(七)青い森の中での戦闘
「ところで、お前さん達はノクトアドゥクス所属だよな」
翌朝、朝食後に洞窟を出てからのゼノの第一声に、クライツ達は顔を見合わせた。
何を今更、な質問だ。
そもそもクライツ達をゼノに引き合わせたのは長官のハインリヒだし、ゼノの担当というものが存在するのもノクトアドゥクスならではだ。
ゼノの質問の意図が掴めず、クライツは笑顔のまま首を傾げて見せた。
「そうですね」
「情報を収集し分析して、そこから新たに情報を導き利用することに長けている組織の連中だ」
「……一応は」
クライツは笑顔のまま答えるも、なんだろうか、とシュリーとデル同様身構えた。
この、質問の意図が読めない感覚は師匠であるハインリヒに似ている。
「じゃあ地図も読めるよな?」
ん?
地図?
警戒していた方向とはまったく異なる単語を聞いて、表にはださないが一瞬固まる。
がさごそとポーチを漁って笑顔で磁石と地図を突き出すゼノに、クライツは笑顔を貼り付けたまま、とりあえず受け取り首を傾げた。
「ここに来るまでは一度も広げませんでしたよね?」
むしろ動物的勘とよく視える目で躊躇なく進んでいたではないか、と言外に匂わせれば、ゼノに笑顔のまま「だって戻るだろ?」とよくわからない事を問われた。
「……戻りますね、皇国に」
意味を掴みかねて慎重に答えるに留まる。
「青い森から皇国に一番近い転移陣は来る時に使ったとこだろ?」
「そうなりますね。……まさか」
ようやくその事実に思い至って、クライツは恐る恐る問いかける。
「元の道に戻ることは出来ない……?」
「俺がな」
なるほど。納得だ。
そう言えば来る時は「何も考えずに瘴気が濃い方にひたすら真っ直ぐ」進んで、「瘴気がなくなったら青いツタの指し示す方向へ進んだ」だけ、だ。同じ道に戻ることは何もなければ不可能だろう。この森では目印も何も役に立たないし、野宿跡もすぐに植物達に消されることも実証済みだ。
「ちょっと待ってください。地図があってもまず現在地がわからなければ——」
「それなら問題ねえ。印ついてるだろ?」
言われて地図を広げれば、確かに赤い印が付いている。
「この印はゼノが?」
「いや、デュティ」
箱庭の管理人か。
「ゼノは初めからこの地を目指していたと? 皇国側から青い森に来ることになったのは偶然だと聞いてますが」
「昨日つけてくれたんだよ」
——不思議な回答だ。
「箱庭の管理人はゼノがどこにいるのかわかっている、と」
「ああ。この——」
ゼノはそう言って右手のグローブを外して甲に刻まれた紋を見せながら
「この紋っつーか魔法陣で居場所がわかるようになってる。で、俺のこのポーチは箱庭と繋がってるからな。青い森から帰る時は今いる場所に印をつけた地図をくれるんだ」
そういう仕様になっているのか、と資料にあった『魔法無効化』は箱庭側の魔法陣で転移陣と魔法鞄は利用可能、という一文を思い出す。あの魔法陣は他にも色々効能がありそうだ。
「つまり地図が読めないゼノの代わりに、行きと同じブールデアスの町に戻れるように道案内をしろ、ということですか」
そういうこった、と笑顔で頷くゼノに、だったら何故仰々しい言い方をするんだと内心で思ったが、あるいはこれはハインリヒやノアの躾けた弊害なのかもしれないなと思い至って口を噤む。
「青いツタあたりまでは磁石もきく筈だから、方向がわかれば後は俺がまた真っ直ぐ進むからよ」
ゼノから手渡された磁石も魔道具磁石だし、地図さえあれば魔木の多い瘴気の強い場所でも迷う事もない。魔物に対する心配もないなら、帰りも危惧する点はない。クライツは地図と周囲を見比べながら現在地とこの群生地に踏み込んだ入口を確認する。
地図はなかなか本格的で、磁北偏差のラインまで引かれていて魔道具磁石で正しい方向を見定めると、クライツはデルにも地図を見せて意見を集約する。
「現在地がここでブールデアスの町がここ、昨日はここから広場に入ったので、まずはここから西へ7キロほど進めばあとはそのまま北に——」
二人でおおよその距離と方向を測りながら道中を計算している最中、これで安心だと腕組みして様子を見ているゼノに、シュリーは恐る恐る問いかけた。
「いつもはどうされているんですか?」
「適当に真っ直ぐ進んで抜ける。だから、どこに出るのかわからねえ。地図は、青い森を抜けた後に今がどこかを周りに確認するのにしか使ってねえ」
「いつもこの群生地に来るというわけではないんですね」
「青い森の中にいくつか群生地があるからな。毎回違う所に来てると思うぜ」
「開花周期が長い花なのにお詳しいですが、開花の周期に一度だけでなく、何度も足を運ばれるのですか?」
「ああ、頼まれることがあるからな。開花に多少ズレがあるし、五年程度はあちこちで咲いてる筈だ」
シュリーの質問に淀みなく答えるのを耳にしながら、確かに、どこに出るのか気にしないなら地図は不要だなとクライツは納得しつつ「おおよその目処はたちました」と声をかけた。
「おう、じゃあ指示は頼んだ。前は俺が歩くからよ」
朗らかに告げるゼノと共に、一行は水晶華の群生地を後にした。
* * *
行程は順調で、瘴気の薄い場所を西へ進み、後は概ね真っ直ぐ進めば問題ないという所まで進んで、行きとは異なることに気づいた。
体が軽い。加えて魔木を見かけない。魔獣どころか魔物も来ない。ゼノを恐れるにしても、行きはそれでも姿を見かけた。
「もしや、精華石を持っているからですか?」
「そうなんじゃねえ? 俺のポーチは箱庭に繋がってるから『持ってる』扱いにはならねえんだが、通常の魔法鞄の中身は持ち物扱いだから効果があるはずだ」
恐ろしいほどの効果だな。なるほど、争いが起こる訳だ。
ごくりと唾を飲み込みその効果に震撼していると、突然ゼノが足を止めクライツ達を突き飛ばした。
「——伏せろ! やり過ごしたら俺から離れろ!!」
理解するより先に倒れるように地面に伏せれば、デルがシュリーとクライツに覆いかぶさるように体を伏せる。
瞬時に、恐ろしいほどの力が頭上を通り過ぎた。
——なんだ!?
頭を少しあげゼノの方を見やれば、ゼノが大剣で誰かと対峙していた。
何者だ、と見定めようとした矢先に、デルに逃げるよう促された。
「あれはマズイです! もっと下がらないと!!」
常にない焦ったデルの声に急かされて、クライツはシュリーと共にゼノから距離を取るように駆け出した。
ぞっとするような恐ろしい力と殺気がぶつかり合う気配に肌が粟立つどころか背筋が凍る。
本能的な恐怖を感じるこの感覚はヘルゼーエンの間以来だ。
「伏せて!」
駆けてる最中にもデルの声が飛ぶ。
転ぶように伏せれば、またも頭上を力が通り過ぎた。次いでずずん、と何かが倒れる音が耳に入ってくると同時に地響きで地面が揺れる。
ちらりと周囲を見れば、木々がなぎ倒されているのがわかった。
ある程度離れたかと思ったのに、肌を刺す殺気が少しも衰えない。
「こっちへ!」
このような状態でも現状を見ながら動けるのはさすがだなと、デルの指示に従い小振りな岩陰に身を隠すと、クライツはようやく振り返って状況を確認する余裕が持てた。
鬱蒼と木々が生い茂る森の中なのに、気付けば周囲の木々はすべてなぎ倒されぽっかりと見晴らしの良い広場になっている。
瞬時にこんな状態になったのか、と嫌な汗が背を流れるがそれどころではない。ゼノはどうなった、と目をこらせば、広場の中心部で男とやりあっているのが見えた。
相手の男が恐ろしいほどの力を持っているのが、離れた場所にいるクライツ達でも感じとれる。
圧倒的な存在感。
生物としての次元が違うと本能が恐怖する。
ごくりと唾を飲み込み、額の汗を拭って静かに息を吐いた。
真っ青な顔をして口許を押さえ、恐怖でがたがたと身体を震わせているシュリーは今にも卒倒しそうだ。落ち着かせようとその肩を抱くデルの表情も強ばっていて、クライツ同様汗が流れ落ちている。
これほど距離をとっているのに、ゼノとやりあうその余波が周囲に被害を与える。
あの圧倒的な相手を前に、ゼノが怯む事なく対等に渡り合えている事実が恐ろしい。
彼が力を振るうたびに、周囲には黒いもやのようなものが舞うのがわかった。
「あれが、第二盟主か……」
ぽつりと呟いたクライツの言葉に、シュリーが口の中で小さく悲鳴を上げた。
世界に六人存在するという盟主の中で、はっきりとゼノと敵対しているとわかっているのは彼だけだ。
相手が盟主であれば、クライツ達に出来ることはない。クライツは防御魔法を周囲に展開したが、ゼノが斬り捨てる第二盟主の攻撃の余波で簡単に消失して何度もかけ直す羽目になった。
—— まったくの効果なしか!
展開する端から潰される防御魔法に内心で焦りながら、何度目かの張り直しが間に合わなかった。
「っ!」
「クライツさん!」
盾にしていた岩ごと砕かれ、魔力の威力は落ちていたものの、叩きつけられる純粋な力に体中が悲鳴を上げる。
—— 余波でこれか!
吹き飛ばされそうになるのを踏ん張って堪えると、すぐさま魔法を展開し——
「精華石を使うんだよ」
耳元で艶っぽい青年の声が聞こえて、振り返るよりも先に、クライツは言われるがまま精華石を握りしめ、魔石から力を引き出すのと同じ要領で防御魔法を展開した。すぐに飛んできた第二盟主の余波は、今度は防ぐことができた。
口の中の血を吐き出してから手で乱暴に口許を拭うと、防御魔法が機能していることを改めて確認してから、クライツは振り返った。
クライツ達の目線あたりの何もない空中に、前屈みに腰かけるように座る黒いテールコートにシルクハット姿の青年。杖の上に手を組み顎を乗せるように第二盟主とゼノの戦闘を観戦するその口許には笑みが浮かぶ。
豪奢な金髪は、リタのそれと似た色合いだ。
最上位魔族六人の一人、第三盟主――
ごくりと唾を飲み込み自分を睨みつけるクライツなど気にもとめずに、第三盟主はじっとゼノ達を見つめている。
「さすが、まったく腕は落ちてないね」
ふふふ、と笑いながら満足そうに頷き、ようやくクライツに視線を寄越した。
目を細めて笑みを深めるその表情に、ゾッとする冷徹さを感じとってクライツは拳を握りしめた。
「ハインリヒも面白い者を見つけて育て上げたものだね。彼のそういうところは本当に好ましいよ」
ノアに似ているクライツを面白いと評し、値踏みするような視線にクライツもふ、と笑って見せた。
「師匠の思惑は別として、顔だけであなた方盟主の気が引けるとは光栄ですね」
「その物言いもそっくりだ。さぞかしゼノは動揺したろうね」
ふふふ、と笑うと杖をくるりと回してクライツの横に降り立った。
「良かったね? 第二の襲撃が帰りで。行きだったら死んでいたかもしれないよ?」
洒落にならない。
確かに、第二盟主の余波とはいえ力をまともに喰らって無事なのは、この精華石のお陰に他ならない。魔族の攻撃をうけているのに瘴気にすら侵されていないなどありえないことだ。
「第二盟主も随分とゼノに執心ですね。手ずから殺しにくるとは」
第三盟主はゼノに別の意味でご執心だが、だからと言ってクライツ達の味方でもない。
背後で闘っているゼノのことも気になるが、クライツ達に出来ることはない。この第三盟主がどう動くのかを見極めなければと睨みつけるクライツに、第三盟主は微笑するだけだ。
「第二のあれは病気だね。とにかく強い奴と殺りあいたいのさ。なにせ、僕たち盟主同士は戦えないからね」
ふふふ、と笑いながら告げる第三盟主の言葉を吟味しながら、ノクトアドゥクスで掴んでいる盟主の情報を思い出す。
盟主にも力の強さで序列があり、数字が小さい方が強い。
六人存在するという盟主の中では第一盟主が一番強く力もあり、人に試練を課しては力を与えたり命を奪ったりと意外と人間にも関わる存在だ。ゼノに試練を与えクリアされてしまったがため、ゼノには手出し出来ないという制約が生じている。
第二盟主は領地を持たない荒くれ者で、災害に等しいと言われているが、詳しいことはわかっていない。ゼノとは敵対関係にある、とあった。
第三盟主は空間を操る力を持ち、自在に様々な所に現れる。彼が行った事のない所には移動できないという制約はあるらしいが、神出鬼没なので彼に隠れて密談が行える場所は限られている。
第四盟主は美貌の女盟主で、魅了の力が強力だ。美しいものが大好きで、側近は美男美女しかいないという。
第五盟主は子供の姿であるが、研究や実験が好きだとあった。その実験内容は人には優しくないものが多い。
第六盟主は第二盟主以上に謎めいていて、ノクトアドゥクスにも詳しい情報はなかった。
第一盟主から第三盟主までのゼノの関係は資料にあったが、それ以外の盟主とゼノの関係はわからない。先日ゼノから第五盟主はゼノを見ると逃げ出すと聞かされたので、力関係的にはゼノが上になるのだろう。
そして第二盟主よりも強いのは第一盟主だけで、確かに盟主同士で争えないならゼノが一番強いことになる。
そんな理由だけでこのように襲撃されるなんて冗談ではないが……
ちらりと背後を窺えば、未だ決着つくわけもなくやりあっているようだ。正直なところ、どちらが優勢なのかなどクライツには判断つかない。
「まあ、ゼノがやられることはないよ。それにそろそろストップが入るはずだし」
盟主とゼノの戦闘を止めることが出来る?
意味深なその言葉に、クライツは押し黙ったまま第三盟主を見つめた。
* * *
純粋な魔力で練り上げられた剣の斬撃を大剣で受け止め、そのまま一歩踏み込み返しながら突くように押し出せば、第二がひらりと躱す。
その隙をついて横から払うように振られる剣を即座に受け止め斬り返す。
第二盟主の剣とゼノの大剣がぶつかり合うたび、周囲には魔力と剣圧が降り注ぎどんどんと周囲を破壊していく。
「はっ! 引き籠もっていても腕は落ちていないようだな」
何合か打ち合いお互いの剣を剣で受け止め、ぎりぎりと純粋な力比べをしている最中に、第二盟主が楽しそうにニヤリと笑みながら言う。
「てめえも相変わらずだな」
ゼノも楽しそうにニヤリと笑う。
このように全力で何合も打ち合える相手など、ゼノにとっても限られる。
この三十年出せなかった全力、己の命をかけた鎬の削りあいに心の奥底から昂ぶりを感じ、自分がこの打ち合いを心底楽しんでいることを自覚する。
がきん、と剣を振り払い距離を取った。
ぺろりと唇を舐め、うずうずと踊る心を抑える。
第二盟主も楽しそうに笑い、構える。
「そんなつまんない剣じゃなく、例の剣を出せよ」
「馬鹿言うな。あんなもの使ったってちっとも楽しめねえ」
「いいじゃねえか。なんでも斬れるんだろ」
「そんなんでてめえを斬ったって面白くねえだろ」
「斬れるならな!」
一声上げて振り下ろされる剣をステップ踏んで躱し、ゼノも素早く斬り返す。
ちっ、と第二盟主の頬をかすり魔力が迸る。
「この剣でも十分斬れるだろ」
「はっ、俺の核まで届いてねえぞ」
「よく言う。核を斬ったところで死なねえくせに」
軽口を叩き合いながら切り結ぶ。
もう剣を振るうお互いしか目に入っていない。
みるみるうちに周囲の木々がなぎ倒され、森が破壊されているのにもまったく気付かず切り結ぶ。ゼノに至ってはクライツ達のことすら頭から抜け落ちた。
剣鬼——と。
二百年前にそう呼ばれたままに、第二盟主を斬り捨てるために剣を振るう。
第二盟主もゼノを斬り伏せようと全力をぶつける。
お互いが挑戦的な笑みを浮かべたまま全力で相手に斬りかかり、一歩も退かないその戦闘がいつまでも続くかと思われた次の瞬間。
「っ!」
「!」
二人がはっとして飛び退り距離を置いた。
次の瞬間、ずおおぉっと二人間に大きな槍のようなものが地面から生えてきた。
槍のようなもの——それは紛う事なく植物だ。だがその先端は鋭く、貫かれればひとたまりもない。
「いい加減にしろよ! ここはオレの大事な植物園なんだぞ!」
次いで少年の怒鳴り声があたりに響き渡った。
ちっ、と第二盟主が舌打ちする。
ゼノも無言で声のした中空を見やる。
そこには、緑色の髪をした少年が腰に手をあて怒りも露わに二人を見下ろしていた。
「第五か」
「オレはな、この植物園にエサとなる人間がうろつくのはまったく意に介さないが、ゼノ! お前が来る事は歓迎していない! オレが放った魔物も植物も毎度毎度滅茶苦茶にして!」
「弱えもんを放つからだろ」
「お前だけだよ、そんなこと言うのは! そもそも第二も! ゼノとやり合いたいならよそでやれよ! よりにもよってこの森でやるな!大迷惑だ!」
「ちっ、細かいことをグチグチと」
吐き捨てた第二盟主に、第五盟主ががなり立てる。
「ここはオレの領土だろ! 大体第三も! 呑気に観戦してないで止めろよな!!」
第五盟主の怒鳴り声に、クライツ達のところで観戦していた第三盟主がふふふ、と笑いながら近づいて来た。その姿を認めて第二盟主が盛大に舌打ちを残して、ふいと姿を消した。
「ほら。僕が姿を見せると第二が逃げちゃうだろ?」
「見せろよ! 追い返せよ!!」
肩をすくめて告げる第三盟主に、があっと空中で地団駄踏みながら第五盟主が叫ぶがどこ吹く風だ。
「折角久しぶりにゼノの本気の剣技を見られる機会だったんだ。見逃す訳がないだろう?」
「どいつもコイツもゼノゼノゼノと! そんなに見たけりゃ第二とゼノをどこかの空間に閉じ込めてずっと戦わせておけよ!」
「それは魅力的な提案だ。でもそれだと第二に独り占めされてつまらないね」
「ほざいてろ! ——ったく。急に襲ってきたのは第二だ。俺に当たり散らすんじゃねえよ」
「お前達みたいな戦闘バカにどっちがどうなんて関係ないね! ああもう、こんなに滅茶苦茶にして!」
五月蠅くわめき立てられてゼノも周囲を見渡せば、確かに酷い。森だったものが広場になっている。
こんなになってるとは思わなかったな、とばつが悪そうにがしがしと頭をかいた。そして離れた所に立っているクライツ達に気付く。
——しまった。忘れてた。
「本当にもう、とんだ大迷惑だよ。ここしばらく来てないと思って安心してたのに。現れた途端こんな大惨事! ああ、もう本当に鬱陶しい!」
イライラと足を踏みならす第五盟主に、ゼノも第三盟主も知らぬ顔だ。ゼノはとりあえず剣を背中のホルダーに仕舞った。
「おまけにあんな所に気に食わない梟はいるし!ああもう本当に目障りだ!お前達みんなこの森からさっさと出て行けよ!」
「相変わらず癇癪の強えガキだな」
ぼそりと呟いたゼノの言葉に、第五盟主が眦を釣り上げた。
「お前は自分がやらかした事を少しは謝れーーーーーっ!」
その態度にキレた第五盟主が大声で怒鳴りながらゼノを指差した。
——だが何も起こらない。
「ぐっ! クソ! こっちの魔術は効かないんだったな!! ああもう、さっさとここから立ち去れ!」
「へーへー。第二の襲撃はこっちだって迷惑だっつーの」
まあ、色々忘れて楽しんじまったところもあるが、ということはおくびにも出さない。
ゼノは第五盟主に背を向けてクライツ達の元までやってきた。
「色々予定が狂っちまったが、場所はどうだ?」
「ブールデアスならあっちの方向だよ」
クライツではなく第三盟主が答えながら指差す。それをちらりと見て、ゼノはクライツに向き直った。
クライツは苦笑しながら、地図を取り出しデルと共に方向を確認し頷き返す。
「僕が嘘を教えるわけないだろう?」
少し不満そうに口を尖らせながら抗議する第三盟主に、ゼノは肩をすくめた。
「お前に頼らねえために確認してんだよ」
「ごちゃごちゃやってないでさっさと行け!!」
第五盟主が痺れを切らしたように背後で叫ぶのに手を振って答える。
「また来るわ」
「もう二度とくるな!!」
かなり長生きな筈なのに、本当にガキみてえなやつだよなと内心で呆れながら歩き出した。




