19話 ゲームしましょう
新魔界の巨城。やたら広くて豪勢な玉座の間にて……
「大変です新魔王様!城内に何者かが侵入してきたとの報告が!」
「何だと!?」
豪華な衣装に着られている、誰が見ても一般人の風貌を持つ新魔王キングは、急いで報告しに来た騎士に駆け寄る。
「あの死神か!?」
「いえ、死神と悪マ゛ッ!!」
騎士は唐突に全身を震わせたかと思うと、白目を剥いてその場に倒れてしまった。
「おい!何をしている!」
「倒れた人にはまず、優しい言葉をかけてあげたほうがいいよ?」
「誰だっ!?」
知らない第三者の声が聞こえてきた。新魔王は驚きながらも武器を構え、声のした方を睨みつけた。
「新魔王さん、久しぶり!」
「ああっ!?死神の女!?」
私が出入り口の影からひょっこり顔を覗かせると、新魔王は目を見開いてその場で腰を抜かしてしまった。
「初めまして、新魔王様」
「だっ、誰だお前!?」
「彼女の同僚です。どうやら私の同僚が、新魔王様のお世話になったそうで……」
「おっ、俺は特に何もしてない!俺の指示を実行した方が悪いんだ!」
「ええっ!?新魔王様!?」
「俺は騙されたんだ!神を騙る妙な奴に!そいつに「その力なら地獄も潰せる」と唆されて……!本当は死神なんか興味なかったんだ!」
明らかに王様の格好をしてる新魔王は、今になって言い訳を並べて私達から逃れようとしている。
「唆されたとはいえ、地獄制圧を実行に移す為に指示を出したのは新魔王様ご本人でしょう?」
「うっ……!おい部下共!俺を守れぇ!」
新魔王は周囲に声を飛ばす。だけど、新魔王の呼びかけに誰も反応しない。
「何故だ!?何で誰も来ない!?」
「もしかして……私達が道中で全員倒しちゃったのかな?」
「なっ……!?」
確かあの時、春信くんへの照れ隠しでとにかく全力で打ち込んでたから……それに部下は巻き込まれたのかもしれない。
「うぅ……うぉおおおおおお!」
守ってくれる部下がいなくなった新魔王は、ギラギラ輝く黄金の剣を構えて私に襲いかかってきた。
でも、新魔王は速さに関するスキルがないのか、死神の速さに全くついて来れていない。
「えいっ!」
私は新魔王の背後に回り込み、手の甲で軽く小突いた。
「があっ!?」
新魔王は派手に転び、黄金の剣を手放してしまった。
「春信くん、どうしよう……あの人、想像以上に弱いんだけど……」
「新魔王様の力は、他人にスキルを与えるだけのものですから。例え魔物や物にスキルを与えられたとしても、新魔王様本人にはスキルを付与できない。武器や防具に素晴らしい力を与えたとしても、本人に実力が無くては……」
「くそっ!」
「我とか言ってたから強そうだなって思ってたけど、まさかこけおどしだったの?」
「ぐぅう……!」
新魔王は顔を歪ませ、握りしめた拳を床に叩きつける。
「あまりにもあっけない幕引きですね。ですが、このまま終えるのも味気ない……」
春信くん、もしかして何か新しい拷問でも考えてる?
「……新魔王様。ここはひとつ、我々とゲームをしましょう」
「ゲーム……?」
「はい、定められたルールの中で競い合いをするのです。これなら、新魔王様にも勝機はあるでしょう?」
「…………何が目的だ」
「ただの暇つぶしです。もし貴方が嫌と言うのであれば、ここで楽にして差し上げますが……」
「やる!こっちに勝機があるなら絶対にやるに決まってるだろ!」
新魔王は上半身を起き上がらせて春信くんに向かって吠える。
「で、何をするんだ!?俺でもできるゲームか!?」
「誰でもできる簡単な遊びです。新魔王様、鬼ごっこはご存知ですか?」
「それくらい分かる!」
「では決まりですね。新魔王様、我々と鬼ごっこをしましょう」
春信くんは新魔王の前に立ち、楽しそうに遊びの提案を始めた。
「ルールは簡単。我々のうち一人が鬼となりますので、新魔王様は我々に捕まらないよう逃げながら城の外を目指してください」
「城の外に出たら……?」
「貴方が城から脱出できれば、その時点で鬼ごっこはおしまいです」
「つまり……城から脱出すれば俺の勝ちってことか!?」
「城から出た時点で、貴方は自由となります。貴方の持つ力も元に戻して差し上げましょう」
「力を戻す、か……よし、乗った!」
「いけません新魔王様!悪魔の誘いに乗るなんて!」
新魔王が春信くんの誘いに乗ったところで、隣で静観していた部下が慌て出して新魔王を止める。
「何を言う!この誘いに乗らなければ俺達はこの場で消されるだけだ!」
「ですがこのゲームは……!」
「うるさいっ!」
「げえっ!?」
部下が更に言及しようとする寸前、イライラがピークに達した新魔王が剣を拾い上げ、部下を真っ二つに斬ってしまった。
「うるさい奴も消えた。さて、ゲームを始めようじゃないか」




