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1話 何だか違う私達と海岸

 私の名前は白矢フユミ。異世界に行きたい一心でひたすら努力し、死神になった元人間。


 今は魔法のある異世界でパトロールを中心としたお仕事をしています。


 今現在、私は友達と異世界の海に遊びに来てます。


「重心はもう少し左……」


 私の前で見事な悪魔の像を作ってるこの長髪で眼鏡の人は、悪魔で死神で私の友達の「獄上晴信ごくじょうはるのぶ」くん。


「素晴らしい出来です」


「大きな砂の像だね……」


「力作です」


 相変わらず獄上くんは妙なことをしている。


「でも、帰る時は解体しておかないと。次に此処に来た人がびっくりしちゃうからね」


 私は獄上くんにそう言って、砂の像に目を移し……


「砂の悪魔が動き出してる!?」


 獄上くんが作った砂悪魔が、立派な脚で大地を踏み締めていた。


『我は地獄の使者……この海原を統べる者なり……』


「悪魔像がとんでもないこと言ってる!」


 しかもさっきまでいい天気だったのに、悪魔像が完成した途端に空が荒れ模様になった。しかも雷鳴まで轟いている。


「獄上くん!あの悪魔の像を今すぐ回収して!出来れば破壊して!」


「なっ……!白矢様と共に作った素晴らしい作品を壊すなんて……!」


「最初は砂のお城だったでしょ!?」


 私が少し目を離したほんの僅かな間に、こんな悪魔像に作り変えちゃって!


「私はあんな悪魔を作った覚えないよ!」


『そ、そんな……母君……!』


「この砂悪魔、私のことをお母さんって呼んでる!壊しづらい!」


 ほんの少し手伝っただけでここまで言われるの!?


「獄上くん!とにかく今すぐ回収して!」


「分かりました」


 私が必死にそう言うと、獄上くんは立派な悪魔像に袋を被せて回収した。袋は小さくなって手のひらサイズに収まった。


「ま、まさか海に来ただけで海岸の危機に直面するなんて……」


 砂のお城作ったり、貝殻拾ったり、もっと平和な遊びは幾らでもあるのに……



「(あれ?そういえば今って……獄上くんと私で二人っきり……だよね?)」


 職場の仲間は別の用事で行けなくなったから、獄上くんと二人で海に来たけど……なんかこれって……デートみたい?


「(いやいやいや!そんなことない!)」


 私は頭に浮かんだ妙な思考を消すように、必死に目の前の砂を掘って貝殻を探す。心なしか顔が熱い。


「おや、お次は貝殻探しですか。では私も……」


 獄上くんは軽く準備運動をすると、砂に潜って砂浜をクロールで泳ぎ始めた。物凄く速い。それどうやってるの?


 とりあえず、私も負けじと砂浜を掘り進める。


「……あっ!」


 しばらく掘り進んでいたら、砂の中からキラキラと輝く宝石みたいな貝殻を二枚発見した。


「見つけた!」


 私が砂から出ると、砂一つついていない綺麗な姿の獄上くんも砂から飛び出してきた。なんか砂に生息する生き物みたいだね。


「獄上くん、綺麗な貝殻見つけた!」


「これは……ダイヤモンドシェルですね」


「名前にダイヤモンドって付いてるんだ……綺麗……!」


 私は貝殻を太陽にかざして見つめる。


「……そうだ!獄上くん、これ二つ見つけたから一つあげる!」


「……私に?」


「うん!確かこれって魔法道具の材料にもなるんだよね?何かの役に立つかなって。私は思い出として大事に取っておくね!」


「あ、あの……えっと……」


 獄上くんの様子がおかしい。顔が緩んで、少し顔が赤くなっている。


「獄上くん、どうしたの?」


「…………白矢様とお揃い、ですか?」


「…………あっ」


 ここにきて私はようやく気付いた。同じ貝殻を持って帰るって……これってなんか、仲の良いカップルがやってそうなやつじゃん……!


「あ、えっと……」


 獄上くんの言葉に照れて、私も思わずたじろいでしまった。


「お揃いっていうか、思い出っていうか……あの……」


 私が慌てている間に、獄上くんは私の手からそっと貝殻を取り上げた。


「あっ……」


「……私も、思い出として大事にします」


 獄上くんは赤く染まり緩んだ顔を片手で隠しながら、貝殻を大事そうに掴んだ。


「あ……うん!ありがとう……」


「はい……」


「「…………」」


 海岸に何だか気まずい空気が流れる。大きなカニの魔物が横歩きで近くを通り過ぎる。


「あの、お礼と言っては何ですが……私からはこちらを差し上げます……」


 獄上くんはポケットから握り拳大の透明な石の塊を取り出し、私にそっと差し出した。


「すごく綺麗……だけど……」


 見るからに石やガラスではない。謎の石を手に取った私は、目の前で分かりやすく照れる獄上くんに石の正体を聞いてみた。


「獄上くん、これは何の石?」


「ダイヤモンドです……」


「原石!?」


 しかも塊!?


「直下堀りをしていたら宝石だらけの洞窟に直面しまして……」


「どこまで行ってたの!?」


 どうやら砂を掘り進めていくうちに宝石のある洞窟を掘り当てたらしい……どんな確率?



「……あははっ!」


 私はこの状況に耐えられず、つい獄上くんの前で笑い出してしまった。


「砂を掘り進めて宝石を発掘するって……!なんか獄上くんらしいね!すっごく面白い!」


「そ、そうですか……?」


「うん!獄上くんありがとう!このダイヤモンドも思い出として大事にするね!」


「あはは……あの、ありがとうございます……」


「獄上くんも、その貝殻を大事にしてくれると嬉しいな!」


「ぜっ、絶対に大事にします……!」


 最初はとんでもないことになったけど、なんやかんやですごくいい思い出になった……気がする。

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