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9話 深樹海に到着

 初仕事のパトロールをする為に、私は付き添いの獄上くんと一緒に職場のある光の森から飛び出した。


 全速力で駆け抜け、何のトラブルもなく深樹海に無事に到着した。


「すごい!本当に海の中みたい……!」


 地上にいるはずなのに、目の前には海の中のような景色が広がっていた。


 この深樹海は、土地の影響で穏やかな魔法の風が流れているらしい。その風のお陰か、とても不思議な生物が多数生息しているとのことだ。


 長くて大きな葉っぱが穏やかな風に吹かれ、さながら海藻のように揺らめいている。

 巨大な珊瑚のような木々の間を、魚のような鳥が泳ぐように飛んでいる。


「綺麗……!」

「白矢様、あの気泡のように見える物体も魔物ですよ」

「えっ?」


 獄上くんの指摘を聞いた私は、宙に浮かぶ大きな気泡を注意深く見つめる。


「……あ、ホントだ!スライムっぽい!」

「この森にのみ生息する特殊な形状のエアロスライムです」

「可愛い……!」

「捕食対象を発見すると、あの丸い身体で相手の呼吸器を塞ぎつつ、空中に連れ去るのだそうです」

「可愛くない……!」


 やっぱり魔物は恐ろしい。でも、私達は死神だから魔物の攻撃対象にはならない。


「私達はこの森をパトロールすればいいんだよね?」

「ええ。ただ森の中を歩くだけで大丈夫です」

「魂が彷徨さまよい歩いてないか確認したり、異常が無いか見て回ればいいんだっけ」

「完璧です。もう私が教えることはありません……」

「そんなことないよ!」

「おお、ここが深樹海か」


 そんなやり取りをしていると、遠くから元気そうな人の声が聞こえてきた。


「あっ!冒険者だ!」


 男性の冒険者が三名。明らかにリーダーのような風貌の赤い冒険者、力自慢って感じのガタイがいい黄色の冒険者、眼鏡をかけた冷静そうな青の冒険者。

 まさに異世界って風貌の冒険者が、初めて来たであろう深樹海をキョロキョロ見回している。彼らが私達に気付く様子は無い。


「あの人達は道具を持ってないのかな……」


 この世界には死神が見えるようになる道具があるけど、高価過ぎるから一部の冒険者しか持ってないらしい。

 とりあえず、私達はあの冒険者達と正面から出くわすことはないみたい?


「あの冒険者達もこの森に入るのかな?」


 私はそう言いながら獄上くんの方を向いたけど、そこに獄上くんの姿は無かった。


「……あれ?獄上くん?」


 私はあちこちに顔を向けて獄上くんを探して……ふと、遠くに見える冒険者の数が一人増えてるのが目に留まった。


「…………!?」


 居た。


 冒険者の格好をした獄上くんが、冒険者の群れの中に混じっていた。


「獄上くん!?何してんの!?」


 獄上くんは、まるで最初から仲間だったかのように冒険者の中に混じっている。



「綺麗な場所だな……此処は外では見ないような妙な魔物で溢れてるから、皆んな油断するなよ?」


 赤冒険者は仲間達の顔を見ながら悪戯っぽく言い放つ。


「当たり前だ!どんな状況だろうが、俺は気を緩めるつもりはないからな!」


 黄冒険者は大きな斧をしっかり構えつつ、赤冒険者に元気よく返事をする。


「声を張り上げないで、魔物が寄って来るでしょう」


 青冒険者は手袋をしっかり装着しながら黄冒険者に注意を促す。


「その通りです。下品この上ありませんよ、全く……」


 獄上くんは眼鏡を持ち上げ、黄冒険者に鋭く言い放つ。


 獄上くん、冷静知的敬語眼鏡キャラが被ってるよ。青い冒険者のキャラが薄くなって可哀想だよ。


「下品この上ありませんよ、全く……」


 しかも青冒険者が獄上くんの発言とほぼ同じセリフを発していた。まさかのセリフ被りだ。


「まあまあ、そう言うなよ。コイツは悪気があってやってるわけじゃないからな」

「その通りです。彼が可哀想でしょう……」


 そこに獄上くんの熱い手のひら返しが炸裂。


「意図して声を張り上げている方が遥かにマシです。無意識に声を張り上げるなんて、危険以外の何者でもございません」

「パーティーを危険に晒すおつもりですか?」


 獄上くんは再び青冒険者の意見に同調する。獄上くんはどっちの味方なの?


「獄上くん、楽しそうだね……」

「楽しいですよ。白矢様もいかがですか?」

「私は大丈夫」


 私は少し離れた場所から冒険者達の側にいる獄上くんに声をかける。


「まあ、冒険者達には見られてないから別に大丈夫なんだろうけど……」


 そう言いながら私は、リーダーっぽい冒険者をチラッと見つめる。


「…………」

「……あれ?」


 赤冒険者が私の顔をしっかり見つめている。


「もしかして……見えてる?」

「君は……新しい死神?」

「!」


 赤冒険者が私に優しく声をかけてきた。この人、完璧に私が見えてる。


「白矢様、このお方はグレイ・レッド様です。この世で数少ない、死神を視認できる人間です」

「ハルノブお前……毎回変な混じり方をするな」

「おや、見えていたのならそうおっしゃってくださればいいものを……」


 赤冒険者ことグレイさんは、獄上くんの奇行がずっと見えてたみたい。いや、それよりも……


「獄上くん、その人は知り合いなの?しかもそれなりの頻度で会ってるみたいだけど……」

「そう言えば白矢様にはまだ、この世界における見える人間と死神との関係を話していませんでしたね」


 獄上くんは服装を元に戻し、私に向き直る。


「この世界では、死神が視認できる方をそれとなく助ける風習がございます」

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