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「詳しいね」


 自ら批評を披露なさった彼女の知見に感嘆の意を込めて拍手を送り、俺はそれほどコーヒーに対する知識が深くないことを仄めかす。


「実はね、わたしもこの店には来たことがあるんだ」


 そう言って恥ずかしげに髪を耳に掛け、今にも沸騰しそうな顔の紅潮を誤魔化すような仕草をする。ただ、俺はそんな彼女の誤魔化しに全く気が逸れていなかった。髪を耳に掛けた右手の内側もとい手首の辺りへ、まるで突起物に服を引っ掛けたかのように注意が向き、目を離さずにはいられなかった。針の穴に糸を通す前の熱気を帯びた凝視は、顔に付着した汚れを指摘しているかのような合図となり、彼女はそぞろに口の周りを拭う。甚だ失礼な目配せに恭順に従った彼女に対して、申し訳が立たず、俺も丸テーブルに目を落とすしかなかった。それでも尚、彼女の手首にあるであろう“何か”は磁力を帯び、結合の狭間で綱引きを楽しむかのように、黒目は付かず離れずを繰り返し、きわめて不自然な挙動不審さを演じてしまう。「キモい」と一蹴するだけの身持ちを自覚しながら、俺は下卑た視線を継続し、並々ならぬ探究心の器を満たすつもりだ。脅迫神経症に因んだ執着心が芽生えたのは、来し方の人生に於いて初めてのことである。不慣れ故に彼女から受ける蔑視は避けられない。


 俺の気受けは下降線を辿り続けている。意固地に視線を操るだけの理由は、「曖昧」の二文字で片付き、折れ掛かる心をどうにか保っている。俺がもし、薄弱なる心根を所有していたなら、間もなく根を上げて彼女の手首にある“何か”から袂を分かったはずだ。形容し難い探究心を支えに俺は、彼女へバツの悪さを味あわせ続けている。


「お待たせしました。ブルンジマウンテンコーヒーになります」


 俺は会釈するように軽く右手を上げて、店員がコーヒーカップを置く位置を促す。丸みを帯びたコップの口から、淹れたてならではの湯気がのぼり、鼻腔を湿らせる。香りは確かにいい。彼女がイチオシだと言うだけの根拠を確かに感じる。ただし、丸テーブルに備え付けられたシュガーの封を切るかどうか。それが気になって仕方ないし、ミルクはどうだ? 果汁を多く含んだ飲み物を殊更に選んできた身の上にある為、適量をまるで知らない。あまりの悩ましさから、俺はシュガーやミルクをかなぐり捨てて、コーヒーに直接口をつける。それは予想通り、苦味が舌先を刺激し、拒絶反応を起こす。引き付けさながらの痺れが遠慮会釈なく襲い掛かり、俺はこの飲み物が如何に口に合わないかを再確認した。


「……いいね」


 取り付く島もない感想を吐いてしまい、俺は彼女を困らせてしまう。そう思ったが、


「そうでしょう」

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