『過ぎ去る過程②』
それから数日間は楓さんも妹の部屋によく遊びに来るようになっていた。
もう、うちの常連みたいな感じになっていて慣れてしまったが、俺は彼女の兄が...と思ってしまうと何とも言えない感じになってしまう。
楓さんは楓さんで兄とは無関係だと言うのに気にしてしまうのだ。
自分でも頭の中ではわかっていても自然的に避けてしまったり、何かと負の感情が湧き上がってくる。
彼女の兄、新城颯馬がいなければ俺は今頃幸せに過ごしていたのかもしれない。
そう思ってしまうのだ。
「綾さんのその髪の毛は治らないんですか?」
突然楓さんに喋りかけられたので少しビクッとしてしまった。
「あ、あぁ。今のところ悪化してる感じかな...」
「そう、なんですか」
そう言って顔を俯いてしまう楓さんを見ていると兄がしたことなのに自分がした事のように責任を感じているのだ。
兄より、まだ小さく妹と一緒の中学2年生、彼女には関係ない。
こんなことを小さい子が背負うことではないと思う。
少なくとも俺が有栖に背負わせることはないと思う。
「今、お兄さん何してるの?」
「兄は綾さんと千里さんより一つだけ歳上ですので高二ですね。今日はどこか遊びに行くとか言ってました」
「そっか、まぁそうだろうね」
「?どうしたんですか」
「君は兄とは違うから、安心していいとおもう。背負いすぎは体に毒だよ?ほら俺みたいに髪白くなっちゃうかも!」
そう言って笑わせてみせると、クスクス笑われた。
それで俺は満足したが、もう1人妹ができた感覚だった。
「お兄ちゃん!楓ちゃんに迷惑かけないであげてね?」
少し拗ねたような声で言ってくる有栖に対し「ごめんごめん」と苦笑し二人の仲を見守っていた。
新城楓か...信用できるかできないかだとまだ信用できない、いつになったら信用できるのだろうか。
有栖が仲良い友達と言っていたから早く慣れておかないと、有栖に気を使わせてしまうだろう。
有栖も変なところで背負い込む癖がある為、どことなく二人は似ている気がした。
そんな二人を見ていると少し微笑みが出てきた。
自然に溢れてくる笑みは久しぶりな気がした。
いつもは笑みを作ったりしていることが多い、所謂愛想笑いというやつだった。
二人を眺めていると親にでもなった気分だったな。
どことなく騒がしい有栖にどことなく大人しめの楓さん、二人は本当に仲が良い。
俺にはそういう奴がもういない、高校になり中学の友達とはほぼ疎遠になってしまった。
そしたらどうだろう、高校になって直ぐに裏切られてしまい、友達なんかいない。
少し羨ましく感じる反面、嬉しく感じてしまう。
今日はそんな日だった。
◇
今年も冬になってきていた、雅先生が家に来て今後のことで少し話したいとのことだった。
もちろん、今後のことで俺もきちんと話しておきたいことなどあるので承諾して家に招いた。
「それで早速本題に移っていいかしら?」
「どうぞ」
「貴方の学校生活は留年が決定したというのはわかっているよね?」
「そうですね、前に聞きました」
「それが本格的に動いていて留年したのはサボりではなく病気の治療が原因と言っているわ、嘘はついてないからね」
「まぁ、嘘はついてないですね。了解です」
「貴方の今後についてだけど...」
そうして雅先生は俺の髪の毛を見ていた、何故かはわからないけど。
「その髪の毛はどうにもならないの?」
「染めればいいかもしれませんが自分的には真っ白くなるらしいのでありかなと思ってますね」
「確かにもう随分と真っ白くなってきているけど、学校側は許可してるけど私個人として少し目立つことになるかと思うのだけれど」
「そうですね、目立った方がいいかなと思ってるので」
「?」
目立つことによってある程度のクラスカーストを獲得したいと思っているのが心境ではあった。
「そう、それならいいわ」
どうやらそれで良いらしい、もっとネチネチ言われるかと思ったがあっさり許可してもらえて少し嬉しかった。
その後も色々話た気がするが細すぎて何を話したのか、あんまり覚えていない。
さすが教師、そう思ってたりするのだがやはり雅先生も信じることができなかった。
◇
月日は過ぎていき、もう新年になっていた。
俺と有栖は、新年のお参りをすることになった。
理由は有栖が行きたいと言ったからだった。
毎年有栖はお父さんとお義母さんと行っていた記憶がある。
今年は旅行が終わりすぐに出張になって今は忙しいらしい。
俺はというとこういう行事は全て、千里と共に過ごしていたので少し新鮮な気分になっていた。
「お兄ちゃん!早くしないと行列になるよ!」
「わかった、わかった。気をつけて歩けよ」
「は〜い♪」
どうやら新年になって、より一段と機嫌が良くなってきている有栖だった。
新年だからといってハメを外しすぎないように俺がきちんと見守るとしよう。
「それにしてもお兄ちゃんの髪の毛、すっかり真っ白くなったね。案外綺麗」
俺の横に立って突然そう言い出した有栖。
「案外綺麗は酷いな...まぁ間違っていないのかもしれないけど」
「ごめんごめん」
有栖が言う通り俺の髪の毛はほとんど真っ白くなってしまっていた。
坂上先生の予想通りになってきているらしい。
「今年から学校かぁ〜」
「そうだね、お兄ちゃんも頑張って!応援してるよ〜」
「そうだな、ありがとう...」
新年になりしみじみ思う、有栖がいたから今の俺がこの場所にいるということと言っても過言ではないくらいだった。
有栖がいなかったら今頃廃人にでも成り果てていたのかもしれない。
家族である有栖には色々と支えてもらっていた。
俺の感謝は消えずにずっと残ったままだった。
◇
春になり俺は入学式に出なくてはいけなくなった。
入学式にいないやつのことなんか覚えてくれる人はいないだろう。
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
「あぁ、行ってきます」
そう言って俺は学校へと一歩ずつ歩き出した。
そこに青春があると信じて───。
何とか書ききりました。
これにて基盤を固めることができたんじゃないかなと思っています。登場人物を次はまとめて二章に移ります。
誤字報告、有難い限りです。
今後も所々ミスっていくと思いますので誤字脱字を見つけたら報告していってください。
ジャンル別日刊ランキング1桁入りを2日でしてしまいました。
嬉しい限りです。ありがとうございます。