幕末に農民転生したサラリーマン俺氏、森のブラック企業で忍者として働くも、ドラゴンで文学少女な幼なじみの暇つぶしで牛乳味のおにぎりを食わされ悶絶、伝説の名探偵おねぇ聖女の必殺技を受け大魔王として覚醒する
タイトルは上限の百文字、また、応募の都合上、本文は千文字で終わりです。
俺には前世の記憶がある。現代のサラリーマンとしての記憶。
「おい田吾作。わらわの話を聞いておるのか」
「俺の名前は田吾作じゃねーよ……。俺は! ワンオペ夜勤明けで死にそうなんだよ……」
木々の間から見上げる青空に、白い入道雲が浮かぶ。
今の俺が勤めるのは、ブラック企業もかくやの忍者集団だ。
俺は下忍、その中でも下の下、最底辺の下っ端。
「わん? 犬か? うむ、田吾作よ。そちはわらわの犬じゃ」
俺の隣を歩く女。大人しそうな顔で態度は尊大、その正体はドラゴンで読書好きという、規格外の存在だ。
「して犬よ。喜べ。牛乳が手に入ったのじゃ」
「牛乳? なんだそれ。偽物だろ。どこに酪農家がいるんだよ」
時は幕末、徳山幕府の支配が揺らぐ、江戸時代風の異世界。
激動の時代だが、ここはそんな世情とは無縁な森の中。
「お前のボロアパートに帰ったら、料理に使うのじゃ。おにぎりでも作るかの」
*
忍者の隠れ里。独身寮の俺の部屋。
「出来たぞ、犬よ。牛乳の大海に浮かぶ、おにぎりが島じゃ。さあ食え」
「犬じゃねーよ。自分で食えよ」
「わらわの手料理が食えんと申すか。暇つぶしじゃ。さあ食え。はい、あーん」
部屋の片隅に、古い『ぱそこん』とブラウン管の『でぃすぷれい』。
画面には『おんらいん小説』が表示されている。
『主人公様〜。私、ヒロインちゃんの手料理をどうぞです〜。はい、あーん』
ドラゴン女……これを読んだのか。
「あーんするのじゃ。はい、あーん」
俺は知らぬ間に口を開けていた。まるでマインドコントロールだ。
牛乳で緩くなったおにぎりが、俺の口に突っ込まれる。咀嚼する俺。
「うまいか? どうじゃ? なんとか言え、犬!」
「う……うま……おぇっぷ」
吐き気がする。気が遠くなる。
この世に生をうけ幾年月、農村かと思いきや忍者の村で、厳しい訓練に明け暮れた。
仲間からはいじめられ、変なドラゴンは押し付けられ、最後は食中毒で————
「必殺! ホーリー・キュア・スプラッシュよー!」
————光の奔流が俺を包んだ。
俺の目の前に立つ、筋骨隆々たる大男……。
「地道な調査が実を結んだわ。私は聖女よ。見付けた☆魔王因子を持つ転生者! それとお供のドラゴン!」
吐き気は治まっていた。それどころか気分壮快だ。
「あなたの悪いところを浄化したわ。これで大魔王にはならないはず」
大男はそう宣言したが、俺は本能的に理解した。
余計なものが浄化された結果、俺の中の『それ』が、確実に力を増したことを————
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