一之怪
──とある夏のある日、僕は出会ってしまった。
「いやぁ、暑いね〜」
ある少女がそう嘆いた。
「しょうがないだろ、田舎の家にエアコンなんかあるわけないんだから」
僕がそう言うと、
「あーあ。こんなんなら帰ってこなければよかったなぁ〜」
こんなことを言っているこの少女は僕のいとこにあたる存在で、今は上京して東京の学校に通っている。
今は夏休み、地元に帰省して僕の家でダラダラと過ごしている真っ只中だ。
「そんなこと言ってる暇があるなら早く宿題終わらせて遊びに行こうよ」
「え〜、宿題?夏休みなんだから勉強なんて忘れてゆっくりしようよ〜」
「今日は夏祭りがあるんだよ?お父さんとお母さんが宿題をやらないと行っちゃダメってうるさいんだから、早く終わらせようよ」
「え?!夏祭りって今日だっけ?!仕方ないなぁ、恭くんの頼みなら仕方ない、早くやろやろ!」
恭くんとは『佐藤恭介』、僕のことである。
ちなみにこの少女は『髙野向日葵』で、僕はひーちゃんと呼んでいる。
日も暮れ、夕刻。
「やっと終わったぁ!」
「お疲れ〜じゃあ夏祭り行こっか」
「それじゃあ着替えるから出てった出てった!」
「え?あ、うん」
そんなこんなで夏祭り。
「どう?この浴衣!」
「すごく似合ってるよひーちゃん」
「恭くんもすごくかっこいいよ!」
「あ、ありがとう…」
照れながらそういう僕の髪をガサガサと乱雑に撫でるひーちゃん。
「もう!あっ、あれ楽しそう!」
「どれどれ〜?えっと射的かぁ、恭くんも男の子だもんね〜
やっぱりこういうの好きなんだねぇ」
「ひーちゃん、何が欲しい?」
「え?取ってくれるの?!え〜何にしようかなぁ〜
あっ、じゃああれ!くまさんのぬいぐるみがいい!」
「うーんさすがに無理そうだけど頑張ってみるね」
「ありがと!がんばって!」
そういい初めてのチャレンジ。
「とりあえず当てれはするけど…」
「さすがに落ちないよねぇ〜…全然違うのでいいよ?」
「いや、ひーちゃんの頼みだからあれは取るよ」
そういい始める2度目のチャレンジ。
向日葵は顔が真っ赤だったが、恭介は集中していて全く気づかない。
「あっちょっと動いた!」
「えっ?あっ!凄いよ、恭くん!」
そして3度目のチャレンジ。さすがに慣れてきていて何度か動かすことは出来るものの、落ちはしない。
「うーんやっぱり難しいなぁ。」
「はいよ。」
「えっ?いいんですか?屋台のおじさん!」
「彼女の為に頑張る彼氏。そんな姿を見せられたらそんなもの安い出費よ。」
「あ、ありがとうございます!彼氏じゃないけど…」
恭介の頑張りに見蕩れてか屋台のおじさんは狙っていたぬいぐるみを僕らにくれた。
「良かったねひーちゃん」
「うん!ありがとう恭くん!」
そうして時も暮れ、屋台も回りきり、休憩をしていた時。
「あれ?ひーちゃん?ひーちゃん!どこー!」
空には大きな花火。しかし隣に向日葵の姿はない。
どこへ行ってしまったのだろうか。呼んでも返事はない。
そんな時、背後から声がした。
「誰かお探しですか?」
「はい。連れの子とはぐれてしまって…」
そう答え、後ろを振り向いた時、そこに居たのは──
僕の身長の2倍はあるであろう高身長の女性だった。
頭には麦わら帽子を深く被り、服装は白いワンピース。肌は真っ白で、まるで別次元の存在を思わせる佇まいだった。
今にも逃げ出したい。そう考えてしまったが、今はそれ以上に向日葵を探さなければ。そう思い、恐怖を内に秘め会話をすすめる。
「黒を基調としていて、向日葵の模様が沢山書いてある浴衣のショートカットの女の子を見ませんでしたか?」
「私を見て驚かないのね。いいわ、その度胸に免じて私も手伝ってあげる」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます…!」
それから数刻。花火も終わり、人もまばらになってきた頃。
「見つかったわ!」
そう長身のお姉さんの声がした。
「すぐ行きます!」
お姉さんの声のする方に走り、その姿を見つける。
「ひーちゃん!大丈夫!?」
「ん?あ、恭くん!どこにいたの〜?探したんだから〜!」
「もう、探したのはこっちの方だよ!」
「とりあえず見つかってよかった…あの、お姉さんもありがとうございました!」
「お姉さん?私たちの他には誰ももいないよ?」
「え?ほんとだ…せめてお礼は言いたかったのになぁ」
後から知ったのだが、ここであった女性は『八尺様』と呼ばれる怪異の1つらしい。出会ってしまった人は数日後に死んでしまうと言われているらしい。しかし、なぜこのような所にいたのだろう…。
僕達の奇異な夏休みはまだ終わりそうにない。




