二人に声をかける。冒険者は驚いて振り返り、獄上くんの姿を見つける。


「お、お前は……」

「お二人は随分と鈍臭いご様子で……」


 獄上くんはそう呟き、手に持っていたキャンバスの絵を冒険者に見せる。


 そこには、私の柄で染まった冒険者二人の見事なデッサンが何十枚も描き上げられていた。


「ご覧なさい。貴方達が武器を振り下ろしている間に、私は貴方達のデッサンを幾らでも描きあげられるのですよ」

「…………?」


 冒険者達に凄さがイマイチ伝わっていない。


 それ以前に冒険者二人は、デッサンよりも獄上くんの方を見つめているらしい。


「…………お前誰だ?」


 そりゃそうだ。


 この場には冒険者と私達しかいなかったのに、突然知らない男性が新しく現れて、しかも勝手にデッサンにまとめ上げられたって……


「不気味な奴……とりあえず帰るか……?」

「そうだな……このままでは何もできん。アイツの目的も意味不明だし……」


 微妙な空気の中、冒険者二人はこの場から去る準備を始めたようだ。

 何はともあれ、相手の戦意を削ぐことに成功したようだ。主にクロベさんのお陰で。


「あーあ、可愛い見た目の死神を捕獲できたら大金獲得だったのに……」

「くそっ、変な依頼のせいで酷い目に遭った……!」


「お待ちなさい」


 去ろうとした二人を獄上くんが呼び止める。声をかけられた冒険者はその場で不自然にピタリと止まる。


 獄上くんは呼び止めた冒険者に静かに駆け寄った。


「少し心配なので、私が彼らを森の外までお送りします」

「あ、お願いしますー」

「では失礼します」


 獄上くんは冒険者二人の首根っこを持ち上げると、その場からあっという間に姿を消してしまった。


「……もしかして獄上さん、冒険者から依頼主を聞き出すつもり?」

「それもあると思いますー」


 クロベさんは呑気にそう言いながら私のそばに駆け寄る。


「獄上さんは冒険者達に「二度とここに来ないでくださいー」って、釘を刺すつもりですー」

「そっか。恨んでまた来たり、もっと人呼んでくる可能性もあるもんね」


 その時は「二度と冒険者やりたくない」って思わせるくらいの嫌がらせして追い返さないと。


「獄上くん、木に激突した衝撃とか言って首回転させてたけど大丈夫かな?」

「大丈夫だと思いますよー」



───────────────────


 闇に包まれた森の中。


 獄上に森の奥へと連れ込まれた冒険者二名は、力なく木にもたれかかっている。


 冒険者達の身体からは、黒く長い剣が幾つも突き刺さっていた。


 剣が幾つも刺さっているにも関わらず、身体からは血は一滴も流れていない。


「も、もうやめてくれ……」

「もう嫌だ……もう嫌だ……」


 冒険者達は絶望に染まった顔を獄上に向け、目から涙を溢している。絵の具で汚れた衣類が涙で濡れる。


「た……頼む……助けて……くれ……!」

「私が聞きたい言葉ではございません」


 獄上は手から黒い剣を生み出し、剣士の冒険者の脚に深く突き刺した。


「がああっ!」


 剣が刺さった脚から血は出ない。だが、身体を物理的に貫かれるより酷い苦痛が、冒険者の全身に襲いかかる。


「あ……ああ……!」


 冒険者は身動き一つせず、ただひたすら苦痛に耐える。獄上は無表情のまま、彼の様子を冷静に見つめる。


「御二方は既にお気付きでしょうが……冒険者様の身体を貫く剣は、肉体を傷付ける武器ではございません」

「…………」

「その剣を傷付けるのは魂」


 獄上は剣をもう一つ生み出し、右手で構える。


「剣は致命傷を避けて突き刺しております。私は死神ですから、間違っても御二方の魂を消し飛ばす真似は致しません」

「た……たす……け……て……!」


 剣が刺さる冒険者は必死に口を動かし、必死に命乞いをする。


「口を開けば助けを懇願するばかり……貴方、私の言葉をもうお忘れですか?」

「どう……すれば……」

「我々、死神の前に二度と現れないと誓いなさい。隣の彼はもう誓いましたよ」


 獄上は剣先を魔法使いの冒険者に向ける。


「もう嫌だ……もう嫌だ……」


 魔法使い冒険者は、低い声でずっと同じ言葉を繰り返している。それを見た剣士冒険者は、獄上に顔を向けて苦しそうに口を開いた。


「わ……分かった……!も、もう死神には手を出さない……!だから……!」

「……まあ、いいでしょう」


 獄上は表情一つ変えず、生み出した剣を消す。


「あ、そうそう……一つお尋ねたいのですが」


 獄上は気を取り直すかのように、口調を少し明るくして冒険者二人に声をかける。


「死神を襲うよう、貴方に指示を出したのはどなたでしょうか」

「し……指示……」

「ええ。御二方は、お上の指示に従っただけでしょう?」

「し……じ……」

「そ……それ……は……分から……ない……!」


 冒険者は途切れ途切れに呟く。


「…………残念です」


 望んだ答えが返ってこなかった獄上は、無表情のまま左手から剣を生み出して構えた。


「違う!本当に分からないんだ!奴の名前が分からない!」


 剣士冒険者は慌てて口を開き、必死に言葉を続ける。


「ローブに包帯した変な男から!とある方からのご依頼だって!前金貰って依頼内容聞いただけで!金払いのいい仕事……!だから引き受けて!」


 剣士冒険者にはもはや戦う意思は無かった。


 とにかく今は、痛みを抑えて切り抜ける事だけに集中している。かつて死神を前に果敢な姿勢を見せていた彼はどこへやら、今はもう見る影もない。


「貴方は知らない……と。では、隣の貴方は何かご存知で?」

「!?」


 獄上は剣士冒険者から目を逸らして魔法使い冒険者を見つめる。

 魔法使い冒険者は苦悶の表情を浮かべながら必死になって首を横に振る。


「どうやら本当に分からないご様子で……」


 獄上は冒険者から背を向け、手を軽く振った。


 その瞬間。世界が暗転し、冒険者二人は僅かなその意識を呆気なく手放してしまった。




「……ん?」

「あ、あれ……ここは……?」


 冒険者達は揃って目を覚ます。光の森の明るい景色が冒険者の目の前に広がる。


「あ、剣が……」

「消えてる……?」


 冒険者二人に突き刺さっていた剣は消えており、身体の調子は元通り。


「俺達、何を……?」


「御二方」


 冒険者二人が立ち上がったその時、少し離れたところから二人を呼ぶ声が聞こえてきた。

 そのたった一言が耳に入った瞬間。冒険者二人の全身を悪寒が駆け抜け、ビクリと全身を震わせた。


「…………!」


 冒険者達が無言で声のした方を見るとそこには、綺麗な姿勢でその場に立つ獄上の姿が。

 獄上は再び貼り付けたような笑みを冒険者二人に向けていた。


「あ、ああ……」


 外面は無事でも中身がボロボロの冒険者は、獄上の姿を見ただけで芯から震え上がり、膝がガクガクと震え始めた。


 冒険者達の身体には確実に、獄上に刻まれた恐怖がこびりついている。


 震える声が、全身を駆け巡る悪寒が、あの時の出来事が本当だったと冒険者に必死に語りかける。


「あ、ああ……あ……!」


「とりあえず森から出るとしましょう。私が外までご案内します」


 獄上は優しい口調で冒険者に語りかける。冒険者二人は顔が恐怖で染まり、いつの間に目から溢れた涙が頬を伝う。

 冒険者二人は獄上を前に、何とか口を開ける。


「け……」


「け?」


「結構です!ごめんなさい!ごめんなさい!」


「もう二度と来ません!」


 冒険者二人は獄上に背を向け、この世の終わりから逃れるかのように必死に駆け出した。


 森の中をうろつく魔物のことなど一切考えず、ただ闇雲に駆け抜けて獄上の前から姿を消した。


「このご様子なら、もう我々の前に姿を現すことはないでしょう」


 獄上は貼り付けた笑みのまま冒険者二人を見送ると、そのまま光の森の奥へと戻って行ったのだった。

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