『寝てたら家にいる奴』
私は綾が学校へ来ていないことを心配し、直ぐに早退をした。
少しくらい真面目な私ならこれくらいのことをしても罰が当たる訳では無いだろうと思っての行動だ。
例え何かあったとするのなら何を犠牲にしてでも綾の隣は私が奪いさる。
綾の苦しみは分かち合いたいと思っていたりするけど綾は一人で抱え込む癖がある為いつも注意をしている...つもりだった。
秋川先生に問いただしてみたけど今日はただの熱だということらしい。
いつも健康体である綾が熱を出すのは珍しいことだと思ったが最近の体調管理ができていなさそうな点から風邪だろうか...。
とりあえず妹さんも家にいると思うので学校から綾の家に向かうことにした。
◇
「何故か緊張します...」
いくら綾のことが心配したからと言って早退してまで来たのは心配しすぎだろうか?
いや、綾のことが心配だということは本当だし、一刻も早く顔を見たいと思っているのでこの行動に悔いはない。
何かあれば父が電話でもしてくるだろう...と思った。
「・・・」
チャイムを押すだけなのに緊張してしまい押せずにいる。
こんな時に緊張するあたり普段はあまり緊張しないのが不思議でしかない。
私は心の中で気持ちを切り替え、チャイムを押すとピンポーンと音が鳴った。
「・・・」
誰も家から出てこないことから不在なのだろうか?
いや、綾は熱だということだから動けないはずなので妹さんがどこかに行っているか普通に学校へ行っているかの二つだ。
妹さんの性格から察するに学校を休んで看病してるだろうと思うのでどこかに出かけてるのだろう。
「開いちゃってますね...」
試しに玄関を開いてみようとしてみたら開いてしまった。
もうこうなったら入るしかないと思った私は「お邪魔します」と言ってから中に入ることにした。
不法侵入かもしれないが、私と綾の仲なので大丈夫...なはず。
大丈夫じゃなかった場合でも後で謝れば快く許してくれると思う。
◇
綾の部屋に向かうとすやすやと寝ていた、寝顔がとても可愛らしいですが、机の上に倒してある写真立てに目がいってしまった。
「なんですかこれ...」
思わず独り言で呟いてしまったが、そこにいたのはとても綺麗な女性と普通の男性、そして小さい頃の綾が並んでいる写真だった。
ここに妹さんがいないことから綾の実母ということなのが分かるが前に聞いた時には「声も顔もほとんど覚えてない」と言っていた気がする。
どうしてか埃をかぶっているのが不自然なことから押し入れかどこからか出してきたのだろう。
そんなことを考えながら写真を眺めていると綾が起きてしまったらしい。
◇
目が覚めると写真立てを眺めている志乃亜が目の前にいた。
「何してるんだ?」
「写真を眺めてただけです。お邪魔してます」
「写真か...」
先日、押し入れから昔の写真を取り出していた、余り母のことを覚えてはいないがとても綺麗な人だったというのは覚えている。
今の義母も綺麗な人なのだが、失礼かもしれないがそれとは比にならないくらいだった。
お父さんが再婚と同時に昔の写真は全て押し入れにしまうようにしていたみたいだった。
それはそうだろうがこの家から母がいなくなる気がして俺はとても嫌な気持ちになっていたのを覚えている。
今となってはほとんど気にしたことは無いけど、この家にも僅かなスペースだけでも母のいたということがわかる証が欲しいと思って探した。
結果的にはどこからか写真立てが見つかって昨日あたりから机に置いていた。
手入れなどもされていないから少し汚いかもしれないが今度の休みにでも綺麗にしようと思う。
「綺麗...ですね」
写真を眺めてそう言葉を放つ志乃亜に対して俺は熱が冷めてきたのか「そうだな...」と返事を返した。
「熱を出したと聞いたのですが大丈夫なんですか?」
ふと、本来の目的を思い出した志乃亜がそう言ってきたので「寝たから大丈夫」と返しておいた。
「あれ?...有栖は?」
「私が来た時にもいませんでしたよ?」
「そっか、買い物に行ってくるって言ってたんだった」
有栖はまだ帰ってきていないらしい、だがどうやって志乃亜は家に入ってきたのだろうか?
「有栖に通してもらったんじゃないのか...?」
「早退して家に来たら誰もいなくて玄関の鍵開いてないかなと思ってたら開いてました」
テヘッ!と効果音が出てきそうな感じがするが、少し犯罪臭がする。
「今回は良いけど次からはちゃんと気をつけてくれ...」
「カギ開けて行った妹さんに言うべきでは?」
「確かに...そうだな」
不法侵入をしているのに、俺の方が口で負けてしまった。
有栖はとっても優秀なんだが実は天然だったりすることがある。
例えば辛口のカレーを作ろうとすると何故か買ってくるのを甘口にしてとても甘いカレーができあがった。
それまでカレーは辛口が好きだったのだが有栖の間違って作った甘口カレーもその日から好きになった。
他にも珈琲を入れるときの砂糖の量をミスったり、たまにポンコツである。
「とりあえず不法侵入はやめようね?」
そんなことより、不法侵入はきちんと注意するべきだと思ったので言っておいた、寝て起きたら家にいるとかびっくりするから...。
「は、はい。すみません」
反省してくれたみたいなので普通に許した。
案外俺ってちょろいのかもしれないな...と思いながら有栖が帰ってくるのを待つことにした。
誤字脱字報告ありがとうございます。
大変助かっております。




