21話 鬼ごっこ始め!
新魔王の巨城。
「では、鬼ごっこを始めます」
春信くんは新魔王の前でゲームを進行させる。
「私が始め!と言ったら、新魔王様は全力で逃げてください。死神はカウントを30まで数え、数え終わったら新魔王様を追いかけて捕まえてください」
「分かった!」
「よし……」
私は元気よく答える横で、新魔王は緊張気味に返事をする。
「お互いに何も無いようですね。では…………始め!」
「いち、にー、さん……」
「カウントが早い!くそっ!」
春信くんの開始の合図に合わせ、新魔王が弾かれたように駆け出してその場から退散した。
「にじゅうく……さんじゅう!よーいドン!」
しばらくしてカウントを数え終えた私も、その場から全速力で駆け出して新魔王を追いかけ始めた。
「新魔王は下の階にいるみたいだね」
能力の使用は制限されてないので、私は魂を見る力を使ってすぐに新魔王の居場所を突き止めた。
「新魔王様〜」
私は現実の人間に合わせた速度で駆けていき、城内の構造を考慮した上で先回りして、ようやく新魔王とご対面した。
「うわっ!?もう来た!?」
新魔王は大袈裟に驚きながら後退りをする。
「だ、だが……相手は今現在、武器も無ければ速くもない!」
今なら素手で相手を倒せるはず……なんて考えたんだろうね。でも、それは大きな間違いだよ。
「うおおおおーっ!」
私は新魔王の攻撃を避け、通り抜けた新魔王の左指を狙って手を振った。
「それっ!」
「あっ……?」
私の攻撃は見事命中。でも、新魔王の外見は特に何も変化はない。
「ぎぃやぁあああ!?!?」
外傷はない新魔王は、左小指を庇いながら大声を上げた。
先程、私が攻撃したのは「新魔王の小指の魂」。小指の魂を素手で無理矢理ちぎったから、小指を引き裂かれるような衝撃が走ったんだと思う。
「まずは小指〜」
動きは遅めでゆっくり千切らないといけないから、相手は余計に痛いと思う。でも大丈夫、本体が無事なら後でいくらでも修復は可能だからね。
「ひっ!ひぃいいいいい!!」
私の攻撃を受けた新魔王は怯え、全力で方向転換して私から逃げ出した。
新魔王は今、「これなら武器で攻撃された方がマシだった」と思っていることだろう。魂を無理矢理引きちぎられるのは相当痛いだろうから。
「待って〜!」
「ぐぅ……う……!」
新魔王は指を庇いながら広い廊下を駆け抜けていく。
でも、新魔王は外側には向かわずに城の中央へと移動しているみたい。多分だけど、トラップを使って外に出るつもりなんだろうね。
「逃がさないよ〜」
「うわあっ!?」
私は再び回り込んで新魔王の前に立ちはだかった。
「それっ!」
「があああっ!?」
新魔王が狼狽えた隙をついて、左手の薬指と中指の魂を引きちぎる。新魔王の左手の動きが鈍り、目には涙を溜めている。
「二連!次は三連……いや、左右含めて七連狙ってみよっかな」
「う、うぐぅ……!」
新魔王は左手を肩で庇いながら壁に手を置いた。すると突然、床が抜けて新魔王が下の階へと落下した。床はすぐに元に戻ってしまい、私だけがその場に残された。
「トラップの位置とかしっかり把握してるんだ……」
もしかして、力を使って城を改造したのかな?
「あ、とりあえず追いかけないと」
私は「待って〜」と呑気に言いながら、新魔王の魂のカケラを握りしめ爆走を再開した。




