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『坂上晴人の過去』

 



 坂上晴人(さかじょうはると)それが僕の名前だ。

 姉の坂上麻里奈(さかじょうまりな)とは二歳ほど離れており、仲のいい姉弟だった。


「麻里姉さん、高校どこに行くの?」


 そう、僕は姉のことを麻里姉と親しみを込めて呼ぶことが癖になった。


「んー近くの進学校かなぁ、あそこに行けば医師になれる確率も高くなるし!そのために結構勉強頑張ってるからね」


 麻里姉の夢は医師になることだった、カウンセリングもやりたいらしい。

 困ってる人の悩みを聞くことも好きだし、困ってる人のことを救いたいと思っているらしい。


 僕にとって姉は憧れの象徴でしかない、カッコイイし、時にドジって可愛らしい。


 そんな姉だった。


「晴人はどうしたいの?」


 そう、僕には姉のような大きな夢がなかった、人を救いたいと思ったこともなければ自分さえ良ければいいとすら思っていた。


「麻里姉みたいに、いい夢はないよ」


「そうなんだ、見つかるといいね!」


 麻里姉は成績はもちろん優秀だった、家では人一倍勉強していることからその努力が現れることは当然だった。


 高校に入っても定期テストでは1位を取って帰ってきている。


「今回も1位だったの?凄いね、麻里姉!」


「ううん、これでもミスが少し目立ってるから...」


 1位だったと言うのに自分の結果にまだまだ満足ができていなかった。


「麻里姉無理しすぎは良くないから少しは休んだら?」


 最近は特に無理することが多くなってきている傾向にあったので心配し声をかけてみたら「もう少ししたら休むね」と言ってくれた。


 結果は単純で休むことなんかなかった、次の日からもっと心配するようになってしまった。


 この時の僕と言えば姉のように勉強ばっかりしているわけではなく、普通に過ごしている中学生という感じだった...気がする。


 当時の僕は姉に対し、憧れを抱いてはいたが焦りすぎではないかと思ってしまっていた。


 姉に対し頑張ってほしい、夢を叶えてほしいと思う気持ちと共に複雑な気持ちになってきていた。


「麻里姉、息抜きに遊びに行こっか!」


 ある日僕は麻里姉のことを思って、外へ遊びに行こうと誘うことにした。


 返事は「いいよ!」と優しく言ってくれたので僕は嬉しがって準備をしていたのを覚えている。


 当時はあまり外に出る機会がなかった。


「晴人は準備できた?」


「そうだね、一応できたけど...」


 そうして向かったのが水族館だった、海の生物は自由がある、自由に泳いでいるのだ。


 机とずっと睨めっこしていて、鎖か何かで縛られているような麻里姉は少し見たくないと思ってしまった。


 水族館のイルカやジンベイザメなどの生物は限られた空間でしか生きることができない。


 逆に限られた空間だからこそ、安全に暮らせることもある。


「麻里姉は無理しすぎだと思うんだ、少しずつでいいから息抜きもしていった方がいいと思う」


 高校生になってから、問題が難しくなり授業のスピードも上がる。


 それに加え、範囲まで広くなってくるのだ、そこで1位を取るのは難しいと思う。


 そして、何故姉が1位に固執してしまっているのかは家が母子家庭だからだった。

 小さい頃に父の浮気で母と離婚してしまったらしい。

 詳しい話は1度も聞かされたことがないが、母は仕事をずっと頑張っている。


 麻里姉はそれを見て無理をさせないように推薦を狙っているのだろう。


 今のところ一件ほど有難く頂いたらしいがそこじゃ納得できないらしい。

 もっと、もっと高みを目指している麻里姉はとても凄い。


「そうだね...最近疲れてたんだよねぇ〜ありがと!」


 麻里姉は満面の笑みでそう言ってくれた。


 その言葉は弟の僕でも行動に移して良かったと思える瞬間だった。


 それから姉は適度に勉強を頑張るようになり、少しづつ落ち着いていった。


 僕は安堵していた。



 ◇



 数年後、麻里姉は大学生になったが彼氏などできていないらしい。


「麻里姉は彼氏いないの?」


「んー?別に夢追いかけてるからね、晴人は?彼女くらいいるんじゃない?」


「僕も最近は勉強頑張ってるからね、麻里姉と同じく彼女いないんだよね」


 そう、僕たち姉弟は勉強を頑張っていくようになり、恋愛も青春も投げ捨ててきた。


「青春...してみたかったねぇ〜」


「僕はまだ1年残ってるよ?麻里姉と違ってね!」


 僕がそう言うと「言ったなぁ!?」と笑いあっていた。


 こんな日が続けばいいとずっと思っていたが、長くは続かなかった。




いつもより少しだけ短いです。

もう1話だけ坂上先生のお話です。

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