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10. 薬草園にて

現在に戻ってきました。

少しだけ、箸休め的なお話しです。

初日に薬草園に行ったことがきっかけとなり、ジリアンは時間があればレスリー=アンと一緒に薬草園で過ごすことが多くなっていた。

もちろんヘンリーも一緒だ。


「実家からモーラスの苗を取り寄せました。あと、プルネラもよろしければ」


そう云いながら、ジリアンが実家に手紙を出して取り寄せた薬草の苗をヘンリーに手渡した。

ヘンリーは受け取った苗を慎重に観察し、何事か納得してうんうんと頷く。

キャンデール家の広い庭園を一手に任されているヘンリーは、それなりに忙しいはずなのに、ジリアンとレスリー=アンが薬草園に赴く時は必ずと云っていいほど姿を現す。

恐らく今までもそうやって、レスリー=アンと共に薬草園を育んできたのだろう。

レスリー=アンは瞳を輝かせてジリアンに微笑んだ。


「ジリアン様、有難うございます。モーラスはどのような効能が得られるのでしょうか?」

「体の余分なものを外に出す働きがあって、軽い毒素ならこれで排出できるの。咳を鎮める作用もあるので、咳が出る風邪にもいいわ」

「プルネラは欲しいと思っておりました。怪我や傷に良いのでしたね?」


レスリー=アンの質問に、ジリアンはにっこりと微笑んだ。

本当に、このご令嬢はよく薬草の勉強をしている。

薬師になりたかったというのも頷けるくらいに。


モーラスもプルネラも、病院の薬草園には必ずある薬草だ。

モーラスは他の薬草と一緒に使われることの多い薬草で、崖の上などに自生していることが多く、病院の薬草園でも株を増やして種を保っている。

プルネラは寒い地方に自生していて、北の地域ではよく見かけるのだが、わざわざ採取して持って帰らなければならないのでこの家にはまだなかったのだろう。


「その通りです、レスリー=アン様。プルネラはすり潰してそのまま患部に当てれば傷が治ります」

「ブルースお兄さまも、このプルネラをご存知かしら…」


プルネラの苗を見て、ふとレスリー=アンが呟いた。

思いがけずブルースの名前を聞いただけで、ジリアンの心拍数が上がる。

努めて平静を装い、出来るだけ落ち着いた声が出るように話す。


「騎士の方は、野戦も経験されるでしょうから、恐らくご存知だと思いますよ」


それはジリアンの希望でもあった。

騎士がどれだけ薬草の知識を持っているかは知らないが、薬草を見分けられればきっと野戦では役に立つに違いない。


レスリー=アンがこちらを見上げる気配に顔を振り向けると、驚いたように見つめてくる彼女の瞳に出会った。


「どうしてブルースお兄さまが騎士だとご存知なのですか?」

「あ…それは…伯爵様からブルース様をご紹介いただいた時にお伺いしたのです」


ジリアンは咄嗟に嘘をついてしまった。

ブルースとは以前からの知り合いだと、彼の妹に話す気にはなれなかったのだ。

しかしレスリー=アンはジリアンの答えに小首を傾げた。


「そうなのですか?それなら…」

「モーラスはどちらに植えたらいいと思います?ヘンリーさん」


これ以上レスリー=アンとブルースの話をしていたくなくて、やや強引にジリアンは話を遮ってしまった。

貴族間では下位のジリアンが上位のレスリー=アンの話を遮るなど、あってはならないことだ。

だが、二人は薬草園を通して友人として付き合ってきた。

もともと穏やかな質のレスリー=アンは、そんな小さなことで騒ぎ立てるようなことはしない。

レスリー=アンは一瞬目を瞬いたものの、それ以上は何も云わずそのまま言葉を飲み込んだ。

ジリアン様は、ブルースお兄さまが今は騎士ではないことをご存知ないのかしら…?


手伝いに来ていた庭師の部下と苗を見ながら何事か話していたヘンリーは、ジリアンの声に顔を振り向けた。


「今、そいつを相談しておりました。ラパスの隣に植えようと思いましたが、もう少し日当たりの良いところにしようかと」

「確かに。モーラスは日当たりの良いところを好むので、もしそうしてもよければ、この間作った新しい一画はどうでしょうか?」

「おお、それはいい。ジリアン様からいただいた苗はどちらもそこに植えて、しばらく小まめに様子を見ることにしましょう。株を増やすとしたら、確かにその方がいい」


ヘンリーは頷いて部下の庭師から苗を受け取った。

庭師は、下に置いていたスコップなどの作業道具を持って移動し始める。


「植えるところを見ていてもいいかしら?」


期待を込めてレスリー=アンがヘンリーに声をかけた。

彼は令嬢を振り返ってニヤリと笑う。


「もちろんです、お嬢様。ここはお嬢様の薬草園ですぞ」


そしてジリアンに向かって、ヘンリーは片目をつむった。


「ジリアン様にはこいつらの世話の仕方を教えてもらわなゃなりません。ご一緒にどうぞ」

「わたしでお役に立つことがあれば、喜んで」


本当はどんな植物にも精通しているヘンリーには、ジリアンの助けなどいらないことは判っている。

だが、ジリアンを思いやってのヘンリーの申し出に、彼女は心が温かくなって自然と微笑みが浮かんだ。


いよいよ次は、恋が動き出します。

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