(十七)剣聖の噂
ゼノ達がリンデス王国のギルドから王城に向かうために馬車に乗り込んだのを見送り、クライツは大きくため息をついて肩を落とした。
「……ドンマイです、クライツさん」
一緒に別行動となったデルが慰めてくれるが、正直へこむ。
こんなところに弊害があるとは……と、ハインリヒに文句のひとつも言いたくなるのは仕方ない。
事の起こりはもちろん、クライツがノアのそっくりさんだったことが原因だ。
ルクシリア皇国騎士団内のギルドへの特別転移陣の間で、クライツはアーシェ達ゼノの娘と顔合わせを行なった。
「ノアさん!」
「本当だ!ノアさんだ!ノアさんはやっぱり生きてたんだ!」
――やっぱりってなんだ?
凍りついた笑顔のまま固まったクライツをどう思ったか、アーシェとサラはぱあっと嬉しそうに笑うと、クライツの元に駆け寄って来た。
背後に立つシュリーとデルが困ったように顔を見合わせているのが何故かわかる。
クライツは笑顔のまま、ぎぎぎ、と音がしそうなほどぎこちなく娘たちの後ろのゼノを見やった。ゼノが困ったようにガシガシと頭をかく。
「あ~……そいつはノアじゃねえ」
「ノアさん、じゃない??」
「こんなに似てるのに!?」
ええ!?とゼノの顔とクライツの顔を交互に見遣って、そんな馬鹿な、と二人があんぐりと口を開けて驚く。
なんだか非常に悪いことをしているような気になるが、別にクライツが悪いわけではない。
「でも、顔だけじゃなく纏う雰囲気も同じなのに……」
「ほ、本当に……?」
そうか、雰囲気まで同じなのか、と背中を嫌な汗が流れるのがわかった。今後も人違いで一悶着あっても不思議ではないということだなと肝に銘じる。
クライツは笑顔を貼り付けたまま、胸に手を当て二人に礼の姿勢を取った。
「クライツ=ゼムベルクと申します。君たちのお父さん――ゼノの担当になったばかりですが、よろしくお願いします」
自己紹介をすると、サラが「っ!」と声にならない悲鳴をあげてゼノの背後に隠れてしまった。
アーシェも一歩身体を引き、すっとクライツを見定めるように表情を改めた。
「……」
その変わり身にクライツも笑顔を貼り付けたままどうするべきか固まった。
何故にこれほど警戒されているのだろうか、と首を捻るが、ノア=ジェスターについて分かっている事は少ない。情報がノクトアドゥクスにほとんど残されていないのは、ノアが意図的に抹消したとしか考えられないほどだ。
だから、クライツはノアとゼノの周囲の者達がどのような関係であったのかを知らない。ハインリヒに交渉を持ちかけてみたが、それはいずれ知れるから交渉の材料にはならないと拒否された。
いずれわかる事だとしても、今知りたかったよ!と内心で叫んでみてももちろん後の祭りである。
おまけにそう言い切ったハインリヒから情報を得ることは不可能に近い。あるいは、ハインリヒもそこまで詳しくは情報を持っていなかったのかもしれないが。
だが現実に今困っている。
「ええと……ノクトアドゥクス所属なので、君たちの敵では、ないですよ?」
「そうですね……まだ敵にも味方にもなっていない、という感じでしょうか」
なかなか手厳しい評価をアーシェから下されて、クライツの頬が引き攣った。
……彼女は歳のわりになかなかしっかりしていて手強そうだ。
「なるほど。ノアさんじゃないと理解しました。改めて初めまして。アーシェ=クロードと申します。父の背後に隠れているのが妹のサラです。サラは、成人男性が苦手なので、このような態度になっていることをお許しください」
何を持って違うと判断されたのかはわからないが、アーシェは先ほどの親しみやすい笑顔から、どこか取り繕った壁のある笑顔で自己紹介を行なった。
これが彼女の『敵でも味方でもない』者への態度なのだろう。
先ほどの笑顔を見た後だと地味にショックを受けるが、クライツはゼノとさえまだ信頼関係を築けているとは言えないので仕方のないことかもしれない。
「いえ、お気になさらず。事情は知っています」
と答えてサラに笑いかけるが、クライツと目が合うとびくりと肩を震わせて完全に隠れてしまった。
「悪いな、クライツ。ノアには懐いてたんだけどな」
ガシガシと頭をかきながら、どこか申し訳なさそうに謝るゼノに大丈夫ですと手を振ってみせたが、そっと顔を覗かせたサラに「笑顔が嘘くさい」とボソリと呟かれて固まった。
背後でシュリーが笑いを堪えているのが伝わってきて、思わずジロリと睨みつけた。
「す、すみません」
こほん、と軽く咳払いをして誤魔化されても、つい恨みがましい目で見てしまうのは仕方ない。
今度はくす、と笑い声が聞こえて、振り返ればアーシェが笑っていた。
「クライツさんはちっとも悪くないです。すみません。ただ私たちからすれば、昨日まではそのお顔はノア=ジェスターさんで、私たちの……父の味方でした。それがいきなり違う人だと言われると、姿を写した魔族のように感じられて、どうしても警戒心を持ってしまうんです」
実際にいたんですよそういう魔族が、と苦笑混じりに言われればクライツも苦笑を返すしかない。確かにノアの死を知り二百年を経過しているゼノと、目覚めたら二百年後でしたと言うアーシェ達ではクライツに対する態度が異なるのも当たり前だ。眠りに落ちる前には確かにノアであったのだから。
逆に言うなら、それほどクライツはノアに似ていると言うことなのだが。
「確かサラは、アザレアさんの元で、お父さんと出会うよりも先にノアさんと知り合いだったようなので、別人だと言われて余計に怖いのだと思います」
アーシェの言葉に重要な情報が入っていて、クライツはアーシェに笑顔で頷き返した。
ノア=ジェスターはアザレアとそれなりに親しかった、ということか。成人男性を怖がるサラがノアに懐くほど、アザレアの元に通っていたということだろう。
ゼノとノア、アザレアとノアではどちらが先に出会っていたのかを聞いていなかったが、ゼノとノアが知り合ったのはアザレアを介してだとする可能性もある。そこは一番情報を得やすいゼノに確認したいところだ。
「ちなみに、師匠――うちの長官とは会ったんですよね?彼は君たちの中でどういう扱いなんです?」
ふと気になってアーシェに尋ねた。
クライツの質問にアーシェは目を瞬かせて小首を傾げた。
「あの人は味方です。――ハインリヒさんはお父さんの親友でしょ?」
「あ~……まあ、悪友、か?」
くるりと振り返って確認するアーシェに、頭をガシガシとかきながら答えるゼノ、そのゼノにべったり引っ付いたままのサラがこくこくと頷いて同意を示す。
ハインリヒのゼノと他に対する態度の違いなどは、普段のハインリヒを知っていなければわからない筈だが、この僅かな時間で彼女達の信頼を得ているのはなんだろうかとクライツは内心でぼやいた。
どうやら彼女達――特にアーシェ――は、ゼノと相手の関係性を見抜くことに長けているらしい。
思うところは色々あるが、とりあえず今は。
「急ぎだと聞いていますので、とにかく転移してしまいましょうか」
諸々の感情に蓋をしたクライツは、ゼノ達と共にこうしてこのリンデス王国にやってきた訳だが、サラの警戒心が強すぎて同じ馬車に乗るのを拒否された。
どのみち周囲の状況を確認する必要もあったので、ゼノ達への同行をシュリーに任せ、クライツはデルと共にここに残ったのだ。
「それに、クライツさんだけでなく、俺の事も警戒されていました。王城はシュリーに任せる形が正解だと思います」
デルの言うことももっともだ。
ゼノと顔合わせをした時、ゼノもクライツとデルの両方を気にしていた。デルもクライツほどではないが、ノアの連れていたクサナギ流の隠密に似ていたのかもしれない。
「まあ、神殿とゼノには深い因縁があると言うことだし、神殿の動きは確認しておいた方がいいだろう」
「教会の次は神殿ですか」
神様関係には近づきたくないですね、と肩をすくめるデルに苦笑しながら同意した。まあ、ゼノの担当である以上、そういう訳にはいかないだろう。
「我々の仕事は、ゼノがここでスムーズに仕事が行えるようにする事だ。神殿の介入を無しには出来ないだろうが、最低限に抑える努力はしておかないとだな」
これがゼノの担当について初仕事になる。ここから信頼関係を築いていかねばハインリヒの言っていた『我々の世代でも返しきれないほどの借り』とやらに近づけないだろう。
肩をごきりと回して空を仰ぐと、クライツはデルと共に街の中へ消えて行った。
* * *
リンデス王国は小国だが、風光明媚な土地柄で観光地として人気が高い。
この王国が誇るものに、一度訪れれば虜になると言われる天空の滝と呼ばれる観光名所と、精華石にも負けない美しさを誇る透明度の高い繊細なガラス細工に、この世の誰よりも美しいと称されるルイーシャリア第一王女があった。
美しい自然に細工物、また美男美女の多い土地柄ということもあって、この国を訪れる観光客は多いのだが、今、この土地にはランクSの高位魔族の出現が相次ぎ、観光客を受け入れられる状況ではなくなってきていた。
この国のマリノア女王は大きなため息をつきながら、執務室の椅子の背に体を預けた。
娘であるルイーシャリア王女がラロブラッドであることは長い間隠しおおせてきた。問題は生じていなかったのに、よりにもよって高位魔族の目に止まってしまったのだ。
王女の魔力量は高く、それだけでも非常に危険であるのに、その美しい容姿も相まって、高位魔族の手に落ちれば玩具にされるだろうことは想像に難くない。
出来うる限りの手は尽くしてきた。効果を危ぶみながらも、神殿の高価な守護石も試した。表からも裏からも手を回して精華石を探したが、本物は手に入らなかった。守護結界を何重にも張り巡らせても魔族のランクが高すぎて効果も得られなかった。
万策尽きて、昔からの友人であり知己でもあったルクシリア皇国皇帝ルードヴィヒに助けを求めたのだ。
「剣聖が力を貸してくれる」と返事を得たのは昨晩のことだ。
剣聖ゼノ=クロード。噂だけならマリノア女王も聞いたことはある。対魔族においては右に並ぶ者のない強さを誇り、その実力は盟主に勝るとも劣らないという。
だがそれと同時に不穏な噂も耳にする。
その力に任せて神殿から神器である神剣を盗み我が物とし、浄化の力を使えるのを良いことに瘴気に侵された女性を手篭めにしているとか、高圧的な態度で弱者をいたぶるとか、魔族被害に困っている者に法外な要求を突きつけたり、特に相手が女性であれば魔族から守る報酬として片っ端から手篭めにしているなど不安を誘う内容だ。
知己であるルードヴィヒがそのような狼藉者を重宝し、紹介してくるとはとても思えない。噂は噂であるはず。
皇帝をよく知る女王からすれば噂こそが怪しいと断じられるが、火のないところに煙は立たないと神官長は元より、宰相や騎士団長までもが剣聖を招き入れることに難色を示しているのだ。
昨晩から彼らを説き伏せるのに苦労した女王は、ふうと大きくため息をついた。
彼らが渋々ながらも会うことを認めたのは、ひとえにルクシリア皇国皇帝から紹介された者を、会わずに追い返すことなど出来ないと納得したからだ。皇国の騎士団を当てにしての事だったとは言え、助けを求めたのはこちらだ。
本当に困った人たちだこと。
静かに目を閉じた時、執務室のドアがノックされ侍従がルイーシャリアの来室を告げた。
「通してちょうだい」
「お呼びでしょうか、陛下」
第一王女が専属の侍女と共にやって来たのに頷き、応接に座るように示す。
女王も向かいに腰掛けて、改めて自分の娘を見つめた。
親の贔屓目を差し引いても、恐ろしい程に美しい娘だと思う。
少し青みを帯びた銀色の髪に、深い翠の瞳。色自体はこれまでの王家が持ち得たものだが、その造作の美しさは母であるマリノアですら畏れを覚えるほどだ。
十六になった第一王女には縁談の話もちらほらきている。リンデス王国は小国で外交的な力が強いとは決して言えないが、王女の美しさを聞きつけ求婚をしてくる国も存在する。
ルイーシャリアの絵姿は出回っていない。
出回らないように心を砕いてきた。
故に、国民ですら式典で見るぐらいだし、外交では公式の行事にも参列させることはなかった。だが年齢的にそれも難しくなってきた。
そのような時に魔族騒動だ。
第一王女がラロブラッドであることを知っているのはごく一部の者だけだ。
女王に王太子、宰相、騎士団長と神殿長、そして今は亡き王配であるエルダーのみだ。
ラロブラッドに対する世間の目は冷たい。
わかっているからこそ、今まで隠してきたのだ。
「ルードヴィヒ皇帝より連絡があり、剣聖ゼノ=クロード殿が力を貸してくれることになりました」
ぴくり、と王女の後ろに立つ侍女の肩が揺れた。
「剣聖さま、ですか」
ゆっくりと瞬きをしながら、小首を傾げて問い返す王女に、無言で頷き返した。
「剣聖についてくだらぬ噂も出回っていて、私も真実はわかりません。ですが、もし――彼が本当に噂通りの人物で、あなたを要求してくるようなことがあった場合、大人しく身を任せる覚悟は持っておきなさい。魔族に浚われるよりはマシな筈です」
酷い事を言っている自覚はあったが、ルイーシャリアは動揺もみせず、口許に微笑を浮かべて頷いた。
「私のせいで魔族が国を襲っていることほど心苦しい事はありません。これ以上騎士団や兵士が傷つく姿を私は見たくないのです。剣聖さまが本当に魔族を退けて下さるなら、私は何事も受け入れます」
決然として言い切る娘に、マリノアは表情を緩めて母親の顔になりながら緩く頭を振った。
「あなたを守るのは母である私の役目でもあるわ。可能な限りは私が守ります。安易な方向に進まぬようにしてちょうだいね」
「お母様。私も王家の一員ですわ」
ふふ、と微笑する娘を慈しむようにマリノアも微笑した。
「今日剣聖が王城にやって来ます。先に私が会って人物を見定めたいと思うので、呼ぶまで部屋で待機していなさい」
「失礼にはあたりませんか」
「あなたが最初から居ると話が進まないかも知れないし、選択肢が狭まってはいけないわ」
これまでも王女の美しさに心を奪われて、まともに話せない者がいたのも事実だ。それに女王としても、条件は出来るだけ王女に関わらないことに落ち着けてしまいたい。ならば相手が変な条件を出さないよう、王女とはそういった交渉が終わってから会わせたい。
「ある程度の話し合いが終わってから呼ぶので、それから来て頂戴」
「はい」
女王は後ろの侍女にも目配せすると、侍女も静かに頭を垂れた。
* * *
女王の執務室を辞した王女は自室に戻りながら内心でため息をつく。
母の手前恐れる姿など見せなかったが、ルイーシャリアはまだ十六の娘である。正直言って怖い。剣聖と言われるほどの人物が、本当にそのような無体な事を望むのだろうかとの疑問はあるが、自分を見た時に豹変する者はこれまでも多かった。
自分の容姿が人を惑わすものだと知ったのはほんの数年前だ。子供の頃はそれほど感じなかったが、成長するにつれて自分を見る異性の目に強い欲が宿るのを感じてルイーシャリアは恐れた。恐ろしい、と思った。
自分の立場が自分を守ってくれたし、母や兄、弟もルイーシャリアを守ってくれた。
ルイーシャリアにとって何よりも大事なのは家族であり、女王である母が守るこの国だ。それを自分が脅かす立場になるのは何よりも許せない。
だから、良いのだ。
本当に剣聖がこの国を、家族をあの恐ろしい魔族から救ってくれるというならば、ルイーシャリアはなんだって耐えてみせる。
姿は人であったが、自分を見つけた時のあの魔族の愉悦混じりの目を見た時、恐ろしさのあまり息すら出来なかった。
獲物として――玩具として目をつけられた。
それが自然と理解できた。
瞬時に、この魔族の手に落ちれば死にたくなっても自分では死ねないに違いないとわかった。
自由になるものは何一つとしてなくなるに違いない。
ぎゅっと拳を握りしめた時、くすくすと背後から笑い声がした。はっとして振り返れば、幼い頃から共に育った専属侍女のチェシャが、可笑そうに笑っている。
「まあ、どうしたの、チェシャ」
「いえ、みんな剣聖に怯えてるなって思って」
チェシャはルイーシャリアと二人きりの時は、このように年相応に気安く話をしてくれる。外にあまり出ないルイーシャリアの大事な友人でもあった。
黒髪のおかっぱ姿で背もあまり高くない。ルイーシャリアは女性ながら高い方ではあるが、チェシャはその肩ほどまでしかない。ともすれば年齢よりも幼い印象を与えるが、サイドに流れる一筋の赤い髪で不思議と年相応に見えるような錯覚を覚える。このアンバランスさがチェシャの魅力ともいえた。
「会ったことがない人だもの。当然だわ」
「仮にも『剣聖』と呼ばれているのに?」
言われてみれば確かにそうだ。何故こんなに危険な印象を持っているのだろう?
「……神殿の教えかしら。神殿は剣聖に対して否定的でしょう?」
「神官長の言うことが本当だと信じてるんだね~。ルイは」
可愛いねえ、とくすくすと笑いながら愛称で言われた言葉は決して誉めていない。ルイーシャリアは思わず口籠った。そう言えば剣聖の話をしたのは神殿というよりは神官長だった。神殿長は高齢なこともあり、王城に来ることは最近ではあまりない。
「……じゃあチェシャは剣聖を知っているの?」
「どうかな~」
答えをはぐらかし、ぴょんぴょんと跳ねるように踊るように廊下を進んでいくチェシャは、ルイーシャリアの前だと本当に自由だ。それが好ましくも羨ましくもあった。彼女の公私の切り替えは完璧なのだ。
「あたしは、神官長は嫌い~」
くるん、と体ごと振り返って歌うように告げるチェシャに、ルイーシャリアは困ったような顔をした。
「誰かに聞かれたら大変よ」
「ルイも嫌いでしょう? だって、嫌らしい目をしてるもんね~」
その通りなので何も言えない。だが、このような事を誰かに聞かれでもしたら大変だ。王家は神殿と対等とはいえ、侍女であるチェシャはどのようなお咎めを受けるかわからない。
心配するルイーシャリアを余所にくすくすと笑っていたチェシャが、突然ぴたりと笑いを収め、すすすすっとルイーシャリアの背後に移動した。すぐに廊下の奥の方から誰かが駆けてくる足音が聞こえてきた。
「姉さま!」
現れたのは弟のエミリオだ。ルイーシャリアの四つ下、十二歳でルイーシャリアにもよく懐いてくれいている。
「エミリオ、どうしたの?」
「剣聖が来ると聞きました。危険な人なんでしょう!? どうして陛下は……!!」
腰に抱きつきながら縋るように叫ぶ弟の頭を、そっと撫でてやりながらルイーシャリアは微笑んだ。
「陛下が大丈夫と判断されたのよ。それに、かのルクシリア皇国の皇帝陛下の紹介ですもの。何も心配いらないわ」
「ルクシリア皇帝も意地悪です。なぜ自慢の騎士団を派遣してくれないのでしょう」
ぎゅっと眉根を寄せて悔しそうなエミリオを落ち着かせるように、ゆっくりと撫でながら、兄も騎士団長も宰相も皇国騎士団が派遣されてくるのを期待していたし、ルイーシャリアもそうだろうと予想していた。
私一人のために皇国の騎士団を派遣するなど、普通に考えればおかしな事ですものね。
相手はランクSの魔族だ。現時点でもまるでリンデス王国の騎士団をいたぶるように、わざと決定的なダメージを与えていない事もわかる。
そうやってルイーシャリアに圧力をかけているのだ。
――お前が大事に思う者達を少しずつ潰してやろう。お前はどこまで耐えられるだろうな
楽しそうにそう言い捨てた魔族の目を思い出すと芯から震える。
「大丈夫よ。……剣聖がお見えになったときは、エミリオは来てはダメよ」
「どうしてですか!? 私も姉上の側でお守りします!」
「陛下がお許しにならないわ」
そう言われてぐっと唇を引き結んだ弟の肩をそっと自身から離しながら、ルイーシャリアは微笑んだ。
「大丈夫。何も心配しなくて良いのよ」
いざとなれば、私があの魔族に家族を――国を守れるように交渉してみせる。
ルイーシャリアはぎゅうっと拳を握りしめた。
* * *
王城の城門の中で馬車を降りたゼノは、眉を顰めて振り仰いだ。
「あぁ……確かに」
ぽつりと呟かれた言葉に、アーシェとサラが反応する。シュリーは小首を傾げた。
「何かわかるのですか」
「瘴気だよ。高位魔族の瘴気が漂ってる。間違いなく関わってるな」
その言葉にサラがぎゅっとアーシェの左腕に抱きついた。
シュリーもなるほどと頷く。青い森でも確かに彼は瘴気を見分けて進んでいた。
「まあ、とりあえず現状確認が先だな」
頭をガシガシとかきながら周囲を見回した時、衛兵を引き連れた侍従がゼノ達一行に歩み寄ってきた。
どこか警戒した様子で侍従がじろじろとゼノを見る姿に、シュリーはすっと目を細めて周囲を窺った。
剣聖であるゼノのことを詳しく知らなくても、仮にもルクシリア皇国皇帝から派遣された客人に対する態度ではない。
そもそもゼノは皇帝に呼び出されて大急ぎで今朝箱庭から帰ってきたばかりなのだ。その足で休む間もなくリンデス王国にやって来たというのに、この態度はいただけない。
「ようこそおいでくださいました。こちらへどうぞ」
ちっとも心のこもっていない言葉にゼノ達は無言のまま後に続くが、シュリーは気に入らない。
王城の中を進みながらも、周囲に張り付くようについてくる騎士団の面々からも、剣聖を見たいというよりはどちらかというと警戒と敵愾心が見え隠れする。むしろこれっぽっちも隠せていない。
自国のトラブルを他者に——それも個人に委ねることへの苛立ちからか?
それにしたってこの態度はないでしょう、と内心でイラつくシュリーだったが、ゼノは気にも留めていないようだ。こういった視線や対応には慣れているのだろうか。
シュリーとてノクトアドゥクスの一員だ。こんな所で相手につけ入る隙を与えるような態度は取らないし、事情を正しく理解するまでは何事も決めつけはしないが、心証としてはマイナスだ。
ノクトアドゥクス長官のハインリヒは、組織にとってゼノは何者よりも優先すべき相手だと言った。ならば、そのゼノを軽んじる者はノクトアドゥクスを軽んじる事と同義ではないか。
今回の件は皇帝とゼノの間の事なので口を挟むべきことではないだろうが、今後という意味では、ノクトアドゥクスがリンデス王国に友好的かどうかはハインリヒの判断だ。
見極めはしかと行わねば。
ここに来るのを諦めたクライツのためにも、シュリーは内心でそう決意して油断なく周囲を窺いながらゼノ達の後に続いた。
侍従に案内されて通された謁見の間では、この国の女王に王太子、宰相や大臣達と騎士団長——まではシュリーも事前に調べていたのでわかっていたし問題もないが、それ以上に配備されている騎士団員の数に眉を顰めた。
そして何よりも気がかりなのは神殿の者——神官長とその取り巻きがいることだ。
なるほど……彼らがあることないこと吹き込んでいるということね。
ゼノも神殿の者がいることに気付いて片眉を上げたが、何も言わなかった。
「遠路はるばるこの国に来てくれてお礼を言うわ」
リンデス王国マリノア女王は柔和な笑顔を浮かべてゼノをねぎらった。
その言葉には、周囲から感じたような警戒や敵愾心は感じられない。
皇帝の知己だという女王は正しく物事を見ているということか。シュリーは僅かに安堵の息を吐いた。
「礼ならルードヴィヒに言ってくれ。俺は頼まれただけだ。ああ、堅苦しい挨拶とかそういうのは勘弁してくれ。俺あそういうのは苦手なんだよ」
「無礼な……!」
「控えなさい」
いきり立つ大臣に女王がぴしゃりと言い捨てた。ぐぅ、と呻いて忌々しそうにゼノを睨みながら、大臣は一歩下がった。
「俺はここに機嫌取りに来たわけでも政治をやりに来たわけでもねえ。魔族を斬りに来ただけだ。状況をちゃっちゃと説明してくれ」
急ぎなんだろ、と大臣の態度もまったく意に介さずに告げたゼノに、周囲が殺気だったが、騎士団長がすいと一歩前に出た。
「リンデス王国騎士団長のバルドメロだ。現在の状況を説明させていただく」
ゼノは無言で頷いて先を促した。
「先月初め頃に、ルイーシャリア王女が王国の天空の滝に足を運ばれた際に、ランクS相当の魔族クストーディオの目に留まってしまった。それ以降、その魔族が部下を率いて王国を襲撃してくるようになったのだ。連中は少数で王国内の様々な所で暴れ回り、その度に騎士団が蹴散らしてきたが、今月に入ってその頻度も襲撃の内容も激しさを増してきた。その頃から奴がこの王城にも現れるようになり、王女に圧力をかけ出したのだ。悔しいことだが、クストーディオには我々では歯が立たず、守護結界も魔除けの術も効果がなく……」
「だろうなぁ」
黙って話を聞いていたゼノが、顎をさすりながら謁見の間の上空を見上げながら同意を示す。
「この瘴気の強さだとSっつうかもうちょい上じゃねえか。盟主の側近クラスとまではいかねえだろうが……」
盟主の側近。
不穏な単語に室内の皆がごくりと息を呑んだのがわかった。
「ここは第一領域だって聞いたから、第一の部下じゃなけりゃあ野良になるな。動かせる駒が結構あるっていうなら野良の中でも中々の手練れだろう」
第一領域……第一盟主か。
シュリーの背筋を嫌な汗が流れた。
青い森で第二盟主と遭遇した恐怖は今も身体が覚えている。第一盟主は第二盟主よりも強いのだ。
「第一の眷属にはこういった感じで人に興味を示すような奴はいねえと思うんだがな」
「貴君は……クストーディオが第一盟主の部下だと?」
「会ってみねえと分からねえがな。野良だとするなら、第一の領域で好き勝手出来る実力を持っているか、あるいは馬鹿なのかどっちかだな」
いずれにしてもクストーディオが強い力を持っていることには違いない。
バルドメロはゼノの言葉に唸るように呻いて目を閉じた。
皆がゼノの話を咀嚼するように黙り込み、謁見の間には重く緊張を孕んだ空気が立ちこめた。
ゼノの答えが的確であったのか、あるいは通常では知り得ない魔族の情報とゼノの対応に、同じ武人として感じることがあったのか、騎士団長は当初よりもゼノに対しての警戒心が薄れているようにシュリーには見えた。
「とりあえずそいつを叩かねえと始まらねえな。いつ現れるとかはわからねえのか」
「予測は立てられぬ。今すぐの可能性もあれば、二日後の場合もある。昨日の朝現れたのだ」
「ふ〜ん……もしも第一の眷属なら、俺とは敵対出来ねえ筈なんだけどな。だとしてもお灸を据えておかねえと今後もやってくる可能性があるか」
面倒な、とため息交じりに呟いたゼノに、神官長がかっと目を見開き、指さしながらゼノに詰め寄った。
「やはり怪しいと思ったのだ!貴様、第一盟主と手を組んでいるのであろう!!この国の王女を手に入れるためにクストーディオを唆して王国に手を出しているのだろう!?」
「……はあ?」
あまりに馬鹿馬鹿しい内容にゼノが間の抜けた声を上げた。
シュリーからすれば荒唐無稽、と一笑に付す内容だったが、言いがかりをつける男の言葉に同調するように謁見の間は一気に殺気だった。
壁際に配備されていた騎士団員までも、いつでも武器に手をかけられるように体勢を整える。
一触即発の空気が漂った中に「呆れますね」と少女の言葉が響いた。心底馬鹿にする様子で神官長を見るアーシェの視線は非常に冷たい。
「ルクシリア皇帝からの依頼でなければ、父はわざわざ別の用事を切り上げてまでこの国に来る必要はなかったんですよ?そちらが呼んでおきながら、魔族の仲間と侮辱するなど、リンデス王国の程度が知れます」
まるで見下すようにぐるりと一同を見回すと、口許に笑みを履いて神官長を侮蔑するように睨み付けた。
「おまけによりにもよって、第一盟主と手を組むなどという発想自体が、己の無知を露呈していることにも気付かないなんて、おめでたいですね」
アーシェの言葉にサラがぶるりと身体を震わせた。
シュリーもごくりと唾を飲み込んだ。
……怖い。
アーシェは確か記録では十三歳とあったはずだが、この怖さはなんだろうか。
殺気だっていた謁見の間が、いつの間にかアーシェの気に飲まれて誰一人動けなくなった。声を荒げた神官長も身体をぶるぶる震わせながら顔を真っ赤にして拳を握りしめている。
「私が知らない間に、ルクシリア皇国の地位も皇帝の威光も随分と下がってしまったようですね。このような失礼な人達を紹介されるとは驚きです。皇帝陛下からのお話しは今後一切お断りすることにしましょう、お父さん」
可愛らしい少女の口から絶対零度の響きを持って告げられた言葉に、ゼノもどこか気圧されたように目を見開き——そしてふ、と柔らかく微笑した。
「ああ、アーシェだな……ははっ。いいぜ、わかった。アーシェの言葉どおりにしよう。ルードヴィヒにもヴォルフライトにもそう伝えておく」
「え!?」
その言葉に思わずシュリーが声を上げた。
——それはまずい!!
このままそのように話がまとまってしまっては、自分はまったくの役立たずではないか!ゼノにもルクシリア皇国にもリンデス王国にも悪い状況にしかならなくなっては、この場を任せてくれたクライツに申し訳が立たない!
ざっと一気に血の気が引いて、シュリーはアーシェに一歩進み寄った。
だがシュリーが動くより先に、マリノア女王はゆっくりと立ち上がってゼノ達の方へ歩み寄り、アーシェの前で立ち止まった。
「あなたのお父上を侮辱してごめんなさい、お嬢さん」
アーシェに頭を下げる女王に周囲がざわめく。
すいと頭を上げた女王は、周囲を見回した。
「私のお客様にこれ以上失礼な態度を取ることは許しません。——それから神官長。あなたは神殿にお帰りなさい。この話し合いの場には不要です」
厳しい表情で女王に言い渡され、神官長は無言でぎりっとゼノとアーシェを睨み付け、取り巻き共々足早に謁見の間を退いた。
女王は神官長が出て行ったのを確かめると、頬に手を当てふうとため息をついた。
「ごめんなさいね、剣聖殿。この国には神殿が広めた悪い噂を信じている者も少なからずいるの。すべては私の不徳の致すところ。ルードヴィヒ皇帝に罪はないわ。彼との関係を切るような事はなさらないで」
「ああ、神殿の連中が俺に噛みついてくるのはいつものこった。そこは気にしてねえよ」
軽く頷き返すゼノに、アーシェも女王の前に跪いた。
「こちらこそご無礼をお許し下さい。父はともかく、ルクシリア皇帝の立場を疎かにされる訳にはゆかなかったため……」
「ええ、わかっていますよ。剣聖殿を貶めることは紹介してくれたルードヴィヒ皇帝を貶めることと同義だわ。ありがとう、お嬢さん。剣聖殿の娘さんなのね?」
「はい。アーシェ=クロードと申します。後ろにいるのが妹のサラです」
礼儀正しいアーシェの挨拶に、柔和な笑顔を浮かべたままゼノの背後に隠れるように立つサラにも頷き返す。
女王の視線が自身に向いたことに気付きシュリーも礼を取った。
「シュリーと申します。ゼノ殿のサポートを務めるために同行しております」
「そう。よろしくね——では、話の続きをいたしましょう」
女王はそのままその場で話を進めるようだ。
これには宰相や大臣が大慌てて女王の元に歩み寄った。
「私の意向としては、剣聖殿のお力を借りてこの件を解決したいと考えています。それは、よろしいかしら」
静かに問われて、ゼノは「もちろんだ」と返し、アーシェも「力を尽くします」と頷き返した。それに女王も笑顔で頷いた。
「では最初に、報酬のお話しをさせていただきましょう。剣聖殿のご希望は何かあって?」
周囲が『報酬』との言葉に敏感に反応したのをシュリーは感じたが、問われたゼノはくるりとシュリーを振り返り指で指し示した。
「こういう時はいつもこいつら……シュリーか、後から来るだろうクライツに交渉を頼んでるんで、事が片付いたらそっちと話してくれ。俺に必要な物はこいつらがわかってる。ああ、もしアーシェやサラに要望があるなら、汲んでやってくれ」
と、最後はシュリーに向かって言われ、頷き返した。
……ゼノの担当というのは、こういう交渉も含まれているのか。ならばここはクライツに任せておいた方が良さそうだ。
「そうなの……。わかったわ。ならば報酬については彼女達とお話しすることにしましょう」
静かに頷きながら同意した女王は、騎士団長に目配せした。
「では別室で王女も交えて具体的な対策をたてましょう」
* * *
ルクシリア皇国騎士団の作戦会議室よりも豪華な部屋に案内された一行は、テーブルを挟んで向かい合って席についた。
国政の会議室といったところか。片側にリンデス王国の女王、王太子、宰相が座り女王と王太子の後ろに騎士団長が立った。反対側には女王の向かいにゼノ、右側にシュリーが隣り合い、ゼノの左側にはサラ、アーシェと続いた。
リンデス王国側が最小限な人数であることを考えれば、王女がラロブラッドであることを知るのはここにいる者だけだと考えられる。
「シュリーさんはどういった立場の方かしら」
静かに問われた言葉とは裏腹に、シュリーの背後関係を窺う様子が見て取れて、シュリーは姿勢を正してノクトアドゥクス所属である事を告げた。
ノクトアドゥクス、と小さく女王が呟くのをゼノが頭を振った。
「シュリーなら問題ねえ。こいつの上司はクライツという奴だが、現長官ハインリヒの愛弟子だ。俺の担当になってる奴だから心配には及ばねえ」
それから、と続けてゼノはそっとサラの頭を撫でた。
「このサラは俺の養女でラロブラッドだ。俺自身もラロブラッドだから、そっちの事情にも詳しい。説明は不要だ」
その言葉に女王が目を瞠り、次いで微笑した。
「そう……ご存じなら心配は無用ね」
ふふ、とおかしそうに笑う女王にゼノが首を傾げた。
「ごめんなさい。私も噂を信じていた訳ではなかったけれど、あなたとこうやって話してみて安心できたわ」
「俺に関する噂は碌なもんがねえだろ。よく知ってるんで気にしなくていいさ。神殿と俺の間にある因縁は簡単じゃねえからな。今更いちいち訂正してまわってもいねえんだ」
「神殿長は良い方なのよ。ただもう高齢で、現在我が王国の神殿は先程の神官長が実権を握っているの。神殿長派も残っているのだけれど、人の良い方の派閥は真面目な方が多くて政治よりも神殿でのお勤めを優先する方ばかりだから」
「それが普通なんだけどな」
「ほほほ。まったくその通りだわ」
先程までの剣呑さなどまったく感じられない程の和やかさで、女王とゼノが語り合う。ゼノとサラがラロブラッドだと知ったことも大きいのかもしれない。
「王女は……ルイーシャリアは魔力量も多く、親の贔屓目を抜きにしても非常に美しい娘なの。魔族に目をつけられたということは、どのような扱いを受けるか予想もつきます。国民を犠牲にする気はありませんが、できうる限りの手は打ってやりたいと精華石を探してみたり、神殿の守護石や守護結界も試してはみたのだけれど……」
「ランクSの魔族相手にそんなもの効きゃあしねえよ。精華石だって、存在がバレている以上はあんまり意味がねえ。まあ、ランクの低い奴は寄って来れねえがな」
ゼノの言葉にそうなのね、と女王が肩を落とした。
その時、侍従が王女の来室を告げた。
王国側の座席に近い扉が開き、室内に侍女と共に現れた王女を見てシュリーははっと息を呑んだ。
——うつくしい。
リタも綺麗な少女だと思ったが、この王女の美しさはまた別格だ。
リンデス王国の王女は美しいとの噂は流れていたが、姿絵なども出回らず事の真偽は不明なままだった。
だが、この美しさは女王の言う通り贔屓目なしに美しい。畏れを抱く程の美しさだ。
「陛下のお呼びにより、ルイーシャリア参りました」
にこ、と微笑しながらの言葉にシュリーは知らず赤面した。
声も涼やかで耳に心地よい。彼女が部屋に入ってきただけで室内の空気が変わった。
がたんっ、と突然隣に座っていたゼノが立ち上がった。
「——この話はなかったことに」
「——えっ」
「ゼノさん?」
「アーシェ、サラ帰るぞ」
ゼノは突然そんな言葉を言い捨てると、大股で王女とは反対側の入口に向かって歩いて行く。突然の出来事に驚いて振り返ったシュリーの上空を何かがよぎる。
今まさに扉に手をかけようとしたゼノの目の前に、すとんとそれは着地した。
「折角来てくれたのに、逃がさないんだにゃ」
両手を広げて扉の前に立つのは、服装からして王城の侍女か。
黒いおかっぱ頭に一筋の赤いメッシュが印象的な少女。
にこにこと人懐っこそうに笑う姿と侍女らしからぬ独特の口調。
ゼノはひくりと頬を引きつらせた。
「——っ、お前、この件の落とし所はどこだっつうんだ!!」
「一緒に考えてよ〜」
「俺に厄介事を持ち込むんじゃねえっっ!!」
室内にゼノの絶叫が響いた。




