宇宙ネズミ捕り
「大体君達の星でも乗り物を運転する際にはルールが定められているのではないかい? それなのに宇宙に飛び出しただけで、好き勝手に航行していいと短絡的な自己判断をするのは、あまりにも横暴が過ぎると思わないかね?」
「……申し訳ありません。おっしゃる通りです……」
現在、我々は惑星探査の最中、異星人のパトロール船に無線で停止を呼びかけられ、彼らの船内でひたすら指導を受けているところです。まさか地球外生命体との記念すべきファーストコンタクトが宇宙交通違反の取り締まりになるなんて思いもしませんでした。
彼らの科学技術水準は地球に比べ遥かに進んでいるらしく、翻訳装置により我々と流暢に会話することが出来ています。宇宙船のサイズこそ小型で、我々の船に比べると二十分の一ほどの大きさしかありませんが、言い換えれば必要な構造をコンパクトにまとめるテクノロジーを持ち合わせているということでしょう。
ただ、いい大人が揃いも揃って、タコのような剽軽な見た目をした異星人から我々の言語で淡々と叱責されているというシチュエーションは精神的に堪えるものがあります。
「まあ、過ぎたことは仕方がない。無免許運転にスピード違反、標識無視が重なれば、本来惑星全体に対する永久免許剥奪措置が取られてもおかしくないところだが、不運なことにこれまで一度も異星人との接触がなかったことに免じて、今回は特別に違反者講習のみということにしておこう」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」
危うく我々の不手際のせいで、宇宙への探求の道が永遠に閉ざされるところだったと知り、冷や汗が滝のように流れていました。
「さて、まずは君達の宇宙船に法律上、最低限必要な装備が備えられているかどうかを確認してくることにする。作業が終わるまで、ここで大人しく待っていなさい。くれぐれも勝手に機材を触ったりしないように」
「はい、よろしくお願いします!」
彼らを見送り緊張しながら船内で待つこと数十分。我々の船からの通信が入りました。
「想像していたよりなかなか立派な船じゃないか。必要な設備も大体揃っているし、使われている技術こそ少々遅れているが、かなりの値打ちものだよ」
「それは光栄です!」
宇宙交通法に遵守しているかどうかだけでなく、文明の進んだ彼ら異星人の目に、地球の科学技術の粋を集めた宇宙船がどう映るのか気になっていたので、それなりの評価を得られたことに安心しました。「値打ちもの」という表現には僅かに違和感を覚えましたが、ひょっとすると翻訳装置の誤訳かもしれません。
ほっとしたクルー達にようやく笑顔が戻ってきたところで、一人が窓の外を指差しました。
「あれ……気のせいかな……ロケットエンジンが点火されていませんか?」
「うん? 本当だな。稼働検査も行って下さっているのだろう……もしもし、操縦方法はご存知なのでしょうか?」
彼らに対して失礼かと思いましたが、念のため無線で確認を取ることにしました。ですが、返ってきたのは冷ややかな嘲笑でした。
「ふっ……まだ気づかないのかね。君達が学ぶべきは宇宙交通のルールではなく、知らない他人のことを容易く信用しないという、小さな子供でも弁えている人生の大原則だよ。流石に身一つで放り出すのは可哀想だから、その格安オンボロ中古船はくれてやる。温情に感謝したまえ。はっはっは!」
呆然としている我々を置いて、先程告げられた制限速度を軽く上回るであろう猛スピードで、慣れ親しんだ宇宙船は遥か彼方へと消え去っていきました。