『体育祭準備』
あの後家に帰り着くと「お兄ちゃん遅い!」と有栖に少し叱られてしまった。
確かに話をしたり寄り道したりで、遅いのはわかっているが、少し落ち込むふりをすれば言い過ぎたと思った有栖が慌てる光景を見て笑うとまた叱られる。
そんな出来事があった。
「お兄ちゃん最近の学校どうなのー?」
「まぁ、ぼちぼちって感じだよ。普通に体育祭の練習でヘトヘトだけど...」
俺の話を聞き終えると「なら良かった♪」と機嫌よく料理を作っていた。
もちろん料理は美味しかった。
◇
翌日、俺たちは全校生徒で体育祭の準備が行われていた。
「綾そっち持って〜!」
悟の大きな声が届く俺はそれに対して「はいはい」と返事を返した。
いくら力のない俺でもこれくらいの物は持てる。
「綾次こっち頼む〜!」
次は赤野からの要請がきていた、あれ?俺働き者じゃん...。
「はいは〜い」
少し面倒だし疲れるが準備は皆がしていることなので俺も頑張ってやっていた。
「お前らー!ちょっと休憩していいぞ!」
どうやら予定より早く終わってきているようで、一年、二年、三年と順番に休憩をしていくそうだった。
予定より早く終わってきていると言っても全体の三分の一程度の作業しか終わっていない。
何故かと言うとこの高校、運動場などがとても広い、そして当日は記者なども来ることが予定されてるため来賓席が多く作られている。
今年は一年生にも笹木さんのような優秀な選手もいるのでより注目度が上がっているらしい。
それで去年より、少しだけ大掛かりな作業になっている。
「綾、疲れたなぁ〜...」
悟が俺に向かってきてそう言い放った。
「お前が呼ぶからこっちは疲労が2倍だ」
とりあえずこっちはお前のせいでもっと疲れてるんだよとアピールしておく。
休憩が終わってからも呼ばれまくったら困るからな...。
「流石に俺も疲れたかな...なぁ綾?」
「いやいや、俺はお前のせいで3倍上乗せで疲れた」
赤野もそう言ってきたので少し盛って言っておいた。
これで俺を呼ぶことは減ってくれるだろうか。
「それにしても綾はよく動くよなぁ〜!呼んだらすぐ来るから楽だわぁ〜」
「悟、お前!わざとだったのか!?」
悟が突然そんなことを言ってくるので俺の顔も鬼になったが「うそうそ、嘘だから!」と弁明を必死にしていた。
少し面白かったので許すことにしたが次は俺が呼びまくってこき使ってやる。
「そこで知らない顔してる竜馬も使ってやるから安心しろよ」
「うっ、オレナンノコトナノカワカラナイ」
「おい一年!休憩は終わりだ!次は二年が休憩だ!」
「「はーい」」
片言になっている赤野を置いて休憩時間は終わりを告げた。
◇
あと少しで準備が終わりそうな時に二年の人達と会ってしまった。
「あれ?綾じゃん...1年2組だったのあんた」
「絢瀬こそ、2年2組か...」
そう、同じ組の先輩と体育祭に向けて交流を深めるということで顔合わせみたいなものをしていた。
3年2組の先輩は超意気込んでる人もいれば面倒くさそうにしている人もいる。
「絢瀬がいるってことは?もしかして...」
「千里もいるけど...今は出てくる勇気がないみたい」
そう言って千里がいるであろう方向を眺めていた。
「その方が俺も余計な緊張しなくて助かるんだけどな...」
「確かにそういえばそうね」
そう言って適当に談笑しておくことにした、名目的には顔合わせで交流を深めることだ。
絢瀬と話をしておけば、仲がいい先輩後輩程度には周りから見られていると思う。
「綾、その人とばっかり話をしていても交流は深まりません」
突然後ろから志乃亜が声をかけてきてびっくりしたがどうやら俺が絢瀬としか話をしていないことに気がついたらしい。
「だって先輩と話すの嫌だ」
「先輩方に失礼ですよ、いい人たちが集まってますし」
「いやいやいや、それ志乃亜の周りに男が鼻の下伸ばしてやってきてるだけだからね?それ決していい人たちじゃないから、逆に悪い人たちだからね?」
実際志乃亜の容姿はとても綺麗で可愛らしい、三年でも二年でもそんなことは変わりようもない事実で先輩方でも鼻の下を伸ばしてしまっている状況だった。
「そんなに心配なら綾が守ってくださいね、一歳年上の先輩ですからね」
「それは歳的にだけど、俺ひ弱だし守れとか言われても守れそうにないけどね?」
「言葉のあやです...それくらい『志乃亜は俺が守ってやるから安心しろよ!』とか言えないんですか」
溜息混じりに俺にそう告げてくるが、俺にはそういうオプションはないんだよ...。
「守ってもらうなら現実的に裕司さんに守ってもらおうな、お父さんだろ?」
「そういう現実を突きつけてくる行為は一切受け付けてません」
無表情なのはいつもと変わらないが少し呆れた顔をしているようにも見える。
それにしても見れば見るほど綺麗な銀髪だ、しかも顔も整っていて可愛い、肌も白い。
「なんで、突然黙るんですか...」
「あ、いやなんでもない」
志乃亜の顔をじっくり観察していたなんて言えるはずもなく、俺は黙るという選択肢を選んだ。
「お二人さん仲が良いのはいい事だけど私の存在も忘れないでほしいんだけど...」
俺たち二人を見かねた絢瀬がやっと動いてくれたらしい。
少し動くの遅いし、志乃亜が何か言う前に動いてほしかったな...。
「私と綾は十年以上前からの仲ですしね」
「十年以上前からって千里とは幼馴染なんでしょ?どういうこと?」
「簡単に昔会ってたってことだな...それだけの話だ。幼馴染だった千里も仲良くなったのは小6くらいからだったから、それよりも前に仲が良かったってことだな」
そう言うと志乃亜は上機嫌になって、絢瀬は興味深そうに聞いていた。
「じゃあ、神城さんが海外に行かなかったら神城さんと付き合ってる可能性もあったってこと?」
「まぁ、その可能性は高いかもしれないな...まぁ今は恋愛とか懲り懲りなんだけどな」
そう、今は懲り懲りなだけで、きっとこの先向き合うことになる。
その未来はそう遠くないはずだ。
「綾、流石に軽率に言い過ぎでは?そんな人に告白されても私は付き合いません」
あまりそういう話を目の前でされるのが得意じゃないらしい。
「まぁ、今はそんな気配しないから大丈夫だけどな」
その後会話をしていたら時間が過ぎてしまい、交流は終わりとなった。
結局先輩の名前なんて覚えていない、応援団みたいなのがあったが正直気にしていなかった。
それから数日───ついに体育祭当日になった。




