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24. 祝福

よろしくお願いします。


無事に結婚に漕ぎ着けました。。。良かった!

結婚式はブルースとジリアンの意向で、ウイローワックス内にある小さなチャペルで親族だけで行われた。

キャンデール家のような国内でも有名な貴族としては異例だが、その代わりに後日、ウイローワックスで盛大なお披露目の夜会が開かれることになっている。


「ブルース・ローランド・キャンデール、汝、この者を妻として生涯敬い、守り、愛し抜くと誓いますか」

「誓います」


司祭の穏やかな声に、ブルースは力強く応えた。

司祭は微笑み、温かな視線をジリアンに向ける。


「ジリアン・マルレーネ、汝、この者を夫として生涯敬い、守り、愛し抜くと誓いますか」

「誓います」


また涙が溢れそうになり、それを堪えてジリアンは少し声が震えてしまった。

ブルースを見上げると、判っている、という風に微かに頷く。

蕩けたような視線が注がれ、ブルースは「愛している」と、唇の動きだけでジリアンに伝えた。

ジリアンはふわりと頬に熱を感じる。

二人を見守って、さらに笑みを深くした司祭の声がチャペル内に響く。


「これにより、この二人を夫婦とする。異議のある者はこの場で申し立てよ。さもなければ、永遠に口を閉ざすがよい」


司祭は参列者を見渡して反応を待つ。

慣例に従っての宣言に、チャペル内では温かな沈黙に包まれた。

最前列に坐る兄のコンラッドの隣で、瞳を潤ませてこちらを見ているレスリー=アンが目に入り、ジリアンはまたじわりと涙が滲んでくるのを懸命に堪えた。

少し後ろの席には、艶やかな赤い髪が見える。

キャンデール家からの正式な招待で、ダイアナも父君のローウェル侯爵と参列しているのだ。

満足そうに頷いた司祭が、ブルースに囁いた。


「花嫁にキスを」


ジリアンが目を閉じるとブルースの顔が近づき、温かな感触が唇に触れてほんの少しだけ味わい、離れていった。

「おめでとう!」という祝いの言葉と拍手が式の終了の合図で、新郎と新婦は腕を組んで退場する。

幸せそうににっこり笑ってジリアンがブルースを見上げると、ブルースは微かに苦笑するような表情を浮かべた。

ジリアンが目で問いかけると、ブルースがジリアンの耳元で囁く。


「早く君を抱きしめたくてしょうがない」


ぶわりと赤くなった顔を手に持ったブーケで隠し、チャペルのドアが近いことにジリアンは感謝した。


◆◆◆


式の後すぐに新居である王都のタウンハウスへ移動したい、というブルースの意向は母のエスターによって事前に却下されていた。

せめて両家揃っての、婚姻の晩餐は絶対に譲れないと。


ブルースの瞳と同じ青いドレスを纏ったジリアンと、裾に深い紫の刺繍が施されたグレーのフロックコート姿のブルースが晩餐室に現れると、一同は歓声を上げて歓迎した。

キャンデール家の料理長トニオが腕によりをかけた晩餐が振る舞われ、エスターと親しげに話す両親の姿を見てジリアンは安堵の息をそっと吐いた。

医道に邁進する両親を誇りに思ってはいたが、富と力を持つキャンデール伯爵家と、社交とは縁遠く貴族との繋がりも薄い子爵家のマルレーネでは家格の違いははっきりしている。

だがそれを気にするようなエスターでも両親でもない、ということを目の前の彼らから改めて感じ、ジリアンは思っていたよりもそのことを気にしていたことに気がついた。


「どうした?」


隣のブルースが耳元で囁いてきた。


「いえ、別に…」

「ん?」

「幸せだな、と」


ジリアンはブルースに微笑んだ。

ジリアンがエスターと話す両親、会話を弾ませているコンラッド、レスリー=アン、サミュエルに目を向けると、その視線を追ってブルースも頷いた。


「そうだな。祝ってもらえる結婚は幸せだ。だが、俺の理性がそろそろ保ちそうにない…」


後半は口の中でもごもごと云っていて聞き取れなかったので、ジリアンが耳を寄せようとすると、ブルースは軽くジリアンの肩を押してにっこり微笑むと椅子から立ち上がって一同に宣言する。


「もうデザートも済んだし、俺たちはそろそろ失礼するよ」



早々に馬車に乗り込んだブルースとジリアンだったが、王都へ向かう間、ジリアンはブルースの膝の上から降ろしてもらえなかった。

「ずっとこうしたかった」と囁かれ、口付けの雨が降ってくる。

息も絶え絶えになりながらブルースの口付けに応えていたジリアンの唇はぽってりと腫れ、彼女は彼を上目遣いに睨んだ。

これでは新居の召使いたちに、何をしていたかバレバレだ。


「それは逆効果だよ、ジル」


だがブルースは困ったように笑って、許しを乞うように再び軽くジリアンの唇を啄んでくる。

もとより、愛する相手からの口付けを拒むことは難しい。

「大丈夫、俺が何とかするから」とブルースに云われてしまえば、もう拒む理由も無くなってしまう。


◆◆◆


「着いたよ」


そうブルースがジリアンに囁くのと、馬車が止まるのとはほぼ同時だった。

ジリアンはブルースの口付けに応えるのに夢中で、馬車がどこをどう走っているのか判らなかったが、ブルースは案外冷静だったようだ。

恨めしげな目をブルースに向けると、何かを企んでいるようなブルースの微笑みが返ってきた。


「愛しの奥さん、俺の夢を叶えてくれるだろう?」

「…?」


先に降りたブルースの腕に捕まって、ジリアンが馬車を降りると体がふわりと浮いた。


「!」


気がつけば、ブルースに横抱きにされている。

驚いたままブルースを見上げると、蕩けるような笑みが返ってきた。


「花嫁を抱き上げてわが家に入るのが夢だったんだ。今の君の顔を誰にも見せたくないから、顔は伏せていて」


ジリアンは目を瞠った。

確かに、ブルースの胸に顔を埋めていればキスで腫れてしまった唇も隠せるだろう。

しかしこれからブルースと住む家に、横抱きにされて入るなど恥ずかし過ぎるーーー

本来なら、これから世話になる召使にも挨拶をしなければならないのにーーー


「ほら、しっかり掴まっていて。家の者には、ゆっくり慣れていけばいいさ」

「…はい」


ブルースはジリアンをがっちり抱えて揺らがない。

ニヤリと笑ったブルースには、もう何を云っても太刀打ちできそうもないと諦めたジリアンは、ブルースの首に腕を回してしっかり掴まると、顔を彼の胸に埋めた。

どこから取り出したのか騎士の正装のマントでジリアンを覆ったブルースは、満足そうに微笑んで歩き出した。


お読みくださり、有難うございました。


次が本編最終話となります。

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