(十二)箱庭の住民と住人
まあとにかく、お昼は塔の外で食べておいでよと、鳥——アルトに被り物の耳部分をぼろぼろにされたデュティに庭園から外に出された一行は、ゼノの案内で箱庭の街に繰り出した。
アーシェやサラも箱庭に入ったのは初めてとのことだったので、リタと三人、物珍しそうに周囲を見ながら散策する。
「こうして見ると、街の雰囲気は遺跡に似ているわね」
「私達とリタさんの感覚でも本当は二百年の差があるんですよね?その私達から見ても、ちょっと古い作りの街かなと思います」
昨日ゼノの家では特に感じなかったが、街自体に新しさは感じられない。外界の遺跡に似た古さが感じられた。
「箱庭だしな」
「でも割と大きな街だね。人がたくさん……」
あまり人が得意でないサラが、ゼノの左腕を掴んだままぴったりと張り付いて歩いている。
サラの目には人が多く映ったようだが、街の大きさから考えると人は少ない方だとリタは思う。これぐらいの建物が立ち並ぶなら、もっと人がいても不思議ではない。
建物を無視するなら、箱庭という特殊な環境で生活している人数は、リタが想像していたよりもずっと多い。
「箱庭内で完結してるからな。必要な物は何でも揃う」
「そうなの……」
それは外部と接触を持たなくても箱庭だけで生活していけるようにしているためか。確かに、他を知らなければ不満も出ないだろう。
だったら、外界の人間と接触などさせたくないのではないのか、とリタは思ったが、デュティから特に注意は受けなかった。
「何か、注意すべきこととかあるのかしら?言ってはいけないとか外界のことで話しちゃいけないこととか」
『箱庭』と言われるぐらいだ。何か重要な役割があって、変えてはいけないことだってあるかもしれない。それに通じかねない情報の制限などはないのかと気になっていたことをリタは尋ねた。
「いや? 特にないぜ。俺も別にこれを話すなとか言われねえし」
「そうなの? それは困らないの?……箱庭なんでしょう、ここ?」
「そのあたりは俺は詳しくねえな。だが、外界のことを聞きたがるぜ、デュティだって。ああ……でも」
ふ、とゼノは少し遠い目をしながら街の人々を見つめた。
「外に出たがる奴はいねえな」
「そう……」
それはやはり、箱庭よりも外界が恐ろしい場所だと皆知っているからだろうか。
いや、それより何より、箱庭出身だと知れたら何をされるかわからないかもしれない。住人が外へでても良い事はなさそうだ。
「おう、ここな」
通りにいくつか店が軒を連ねる中、ゼノがスプーンとフォークの描かれた看板がかかった店のドアを開けて中に入っていく。
お昼時ということもあってか、中はそれなりに人がいて活気があった。
「あ、ゼノだ! 帰ってきたの?」
「おう、一応な」
「おいおい、エラい別嬪さん連れてんじゃねえか!見ない顔だぞ!?」
「まさか嬢ちゃんたち、外界から来たのか?」
「ああ、客人と娘だ」
「娘!?本当に存在したのか!? 似てねえぞ!」
「うるせえよ!」
店の奥に進むゼノに、方々から声がかかる。
ゼノはそれに片手を挙げながら慣れたように軽く返し、どんどん奥に進んで行く。テーブル席は空いていないのでカウンターを使うようだ。
リタ、アーシェ、ゼノ、サラの順にカウンターに座ると、すぐにショートカットにエプロン姿の女の子が注文をとりにやってきた。
「お帰りなさい、ゼノ。わあ、ジェニーが言ってた通り、本当に綺麗なお姉さん!」
「リタというの。ひょっとしてあなたがカレンかしら?」
「私のこと、知ってるの!?」
「ええ。デュティに花冠を作ってあげたんでしょう?とても綺麗だったわ。あと、私がここに来てからのご飯は、あなたのお店のご飯だと聞いたわ。ありがとう、とても美味しかったわ」
にっこりと笑顔でお礼を述べるリタに「きゃっ」と恥ずかしそうに声をあげて、カレンはエプロンで顔を押さえて、そっと隙間からリタの様子を窺った。
「び、びっくりした~。私、こんなに綺麗な人に褒められるなんて初めてだわ!恥ずかしい……」
「そんな風に褒めてもらえるなんて私こそ光栄よ。ここの食事はどれも美味しいと思うんだけど、カレンのお勧めは何かしら?ぜひカレンのお勧めを食べたいわ」
リタは褒め言葉など言われ慣れているだろうに、にこにこと笑顔で返しながら、さらりとカレンに尋ねる。その流れで四人が注文を済ませ、カレンの仕事の流れを止める事のないスマートさにゼノは感心した。
シュゼントから旅をしていた時も感じたが、こういうところの対応は本当に凄い。自分が愛でたいのを優先させずに相手の状況を優先させつつ仲良くなるのだ。カレンも例に漏れず、リタにすっかり心を許したことがわかる。
相手の懐に入るのが本当に早えな——ただし、女性に限る——と、感心しきりだ。
四人が昼食を取り終える頃には店の客も引き、代わりにジェニーやザックなど、近所の子供達が噂を聞きつけて集まってきた。
「こんにちは!ゼノの娘さんってあなた達?初めまして!」
「初めまして。アーシェです」
「サラです」
バスケットを抱えたジェニーが元気いっぱいの笑顔でアーシェやサラに挨拶をし、アーシェやサラも椅子から立ち上がって応えた。
「リタさんもこんにちは!へへ~、約束通りケーキ持ってきたよ!」
じゃーん、と言いながらバスケットから取り出したのはフルーツケーキだ。
俺はいらねえと辞退したゼノを除いて、リタと子供達が昼食をとったばかりだがフルーツケーキでお茶をする。話題は外界のことだ。
「そっか~、同じ外界でもアーシェやサラがいた時代とリタがいた時代は違うんだな」
子供達の中で一番年長のザックという少年が、ケーキを頬張りながら頷く。
「私たちもそんなに眠りについてたっていう実感がないから、まだよくわからないけど」
「そうね。私もなんて説明していいかわからないわ」
「ゼノはあんまり話してくれないの。こことそれほど変わらないって言うばかりだし」
「ね~!」
「色々違うって、カツラギさん達言ってたもんな!」
子供達になじられて面倒そうに「変わらねえのは本当だからな」とゼノが返すが、箱庭の子供達からは大ブーイングだ。
「だって魔獣とか魔物とかいるんだろ!?箱庭で見かける野獣とは違うって聞いた!」
「あ~、瘴気があるかないかで危険なことに大きな違いはねえよ」
「冒険者っていうのがいるんだろ? 強さでランク付けされてて、依頼を受けるって聞いた!」
「ここにだって便利屋がいるじゃねーか。あいつらだって依頼に基づいて仕事してるだろ?」
「魔族っていう恐ろしい生き物がいるんでしょ?」
「こっちにも幽鬼っつー恐ろしい生き物がいるな」
「「「こんな答えばっかり!だ!よ!」」」
ほらあ!とゼノを指差し不満そうに子供達が叫ぶのを、リタは苦笑して宥めた。
「私は箱庭の事がよくわからないけれど、外界の方が広い分危険も多いのは本当よ」
「そういえばリタさんは、レーヴェンシェルツのクラスA冒険者って父が言ってましたよね?だったら、冒険者について詳しいんじゃないんですか?」
庭園でゼノがリタに語りかけた内容を思い出し、アーシェがぱちんと手を打って話を振れば、途端に子ども達のキラキラとした目がリタに向けられた。
「本物の冒険者!」
「格好いい!!」
「お話し聞きたい!」
「どんな事するの?」
「何が出来るの?」
「武器は!?武器ってあるんだろ?」
一斉に質問しだした子ども達を宥めるように「待って。順番にね」と慌てるでもなく優しく返すリタは、弟達が多いのでこういった状況に慣れている。
上手に子ども達の質問を捌きだした。
「私が所属するレーヴェンシェルツギルドは、最初のギルドと呼ばれていてその歴史は古いわ。登録した時は等しくクラスEよ。クラスによって選択出来る依頼が分かれていて、最初はあまり命の危険のない、薬草採集とか町中の雑用といった仕事が多いの。そこで順調に依頼をこなして規定を達成すればクラスがあがるわ。クラスが上ると、魔獣退治だったり、探索といった依頼を受けられるようになるわね」
「リタはクラスAって言ってた。だったら強いんだろ?」
「ギルドって何歳から登録できるんだ?」
やはりこういった話題は男の子の方が興味があるのだろう。ザックや他の少年達が目を輝かせながらリタの話に質問を続ける。
「ソロで登録可能なのは十四歳以上になっているけれど、クラスA以上の冒険者とパーティを組んだり、ギルド指定の指導役をつけることを条件に、実力があれば十四歳未満でも登録してもらえるわ」
アインスは十四になっていたため今回ソロで活動できたのだろう。本人はもっと早くに登録したいと駄々をこねた時期もあったが、父ケニスがそれを許さなかった。アインスの場合は登録前からケニスの厳しい指導を受けていた事になる。だからこそ、すぐにソロとしてやっていけたのだ。
「私は確かにクラスAだけれど、それはただの目安よ。クラスAの中でもBよりのAとSよりのAと強さに幅があるとするなら、私はきっとBよりだわ」
ルカ達にあっさりと打ちのめされた事実を思い出しながら、リタが拳を握りしめる。もっと強くあらねば、守りたいものを守れない。
ギルドのクラスなど高くたって実力がなければ意味がない、と今回のことでリタは痛感したのだ。
「いや、リタは強えよ。攻撃魔法は使えねえが、近接戦闘と遠方からの精度の高い弓攻撃が出来るからな。何より戦闘センスがある。それに加えてとっておきの力もあるしな」
それはもしかして聖女の力のことかしら、とリタは唇を引き結んでむう、と内心呻いたが、確かにあの力を矢に纏わせれば魔核を射貫かなくても一撃で魔獣を倒せた。だがその強さは人間相手には意味がない。
「お父さんが褒めるなら強さは本物ね」
「ふわぁ……リタさん強いんだ」
アーシェとサラに実力を認められて、リタは照れてはにかんだ笑みを浮かべた。
もっと強くなりたいと思っているのは事実だが、ゼノのお墨付きは素直にリタも嬉しい。
「かっけぇ~」
「剣じゃなくて弓でもいいんだ!」
「じゃあさじゃあさ、クラスで一番上はなんなんだ?」
「クラスAの上にはクラスSとゴールド、プラチナがあるわね。でも現在ゴールドとプラチナレベルで登録されている冒険者はいなかった筈よ」
ほへえ~、と少年達が納得するなか、ジェニーはくるりとゼノを振り返った。
「じゃあゼノは?ゼノは何になるの?」
「俺あ冒険者じゃねえよ。剣士だ」
「ええ~?何が違うの?」
「お父さんは冒険者登録出来ないの」
不満げなジェニーに、アーシェが苦笑しながら答えてやる。
二百年前は少なくともそうだった。今も登録していないというならば、きっとまだ有効なのだろう。
「お父さんは強すぎて、どこかに属する事を禁止されてるの。魔族の危機が起こったときに、自由に動けるようにって。各国がお父さんを取り込もうとあの手この手で策を弄したんだけど、ノアさんやギルベルトさんがその度に阻止してたのよ」
「なるほど……確かにそうね。どこかに属してしまえばその組織なり国に縛られるもの。ゼノの強さは規格外だから、パワーバランスを崩してしまう可能性があるものね」
だからこそ、出身地であるルクシリア皇国の身分証のみで色々出来るようになっているのかもしれない。
二百年たって、その事実を知っているところがどれほど存在するのか、だけど……と、リタはシュゼントのハンタースギルドを思い返しながら内心で呟いた。
「強すぎるってことは、プラチナぐらい?」
「いえ、きっとそれ以上ね。ちょっともう人間の強さを飛び越えている気がするわ」
「んだよ、そりゃ」
何故かジト目でリタに言われて、ガシガシと頭をかきながらゼノが悪態をつけば、アーシェとサラが苦笑した。
「すげえな……!」
「やっぱりゼノ、強かったんだ」
「デュティにいつも使われてるから弱いと思ってた」
「デュティは強いよね~」
「ね~」
子ども達は素直だ。見てないようでゼノとデュティのやりとりはちゃんと見ているのだ。デュティが強いのは事実なので、ゼノも何も返せない。デュティのあれはまたちょっと違うだろ、と思うのだが、真面目にやりあってもあの魔術になす術はないだろう。
「デュティって何者なの?」
思わず尋ねてしまったリタに、子ども達はきょとんと首を傾げた。
「デュティはデュティだよ」
「塔の人だよね」
「うん、塔の人」
塔の人。箱庭の管理者、ではないのか。
「あ〜そういや、町長は別にいるんだよ」
「え? どういうこと?」
言われた意味がよくわからなくてリタは問い返した。
「デュティが管理してるのは、あの塔と箱庭であって、この街に関することには口は出さない。あの塔とこの街、二つの村を含む境界の森に囲まれた地域——空間を『箱庭』と外界では呼ぶが、ここでは塔、街、二つの村で分かれてるんだよ」
塔と街と二つの村。
箱庭はリタが思っていたよりも、随分と外界と似通っているようだ。箱庭の中に街と村が別々に存在するとは思ってもみなかった。
「カツラギさん達が住むミカヅキ村とダードンさん達が住むニノ村だね」
「ここはブルグよ!ミュラー国の外れにあるの」
「えっ……」
カレンの説明にリタもゼノもアーシェ達も息をのんだ。
ミュラー国のブルグ。
箱庭なのに国名がでてくるのはどういうことだ。
「——俺あ、初めて聞いたぞ?」
どこか緊張を孕んだゼノの言葉に、子供たちが不思議そうに顔を見合わせた。
「街に名前があるのは当たり前じゃないの?」
「デュティが、外には出られないけど街の名前は大事にしろって言ってたよ?」
「いや、街の名は俺も知ってる。だが、ミュラー国ってのは今初めて聞いたぞ」
国名があり、その外れにあるということは、ブルグは元々外界に存在していたということではないのか。
ゼノもリタもミュラー国というのが今も存在するのか、またこれまでに存在したのかを知らない。だがきっとハインリヒに聞けば調べてくれるだろう。
元々外界にあった街だというなら、この箱庭とは一体なんだ?
「あの……箱庭に住む人は長寿だと聞いてます。みんなも……?」
サラが遠慮がちに子供達に問えば、子供達も目を見交わして神妙に頷いた。
「村の人たちとは違うよ。村の人たちは、すぐに年をとってあっという間に死んじゃう」
「なんでってデュティに聞いたら、村の人たちは箱庭に住んでるけど住民じゃないからって言ってた」
「住民じゃない?」
言われた言葉の意味がわからなくてリタは首を傾げた。
リタ達からすれば、ここに住んでいる人たちはみんな噂の不老長寿だか不老不死だと考えていたのだが、それが違うというのだろうか。
「ああ、カツラギ村の連中は、ちょい訳ありでな。外界に置いておけねえから俺がデュティの許可をとってここに移住させたんだ。純粋な箱庭の住民じゃねえな」
もうひとつの村も似たようなもんなんじゃねえか、と顎を擦りながら答えるゼノに、リタも何かを考えるように顎に手を当てて考え込んだ。
「箱庭では住民登録された『住民』とただ住んでるだけの『住人』で明確に分かれてる。時間の流れが緩やかな連中が生粋の箱庭の住民だ。外界の連中が指してるのもそいつらだな。俺も含めて外から箱庭にやってきた連中は住人で、時間の流れは外界と一緒だ」
「箱庭に住むだけで不老長寿になるという訳ではないのね……」
それならば、箱庭の住民は根本からリタ達外界の人間とは異なるということか。
この箱庭という『場所』に特別な秘密があるのかと思っていたが、そこに住んでいる人達の特性だとするならば、そうは見えないが彼らは人間とは異なるのだろうか。
これ、ハインリヒに伝えていいものかどうか悩むわね……それとも、そこはゼノが知っていることだから、彼も既に知っていることだろうか。ならばハインリヒの見解を聞いてみたいとリタは思った。
「ええ?不老じゃないよ!ちゃんと成長するもの、私達」
「そうだよ!大人になれないなんて冗談じゃねえよ!」
途端にあがった反論に、リタは驚いてゼノを振り返った。
「え? 外ではそう言われているけど違うの?」
「言われてんなあ。でも違う。実際にはちゃんと年を——ああ、え〜と、成長する。俺もこの二百年コイツらが生まれた時から知ってるからな。大体の感覚だが……外界じゃ一年で一歳になるのが、こいつらは五年〜七年で一歳になる感じかな」
ではジェニーやカレンをはじめとしてここにいる子供達はリタよりずっと長く生きているということか。
見た目十二〜十五歳ぐらいだから、最低でも外界では六十歳、最高で百歳を越えることになる。
なるほどと相槌をうちながら、なんだか不思議ね、とリタは内心で呟いた。
「なあなあ。そんなに流れが違ったら、俺達、外で冒険者にはなれないか?」
「冒険者? あなた達、冒険者になりたいの?」
突然のザックの言葉にリタは目を瞬いた。
これには周囲の子供達も驚いたようで、一瞬の沈黙の後「えええっ!?」とジェニー達が叫んで立ち上がった。
「ザック、外に行く気?」
「外は危ないんでしょ!?」
「僕も!僕も行きたい!ザックと一緒に冒険者になる!」
「コンは泣き虫なくせに何言ってるのよ!」
わいわいと騒ぎ出した子供達に、リタは背筋に冷たい汗が流れるのを止められなかった。
マズい……私が話して聞かせたせいじゃない?
箱庭から外へなんて危険すぎる!どうしよう。これ、知られたらデュティに怒られないかしら。
下手に外界への憧れを掻き立ててしまったんじゃ……
だらだらと嫌な汗を流しながら、リタは助けを求めるようにゼノを見た。だがゼノは微笑ましそうに子供達を笑って見ているだけだ。
「ぜ、ゼノ……これ、大丈夫かしら……」
「ん?別にいいんじゃねえのか。なりたいとか、外に行きたいとかって気持ちはどうしたって自然に生まれるもんだろ?」
「で、でも、箱庭出身者だとバレたら、それこそどこに捕まるか……」
「実際に外に出る時にはデュティがちゃんと注意するだろ。そりゃおめえ、男だったら外に出たいって思ったって不思議じゃねえよ」
ゼノは簡単にそう言うが、事はそう簡単ではない。
箱庭に住んでいて、それこそ強いゼノにはどうってことないかもしれないが、世の中には理不尽な理由と暴力で踏み躙る連中が存在するのだ。リタは教会との事でそれを実感した。
箱庭出身の冒険者など、それこそどんな連中が群がってくるのか想像するのが恐ろしい。今日だって箱庭への攻撃だか侵入だかを試みる連中のちょっかいがあったばかりだ。そんな連中に捕まってしまったら、それこそ何をされるかわからない。
真っ青な顔をしたリタをどう思ったか、ゼノは「心配いらねえって」と苦笑しながらリタの頭をぽんぽんと叩いた。
「ここは特殊な空間だ。勝手に外には出られねえ。ザック達が外に出ようと思ったら、絶対にデュティを説得しなくちゃならねえからな。ダメな時の説得も上手だし、あいつが大丈夫と判断するまではアイツらが外に出る事はねえよ」
それに、とまだわいわいと騒いでいる子供達を見ながら、ゼノは付け加える。
「そういう目標があるのとないのとでは、これからの時間の密度が違うだろ? 目標があるってのはいいことさ」
父親目線のゼノの台詞に、リタも知らず入っていた肩の力を抜いた。
それもそうだ。
リタから見てもデュティは念入りに箱庭の情報を隠している。
そんなデュティが許可するレベルになるなら、そこまで心配はいらないだろう。
おまけに目標もなく努力など出来ない。ザック達にとっては冒険者になる、という目標があることで色々と熱心に取り組めることもあるだろう。
いずれにせよ、リタが心配する程度のことは、デュティならわかっているはずだ。
私が余計なことを言ったのでなければ、それでいいわ。
でも一応後でデュティには謝っておこうと心に決めて、リタは大きく息を吐いた。
通常は、「住民」は広い範囲や地域に住んでいる人たちを指して、「住人」は狭い地域や特定の場所に住む人のことを指しますよね。
箱庭では住民登録されているかどうかで住民と住人を分けています。




