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16話 ローブ男

別視点。

 釣鐘の街の路地裏を、謎の青年冒険者が歩いている。

 彼の周りをガタイのいい冒険者が守るように囲んでおり、冒険者の一人は大きな袋を肩に掛けて持ち運んでいる。


 路地裏にあるボロボロの扉の前で停止した青年の冒険者は、辺りを見て誰もいないことを確認すると、一定のリズムで扉をノックした。


 扉が勝手に開き、冒険者達は慣れた足取りで扉の奥へと入っていく。

 突き当たりの扉の前に到着すると、青年冒険者は目の前の扉で静かに停止した。


「入れ」


「失礼します」


 扉の奥から深く低い声が響き、扉が勝手に開く。冒険者達は静かに室内に入る。

 室内の中央に置かれた椅子に、包帯を巻いたローブの男が座っている。彼は冒険者達を見やると、その重々しい口を開いた。


「目当ての物は手に入ったか?」


「はい。こちらに……」


 青年冒険者が合図をすると、ガタイのいい冒険者が大袋を下ろしてローブ男の前のテーブルに置いた。


「状態の良く、自我のある綺麗な身なりの死神です。拘束を施しているので、安全に中身をご覧になれますよ」


「ふむ……では見せてもらおう」


 ガタイのいい冒険者が袋を開け、ローブ男は袋の中身をそっと覗き込んだ。


 袋の中から拘束されている男の顔が見える。ローブ男は拘束されている男をよく見つめる。



 目の前にいた死神は冒険者とそっくりの顔をしていた。



「んー!んー!」


 袋の中の冒険者は目を血走らせ、口枷を着けたままローブ男に向かって必死に何かを伝えようとしている。


「ん?貴様、こいつは……」


 ローブの男が目の前の冒険者に顔を向けたその瞬間。


「あ」


 ローブ男の身体中に、黒く長い剣が何本も突き刺さった。


 更に、周りにいたローブ男の護衛や冒険者にも剣が刺さる。周りの人間達は全員、剣に貫かれて動けなくなってしまった。



「子供騙しの罠でしたが、見事に掛かりましたね」



 目の前にいた青年冒険者は別人の声で言葉を話す。


「あ、ああ……!」


「ぐゔぅ……!」


 ローブ男の全身に、今まで感じたことのない精神的な痛みが駆け巡る。


 周りの護衛や冒険者も全身が痛むのか、呻き声を上げるばかりで動こうともしない。


「お、お前……は……!?っ……!」


 ローブ男は苦しみながらも何とか声を上げる。


「貴方が必死になって求めていた死神ですよ」


「……!?」


 冒険者の姿が一瞬で変わり、長い髪に眼鏡を掛けた謎の男に変化する。

 無表情の男は、眼鏡越しに冷たい視線を放つ。ローブ男は思わず怯むも、目の前の死神から目を逸せない。


「な、何を……」


「何を?それは私の台詞です。死神を捕獲しようだなどと……」


 死神は椅子の上に横たわるローブ男に近づき、ローブ男に突き刺さっている剣に足を置いた。


「答えなさい。貴方の上にいる、死神を捕獲しようとした愚か者の名を」

「…………」


 ローブ男は口を固く閉ざし、開こうとしない。どうやら絶対に依頼主の情報は漏らさないつもりらしい。


「……言い方が悪かったようですね」


 死神はローブ男を睨みつけ、再び口を開く。


「質問に答えろ。さもなくば魂を焼き切る」


「…………!?」


 嫌な予感がしたローブ男は、その場から逃げようと身体をねじらせるが、剣に魂ごと固定された身体は全く動く気配はない。


 動けないでいると、獄上の足先から剣へと魔力が注がれた。


 魔力はローブ男の全身に刺さる剣に注がれていく。


「あ……ああ゛……!?熱い!?熱い!!」


 冒険者の身体を貫いていた剣が少しずつ熱を帯びだし、やがて音を立てて真っ赤に輝き出した。


「熱 ぃ゛!! あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ゛!?」


 剣が熱を熱を帯び、ローブ男は絶叫と比べ物にならないほどの凄まじい悲鳴を上げる。


「───────っ゛!?─────っ!?」


 彼の悲鳴はもはや声にすらなっていない。全身に突き刺さる剣が精神を常に現実に留まらせ、気絶することすら許されない。


「答えなさい。貴方を雇った方の名を」

「フスブル伯爵!ルア・フスブル!」


 とんでもない痛みを経験したローブ男は、呆気なく死神の質問に答えた。すると、刺さっている剣の熱が徐々に冷めていき、やがて元の黒い剣に戻った。


「ああ……あ……」


 想像を絶するような痛みが全身を襲ったローブ男は半ば気絶してしまったようで、椅子の上で痙攣しながら呻き声を上げていた。


「フスブル伯爵……なんとも物好きな方ですね」


 死神は冷静に言い放ち、そして辺りに転がる護衛や冒険者を見つめた。中央には、袋から半身を出したまま剣に貫かれている青年冒険者の姿もあった。


 死神は、中央で剣に貫かれたまま転がる冒険者にゆっくり近付いていく。


「貴方には特にお世話になりましたね。彼女も含めて」


青年冒険者は必死に死神から逃げ出そうともがくが、拘束されている上に身体が剣に固定されて動けない。


「私は……彼女の平穏な生活を壊そうとした貴方を一生許せそうにない」


「んー!んー!」


 青年冒険者は必死に何か言おうと声を発する。


「……死神が無闇に人を攻撃してはいけない。と、貴方はおっしゃるのですね」


 青年冒険者は顔を振って死神の言葉を肯定する。


「残念でしたね。私は死神である以前に、地獄の罪人を拷問する悪魔でもあるのですよ」


「!?」


「貴方には死神誘拐を含めた地獄関連の余罪も沢山ございます」


 死神は手から黒く輝く剣を生み出す。青年冒険者は目を見開くも、恐怖で声が出ない様子だ。


「貴方は特別に、現世で罪を償わせて差し上げます」


 死神は無表情のまま冷たく言い放つと、手に構えた剣を青年冒険者に深く突き刺したのだった。

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