13話 おかしな獄上くん
異世界に来てから数ヶ月後……
異世界にはだいぶ慣れた。ある程度の知識も身についたし、一人で仕事もこなせる。
時折、複数人で行うお仕事では獄上くんと組むことが多く、静かにふざける獄上くんを横目に楽しくお仕事をする毎日。
今日も私は、森の中で獄上くんと一緒にお仕事中。
「フフフ……皆様ご機嫌よう」
極彩色の森の中。獄上くんの周りにカラフルな鳥の魔物が沢山集まり、頭や腕に沢山止まっている。
少しくらい多くても可愛いとは思うけど、ここまで集まるともはや気色悪い。
「獄上くん、お仕事に集中する為にもそろそろお別れしてあげてね」
「そうですね。皆様さようなら」
獄上くんが別れの挨拶をすると、獄上に止まっていた魔物は音を立てて一斉に空へ飛び立った。
「すごい音……」
私は飛び立った鳥を見つめ、隣にいる獄上くんを見つめる。隣にいる獄上くんはいつになく真面目な顔で、飛び去る鳥を見送っていた。
因みにこれは真面目にふざけている時の顔だ。
「…………」
私はそんな獄上くんの顔をじっと見つめ、ふと前に鐘の塔で受け止められた時のことを思い出した。
変な飛び方で壁にぶつかりそうになっていた私を助けてくれた獄上くん。いつもの笑みがなくて、すごく真面目な顔をしていた。
「(あの時の獄上くん……いつもと全然違った……)」
普段から優しい笑顔で好き勝手に振る舞う獄上くんとは違う一面に、私は妙な感覚を覚えていた。
多分、いつもと違う一面に驚いただけだと思うけど……
「(改めて見ると獄上くんって、結構カッコいい見た目してるなぁ……)」
「……白矢様?」
「えっ?」
獄上くんが私を不思議そうな顔で見つめている。
「じっと私の顔を見つめていらしたので……何か用があるのかと……」
「あっ、ごめん!見過ぎてた!」
私は慌てて謎の謝罪を……って、何で慌ててるんだろ私。
「いえ、見つめられて困ることもございませんから。気が済むまでどうぞご自由にご覧ください」
「美術館でしか聞かないような台詞だ……」
いつもの獄上くんを前に、私がさっきまで抱いていた気持ちはどこかへと飛んでいってしまった。
「フフフ……私の一挙一動にわざわざ付き合ってくれるのは白矢様くらいですよ」
「嬉しそうだね獄上くん……あ、木の周りに魔物が集まってる。あれ魔道具あるんじゃない?」
私は、遠くの木に不自然に集まる魔物達を見つけた。
「おや、こんな所に……少し失礼します。
獄上くんは木の幹に埋め込まれた魔道具を見つけると、そっと魔道具を回収した。
しばらくして……
「これで全部かな……」
私達は森の中で拾った魔道具を全て布の上に広げる。
今、私達が森の中で拾っていた魔道具は「やけに存在感が強い魔道具」だ。どうやら魔物だけが特に反応するように作られてるらしい。
でも、一部の死神もこの魔道具に強く反応してしまうらしく、仕事に支障を来たすと地獄から文句が出ていた。
「最近、やたら変な魔道具が増えてるね」
私達が拾っていた魔道具の他にも、変な魔道具が沢山見つかっている。魔物を呼び寄せる道具、魔物が気になる音を出す道具など……
何も無ければ無視していたけど、地獄の仕事に少なからず影響しているので、自由に動ける私達がこうして魔道具を回収しているのだった。
「どうやらこれも死神狩りの影響のようですね」
「あ、死神を捕まえようとする変な人達がいるんだっけ。ってことは、この魔道具も……」
「恐らく死神を呼び寄せるために作成した物なのでしょう」
あれからカフェ職場にも何度か、死神が目当ての冒険者達が来ていた。でも、どの冒険者も最後は獄上くんが追い返してくれた。
「ほんと迷惑だね……死神の仕事にも支障来たすし」
「私としてはどうでもいい話ですね」
死神のこの現状に対し、獄上くんは冷静にそう言い放つ。
「むしろ愚かな人間達に一生捕まえられない死神を追いかけさせ、無駄に時間を浪費させた方がこの世の為でしょう」
獄上くんは魔道具片手に貼り付けたような笑みを浮かべる。
「まともにこの世を生きる人間から、愚かな人間を遠ざけてると思いましょう。まあ、しつこいこの上ないことには変わりませんが……」
「うーん……」
「まあ、こちらにとって非常に迷惑になるようでしたら、その時は根本から潰しましょう」
この口ぶりからして多分、獄上くんはいつでも相手を潰せる程度には余裕あるんだろうなぁ……
「さて、道具も回収たし……そろそろ職場に戻ろっか」
「そうしましょう」
魔道具を全て集め終えた私達は、急いで職場に戻ったのだった。
「うーん……今日は特に多いねぇ……」
カフェ職場の店内にて。リリー上司はカウンターの上に積まれた魔道具を前に困り顔をしていた。
「このまま放置するのは良くないだろうけど……地獄は「相当なことが無い限りは放置でいい。けど、自由に対処して良し」って言ってたしなぁ……」
どうやら地獄側も、一部の人間の行いには目を瞑るつもりらしい。本当にいいのかな……?
「何はともあれご苦労様。二人とも、今日はお仕事終わりだよ」
「あ、分かりました……」
少しモヤモヤするけど、上が大丈夫だと判断するならそれに従うだけ。
私達はとりあえず気持ちを切り替え、この後に何をしようか考え始めた。
魔法の練習もいい、気晴らしに街に出かけてもいい。
「(……あ、そうだ。今日は街にお菓子でも買いに行こうかな?)」
折角だから職場の皆んなにもお菓子を買っていこうと決めた。
「(確かリリー上司とクロベさんはクッキーが好きで、ゴウくんはケーキが好きだったような……あ、獄上くんはどんなお菓子が好きなのかな?)」
獄上くんの好みのお菓子が気になった私は、一人でボードゲームを始めた獄上くんにそれとなく声をかけた。
「獄上くん!少し聞きたいことがあるんだけど……」
「大好物です」
何が?
「えっと、これから街に出ようと思って……獄上くんはどんなお菓子が好きかなって思ったんだけど……」
「……私は何でも喜んで食べる性分です。木の枝より酷い食べ物でなければ何でも大丈夫です」
「そこまで酷いものは買ってこないから大丈夫だよ!」
私を何だと思ってるの……
「うーん……獄上くんって、甘すぎる食べ物は苦手?」
「そんなことはございません!」
「うわっ」
私の質問に、獄上くんが食い気味に言葉を重ねる。
「菓子は私の大好物です。何卒、私に菓子を恵んでください……!」
獄上くんの様子がおかしい……?
「分かった!とりあえず獄上くんが好きそうなお菓子を釣鐘の街で買ってくるからね!」
「ありがとうございます……!」
私は何故か獄上くんにものすごく感謝されながら、カフェ職場を後にしたのだった。獄上くん、どうしたんだろう……
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程なくして、クロベと豪が仕事から帰還した。
職場の扉を開けて中に入ると、テーブルでボードゲームに勤しむ獄上を発見した。
「……ん?ハルノブのやつ、何してんだ?」
それとなくボードゲームを覗いた豪は、ボード上の道具が滅茶苦茶に並べられているのを不思議そうに見つめる。
素人から見てもおかしいと分かる配列を見た豪とクロベは、お互いに顔を見合わせる。
クロベはとりあえず、この場にいる上司のリリーに声をかけた。
「リリー上司、獄上さんどうしたんですかー?」
「ああ、確か……白矢さんが好きなお菓子を聞いてからどうも様子がおかしくてね……」
「お菓子?何でだ?」
豪は不思議そうに頭をひねるが、クロベはすぐに察したようだ。
「豪さん、今日は感謝の日ですー」
「えっ?感謝の日?」
「好きな人にお菓子をあげる日なんですー。きっとそれで、獄上さんはこんな風になってしまったんですー」
「お菓子を貰える日……つまりコイツは、お菓子欲しさにこんなおかしくなっちまったのか?」
「……まあ、そんな感じですー」
クロベはため息をつきながら、ボードゲームを前に未だに妙なことをする獄上を見つめた。
「(獄上さん、あの子が関わると途端にポンコツになりますねー)」




