10話 見えてる人
「この世界では、死神が視認できる方をそれとなく助ける風習がございます」
獄上くんは私に顔を向け、簡潔に説明する。
「そうなの?」
「ええ。ですが、あくまでそれとなく助けるだけ、そこまで深く関わらなくて大丈夫ですよ」
「あくまでそれとなく、なんだね?」
「その通りです」
つまり、人間にあまり深入りせず、そこそこの距離で接するってことかな?
なんてことを考えてると、グレイさんが私にじっと顔を向けてきた。
「この子はちゃんと受け答えできるのか。他の無愛想で反応が薄い死神とは違うようだな」
「私の同僚です」
「へえ……」
グレイさんは私を見つめ、再び口を開いた。
「君は何て名前?」
「あ、はい!新しく此処に来ました!白矢フユミって言います!」
「シロヤフ……何だか優しそうな雰囲気の名前だね」
「シロヤです!」
私達とグレイさんはそれとなく会話するけど、周りから見たグレイさんは妙な独り言を口走る人に見えてるよね……?
だけど、一人で勝手に会話を始めたグレイさんを、黄冒険者と青冒険者は冷静に見つめている。
「リーダー、また死神と遭遇してるみたいだな」
「そのようですね。口振りからして、この場に二名ほどいるご様子……」
冒険者二名を背景に、グレイさんは会話を続ける。
「それにしても君、何とも乙女な格好をしてるね……」
「私ですか?」
今日は青のリボンを頭に付け、黒のワンピースに白のニーソックスを着用している。
異世界の、ましてや魔物がいる環境にこんな軽装で乗り込むのは危険行為。だけど私は死神だから、好きな格好で世界を歩き回れる。
「死神はきっちりスーツ姿の奴が多かったから、珍しいなって……」
「職場はある程度自由なんです。なので私は、仕事の邪魔にならない程度にオシャレしようかと思って」
特にこれといった制約はないけど、死神だから黒を基調とした服を多めにするかも。
「スーツでも正装でもないから、死神っぽくないから変ですか?」
「いやいや!そんな……!か、可愛い……と、思う……!」
「え?ホントですか?」
グレイさんは言葉を詰まらせながら私を褒めてくれた。素直な褒め言葉は素直に嬉しい。
「グレイ様、この私に可愛いだなどと……随分と率直に述べるのですね……」
「お前じゃねーよ!」
妙にしおらしい獄上くんにグレイさんがブチ切れている。
その様子を見たグレイさんの仲間は……
「うわっ!照れてたリーダーが急にキレた!」
「どうやらこの場に二体の死神がいるようですね……一体は乙女らしい死神のシロヤさん、もう一体はいつもの変人ハルノブさん」
仲間はこの状況に慣れっこなのか、少し離れた場所からグレイさんを観察している。
「グレイさん、大丈夫ですか?」
「あ、急に怒鳴ってごめん!君は可愛いよ!あはは……」
グレイさんさっきから私に対してだけ、妙にソワソワとぎこちない気がする……もしかしてグレイさん、女の子になれてない?
「あ、そうだ。ハルノブ、街に落ちてた爆弾はあの後どうなった?」
「えっ、爆弾?」
それってまさか……
「あの爆弾なら、白矢様のご協力もあり無事に処分できました」
ご協力って……
「最後の最後に二択を迫られましてね……私が赤を切るか青を切るか悩んでおりますと、そこに颯爽と現れた白矢様が助言をしてくださり……」
「盛り過ぎだよ獄上くん……あと、最後の二択に関しては既に答え知ってたでしょ」
「フフフ……そんな馬鹿な」
ここに来て尚とぼける獄上くん。グレイさんはそんな私達のやり取りをじっと見つめている。
「……爆弾は本当に解体したんだよな?」
「あ、はい。獄上くんが職場で文房具片手に解体作業してました」
「ええっ!?職場!?」
「あ!大丈夫です!爆弾は無事に解体できましたし、職場は無事でした!」
「なら大丈夫か……」
グレイさんはほっと息をついて胸を撫で下ろす。
「ありがとう、お陰で街は助かった」
「それは何よりで」
「そうだ、深樹海について死神達が知ってることを教えてくれないか」
「分かりました」
グレイさんが獄上くんと情報のやり取りを始める。
こうやって冒険者との繋がりを持つのも、何か異世界独自って感じでいいなぁ……
「情報ありがとう。じゃあな」
「グレイ様、どうかお元気で」
「おう」
グレイさんは慣れた様子で返事をすると、冒険者二人の方へと戻っていった。
「では、我々はパトロールに戻るとしましょう」
「うん!」
私は戻ってきた獄上くんと一緒に、深樹海にへと歩いていったのだった。




