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 このことについて憂いを覚えないと断言するのは虚飾だろう。それでも、満足してしまっているのである。品質を担保する国産という文字は、商品の価格と釣り合わない安価なものを提供する。そんな企業努力に賞賛を送る代わりに、消費者の一人として金を落とす。


 俺はふと、足元に目を落とした。週の大半を制服で過ごすことになる学生の身分で、個人を語るのに余りある“靴”は、父親から譲り受けた革靴だった。それは、決して安くないオーダーメイドしてもらった革靴のようで、一生履き続けられると誇らしげに言っていた。薄利多売の恩恵を受ける俺にとって、これは他人との差異を見出す一品であり、かけがえのない物だ。しかし、人口の減少と合わせてあらゆる企業は縮小化の一途を辿り、実益と消費者の懐事情を考慮した商品開発に終始した結果、大量生産品が看板商品となり、その煽りを受けたのが小さな個人商店だった。ドミノ倒しのように次々と経営者が手を引く中、件の靴屋も閉店を余儀なくされ、贔屓にしていた訳でもない父親が悲しむ姿を阿呆らしく思っていた。


 だが今なら、父親の心情に対して無理解を支持して無下にするつもりはないし、理解者としての立場から物を見るだけの目線があった。ただこれも、暇を潰す為に思考した一過性の感傷に過ぎない。何故なら、背後から掛けられる声によっていとも簡単に霧散するのだから。


「待たせてごめん!」


 乱れた息を象徴するように、肩甲骨の辺りまで伸びた黒い髪が、前後左右に振られた後のまとまりのない髪型に仕上がっている。その姿が蠱惑的に映ったのは、俺の目が如何に下心に満ちているか、語るに落ちた。彼女は手櫛で髪を整えつつ、制服の襟を正すように背筋を伸ばす。


「待ってないよ」


 身持ちに即さない相手を気遣った虚言に、自分自身、歯が浮いて仕方なかった。


「よかった」


 胸を撫で下ろす殊勝な心掛けは、今朝に自分の命を投げ捨てようとした人物にはとても見えない。そして例の如く、彼女は依然として“臭い”を発している。恒常的に人生を悲観しており、その寄る方ない雰囲気は、俺を目の前にして尚、いつどのようなタイミングで自殺を図るか分からない。たった少しの弾みで彼女は命を絶つ準備を着々と見計らっているようであった。

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