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ユーティリシアの箱庭  作者: 村上いつき
第一章

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(二十一)剣聖の怒り



 南門に押し寄せた魔物を片付けたゼノとオルグは、街中に現れた魔物を騎士団と連携しながら倒していた。

 住民が蹂躙されるような状態ではないが、怪我人はそこそこ出ている。

 加えて、それに乗じて店を荒らす冒険者の姿もちらほら見られた。

 見つけた端から殴り飛ばしていたゼノは、魔物があらかた片付いたのを見届けると、その足でハンタースギルドに乗り込んだ。「どこ行くんだ!?」というオルグの呼び止める声も聞こえない。


「支部長はどこだ」


 大剣を担いだ状態で荒々しくドアを開けて呼ばわれば、中にいた数人の職員がびくりとして顔を上げた。


「な、なんだ、お前――」

「この街のハンタースギルドの責任者はどこだと聞いてる」


 ごちゃごちゃ言いかけた男をひと睨みで黙らせると、重ねて問う。

 ゼノの気迫にひっと短い悲鳴を上げながら、女性職員が慌てて奥へ引っ込んでいくのを黙って見送った。


 ゼノは怒っていた。

 百歩譲って、オルグの件はそういう輩も存在するだろうと解釈した。

 進んで魔物討伐に参加せず、美味い汁だけ啜ろうとする輩もいて当然だ。

 数が多くなれば、細部まで目が届かずにそういったことをする連中が出てきても不思議ではない。

 組織が大きくなればそういうこともあるだろう。

 だが、火事場泥棒を行う輩がこれほど多いのは見過ごせない。

 支部のある街は()()()――自分達の守るべき街であるという概念が、ハンタースの信条であった筈だ。

 そこが揺るぎかねない行動は、到底見過ごす訳にはいかない。

 しばらくすると奥から足音が聞こえてきた。


「この忙しい時に人を呼びつける馬鹿は誰だ」


 現れたのは眼鏡をかけた陰険そうな面構えの中年の男だった。レーヴェンシェルツのゴルドンとは見るからに反りが合わないだろう雰囲気だ。

 男は入り口付近に立つゼノに目をとめると、じろりとゼノを睨みつけた。


「貴様か。何の用だ」

「てめえが責任者か。来る者拒まずはハンタースの信条のひとつだってのは理解しているが、てめえらの街が襲撃されてんのに戦うどころか荒らすたぁどういう了見だ。そういう()を行うのもハンタースギルドの仕事だろうが」


 怒りを含んだゼノの言葉に、男は恐れるどころか鼻で笑って返した。


「何を言いに来たかと思えば……」


 男はゆっくりとした歩調で受付の外へ出るとゼノの近くまでやってきた。


「ギルドは優秀な者も平凡な者も、あるいはどんなクズでも受け入れる――ただそれだけだ。冒険者などただの使い捨ての道具なんだからな。いい道具ならともかく、悪い道具に手間暇をかける意味があるか?」


 ああ?と嘲るように言い捨てる支部長の言葉にゼノは眉間に皺を寄せた。


「狼藉者に『冒険者』という身分を与えて、融通を利かせるだけの組織に成り下がったってことか?」

「堂々と殺しをやる馬鹿はいない筈だが?」

「殺しさえしなければ、街中の略奪行為を黙認してるってのか? 支部のある街でも? それを()()()()容認してるのか?」


 どんどんと底冷えするような殺気を纏うゼノの様子に気づかないのか、あるいは気づいていても恐れもないのか。支部長はゼノを馬鹿にするような態度を改めることもなく、何を言っているのだか、と言わんばかりに呆れたように肩をすくめてみせた。


「冒険者が魔物と戦う際に、色々と()()調()()をするのは基本じゃないか。どこに目くじらを立てる必要がある?」


 その言葉に、大剣を握るゼノの手にぐぐっと力が篭った。

 怒りを抑えるように目を閉じて、静かに、静かに息を吐き出す。


「――ハンタースの本拠地は、()()()()()()()()()のか?」


 目を閉じ俯き加減で問うゼノの言葉に、突然何を言い出すのかと支部長は笑った。


「いつまでもあんな不便な田舎に、本部を置いているわけがないだろう」


 その答えに、

 そうか、と。

 ()()()()


 と呟いた直後、ゼノは背に担いだ大剣を薙ぎ払った。


 途端に、依頼案内を掲げる掲示板が真っ二つに割れて床に落ちた。

 そのままつかつかと支部長の横を抜け前に突き進むと、受付カウンターを端からひとつずつ斬り捨ててゆく。

真っ二つにされたカウンターから書類や魔道具が舞うが、お構いなしにゼノはすべてを大剣で破壊していった。


「きゃあっ」

「うわっ」


 受付奥で様子を伺っていた職員が悲鳴を上げながら逃げ惑うのを無視し、そのまま受付にあったギルドカード関係の魔道具を真っ二つに斬り捨てた。


「……な……っ」


 ゼノの突然の暴挙に呆気に取られていた支部長が、我に返って慌てたようにゼノに詰め寄った。


「何をするか、貴様! 我々ハンタースを敵に回して――」

「ライオネルとの約束だ」


 喚き散らす支部長にびしりと切っ先を突きつけて黙らせ、短く言い捨てた。


「ここはもう、()()()()()()()()()()()()。 今後俺の前でその名を名乗ることは許さん」


 くるりと受付カウンターだった場所に背を向けて、そのまま入り口の扉に向かう。


「……っ……は、何をほざくか! 貴様に一体なんの権限があって――」


 ごちゃごちゃと喚き立てる支部長には一瞥もくれず、ゼノは入り口の扉も斬り捨てると、最後に入り口上に取り付けてあったハンタースギルドの看板を斬り捨てた。

 がた、ごとん、と大きな音を立てて地面に落ちた看板は、途中でさらにゼノの一刀のもと細切れにされていた。

 ギルドの建物周辺には、オルグや門の外で魔物討伐を行ったパーティ、騎士団や野次馬も集まっていた。その輪の一番奥にハインリヒが立っているのを見て、ゼノは眉をひそめた。


「お前、知ってたな。ここまで腐ってること」


 怒りを孕んだゼノのその問いかけに、騒いでいた周囲がしんと静まり返った。

 ゼノの言葉にハインリヒは肩をすくめた。


「ふむ。言葉で説明されて、君は納得するのかね?」


 そのもっともな台詞に、ぐ、とゼノは押し黙った。


 ――しねえな。


 はあ、と息を吐いて大剣を背のホルダーに納めると、がしがしと頭をかいた。


「――その通りだな。 だが、知った以上は見過ごせねえ。 俺はここをハンタースギルドだとは()()()()

「心得た。ではこのギルド支部は解体するよう、領主にも話をつけておこう」


 その会話の内容に驚いたのは、現在ミルデスタのハンタースギルドに所属している冒険者達だ。

 なくなるの――? 今後どうすれば、と動揺するような会話がそこかしこで囁かれる。

 建物内で固まっていた支部長が、その状況に慌てて表へ出てきた。


「何を勝手なことを! そのような暴挙が許されると――」

「知らなかったのかね? 剣聖にその権限があることを」

「ふざけるな!そんな話聞いたこともない!」

「ハンタースギルドは、剣聖ゼノ=クロードを裁定者として成立したギルドだということを、本当に君は知らないというのかね? ギルド支部長でありながら?」


 ハンタースギルドの裁定者――


 ざわり、と先ほどとは異なるざわめきが周囲に広がる。 

 その動揺の理由をハインリヒはもちろん承知していた。

 ハンタースギルドの憲章には、貴賤を問わず受け入れる、ギルド内で揉め事を起こさない、自分達のホームを守る、そして――一般の冒険者には周知されていないが、剣聖の決定に従う、という項目が存在するのだ。ギルドの上層部にのみ伝えられている筈の内容だ。

 その剣聖というのはもちろんゼノのことを指していたが、ゼノが表にあまり出てこないのをいいことに、今のギルド長になってから別の剣聖を立てたのだ。

 ここにいるハンタースの冒険者達からすれば、剣聖とはギルド長が認定した人物のことで、目の前のゼノの事だとは考えてもいないだろう。


「裁定者だとかそんなことはどうだっていい――俺は、ライオネルとの約束を守る。ライオネルの理想からかけ離れたギルドは、約束通り叩き潰す。誰の許可もいらねえよ」


 友人との約束を遂行するだけだ――


 ゼノの口からハンタースギルド創設者の名が出たことで、それを知っている者達は息を呑んだ。

 ハインリヒは思う。

 ライオネルとやらは、きっと将来こうなる事がわかっていたに違いない。

 だからこそ、ハンタースは二つの勢力に別れているのだ。


「ああ、ゼノ。一つ伝えておこう。 ――ネーヴェに本部を置くハンタースギルドは()()()()。ハンタースギルドは、現在二つの勢力に分かれているのだよ」

「ああ? ……なら、ライオネルの意志を継ぐハンタースは残ってんのか?」

「ネーヴェを中心としたいくつかの地域に。大きな都市は新興勢力が押さえてしまっているがね」  


 ふうん、とゼノは呟いた。

 だったら。


「そいつらにここの管理は任せられねえのか?」

「馬鹿を言うな!」


 ゼノの問いに支部長が青ざめながら異を唱えたが、ゼノは黙殺した。


「ふざけるなよ!貴様が何者だろうが、勝手な決定が通ると思うな!ここは――」

「ごちゃごちゃ五月蝿えな。勝手にハンタースの名を騙ってんのはお前らだろうが。新興勢力とやらがてめえと同じ考えの者ばかりなら、そいつらがハンタースを名乗るのも俺は許さねえよ」


 喚き立てる支部長の胸ぐらを片手で掴み上げ、ゼノは言い聞かせるように睨みつけながら宣言した。


「てめえが言う本部とやらにこのことを伝えておけ。今すぐ改名するか、組織を解体しろとな」

 わかったらもう消えろ――


 そう言い置くと、もう支部長への興味を失ったかのように、胸ぐらから手を離して外へ押し出した。

 悔しそうな顔をしてこの場を離れる支部長の背を見ながら、ハインリヒは頷いた。


「このミルデスタには、本来のハンタースギルドを設置できるよう、こちらで手配しておこう――君の名さえ使えるのなら、後のことはすべて任せておきたまえ」

「ああ、任せた」


 短く言い捨てたゼノは、不機嫌な顔のままギルドに背を向けてこちらに歩いてきた。オルグが慌てて後を追う。ハインリヒは騎士団に何か言付けたあと、二人の後に続いた。



 * * *



 レーヴェンシェルツのギルドに戻ると、今度はリタが教会に連れ去られたとの報せを聞いて、ゼノの眉間のしわが深くなった。


「……ハインリヒ」

「ち、違うんです、ゼノさん。ハインリヒさんのせいではなく、皆がいない隙にですね……」


 ゼノの剣幕にカーンが真っ青になりながら慌てて釈明を行うのを、他ならぬハインリヒがそれを止めた。


「予想はしていた。――ふむ。怪我人はいるのかね?」


 ハインリヒの問いかけに、兄弟達で集まっていた中からアインスが一歩前に出てきた。


「サンクが怪我をしたけど、ショウエイさんの術と治療薬で怪我自体はちゃんと回復してる。さっきレーヴェンシェルツの治癒魔法士にも診てもらったから大丈夫だと思う」


 サンクが怪我、と聞いてゼノの眉間のしわがさらに深くなったが、アインスの顔を見て表情を改めた。

 サンクが怪我を負い、リタが連れ去られたというのにアインスの目に陰鬱な影がない。後ろの兄弟達に目を向けても、彼らの顔に暗い影はなく、むしろ決然とした目をしている。


 ――教会なんかに負けない。絶対に助け出す。


 そんな覚悟が感じられて、知らずゼノは口許に笑みを浮かべた。


「ショウエイ殿には色々助けてもらったようだ」

「……いえ、途中魔物の相手をしなければ、サンクが怪我を負う前に合流できた筈なので、そこは申し訳なく……」

「ですし……」


 ハインリヒの言葉にぼそぼそと申し訳無さそうに返す青年と少女が正神殿の使者か。ヒミカ直属だけあって腕はたちそうだ。

 そんな感想を抱きながら、しょぼん、と肩を落とす正神殿の二人の使者を見ていたゼノは、兄弟達の元にゆっくりと歩み寄った。


「まだ戦う気はありそうだな」

「もちろんだ!」


 アインスの返事に後ろの弟達も元気よく頷くのに笑みを深くし、わしゃわしゃとアインスの頭を撫でた。


「ならば、今は休みたまえ。シグレン家の兄弟達はコルテリオ――教会の暗殺部隊を相手に死闘を繰り広げたと聞いている。サンクも怪我は治ったとはいえダメージまでは回復していないだろう。事態はすぐには動かない。明日一日はしっかり休養をとるといい」

「そうだな。あの連中相手によく無事だったもんだ。――オルグ。今日はお前さんがずっとついててやんな」

「わかった」


 神妙に頷いて、オルグは兄弟達と共に奥へ向かっていく。その中からトレが一人こちらにやってきた。

 ハインリヒが片眉を上げて見咎める。


「僕からも状況の報告をさせてください」


 明日でいいとハインリヒが手を挙げて止めようとするのを、トレは(かぶり)を振って拒否すると、目をしっかりと合わせてから口を開いた。


「アインス兄さんを助けた行商人、アリーとバイセンが教会の暗殺者で、アリーはアネリーフェという名の調教士だとショウエイさんがおっしゃってました。魔獣に怪我を負わされリタ姉さんが治療した行商人一家も教会の手先で、奥さんが操られて魔物を街中に呼んだようです。僕たちが見つけたときは、奥さん以外の家族は恐らくバイセンに、奥さんは後から現れた暗殺者に殺されました。 ……操られた奥さんの台詞からも、その後の行動から考えても、リタ姉さんに罪悪感を植え付けることが目的のようでした。罪悪感で首輪が強固になる、と」


 トレはそこまで一気に報告すると、一度俯いてぎゅっと唇を噛みしめてから、ハインリヒを見上げた。


「首輪は……リタ姉さんを操る手段は、チョーカーかと思ってあのあとすぐに外してもらったんです。アリーにつけさせたあの時だけだったのに……他にあったということですか?」


 チョーカー?


 ゼノはそれが何かわからなかった――女性の装飾品に疎い――が、そういえばあの時何か背後でわちゃわちゃやってたなぁと思い返す。リタがいつも通り女の子に優しくしていたとの印象しか残ってない。


「ふむ……一度でも肌に触れさせることで、紋を刻印することが出来るのだよ。発動には魔力を流す必要があるがね」


 ……一度でも。


 その言葉にトレががくりと肩を落とした。すぐに外せば大丈夫だと、そう思っていたのだろう。


「じゃあやはり……」

「媒体はチョーカーだろうな。魔力は紋に触れさえすればいつでも流せる。恐らく、魔力を流したのは今日だろう」

「それなら……今日アネリーフェに会わなければ、リタ姉さんは操られることはなかったということでしょうか」

「それはねえな」


 どこか思い詰めたように問うトレに、ゼノはきっぱりと否定してやった。どのような手段をとってでも、教会は必ずリタに首輪をつけただろう。

 自分達の姉が操られることを避けたかったという気持ちはよくわかる。だが、首輪が無駄だと教会に知らしめるためにも、一度はつけられる必要がある、とハインリヒに言われていたのも事実だ。

 だから、現在の状況はある意味ハインリヒの想定内と言える。


「ゼノの言うとおりだ。むしろ今発動されて助かったというべきか」 

「……どういうことでしょうか」


 ぎゅっと青い顔をして拳を握りしめるトレの様子に、ハインリヒは少し考え込む仕草をして、もしや、と呟いた。


「サンクの怪我は操られたリタの仕業かね?」

「……なんだと」


 トレは唇を引き結んだまま答えなかったが、それが答えになった。

 ハインリヒが額を押さえながらそうか、と小さく呟いた。

 ゼノは舌打ちをしながら、トレを頭から抱きしめた。


「――よく頑張ったな、お前さん達」

「……ぅ……あ、アインス兄さんが、みんなを――守って……姉さんにも、サンクにもっ、辛い思いを……させる気はなかっ……」

「ああ、ああ、わかってる。お前さんのせいじゃねえ。そこは俺たちがちゃんと気をつけておくべきことだった」


 うう~、と声を殺して泣くトレの背中を撫でてやりながら、ゼノはアインスの胸中を思った。トレがこれほど自分を責めているのなら、あの少年も自分を責めているのではないか。

 自責の念なら、リタこそずっと抱いていた。

 自分のせいで、父を、弟達を――ずっとずっと自分を責めているのを、まだ会って十日程度しか一緒にいないゼノでもわかった。このうえさらに、弟達を手にかけさせようとしたか。


 ……相変わらず、嫌らしい手を使いやがる。


「トレには辛い現実だったが、今ここで発動したことで確実に無効にできるのだよ。それに……いつ発動するかわからない爆弾を抱えている訳にもいくまい」

「……それ、は……」

「俺がいる限り、発動した首輪は確実に無効にしてやる。だから心配するな」


 しばらくそうやって泣き続けるトレの背中を撫でていると、日中の疲れも手伝ってかすぐに静かな寝息が聞こえてきた。


「……ハインリヒ」

「わかっている」

「ならいい」


 ゼノの怒りを理解したか、静かに返すハインリヒにゼノは頷き返し、眠ってしまったトレを抱きかかえると、兄弟達がいる部屋に向かった。

 そっと部屋に入ると、疲れていたのだろう、絨毯の上でそれぞれ固まって眠っていた。アインスは両脇にサンクとシェラを抱いて、ドゥーエはオルグと、フィーアとシスがそれぞれひっついて眠っていた。


「……トレ、泣いた?」


 トレをそっとサンクの側に寝かせようとしたら、起きていたのかアインスがが小声で尋ねてきた。

 うっすらと開いた目は、ゼノの腕の中のトレを認めると安堵の色を浮かべた。

 弟を心配するその姿に、流石はリタの弟でみんなの兄というべきか。若干十四歳ながらしっかりとした芯を感じる。


「ああ。思い詰めてたな――お前さんは大丈夫か?」


 ゼノの問いに、ん……とアインスは小さく笑いながら頷いて、すいっと天井を見上げた。

 真っ直ぐに、先だけを見つめて。


「だって、今は前に進まないと」


 考え出したら動けなくなる、と小さく呟く声に、そうだな、とゼノも頷いて、ぴしっ、とおでこを弾いた。


「てっ……! なんだよ、おっさん」


 おでこをさすりながら、むぅ、と口を尖らせて文句を言うアインスに、ゼノはふはっと小声で笑った。


「リタが恥ずかしがってお前さんにデコピンした気持ちがわかるわ。お前さん、チビのくせになかなかでっけえな。将来有望だ」


 わしゃわしゃと頭を撫でてやれば、うう、とか、あう、とか顔を真っ赤にしたアインスの変な声が聞こえたが、気にせずに撫で回してから、それぞれの固まりに毛布を掛けてやった。


「最後に勝つのはお前さん達だ。今はしっかり休めよ」

「おー……」


 耳を赤くしたアインスがもぞもぞと毛布に潜り込むのを確認して、ゼノは部屋を後にした。



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