12話 皆んなで景色を見に行こう
カフェ職場に帰還後……
仕事の報告をリリー上司に済ませ、暇になった私と獄上くん。
「さて、どこに連れていきましょうか……」
職場から外に出た獄上くんは、お出掛け先をどこにするか思案している。
「此処は特に見応えある場所が多いですから……では、こういうのはいかがでしょう」
「なになに?」
「空に最初に見えた一番星に遊びに行くという遊びです」
「さっきの前提どこ行ったの?」
そもそもの話、光ってる星って惑星丸ごと燃えてる星だよね?見れるところ光源しかないよ?
「それに私、遊び半分で他所の星に行けるほど強くは……」
「おーい!フユミ!ハルノブ!」
獄上くんがどこに行くか悩んでいると、職場にゴウくんが戻ってきた。
「ゴウ様、行ってらっしゃいませ」
「仕事終わって帰って来たんだよ!送り返そうとすんな!」
獄上くんの台詞に対して全力で言い返すゴウくん。
「それより、お前達はこんな職場の前で一体何してたんだ?」
「あ、実は……」
私は獄上くんと一緒に異世界の景色を見に行くことを伝えた。
「おぉ!この世界の景色を見に行くのか!それはいいな!」
ゴウくんは観光の話に嬉しそうに食いついた。
「その観光、オレもついてっていいか?」
「ゴウくんも?」
「おう!なんか同期と一緒に景色見に行くとか、青春って感じですっげーいいじゃん!」
ゴウくんは目を輝かせ、その場でピョンピョン飛び跳ねている。観光に行く前から既に楽しそうだ。
「オレも一緒に行きたい!」
「もちろんいいよ!ね、獄上くん」
私は獄上くんに顔を向けた。
獄上くんが上を向いたまま空中に浮かんでいた。
「……獄上くん?」
「ちょうど真上に一番星が見えたので……」
「宇宙まで飛ぶつもり!?」
あの話本気だったの!?
「戻ってきて獄上くん!」
私はなんとか獄上くんを地面に降ろす。獄上くんはゴウくんを見つめ、ようやく口を開いた。
「この観光は白矢様の話が発端ですので、白矢様に全ての権限がございます。なのでゴウ様の参加も勿論認められます」
「大げさだなぁ……ま、認められたのならそれでいいぜ!」
「ゴウ様、この観光中は白矢様に命を握られていると心得てください」
「えっ?」
「そんなことない!そこまで権限ないって!」
獄上くんは私が何をすると思ってるの?
「ゴウ様。もし白矢様が「あの魚に食べられて来い」と仰ったら、進んで食べられなさい」
「フユミお前……!」
「私そんなこと言わないよ!?」
そんな暴言一度も放ったことないよ!?
「あれ?何してるんですかー?」
そんなやり取りをしてると、クロベさんも仕事から帰ってきた。
「あっ、クロベさん!実は……」
私はクロベさんに、これまでの経緯を簡単に説明した。
「あー……」
全て聞き終えたクロベさんは、何故かゴウくんの方をじっと見つめている。
「ねえ、クロベさんも一緒に観光どう?」
「えっ?私も?」
「もしクロベさんが良ければだけど……どう?」
「私も地獄終わって暇だったので大丈夫ですよー」
「やった!」
職場の仲間四人で観光をしに行くことになった。賑やかで楽しくなりそう。
「よし!外の景色を観光しに行くぞ!オレについて来い!」
「おー!」
いつの間にかゴウくんがリーダーとなり、私達の引率を始めた。しかも観光先もゴウくんが選ぶみたい。
皆んなで空を飛び続け、やがて大きな街に到着した。
煉瓦造りの家が並ぶ大きな街。遠くには巨大な鐘のある大きな建物が見える。今は夕方なので、オレンジの光に街が照らされている。
ゴウくんは鐘の塔に近付き、巨大な鐘が吊り下がっている吹き抜けの場所に着地した。
「うわー!この鐘、すごくおっきーい!」
私達よりも遥かに巨大な鐘が頭上に見える。綺麗な金色をした、とても素晴らしい出来の鐘だ。
「だろ?この鐘は超有名な職人が集まって作られたすっげー鐘らしいぜ!」
「中途半端な知識ですねー」
「知らないよりはマシだろ?」
クロベに知識を指摘されるも、ゴウは気にせず話を続ける。
「みんな!ここがオレのお気に入りの景色だ!此処から見える夕陽がすっごく綺麗なんだぜ!」
ゴウくんの言う通り、目の前にはオレンジ色の強い光で照らされる見事な街の景色が広がっていた。
暗くなり始め、辺りの街灯や家の中が灯り始める。
賑やかな煉瓦の街、落ちていく夕陽……何もかもが美しい。
「…………」
獄上くんは無言で目の前の景色を見つめている……かと思いきや、遠くに見える人の群れを熱心に見つめてるだけだった。せめて目の前の景色見ようよ……
「すっごく綺麗だね……!」
「だろ?夜は街に灯りがついてまた格段と綺麗になるんだ!」
「ここは知る人ぞ知る有名な場所ですー。威張れるほどのことじゃないですー」
「なんだと!?じゃあクロベはもっと良い景色を知ってるのかよ!?」
「もちろんですー。では、ついてきてくださいー」
次はクロベさんが先頭になり、空を飛び始めた。
「あ、待って!」
私も慌てながらもクロベさんについていく為に空を飛ぶ。
だけど、慌てすぎたのが原因か私は建物のヘリに足を引っ掛けてしまった。変な姿勢から急発進した身体が、想定外の方向に飛んでいく。
多分だけど今の私、すっごくギャグみたいな飛び方してると思う。
「うわーっ!?」
「白矢さん!?」
「フユミ!?なんだその飛び方は!?」
「制御できなーい!」
なんとかバランスを取ろうとするけど、中々動きが定まらない。目の前には煉瓦造りの壁。
「ぶ、ぶつかるー!!」
真正面の煉瓦の壁を前に、私は思わず目をつぶる。
ドンッ!
衝撃と共に、壁に激突した音が響く。だけど、壁にぶつかったにしては衝撃も壁の感触も妙だ。しかも身体に何か巻き付いてる。
「白矢様、大丈夫ですか?」
「えっ……」
至近距離から獄上くんの声がする。私が目を開けると、目の前には獄上くんの顔が。
私はいつの間にか、獄上くんに全身で抱き止められていた。
「獄上くん……?」
いつもの笑みが消えた獄上くんに、私は思わず動揺する。
「とりあえず怪我は無いようですね」
「あ、ありがとう……」
唐突にこんな出来事に遭遇したからか、変な飛び方してたからか、今の私の顔からものすごい熱が出ている……ような気がする。
「か、壁に激突するところだった……獄上くん、ありがとう」
「いえ、白矢様が壁と一体化せずに済んで良かったです」
「あはは……」
私を地面にそっと下ろしてくれた獄上くんは、いつもの笑顔で私を見つめていた。怪我は無いし平気だけど、すごくドキドキした……
「おいおい……死神なら壁だってすり抜けられるし、それ以前にオレ達は不死身だろ?ぶつかったって平気だって!」
「ごめん!死神になったばかりだからまだ慣れてなくて……!」
「そっか……まあ、そんなこともあるよな!ほら、とっとと次行くぞ!」
「うん!獄上くん、行こ!」
「はい」
私は獄上くんと一緒に空を飛び、ゴウくんとクロベさんに追いつくと、次の観光スポットを目指して飛び立ったのだった。
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「へぇ……此処、本当に死神の出没スポットだったんだ」
鐘の塔から飛び立った死神の群れを、謎の若い冒険者が遠目から眺めている。その冒険者の周りを、ガタイの良い冒険者が囲んでいる。
「綺麗な景色の見える場所に死神あり、か。まさか四体もいるなんて想定外だったけど」
謎の冒険者は妙なナイフを手で弄びながら、その場から歩き出した。それに合わせて、周りの冒険者も移動を始める。
「綺麗な死神は高値で買い取り……あの死神を四体全部捕まえたら、どれくらいの額になるかな?」
謎の冒険者は妙なことを口走りながら、暗い街の中へと消えて行ったのだった。




