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19話 変わったこと

 感謝の日から数日後……


「おはようございます」


 お菓子を渡して以降、一切姿を見せてなかった獄上くんが姿を現した。


「あ、獄上くんおはよう!」


 私は元気よく駆け寄り、獄上くんに挨拶をした。


「獄上くん、大丈夫だった?」


「ええ、実は……私が勝手に人間を罰したことが上司にバレてしまいまして……」


 どうやら獄上くんは勝手な行動をしたことが上に知られ、地獄に呼び出されていたらしい。


「苦しむ顔を見たかったのに、何でカメラを回さなかったんだ!見たかったのに!と、怒られまして……」


「そっち?」


 というより獄上くん、そんなに相手を痛めつけてたの?


「あと、地獄の仕事を妨害していた人間を潰した私のために祝賀会を上げてくださいました」


「祝賀会!?」


 そんなことしていいの!?


 ……いや、地獄だし大丈夫かな……


「うん、獄上さんの話は本当だよ。僕も何でか分からないけど祝賀会に呼ばれて……」


「リリー上司も!?」


「職場の仲間も全員呼んできていいよって言われたけど……」


「私達も!?」


 有難迷惑……


「君達はあまりお酒飲まないし、知らない人とは盛り上がれないタイプだよね?だから丁寧にお断りしておいたよ」


「リリー上司ありがとうございます!助かりました!」


 獄上くんはどうやらお咎め無しだったみたい。とりあえず良かった。


「何はともあれ、獄上くんが無事で良かった……私、すごく心配したんだよ」


「えっ?」


 私が心の内を素直に打ち明けると、獄上くんが聞いたことない声を出した。


「白矢様にそこまで心配させてしまった……のですか?」


 獄上くんが明らかに困惑している。


 こんな反応をするとは想定外だ。真面目に謝罪しつつ、いつものように流すものだと思ったのに。


「あの……心配させてしまい、申し訳ございません」


 獄上くんは見たことない表情で謝罪し、頭を下げてきた。私は少し動揺しつつも口を開いた。


「あっ……も、もう大丈夫!獄上くんが無事に戻ってきたから!」


「……ありがとうございます」


 お礼の言葉を述べる獄上くんの顔が緩んでいる。見慣れない獄上くんの顔に、今度は私が戸惑う。


「えっと……獄上くん、お帰り!無事に戻ってきてくれて良かった!」


「はい、ありがとうございます」


 私は戸惑いつつも獄上くんに言葉を返す。獄上くんもどこかぎこちない様子だけど、柔らかい笑顔を見せて改めてお礼を言う。


「「………………」」


 お互いに口を閉じてしまい、職場に変な空気が流れる。


「えっと……二人とも、大丈夫?」


 この絶妙な空気の中、リリー上司は誰よりも一番困惑してた気がする。




 私がケーキクッキーを渡してから、更に日時が経過した。




 私と獄上くんの関係性は特には変わっていない……と、思う。


 でも、たった一つだけ変わったことがある。それは……


「そうだ!獄上くん、この異世界の果物をふんだんに使ったケーキ焼いてみたんだけど……」


「えっ?ええと……良いのですか?」


 何故か獄上くんがあのケーキクッキー以降、やたら顔を緩めることが増えた。

 普通の笑顔じゃなくて、顔が緩んだ可愛らしい笑み。


「うん!前に獄上くん言ってたでしょ?異世界の食べ物のみで作った異世界料理は、地球の食べ物とはまた違った味わいになるのでしょうか……って」


「あの話、覚えてくださっていたのですね……」


「うん!私もその話を聞いて、すごく美味しそうだなって思って……実際に作ってみた!職場に置いてるけど……獄上くん、どう?」


「ありがとうございます。是非いただきます」


 獄上くんの柔らかい表情に、私の心が妙にムズムズする。




「あの二人、何してんだ……?」


「進展したせいか、獄上さ更にポンコツ具合が更に加速してますー」


「進展……?ま、別にいっか。おーいフユミ!俺もケーキ食わせてくれ!」


「あ、ゴウくん!いいよー!」


「私も食べたいですー」


「うん!皆んなで食べよ!」


「やったー!」


 皆んなでカフェ職場に戻る私達。いつも通り平和だけど、何かが少しだけ変わったような気がする。

 第一章完結。次からは第二章が始まります。


 もし此処まで読んで頂けましたら、ブクマや評価をしていただけると嬉しいです。既に評価をしている方には心より感謝申し上げます。本当にありがとうございます。

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