ストレンジ・ドリーム
初投稿です!ジャンルは恋愛・青春小説になります。世界観にSF要素があります。
午前11時30分。今日のみずがめ座は8位らしい。起きたばかりの僕の目の前でテレビが断言していた。ラッキーアイテムの青いタオルなんて、青春時代のどこにも落ちていないのに。僕は不機嫌になってその口をふさごうとした。しかし、次のニュースがその指を制止させた。
「国内の平均寿命が98.4歳となり、過去最高値を更新しました」
僕の手は自然と胸に添えられていた。なぜだか胸のあたりがだんだんとかゆくなっていくような、そんな気がした。まるで僕の中に異物があることを訴えるように。
ーあれは、三年前の今日と同じような猛暑日のことだった。
「環、根性見せろ!」
最悪だ。守備練習が長引いた上に走り込みなんて聞いてない。もはや監督やチームメイト、目に映るもの全てが敵のように感じた。今日ぐらい手を抜いてもバチは当たらないだろう。そう思いつつ地面を蹴った。
違和感を感じたのはコースを三周した頃だった。肺が鉛のように重い。
「…あ…れ…」
言葉に出したときにはもう遅かった。
「…環? おい環しっかりしろ! 誰か先生呼んでこい!」
「俺の声聞こえるか⁉ 返事してくれよ!」
ちょうどさっきまで後ろを走っていたチームメイトの新の声が聞こえる。次の瞬間に僕の視界は傾き、意識は地面へと吸い込まれていった。平均寿命なんてものはあてにならない。人生なんてものは、案外唐突に幕を下ろしてしまうのかもしれない。
僕は夢を見た。映画館の最前席で自分自身のモノクロの|人生を見ている夢だ。ここがあの世なのか、はたまた壮大なドッキリなのか、そんなことはどうでもよかった。僕は身を乗り出して見入っていた。小学校で登下校がいつも一人だったこと。中学受験に失敗して自分に失望したこと。高校でも成績はいまいちで、何をするにしても中途半端だったこと。猫背でハイライトのない目をした僕を見て、惨めな気持ちでいっぱいになった。ひょっとしたらチャップリンは噓をついているのではないか。人生は長期的に見ても悲劇に変わりはない。そんな屁理屈を思い浮かべながら人生を見ていた。ふと誰かが僕に問う。
「君は恋愛をしないのか?」
「…まぁ…」
僕に恋人がいたら、この映画も少しはマシになるだろうね。そう言おうとして僕は我に返った。同時に右隣の席を見ていた。そこには紛れもなく僕自身がいた。ただどことなく違和感を感じた。
「……いや、そんなことが、俺…なのか?」
「うーん、それは難問だなぁ。君であることには間違いないんだけど、強いて言うなら君の奥底に眠っていた欲みたいなもんだと思ってくれていいよ」
「はあ…欲…か、うーん、聞きたいことは山々なんだが…俺も絵に描いたような青春をしたいって願望 があったってことか?」
「絵に描いたようなってのは微妙だけど、まあそういうことになるね」
僕の頭はショート寸前だった。ついさっきまで地面に倒れたと思ったら、映画館の席に座っていて、自分と話している。でも不思議と会話に違和感は感じなかった。続けて僕が話す。
「あとさっき『願望があった』っていったよね。それはちょっと違う、正確に言うと『ある』だよ。なぜなら君のここは止まっちゃいない」
僕は僕の胸のあたりをトンと押して言った。
「たぶん君は、君の感情や情熱を押し殺そうとしているんだ、自分を自分で壊しちゃ本末転倒だろ?」
「そんなこと今更言われても、どうにもならーー」
「なるさ、見てみな、上映時間は終わってないみたいだぞ」
僕は促されるままにスクリーンを見た。スクリーンは先ほどとは打って変わって砂嵐だけが映し出されていた。
「フィルムの続きが切れてるんだよ、まあ次ここに来るときはもっと面白いもんが見れるって期待してるわ」
「おい、それはどういうーー」
次の瞬間、スクリーンから淡く暖かみのある白い光が漏れ出した。僕は反射的に目を閉じた。
数秒後、目を開けると白い天井にある電灯が目に入った。何か夢を見たような気もするが、記憶は霧ががったままだ。窓のほうに目をやると、灰色の雲と見知った住宅街が見えた。ベッドについたデジタル時計にSUNと表示されているところを見ると、丸一日寝ていたようだ。しばらくすると、反対側から足音が聞こえてくる。
「おお環ぃ! よかったぁぁ…お前てっきりこのまま目を覚まさねえのかと…」
新の活気のある声が聞こえる。ここはどうやら現実の世界らしい。彼は川島新、僕の同級生であり、野球部のチームメイトだ。そして、僕の唯一の信頼できる友人でもある。
「…ありがとな。お前がいなかったら本当に危なかったよ。…ずっとここにいてくれたのか?」
「いや、俺はさっき来たとこだ。それに礼をする相手は俺じゃなくて、待合室にいるやつだよ。名前はなんて言ったかな……えーっとかん……神崎だよ、隣のクラスの。俺はもう行かなくちゃなんだけど、ついでに呼んでくるわ」
そう言って新は病室を出て行った。神崎寧音。たしかそんな名前の女が隣のクラスにいたはずだ。友人と呼べる存在が一人しかいない僕は、当然話したことは無い。僕が彼女について知っていることを挙げるとすれば、体育の授業でいつも見学しているということだけだ。そんな彼女がなぜここまでしてくれたのか、僕には見当もつかなかった。僕が思考の海に航海しようとしたとき、やや低めの落ち着いた声がそれを引き留めた。
「やぁ、初めましてだね。ご機嫌いかがかな、南雲くん」
ぎょっとして振り向くと、そこには雪と見間違うほど色白で華奢な女が立っていた。背丈は中背ぐらいで、オニキスのような綺麗な黒色の瞳。髪は肩にかかるぐらいで黒色だが、よく見ると数か所だけ灰色の髪が生えている。
「君が神崎さんだよね、新から熱心に看病してくれてたって聞いたよ、ありがとう。その……つかぬことを聞くんだけど、なんで話したこともないような僕なんかをこんなに気にかけてくれたんだい? 」
「そうだなぁ…それはーー。その…あれだ…特に理由なんていらないんじゃないか?」
まだ恋愛要素はほぼありませんが、今後どんどん投稿していく予定です。