『坂上晴人の夢』
それから月日は経ち僕、坂上晴人は姉と同じ大学に入ることになった。
「結局青春より勉強してる時間の方が多かったじゃん!」
麻里姉は大学生になってからも少しだけ青春という言葉に固執していた。
高校時代に青春なんてできなかったが大学生になると余裕がでてくる。
勉学も自分が取りたいところを取るだけだったので学校に行く日数も次第に減る。
麻里姉は教育実習生になり、近くの進学校の保険医を担当することになったらしい。
実際は教育実習生なので保険医の隣でどんな仕事をするのかなどを見ているだけしかないらしい。
「つまんないぃー!」
「そんなものなの?」
麻里姉はお酒を飲める歳をとっくの前に過ぎているので酒を飲みながら僕に愚痴を言うことが多くなっていた。
「そうだよぉ!何もすることないの!ほとんど眺めてるだけだし、カウンセリングも全くないし」
本当は医者になりたいと言っていた麻里姉だったが、学生時代のことを少し思い出して、保険医になることを決めたらしい。
高校生くらいの歳になると、不安なことなど色々増えてくると思って相談に少しでも乗ってたあげたいという思いがあるらしい。
実際に僕は素敵な夢だと思った、僕の相談も真面目に聞いてくれるし、麻里姉には向いている職業だと思う。
「麻里姉は保険医の教育実習にしたことやっぱ後悔してるの?」
「後悔?そんなのしてないよ、だって選んだのは自分自身だからね、後悔してる暇があるなら夢追いかける方が重要だからね!」
そう言った時の顔はとても真面目で言い終わった時に笑顔になっていた。
そんな風に自分の夢を決め追いかけれる麻里姉に凄く憧れていた。
「晴人は同じ大学に入ってよかったの?」
「その方が何かと楽だし、麻里姉を見てたら少し憧れるんだよね」
「じゃあさ、晴人は医者になってよ!」
突然言い放たれたその言葉に僕は「え?」と口を半開きにして驚いていた。
「だってさ、晴人の頭の良さならいけるでしょ?」
事実、姉の麻里奈並に頭が良く、教授からも数件だけお誘いがきている。
実際に留学してみないかという話だって来ていたが断ることばっかりだった。
「んー、一応考えてみるね」
「絶対!絶対だからね」
そう言って何故かしら僕の将来の夢を医者になるように推してきていた。
当時はなんでそんなに医者に執着しているのかわからないが今になればわかる事だった。
医者になればわかるが、多くの命を担当したり、時には多くの悩みを聞いてあげたりする。
僕の場合麻里姉みたいに何か夢がある訳でもなく、麻里姉の後を追うようにこの大学へ来た。
なので麻里姉が推すこの夢に対しては否定的ではない。
むしろそこまでなってほしいと言われるのなら嬉しくらいだった。
それから数日後、学校にはきちんと休日があり教育実習生も来る必要がないので姉弟仲良く遊びに行くことになった。
「ん〜!いつもこんな感じなのになぁ、やっぱ外は良いよねぇ〜」
僕たち姉弟は近くの公園に来ていた、公園にはベンチがあり、そこで座って休んでる感じだった。
麻里姉が買い物中にいきなり「公園に寄ろっか」と言ってきた。
「なんで公園に寄ったの?」
「んーなんでだろうね、この公園人気がないし、最近じゃ公園は減少してきてるらしいよ、だから大学生の私たちがこの公園に行けるのも最後かもしれないんだよ?」
「ちょっと話が唐突すぎない?公園なんかすぐに無くなるわけじゃないでしょ?多分...」
そう言ったが「そんなのわからないよ?」と何故か言ってきた。
その日は公園を一周してから家に帰ることにした。
◇
それから数日、最近は教育実習の愚痴が減りつつある。
本人曰く「慣れた」どのことだった。
慣れれば苦ではなく、最近は楽しく感じることが多いらしい。
笑顔が更に増えたことはいい事だとは思うが僕に頼る機会が減ることは少し悲しさもある。
「晴人は今後どうしたいの?」
突然麻里姉からそう言われたとき、僕はどうしたいのだろうか?そう考えてみた。
結局的に僕は麻里姉が言った通り医者を目指すことくらいしか道がないと思っている。
幸い、勉強にはあまり困っていないのでこの調子で頑張ればいけると言われてるくらいだった。
「麻里姉に言われた通り医者を目指してみるよ」
「え!?ほんと?それ嬉しい!!」
何故か知らないが、麻里姉は僕が決めたことを喜んでいた。
◇
僕たちの幸せな日々は次第に消えていくことになった。
『もしもし、坂上晴人さんのお電話で間違いないでしょうか?』
「は、はい。そうですけど?」
『只今、坂上晴人さんのお姉様、坂上麻里奈さんが事故に遭って病院に搬送されました』
「え?麻里姉が...?」
信じられなかった。
あの麻里姉が、事故に遭うとは思ってもいなかったからだった。
病院に向かうと麻里姉が、頭に包帯を巻いてこちらを向いていた。
「ご、めんね晴人...」
麻里姉はあまり喋ることもきつい状況になっているらしい。
「ま、麻里姉!大丈夫だから!安心して...」
僕の声を聞くと麻里姉は少しだけ微笑んでくれていた。
「ごめんね、晴人。辛い思いさせてしまうかもしれないけど、お母さんに宜しく伝えてね...」
「なんでそんなこと言うんだよ!まだ大丈夫だから!」
「だって...自分のことは一番自分が分かるんだよ、思い残りがあるんだけど言っていい?」
「何!?何でも言っていいよ」
僕の声はもう涙声になっていた。
「カウンセリング、してみたかったの。誰かの悩みを解決してあげて、助けてあげたかった。それが私の心残り」
「そんなの全部僕がやるから!僕がやるから安心していいよ!」
そう言うと麻里姉は笑顔になって「ありがとう、晴人。ごめんね、お母さんに宜しく伝えてね」と言っていた。
その後は何を話ていたのかわからなかったが、麻里姉の手を握っていると手が冷たくなってきているのがわかった。
ふと脈を見ると小さくなってきている。
自然と涙が溢れてくるが、麻里姉の前では笑顔泣き顔がごちゃごちゃになって笑われてしまった。
数時間後麻里姉は亡くなった。
後から聞いた話だったが、相手の居眠り運転が原因となって事故になったらしい。
それから僕の夢は麻里姉が言った医者になることだった。
麻里姉との約束は今でも忘れない。
カウンセリングをする機会がやってきた、柊綾という少年だった。
この少年は僕も麻里姉も多分カウンセリングをしても悩みを解決させてあげることはきっとできないだろうと思っていた。
だって僕たちは青春を投げ捨ててきたじゃないか。
麻里姉だったらきちんと解決させてあげれたのかな?
そんなことを思いながら写真を眺めていた。
ある日綾くんから「坂上先生にお姉さんいましたっけ?麻里奈さんなんですけど」と言っていた。
話を聞くと興味深い話だった。
麻里姉が綾くんに対してカウンセリングをしていたらしい。
麻里姉は何年も前に亡くなってしまったはずだと言うのにだ。
なんだ、すぐ側にいたんだ麻里姉。
この話を聞いた時そう思ってしまった。
これからずっと、僕はこの職業で定年退職になるまで過ごすだろう。
坂上晴人の夢は憧れだった坂上麻里奈から貰ったもの。
麻里姉の夢だった、お悩み解決はまだ先のことになるだろうけど、精一杯頑張っていくよ。
僕はお墓の前でずっと目を瞑っていた───。
坂上晴人は青春を捨てた。
坂上麻里奈は夢を託した。
坂上晴人は夢を背負った。
全ては憧れだった、憧れが消えた時の絶望は苦しかった、死にたくなった。
それでも夢を背負った坂上晴人は前を向き今に到る。
これで四章にいけます。
前回短かったぶん今回長めになりました。
今回、坂上晴人の姉と綾に自己紹介をしていた姉ですが、麻里奈先生と呼ばれることはなく、坂上先生と教育実習生の時に呼ばれていました。綾に麻里奈先生と呼ばれたことがとても嬉しかったのかもしれません。
また、後日綾はこのことを晴人(坂上先生)に話をしたが詳しくは教えて貰えませんでした。全ては晴人(坂上先生)の心の中に閉まっています。




