『大切にしたい人』
「たっだいまぁ〜!」
数時間後、有栖が帰ってくると元気な声が玄関から聞こえた。
「おかえり」
俺は荷物でも運ぼうかと玄関へ向かうが「お兄ちゃんは休んで!」と言われてしまい、リビングで座っている。
何故かしらその場にいた志乃亜と挨拶を交し仲良くキッチンで料理を作っているらしい。
俺だけ仲間外れだが、俺の事を心配しての行動だと思うので、気にしないでおくことにした。
◇
「神城さんはお兄ちゃんとどれくらい仲良いんですか?」
私は突然妹さんからそんな言葉を放たれていたので少し驚いたが「どのくらいと言われても...」と曖昧な反応しかできなかった。
「私思ったんです。お兄ちゃんのこと家族なのにあんまり知らないなって...」
どうやら家族思いみたいで妹さんは綾のことが知りたいらしい。
だが、その気持ちは私も一緒だった...綾のことを私も知らなすぎる。
「同じ気持ちですね...私も綾のことを知らないことが多いです」
私がそう言うと仲間思いでもあるのか、少しだけ嬉しそうな顔をした妹さんが「仲間ですね!」と元気を出していた。
私が綾のことで知っていることなんか、少ししかない。
例えば実母のこともあまり知らない、私と綾が出会った時には既に亡くなっていた...1度でいいから会ってみたいと思っていたがそれは今日叶ったと思っている。
綾が実母の居場所をこの住んでいる家に作ったことにより彼女には居場所ができたはずだ。
写真に写っている彼女はとても笑顔だった、彼女が生きたという証はきっとこの家に残り続けると思う。
「志乃亜さんはお兄ちゃんのことどう思ってるんですか?」
考え事をしていると突然妹さんから声をかけられる。
どうやら先程までは考え事をしている私に聞くことを我慢していてくれたらしい。
「どう...とは?」
「お兄ちゃんのこと好き!とか嫌い!とか色々思うところあるんじゃないですか?」
「綾のこと...」
私が綾のことをどう思っているかなんて簡単だった。
「嫌いです。隠し事もするし、自分で抱え込むし、一人だけ先に行くような感じです。十年前の約束ですら覚えていたのに忘れてる感だしてきましたし...」
そう、そういうところが嫌いだけど、それを含めても良いところも沢山ある。
「ですが、全部丸めてみると好きになるのかもしれません」
まだこの気持ちについては確定したわけじゃない、父は「柊くんなら良いぞ!」と何故か仲良くなっているし綾のことは好きか嫌いかの2択だと限りなく好きに近い方だと思っている。
「そうなんですか、私はお兄ちゃんの良いところが多いので家族として好きですね、お兄ちゃんと初めて会った次の日くらいから打ち解けるくらい仲良くなってたので...あの時のお兄ちゃんは今よりもっともっと明るかったですよ」
多分綾が明るかったのは中学生までの話だろう。
私と出会った時なんか今の数百倍くらいは元気で明るかったかもしれない。
人は変わってしまうものなのだ、と分かってしまった。
綾と再会してからは色々と学ばされることが多い気がする。
「ん〜もうちょいかな?」
簡単に食べれる物を作る予定だったがカレーを作っているらしい。
何故なら綾はカレーが大好物らしい...こんな小さなことも知らないなんて私は綾と本当に仲が良いのかと思ってしまう。
不安だけが胸の中に拡がっていくが、ほかのことを考え、紛らわせることにした。
◇
「出来上がったよ〜!」
匂いから分かっていたがカレーが出来たらしい、二人で作ったとのことで出来は上手でもう見るからに美味しそうだった。
「ん?」
志乃亜の顔を見ると、何故か元気がなさそうな感じの顔だった。
表情がほぼ変わらないので何を考えているのかも少ししかわからない。
そんな志乃亜だったが、最近は俺にわかるくらい顔に出てたりすることがたまにある。
それが今だったりする。
二人で料理を作っている間に何かあったのだろうか?
二人を見てみるがどうやらそういうことではないらしい。
「それじゃ皆で食べよっか!」
場の空気を読み取った有栖がそう言ってとりあえずカレーを食べることにした。
「そう言えばお兄ちゃん体の調子はどうなの?」
「ん?寝たから大丈夫」
心配して聞いてきた有栖に対して安心させるように言ったつもりだったが「寝たから治るってわけじゃないんだよお兄ちゃん...」って言われた。
実際に、安静にしておくだけで治ると思うので俺は風邪くらい寝れば治ると思ってる。
「それにしても綾は体調管理を気をつけるべきです」
志乃亜も便乗して俺に色々言ってきたがもう耳を塞いでカレーを食べることにした。
「美味しい」
そう呟くと「私の話聞いてますか?」と睨まれてからもっと叱られることになった。
◇
今日は志乃亜はすぐには帰らずに少し遅めに帰ることにしたらしい。
有栖とは何かと打ち解けあっているので別にいい事だと思う。
「部屋に行くか...」
自室に戻ると机の上にある写真立てを眺めていた。
「母さん...」
今じゃ言ってることもほとんど覚えてはいないが『大切にしたい人がいるのならきちんと頼り合うことが大切』と言っていたりした。
大切な人は多いに越したことはないと思うが俺は数人だけだと思う。
有栖に、志乃亜に父さんに義母さんもちろん母さんのことも大切だ。
「ありがとう、母さん。いや春菜さん...」
唯一母のことで覚えているのはいつも言う何かと意味深な言葉と母の名前くらいだった。
俺にとっての大切なものはきちんと大事にしていきたい、そう思った。
「入っていいですか?」
そんなことを思っていると扉をコンコンと叩いて志乃亜が声をかけてきた。
今書いてる感じだとこの小説は5章か6章辺りで終わります。
こんな感じに終わらせれたらいいなってのはできてきました。
もうすぐ評価が1万を超えます。
ありがとうございます。




