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18. 妹の薬草園

少し短めです。すみません。

よろしくお願いいたします。


「これは…素晴らしい!」


薬草園を目にして、サミュエルは感嘆の声をあげた。

ハッと気がついて思わずブルースの手から逃れたジリアンは、笑顔を貼り付けてサミュエルの方を向く。

サミュエルの褒め言葉に頬を染めたレスリー=アンが微笑ましく、ジリアンは胸を押さえて息を整えた。


「ね?サミー、云った通りでしょう」


ジリアンは、兄に向けてまるで自分の薬草園であるかのように自慢げに声をかけた。

そんな妹を見て、サミュエルはクスリと笑う。


「ここを育てたのはレスリー=アン嬢であって、リアではないのだろう?」

「いやいや、ジリアン様が来られてから、色々と助言をしてくださっております」

「そうなのです。ジリアン様に薬草のことを教えていただくのは、本当に楽しくて。コンラッドお兄様の腕が治ることはとても喜ばしいのですけれども、そのあとのことを考えますとわたくし…」


ヘンリーの援護射撃のあと、そう云ってレスリー=アンが眦を下げるのを見てサミュエルは破顔した。

この二人に妹は大層好かれているらしい。

しかもキャンデール家のご令嬢が、これほど薬草に関心があるとは。

サミュエルが隣の令嬢に目をやると、彼女は恥ずかしそうに俯いた。

項がほんのり赤く染まっている。


「ここが、こんな薬草園になっているとは……。なかなかのものだな」


ブルースが口を開いた。

周りの植物を見回して、レスリー=アンに微笑いかける。

仕事柄、薬草の知識は必要で、ブルースも野生種は多少なりとも見分けられる。

ただそれは、傷薬や止血剤などいくつかの種類のもので、目の前に広がる何十種類もの植物全てではない。

妹が薬草園を作っていることは兄のコンラッドから聞いていたが、大したものではないのだろう…と完全に見くびっていた。

コンラッドの執務を手伝う合間に剣の鍛錬をすることはあったが、薬草園とは反対側の少し開けた場所で行っていたので、薬草園に足を踏み入れるのはこれが初めてだったのだ。

美しく整備された薬草園を見やれば、これが一廉のものであることは誰の目にも明らかだった。


「本当に。ざっと見渡しただけでも、いくつか希少種があるのが判ります。病院にはどこでも大規模な薬草園があるもので、それには及びませんがなかなかのものですよ」


そうサミュエルがブルースに応えると、ジリアンが兄に向かって訴える。


「レスリー=アン様は、独学で色々と学ばれているのよ」

「それは凄いな」

「いえ、ジリアン様に色々と教えていただいております」


令嬢に笑顔を向けたサミュエルに、レスリー=アンは奥床しく首を振る。


「ジリアン様が、ご実家から取り寄せてくださった苗もあるのですよ」


ヘンリーがそう云って、一行を新たに作られた一角へ導いた。

モーラスは取り寄せた時よりぐんと背を伸ばし、プルネラはまだ固い蕾を付け始めている。

上手くいけば、早々に株分けができるかもしれない、とジリアンは密かに思った。

ヘンリーに目を向けると、同じように思ったのか、彼が優しい目でジリアンに頷いて見せた。


「本気だったのだな」


ポツリ、とブルースが呟いた。

何が、と問いかけたサミュエルの瞳に応えるように、ブルースは苦笑した。


「妹が薬師になりたい、とカートに願い出たことがあったのだ」

「薬師に…?」


驚きで目を見開いたサミュエルに、ブルースは頷いた。

薬師は国家資格で、安定した収入を得られ、人々から尊敬される素晴らしい職業だ。

しかし、国家資格の試験に合格すれば誰にでもなれる職業なので、一般には猛勉強した平民や下位貴族の者がなることが多い。

そもそも、高位貴族の令嬢が働くなど前代未聞で、しかもそれがかのキャンデール家の令嬢となれば誰も予想だにしないことだった。


ブルースは歩み寄り、俯いたまま顔を上げないレスリー=アンの頭を大きな手で優しく撫でると、元気づけるように妹に微笑んだ。

彼女は、叱られるのを覚悟した子どものようにおずおずとブルースを見上げた。

キャンデール家の娘が薬師など、と咎められると思っていたのだろう。

が、兄の眼差しに気づくと、驚いたように軽く目を瞠る。


「カートも俺も、お前の本気度を見誤っていたのだな」

「ブルースお兄さま…」

「お前の薬草園を案内してくれ」

「はい」


兄の言葉に、レスリー=アンは美しい笑顔を浮かべた。

短い間ながら彼女の努力をよく判っているジリアンは、二人のやりとりを見守って胸を熱くしていた。

ヘンリーに目をやると、彼も顔をくしゃくしゃにして笑っている。


サミュエルにエスコートされたまま、レスリー=アンは瞳を輝かせて薬草園を案内して回った。

ジリアンやヘンリーに時折意見を求めながら、彼女は生き生きと薬草を紹介していく。

この三人が率先して薬草園の世話をしていることは明らかで、ブルースとサミュエルはその様子を目を細めて眺め、話に頷いて歩いて行った。


お読みくださり、有難うございました。


どうしてもレスリー=アンの思いが報われて欲しくて、書いてしまいました。^^;

次回、佳境に入る予定です。

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