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6. 出会い

ここからしばらく、過去の話になります。

よろしくお願いいたします。

それは二年前のことだったーーー


当時、勤務していたジリアンのいる病院に急患が担ぎ込まれてきた。

出血が酷く意識が混濁していて、腹部の内出血が心配され、左の上腕が深く抉られた騎士だった。


国の西に広がる広大な森林はバウルの森と呼ばれ、数年毎に魔獣が出没し、近隣の村落に被害を及ぼすので、騎士団が交代で討伐している。

魔獣の出没地域や種類は年毎に様々で、今回は病院からほど近い森の南端でも目撃されたと院内で報告されていた。

入院が必要な怪我人は出ていないのは、恐らく彼ら騎士団が食い止めていてくれるお陰なのだろう。


熟練したロベルト医師は、肋骨は無事、腹部の酷い打撲もだが、一番厄介なのは左上腕の傷と素早く判断し、騎士を処置室に移した。

大きく腫れ上がった左上腕は、魔獣の爪先で抉られたものと思われた。

魔獣の爪先には、人体には毒となる成分が含まれている場合がある。

恐らくそのせいで腕が腫れ上がっているのだ。まずはその毒を中和しなければならない。

付き添ってきた騎士から魔獣の特徴を聞いたロベルトが、中和剤を選んで患者の口に流し込んだ。


「これで大丈夫だ。患者の名前は?」

「ブルースです。ブルース・ローランド」


記入票を確認してジリアンが応えると、ロベルトは意識のないままの患者に話しかける。


「ブルース、しっかりするんだ。これから熱が出るが、持ち堪えてくれよ」


傷口の縫合を済ませ、患部に炎症を抑える薬草の湿布をして、できる限りの処置は終了した。

夢中で医師の手伝いをしていたジリアンは、意識を手放している騎士が男らしい端正な顔立ちをしていることに改めて気がついた。

緩やかにウェーブのかかったダークブロンドの髪はやや長めで、通った鼻筋と意志の強そうな口元。

髪と同じ色の長い睫毛に縁取られた瞳は、担ぎ込まれてきた時から閉じられているので何色かは判らない。

ただ目を瞑ったままの顔が少し幼く見えて、彼女は何故か落ち着かない気持ちになった。


医師の指示で、ジリアンが病室を整えるためにいち早く待合室に出ると、騎士服を着た男たちがベンチで待機していた。患者の同僚なのだろう。

処置室のドアが開いた音に、一斉に騎士たちの目がジリアンに集中する。


「ふ、副団長はっ…副団長は…」


駆け寄ってきた騎士は、少年と云っていい年齢に見えた。

その勢いに、ジリアンは目を見開いて一歩下がる。

目を赤くした騎士は、それ以上は言葉にならないのだろう。

食い入るようにジリアンを見つめている。

ジリアンは軽く息を吐き、背は彼女より高いものの細身の若い騎士を見上げると、慰めるように優しい口調で話しかけた。


「大丈夫よ。今、治療を終えて少しお休みになっているわ」

「っ…お、俺のせいなんです!俺を庇って、副団長はーーー」


いつの間に近付いたのか、若い騎士の肩を叩き、隣には美しい顔立ちの騎士が立っていた。

ジリアンに向き直り、口を開く。


「私は第二騎士団長のジェレミー・モルガンと云います。ブルースの状態は…?」


ジリアンはジェレミーを真っ直ぐに見返した。

銀色の髪にペリドットの瞳。

美しい顔立ちは中性的で、騎士と知っていなければ、貴族の子息か王宮の文官といった風情に見える。

これはご令嬢たちが放っておかないわね。

そう関係ないことに意識が向いたが、出てきた言葉はあくまで冷静で事務的だった。


「看護師のジリアン・マルレーネと申します。命に別状はありませんが、ロベルト先生はこれから熱が出るだろうと仰っています。詳しくは、ロベルト先生から説明があると思いますのでお待ちください。私は病室を整えに参りますので失礼します」


軽く目線を下げて礼を取ると、騎士たちが道を開けてくれた。

ジリアンは二、三歩歩き出したところで振り返り、堪えきれずに涙を流している若い騎士のところへ戻った。

予備に持っていた清潔なタオルを騎士に渡す。


「返さなくていいわ。彼は大丈夫。良かったわね」


若い騎士に微笑いかけ、彼女は騎士服の男たちの間を歩き出した。

早く病室を整えなければ、患者が移動して来られない。

足早に離れていくジリアンは、その若い騎士が彼女に向かって深く頭を下げていたことに気がつかなかった。


お読みくださって、有難うございます。

今夜、もう一話投稿します。

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