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青い青い空

エピソード2になります。

 「それに…君の唇を奪ってしまったのは私の責任でもあるからね」


 僕は耳を疑った。そんな記憶どこにもあるはずがない。僕は疲れているんだ、きっと幻聴に違いない。そう自分に言い聞かせた。


 「…ちょっと待て、言ってる意味が分からん。君は僕の看病をしてくれたんじゃないのか?」

 「もちろん看病をしたのは私だが、君が倒れた時に応急処置をしたのも私だよ」


 彼女の話によると、僕は呼吸困難になって倒れたらしい。僕が倒れたあと、新が僕を校内に運び、先生を呼びに行った。その間、たまたま近くを通りかかった神崎さんが処置をしてくれたという。そして、人工呼吸も…。日曜日の十三時頃に学校にいた人間が、たまたま後者の裏門側の通路を歩いていたのはある意味奇跡だといえる。


 「そう…だったのか。何はともあれ助けてくれたことには感謝しかないというか…」


 僕は茹でだこみたいになっているに違いない。そんな僕を見かねて神崎さんが言う。


 「君…存外初心(うぶ)なんだねぇ。まぁ、さっきのは半分冗談さ」

 「…こんなことならまだ意識が戻らないほうが良かったかもな」

「おいおいそんな悲しいこと言うなよ。人工呼吸はノートのページを適当に切って間接的にしたさ。それに、こんな色気のない女がファーストキスの相手だなんて、君も嫌じゃないかい?」


 僕は内心ほっとしたが、どこか複雑な気持ちになった。


 「…まったく、しかも何で初めてだと決めつけるんだ?」

 「女の勘ってやつだよ、ごめんごめん、傷つけたなら謝るから」

 「まあ事実なんだが…」


 彼女はそのあと昼から1時間ほど僕と談笑し、用事があるからと言って病室を出て行った。僕は感慨に耽っていた。こんなに人間と話したのはいつぶりだろうか。高校に入学してから四か月ほどだが、僕には新以外に友達と呼べる人間はいない。その新も昼休みと野球部の帰りに談笑する程度の仲だ。小学校、中学校と孤立してきた僕にとって、神崎寧音は生まれて初めてできた友達のように思えた。


 しばらくして、僕の担当医らしき男がやってきた。年齢は三十代後半といったところだろうか、姿勢がよく、眼鏡をかけており、首から下げているカードには日下部(くさかべ)と書かれている。いかにも真面目そうな人だ。


 「こんにちは南雲君、君の担当医の日下部です。調子はどうかな、痛いところや違和感のある所はあるかい?」

 「いえ、特にはありません」

 「体調は良くなったみたいだね。早速だけど君には少し話さなければいけないことがあってね……今ベッドから起きて立つことはできるかな?」


 僕は言われた通りにベッドの隣に立ち上がって見せた。僕は次の瞬間、なにかおかしいと思った。いくら回復したとはいえ、呼吸困難になって丸一日寝込んでいたはずだ。重症なら頭に何らかの障害があだろうし、軽症だったとしても、めまいや身体のだるさぐらいはあるだろう。それなのに体は普段と変わらず動かせるし、何より頭部に違和感さえない。


 「なるほど…もし支障なく歩けるようだったら、一時間後にまた来るから診察室で詳しい話を聞かてほしいな」

 「……わかりました」


 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、一時間はあっという間に過ぎてしまった。僕は日下部さんに連れられ、同じ階の診察室まで歩いて行った。少し大きな診察室に入ると、僕を急かすように自動ドアが閉められた。数秒の沈黙あと、日下部さんが口を開く。


 「さて…本題に入ろうか。南雲君、単刀直入に言わせてもらうと、君が倒れたのは熱中症のせいではないんだ」


 僕は困惑して食い気味に質問した。


 「じゃあなんで…」

 「君の症状は…とても言いにくいんだが、世界的にも前例が少ない症状なんだ。一部の研究者の間では、全ての患者の年齢が13歳から18歳の間だから『青年期無呼吸症候群』や『青春症候群』なんてよぶ人もいるんだがーー」


 僕は酷く狼狽した。全身から力が抜けていくような感じがした。その後は日下部さんの話をただぼんやりと聞くことしかできなかった。


 「ーーということになる。だから…現状私たちは経過観察するしかできないんだ。本当に力不足で申し訳ない……。ただ僕たちも最善を尽くすつもりだ、少しでも違和感があったら迷わずここに来てくれ」


 病院からの帰りは足が少し軽くなったように感じた。頭の仲が空っぽになったような、自分の中から大事な何かが無くなったような感じだ。きっと悲しみよりも虚無感が勝って、気でもおかしくなったのだろう。憎ましいことに、昼過ぎの空は雲一つない晴天だった。僕は恐怖で思考を止めたら次の瞬間吸い込まれてしまいそうな、そんな青い怪物に見降ろされていた。










ご覧いただきありがとうございます。次回も定期的に更新していければと思います。

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