(十九)リンデス王国へ
「っくしゅ!」
リタが可愛らしいくしゃみをひとつこぼし、肩の上のアルトが大丈夫かとでも言うように顔を覗き込んできた。
「ピュイ」
「大丈夫。きっと誰かが噂したんだわ」
「……君の噂ならどこででもされているだろうな――それで、君は箱庭に何をしに行ったのかね?」
シグレン家の一階リビングで、箱庭の女性陣から貰ったお土産を披露しているリタに、ハインリヒが幾分冷ややかな口調で問いかけた。
「どこに行っても女性達と親しくするのは当たり前のことでしょう?」
何言ってるの?と至極当然だと返されて、ハインリヒは口許に微笑を貼り付けたままトレを見やった。トレが額を抑えつつ「姉の病気みたいなものなので……」とリタの代わりに謝罪する。
「これは私のライフワーク。誰にも文句はつけさせないわ」
キッパリと拳を握りしめて断言したリタに、リビングに集まっていたトレやフィーア、シスが遠い目をし、サンクやシェラ、ドゥーエは面白そうに笑った。アインスとオルグはまだギルドから帰ってきていないが、いたらきっと遠い目をして額を押さえたことだろう。
「あ、そうそう。ゼノは今用事で国外へ出ているけど、娘さん達と一緒にこの家に住むことになったから」
「ゼノが一緒に住むの!?」
「うわぁ、楽しみ!」
「やった~!」
「娘さん……?」
はしゃぐ弟達と不安げなトレを一瞥してから、ハインリヒがふむ、と意外そうに首を傾げた。
「ゼノがここ、ルクシリア皇国に居を構えることを良しとしたのかね?」
箱庭に拠点を置いていた現在はともかく――二百年前もルクシリア皇国から出た後は各地を転々として、落ち着いたのは今は亡きとある国だった筈だ。ルクシリア皇国に帰ることはなかったと記録されている。
「ええ。――ほら、アーシェやサラはゼノと違っていきなり二百年経ってた訳でしょう?事情を知っている女性が一緒にいる方がいいと思って説き伏せたの」
さすがに箱庭との直通転移陣のことは話せないので、当初から考えていた理由を伝えておく。こちらも本気で考えた理由なので嘘はない。むしろリタからすれば転移陣はオマケだ。
「ふむ。君のライフワークも役に立つではないか」
珍しく手放しでリタを褒めるハインリヒに、リタはドヤ顔で「当たり前よ」と返せば、ジロリと睨まれて額を小突かれた。
「君はゼノ同様、調子に乗りそうなところが危ういな」
「一緒にしないで!?」
ぶつぶつと文句を言いながらフィーアにお土産を任せ、トレを振り返った。
「私たちはこれからまた二、三日出てくるんだけど、ゼノの部屋とアーシェ達の部屋を綺麗にしておいて欲しいの。ゼノはあの突き当たりの一番大きな部屋で、アーシェとサラは同室で私の部屋の隣にお願い」
「わかった。ゼノさん達はいつ頃ここに来るのかわかる?」
リタが答えを求めてハインリヒを振り返れば、そうだな、と呟く。
「魔族を片付けるだけで済めばそうかかるまい。――神殿絡みのトラブルが生じれば読めないが、クライツから途中経過の報告はくるだろう」
流石のハインリヒでも、この時点で第四盟主絡みの案件になっているとは予想だにしていなかった。
「神殿とゼノの因縁は深そうだったわね。――早くて三日というところかしら?家具は備え付けがあるから大丈夫でしょ。ああ」
トレに、ビシッと指を立ててきりりと表情を引き締めた。
「アーシェ達の部屋は私が後で綺麗に可愛く整えるから!余計なことはしちゃダメよ!」
ジト目でリタを見ながら「……わかったよ」とため息と共に呟いたトレの肩を、ハインリヒが無言でぽんぽんと叩いて慰めた。
* * *
魔塔を実際に見ておきたい、とアルトに言われて、リタ達は魔塔まで行くことになったのだ。
魔塔は一日では行って帰ってこれないので、一度ギルドでリタの予定を調整しておく必要があるとハインリヒに言われ、三人はレーヴェンシェルツギルドの本部へやって来た。
カルデラントやミルデスタとも異なるギルド本部建物に圧倒されつつ、リタ達が中に足を踏み入れれば、ざわりとギルド内が騒然としてリタは心配そうに眉根を寄せた。
明らかにこちらを注視している。
当たり前ね。こんなに黒くて大きな鳥を肩に乗せていたら目立つもの。
と、自分が目立っているとはまったく考えないリタは、心持ちアルトの姿を隠すようにしつつハインリヒに続いて行けば、聞き慣れた声で名を呼ばれた。
「リタだ!」
「ねーちゃん? 帰って来てたのか!?」
アインスとオルグだ。探すように周囲を見渡せば、人をかき分けるように近づいて来る二人が見えて片手を挙げて微笑みかけた。
「はうっ……」
とどこかで女性の呻くような声が聞こえて、きょろりと周囲を見回したが、それらしき人物は見つけられない。首を傾げつつもアインスの方に向き直る。
「もう帰って来れたんだ?思ったより早かったな」
「ゼノも帰って来たのか?」
矢継ぎ早に問いかける二人は近くまで寄って来ると、リタの肩に止まるアルトに気づいてギョッと目を見開いた。
「ねーちゃん、この鳥は?」
大きくて迫力のある雰囲気に少々圧倒されながら、ちらちらとアルトとリタを見比べる。
「向こうで知り合ったの。ちょっと用事があって一緒に来たのよ。ゼノは戻ってすぐ別件で出かけているわ」
リタの言う向こうとは箱庭のことだろう。
「一度家に寄って伝えたんだけど、私たちまたちょっと出かけなきゃならないの。そう日数はかからないと思うんだけど、留守をお願いね」
頼まれて、アインスは頷き返しながらもちらりとアルトを見た。
「御使いじゃなく、そっち関連?」
「そうよ」
と肯定されて眉をひそめた。
「フィリシア様関連か?俺たちに手伝えることある?」
周囲には聞こえないように声を潜め、口許も隠しながら心配そうに尋ねるアインスに、リタはにこりと笑って見せた。
「大丈夫。問題は何も起こっていないわ。これはまったくの別件よ」
まったくの別件――それはそれで大丈夫だろうかと不安に思ったが、そんなアインスの心配が伝わったのか、アルトがトン、とリタの肩からアインスの肩に飛び移った。
「うわっ!?」
驚くアインスの頬にすりっと頭を寄せる。
「ピュイ」
小さく鳴かれて最初は驚いたアインスも、ふはっと笑った。
「懐こくて賢そうな鳥だ」
「ええ、賢いわよ」
普通に意思疎通が出来てハインリヒ達とも対等に渡り合えるぐらいだ、とは流石に明かせないので無難な答えに留めおく。
中々な重量のアルトの羽にそっと触れるアインスと、恐々とアルトを覗き込むオルグを微笑ましく見つめていたリタは、ハインリヒの呼ぶ声にそちらを見やった。
「三人ともこちらに来たまえ」
「俺たちも!?」
嫌そうな顔のアインスに、当然だ、とハインリヒが無情にも頷き返す。
「手綱は君に握らせておけとネーレイヒ――ギルド長に伝えておいた筈だが?」
「やっぱりか!!!」
があっと叫ぶアインスに、なんのこと?とリタは首を傾げたが、アインスはぐぬぬぬ、となんとも言えない顔をしたあと、大きくため息をついて肩を落とした。
「なんでもない……とりあえず行こう。本部にねーちゃん専属担当がいるから」
「え!? たかだが一介の冒険者に専属の担当者!?」
本当にねーちゃんが一介の冒険者だったら良かったんだけどな、とアインスは乾いた笑みを浮かべた。
* * *
「顔を覗かせたと思ったら、予定を変更しろって?うちはお前んとこの便利屋じゃないんだよ、ハインリヒ」
扉を開けた瞬間に、しゃがれ声の女性の叱責が飛んできてリタはぴっと背筋を伸ばした。
腕を通さず肩に制服の上着をかけた状態で腕組みした左目に眼帯をつけた白髪の女性が、部屋の中央に仁王立ちしていた。風貌からして強そうだが、纏う空気は確かに強者のものだ。
その隣には書類を胸元で抱え込み無表情で立つライトブラウンの髪色の綺麗な女性と、びしっと制服を着込んだミルデスタ支部のカーンよりも年上で貫禄のある黒髪の男性が立っていた。
――さすが本部。みんな手練れだわ
三人から漂う雰囲気にリタが内心で感心していると、ギルド長だよ、とぼそりとアインスから耳打ちされ、リタは目を輝かせた。
「ふむ。どのみちあと四日は戻ってこない予定だった筈だ。多少の変動は問題なかろう」
ギルド長の叱責をまったく意に介さず、ずかずかと部屋の中央に進み行くハインリヒを追い越して前に進み出ると、リタはキラキラと目を輝かせたままギルド長に礼の姿勢をとった。
「初めまして。リタ=シグレンです。先日は教会との裁判を始め我が家の問題にご尽力いただきありがとうございました。また、今もアインスやオルグに力添えいただきありがとうございます」
「……ああ、いいんだよ。気にする必要はないよ」
「そうですよ。ノクトアドゥクスの長官が動くまで動かなかったギルドなんてリタ殿が気にかける必要はありません。むしろ謝罪を要求すべきです」
「お前はちっと黙ってな、リーチェ!」
相変わらずぶっ飛んでんなぁ、とリタの背後でアインスが苦笑する。
「リタ殿の事であれば黙っていられません」
「坊主!躾が出来てないよ!!」
「ベアトリーチェさんはギルド職員ですよね!?」
「君の大事な仕事だろう」
俺関係ないから!と叫ぶアインスに、ハインリヒまでもがギルド長に同意するのを、理不尽!と叫んでみせたが誰も取り合ってくれなかった。
「カルデラント支部の職員も、君に任せておけば問題ないと断言していた。期待しているぞ」
はっはっは、と笑うドリトスに味方はいない事を悟る。
「ベアトリーチェさん?ありがとう、私の件で怒ってくれて。ギルドの中にあなたのような人がいてくれて、とても心強いわ。――でも、それであなたに迷惑がかかるのは私が悲しい。どうかギルド長の片腕であるあなたの立場も大事にしてちょうだい」
そっとベアトリーチェの手を取りにこりと笑って告げるリタに、ベアトリーチェはぶわっと真っ赤になって震えだした。それでも無表情なのは相変わらずだが、それがある意味すごい。
口をはくはくさせて今にも倒れそうなベアトリーチェから、アインスはとりあえずリタを引き離して物理的に距離を取らせた。
本当にこの姉は、隙さえあれば女性を愛でようとする。
「はいはい、ねーちゃん、おさわり禁止な。いくら同性でも自重しろよ」
「だって、こんなに私たちの事を気にかけてくれたのよ?嬉しいじゃないの」
「そうだけど、そうじゃないから」
「わたくしベアトリーチェ=ワーリンガーと申します今後御使い様関連はすべてわたくしが担当させていただきますのでなにとぞよろしくお願いいたします専属ですので何でもお申し付けくださいむしろ常にお側に侍らせていただきたく——」
「ワンブレス!?ちょっと落ち着こう、ベアトリーチェさん!」
真っ赤な顔をしたまま言い募るベアトリーチェに、アインスが顔の前でひらひらと手を振って勢いを止める。
「あなたが専属担当なの?よろしくね、ベアトリーチェさん!」
「リーチェとお呼びください」
「わかったわ、リーチェ。これからよろしく!」
笑顔でリタに返されて、ふうっ……とベアトリーチェが意識を飛ばすようにふらつき、だが、だんっと足を踏みならして持ち直した。
リタ殿の前で失態は見せられません!とのベアトリーチェの言葉が何故かアインスにはハッキリと聞こえた。
「ああ、でも俄然やる気がでてきたわ!本部のギルド長が強くて素敵な女性で、リーチェのような素敵な専属担当まで付けてくれるんですもの!私ここで冒険者として頑張るわ!!」
ぐっと拳を握りしめて高らかに宣言したリタの頭を、後ろからハインリヒががしっと掴んだ。
「盛り上がっているところ悪いが、君はここで通常冒険者業務は行えない」
「どうしてよ!?」
頭の手を振り払いくわっと振り返り噛みついてきたリタに、当たり前だろうと突き放す。
「君は自分の立場を忘れたのかね?フィリシアの御使いが一人でのこのこ通常の依頼を受けるなど、トラブルに巻き込んでくれと言っているようなものだ」
「じゃあ、私は今後どうやって仕事をするの!?御使いの浄化の仕事だけなんて嫌よ!?」
「君は現在、ノクトアドゥクス長官の私がギルドから借り上げている状態だ。君に動いて貰う案件は、しかるべき人物をこちらで精査した上で、その者と共に対処してもらう」
「え、嫌だわ」
即座に顔をしかめて否やを告げるリタに、この状況で断るとかさすがねーちゃんだな……ああ、トレにはこの場に居て欲しかった、とアインスは遠い目をしながら今の自分の気持ちをよくわかってくれそうな弟の顔を思い浮かべた。
「君に近づく人間も要注意だが、君は高位魔族に狙われる可能性が高いことも忘れたのかね?一人でいるのも、適当な者と組ませるのもトラブルの元だ」
がしり、と頭を捕まれながら言い含められて、ううう、とリタも呻いた。
そう諭されればリタもそれ以上は文句も言えない。確かに、アインス達と一緒にパーティを組むならいいかと考えていたが、魔族が絡んでくるなら確かに困る。アインス達を危険に晒したくはない。
「……わかったわ……」
「心配せずとも、君にはゼノと一緒に事に当たって貰おうと考えている。ゼノもこちらに居を構えるのであれば仕事が必要だろう。ゼノが君たちの家に住むというならば、動きやすくてよいのではないか? 案件により、クライツがつくか、このギルド担当者がつくかの違いだ」
「! なるほど、それならいいわ。ゼノなら気を遣わなくてもいいものね!」
途端にぱあっと顔を輝かせたリタを見て、そんなに喜ぶほどリタとゼノって親しかったのかなと首を傾げたアインスの横で、オルグが目を輝かせた。
「ゼノもあの家に住むのか!? やった!だったら、また稽古つけてもらえるかな?な、アインス!」
「え?あ、ああ、ゼノなら頼んだらやってくれるんじゃねーかな。っていうか住む事になったんだ? ゼノは皇国にはそう来ないって言ってたのに」
「アーシェとサラがいるからね。一緒に住む事になったのよ!」
嬉しそうにリタの口から出てきた女性の名前に、ひくり、と一瞬頬が引き攣ったが、ゼノとセットで告げられた名だとするならば。
「それって、もしかしてゼノの娘さん達?助かったんだ?」
「ええ。とっても可愛い子達なの。強い上にしっかりしてるアーシェと、ちょっと人見知りなんだけど可愛いサラのためにうちに住むのよ。ゼノと一緒に仕事をするなら、あの子達とも一緒に出来るって事でしょう?それなら大歓迎よ!」
興奮気味に語るリタの様子に、アインスは微妙な笑顔を浮かべたままハインリヒを見遣った。
いいの、これ?という思いは伝わったようだ。
「ふむ。私の見たところ、アーシェはなかなかの人物だよ。十三歳ながらゼノの手綱もしっかりと握っていそうだ。彼女ならリタの手綱も握れるだろう」
手放しの褒め言葉に、へえと素直に感心した。
ならばアーシェはリタに傾倒するタイプではなさそうだ。
「実際に彼女達がどう考えているかは確認していないがね。それはゼノが戻って来てからでいいだろう。——それで、現在ギルド側で管理している御使い業務の予定はどうなっている?」
大幅に横道にそれた話を元に戻すようにハインリヒがギルド長に問えば、にやにや笑いながら様子を見ていたギルド長は、ついとベアトリーチェに視線をやった。
「リーチェ、どうなってる?」
未だ真っ赤な顔をして固まっていたベアトリーチェは、ギルド長の言葉にはっと我に返ってすぐさま手元の書類に目を落としてから、キリッと顔をあげた。
「最初は皇帝からの要望でリンデス王国です」
「あら?リンデス王国って……今ゼノがいるところよね?」
「……梃入れが激しいな。ただの学友ではなかったか?」
思わずハインリヒを振り返ったリタに、ハインリヒがふむ、と頷きながら独り言のように呟く。
「リンデス王国は高ランクの魔族達に襲われているので、負傷者が多いのだそうです。ぜひ御使い様の浄化のお力をとのことでした」
「ああ、支部からも要請がでていたはずだ。クラスの高い冒険者を寄越して欲しいとね。派手に暴れている訳ではないが、統率のとれた少数精鋭部隊が複数で襲ってくるっていうんだから厄介さ」
数組向かわせたが、結果は思わしくないとギルド長も唸る。
ランクA以上の魔族を相手取るのはクラスAでもS寄りの実力がなければ難しい。ましてやそれがランクSの魔族になると、トップクラスの冒険者でなければ危険だ。
「なるほど。ゼノが呼ばれるだけのことはあるな」
納得するようにハインリヒが呟いた時、それまで黙ってアインスの上で事の成り行きを見ていたアルトが、ばさりと羽ばたいてハインリヒの肩に飛び移った。
突然のことにアインスをはじめ室内にいた全員の目がアルトに注目する。
「ピュイ」
アルトが強く大きく一声鳴くと、ハインリヒが目を細めてふむ、と頷いた。
「そうだな……ゼノがいるのであれば、リタをすぐにでもリンデス王国に向かわせるのがいい。こちらの用事はリタがいなくても片付くからな」
「では私も——」
「いや。今回はうちのクライツが現地にいる。ギルド職員は不要だ。皇国の騎士団員をつけておけば不測の事態にも対応出来るだろう」
ベアトリーチェが目に見えてがくりと肩を落としたが、それを黙殺してギルド長に向き直った。
「予定を早めてすぐさまリンデス王国に向かわせよう。戦闘が片付いてなくてもゼノがいれば問題ない——すぐに騎士団に変更を要請して今日の夕方までには現地入り出来るように調整したまえ。——それぐらい出来るであろうな?」
挑発するように告げたハインリヒに、ベアトリーチェがきりりと眦を釣り上げた。
「当然です。これぐらい朝飯前ですよ!」
「待って、ハインリヒ。だったらアルトの用事は二人で済ませる気?」
「見るだけなら君がいる必要もなかろう」
「それはそうだけど——」
躊躇うようにアルトを見つめるリタに、アルトが問題ないと頷いてみせる。どうやら転移陣はゼノが戻って来てから設置するようだ。
アルトの正体はハインリヒも知っているし、預けていても問題はないだろう。本音を言えばリタも魔塔を見てみたかったというのはあったが。
だが魔塔よりもアーシェ達と一緒にいられることの方が優先度が高い。
統率のとれた高位魔族が複数いるなら、アーシェやサラ達に危険が及ばないようにリタも頑張りたい。
「ならばすぐに準備したまえ。下手をするとゼノの方はすぐに片付くぞ」
そんな馬鹿な、とゼノと魔族の戦いぶりを知らないアインスは思ったが、ランクA魔族を瞬殺したのを目にしたことがあるオルグとリタは大きく頷いた。
「ゼノなら瞬殺ね」
「うん。すっげー強えからな」
二人の評価にマジか、とアインスは目を瞠った。
あのおっさん、そうは見えないけど本当にチートなんだな……
魔法が効かない、瘴気も防げる、魔核も見えて高位魔族も瞬殺出来る実力。
なるほど、ゴルドンが狡い奴呼ばわりするのも頷ける。
だが何故だろう。
そんなゼノと一緒だとしても、非常に心配になってくるのは。
リタがちょっとはしゃいでいるからだろうか。
心配そうにふう、とため息をついたアインスの肩を、ハインリヒがわかっていると言わんばかりにぽんぽんと叩いて慰めた。




