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草の賢者  作者: マ・ロニ
第一章‗第四節
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第八話 黒い行商人

 光の巡り 火の時 五十番目 終わりの頃

 端の集落の収穫祭の時――


 陽が落ち、周囲を赤く染め、集落の家屋が影絵のように見え始める。


 朝から始まった収穫祭の騒ぎは、終わる気配はなく、まだまだ続く様相で、集落の人々の笑い声やから騒ぎ声が続く。

 訪れた巻毛人族の一団からなる、曲芸団の鳴り物が響き渡り、絶えず様々な見世物や出し物を披露してくれている。大人達は昼から酒を飲み、気持ちよく酔いしれ、子供達が普段は食べられないようなご馳走に舌鼓を打つ。


 ネスマスの大量発生とネスマス人の襲撃事件が過ぎてから、久しぶりに訪れた陽気な時。


 だが、端の集落と近郊以外では大きな被害が出た。とくに川沿いの農耕地帯は大量に発生したネスマスや鼠により、農作物を荒らされ、怪我人も多く出た。


「……税の徴収時期をずらしてくれや、減らしてくれっといった陳情は止まないが、第二王子の派閥が握りつぶしているようでな」


 ヤーナと席を共にしている、普段着姿の要塞の騎士リンコールが甘めの酒を苦々しく飲む。


「あら、そう。でもそれがお国の決断。いたし方がないのでしょう。例え、民心が離れたとしても」


 王族の方は痛くもかゆくもないのでしょうねと、棘を含んだ言葉でヤーナが返すのを聞いて、リンコールは、ハァと申し訳なさそうに、大きくため息をついた。


「疑われた件、まだ、根に持っているのか」




 変異ネスマスとネスマス人の感染に対する治療薬をいち早く発見し、処方し、王都へも薬を送り届けたヤーナに対して疑惑が持たれた。


『今回の騒動を引き起こしたのは、いち早く対処が出来た、ヤーナ自身ではないのか?』


 疑念を持った、第二王子の派閥に属する貴族達は声高に真相究明を掲げ、端の集落へ、王都から自分達の息がかかった審問官を派遣させた。


 高慢な態度でヤーナへと、始めから疑いを掛けた詰問を審問官は続ける。


 話をでっちあげ、無理矢理にでも自白をさせようとしている、魂胆が見え透いた審問を続けるが、時がたつにつれヤーナが原因ではないといった証拠がボロボロと出てくる。


「貴様が、あの、染物の村に染色薬を提供していたのは事実であろう!」


 ネスマスが大量発生した原因として染料の残滓に含まれる毒が挙げられていた。王都の薬師集団が調査した結果でも、間違いないであろうと結論付けられていた。


「おーい、ヤーナの婆様。染物村の村長宅から確かに封印箱を見つけやしたぜ」


「はい、ヤーナ殿、燃やしたネスマス人の遺体から指輪が出ましたよ」


 ギールとコーラルが審問をしている小屋へと、遠慮もせずに立ち入り、物品を差し出す。


「貴様ら何を勝手に――」


「あらあら、そう、ありがとう。この指輪を私の指輪と組み合わせて、箱の穴に当てると、ほら開いたでしょう」


 ヤーナは審問官を無視して箱を受け取り、指輪を受け取り、手慣れた様子で封印箱を解除する。


 箱の中には一巻きの皮紙が一通入っていた。


「はい、そう、皆も見て頂戴」


 ――を購入するかぎり、染物村の代表はヤーナが()()で提供する中和薬を投じて、濾過をすることにより薬品の無害化を図る――


 巻物は覚書であり、ヤーナと、先々代の染物村の代表者のサインが認められていた。


「あの、怪しげな発色薬を使い始めたのは、若造の代表でございます。知り合いの行商から安く買えて、効果は変わらないと、宣っていました」


 染物の村の生き残りの職人たちが、ヤーナの薬のせいではないと次々に証言をする。


「では、その行商とやらを見つけて、連れてこい! でなければ疑念を払うことは――」


「それをするのは、ヤーナではなく我々騎士団の役目になるだろうな」


 幾日か続いた尋問の途中で、王より内密にヤーナへ行われている審問をやめさせるため派遣されたリンコールが顔を出す。


「リンコール将軍! しかしですな、そもそも、この婆が作った薬自体、薬師組合でも効能は判っても、素材について不明な点も多く」


「現王に薬を卸す者が作る薬へも同じような詮索をするか?」


 リンコールはいい加減、無駄なあがきはやめろとくぎを刺し、審問官へ退場を促すが


「たとえ、現王の使いだとしても! 意を酌めなくなることをお忘れなきように!」


 と、捨て台詞を吐き、周囲の人を押しのけるようにして審問官は宛がわれていた小屋を出て、端の集落をあとにした。




「ハァ、本当に面倒くさいのだよ。美味い酒も、飯も不味く思えるほどにな。これなら、国境で番をしているほうが、よっぽどましだ」


 リンコールは杯に残った酒をあおり、傍らに置いた壺から直ぐに注ぐ。


「それで? 結局、行商人については、そう、何か掴めたの」


 ヤーナはもともと、審問官など相手にしていなかった。リンコールの困った様子が面白く、揶揄っていたようなものだ。ただ、審問官を追い払うためだけに彼が訪れたとは考えてもいなかった。


「……ああ、まあ、一応な」




 王都ではヤーナへ審問をするより前に、染物村へ薬を卸したという行商人について捜索が進められていた。


 リンコールが王より命を下された理由は『薬を売ったとされる行商』が捕らえられたからだ。


 薬を売った行商は小太りの中年の普人白人種の男で、男自体も別の薬師から買い取った者を売っただけだと訴えた。


 男に薬を売った下町に住む薬師は、知り合いの古書店で見つけた製薬方法に基づいて作っただけで、効能までは詳しく知らなかったと、泣き叫ぶ。


 製薬方法が記された一枚紙を売っていた古書店の主は、訪ねてきた浮浪者から買い取っただけで内容についてわかるわけがないと憤慨する。


 下町の暗所のかたわらにいた浮浪者は、道端で寝ていたら落ちてきた紙切れが売れただけで、何も知りませんと素直に話す。


 流石に、ここで終わりかと思われたが意外にも『窓から紙を捨てた男』にまでたどり着いた。


「秘密の茶会で見初めた女と一晩を過ごしていた際に、女が持っていた紙の内容を見て、丸めて捨てたということだ。場所やら、番目やらも大体あっていた。信じられるか? たまたま知り合った女の持っていた紙切れ一枚が、巡り巡って大騒動を引き起こしたのだ」


 こんな偶然、どうやって仕込むというのだ。と、リンコールはこぼして、又、酒をあおる。


「で、その男の人が、そう、問題ということかしら」


 ヤーナは空になったリンコールの杯に酒を注ぎながら、続きを促した。


「……ああ、そういうことだ。第一王子の関係者で、色々と厄介な立場にある。これ以上の追及は止められたのだよ」


 まったく、本当に面倒だ! とリンコールが叫び机を杯ごと叩き、酒がこぼれる。周囲の人が何事かと振り返るが、ヤーナ達と認めると珍しいこともあるものだという様子を見せつつも、深入りしようとする者はなく、又、それぞれの別の興味へと目を向けていく。


「で、男性と一緒にいたという女性のことは、そう、判ったのかしら?」


 ヤーナは机にこぼれた酒を懐から出した布切れでふき取りつつ、改めてリンコールへと問いかける。リンコールは済まなそうに頭を下げつつ、腕を前に組み、首を傾げて答える。


「いや、追及は出来なくなったのでな、詳しくは判らん。だが、抱こうとした男の話では、長い黒髪をした仮面越しにも判る良い女だったらしい」


 紙に認められた内容を見て、興ざめして女が戻る前に部屋を出たから素顔まで見ていなかったということだ。リンコールはそう締めくくると、もう、いい加減忘れて飯をつまんでくると言い残し席を立つ。




「そう、長い黒髪の女。……本当に面倒そう」


 一人席に残されたヤーナが、ポツリと呟いた。


第二章に続きます。

読後の感想ありがとうございます。


また、しばしのお待ちを……

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