『俺だけのためのカウンセリング』
「あ、危ない!」
誰かの声が聞こえたが俺が気づくまでに遅れてしまい頭に衝撃が走った。
「え?」
次の日も体育祭の練習があったがどうやら俺は途中で倒れてしまったらしい。
「知らない天井だ...」
目が覚めると知らない場所にいた、倒れたことから察するに保健室の天井だろう。
周りを見てみるが、保健室に来たのは今日が初めてだった。
「やぁ、目が覚めたかい少年」
目の前にいるのは白衣を着た女性なので、十中八九この人が養護教諭(保健の先生)だろう。
「え、えと...」
「私の名前は坂上麻里奈、弟から話は聞いてるよ少年」
目の前にいる人は坂上麻里奈と名乗っていた、坂上?名前からして坂上先生の姉だろうか。
「もしかして坂上先生のお姉さん?ですか?」
「そうそう、愚弟がさ一丁前にカウンセリングしてるって言うからさどういうのか気になるって聞いてみたら白髪の男って言うからさ少年のことだろう?」
「そ、そうですね...ところで間違ってたらどうしたんですか?」
「間違ってるわけないさ、そこまで綺麗な白髪はそうそういない、そういえば綺麗な銀髪ならいたな...」
綺麗な銀髪とは志乃亜のことを言っているのだろう。
「それにしても坂上先生の姉とは随分と印象が変わりますね...」
「そりゃあよく言われるよ!弟と似てないってね、少年もそう思うだろ?」
少し寂しそうに、懐かしそうにそういうことから何か過去にあったのだろうか。
何かあったとしても俺が聞くことは無いだろう、そういえば坂上先生も学生時代のことはあんまり話したがらなかった気がするな。
「見た目だけの話なら似てないかもしれないですけど根本的な部分では似てると思います」
そう言うと麻里奈先生は、少しだけ微笑んでくれた。
「そりゃあ嬉しいこと言ってくれるね!気に入った!私も特別カウンセリングしてあげる、何か悩み事があって、晴人に聞く時間なかったら私に言えば相談くらいなら乗ってあげる」
なんか、勝手に好感度が上がったみたいだが、頼りがいがありそうだし、嬉しい限りだ。
「ありがとうございます」
「まぁ、保険医なんかこの時期暇だからさ、話し相手が欲しいだけなんだけどね」
そう言い終えると「ハハハ!」と笑っていた。
どことなく自分を制御しているような笑い声が保健室に響いた。
「それにしても、最近悩み事あるんじゃないか?晴人のところには体育祭の練習で行けないだろ?私に相談してみなさい、これでも保険医なのでカウンセリングくらい朝飯前だぞ?」
「そうですね、最近は悩み事というものが考える暇も無くなってしまってきてるので...」
「まぁ、無いと言っててもいいけど、話した方が楽だぞ?ほらほら」
悪魔の囁きかなにかだろうか?少し近づいてくるし本当に話すことなんかないんだけど...あ、普通にあるか。
「ありました、そういえば麻里奈先生は俺のことどれくらい坂上先生から聞きましたか?」
「ま、麻里奈先生!?」
俺の話には反応せずに麻里奈先生というところに反応してしまったらしい。
坂上晴人先生のことを坂上先生と呼んでいるため必然的に麻里奈先生と呼ぶしかなくなる。
「すまない、麻里奈先生なんか言われたこと無かったから、少年が悪いんだぞ?」
何故か俺のせいにされてしまった、過剰に反応した麻里奈先生が悪いだろ...。
「少年のことだよね?ある程度は電話で聞いたことある、もちろん彼女に裏切られたことも知ってるぞ?」
遠慮なく言ってくるあたり、そこら辺は容赦ない先生らしい。
「そこで相談なんですけど...体育祭が終わってから話し合う約束を取り付けられてどういう風に話したらいいのかな...と」
「まず、どうするかの話の前に何個か質問していい?」
何を質問されるのだろうか?と少し首を傾げながら「どうぞ」とだけ返しておいた。
「まず一つ目、その女の子は好きか?」
「好きとはもう言えないくらいにはなってます」
「じゃあ逆に嫌いか?」
「嫌いというわけではないかもしれませんが限りなく嫌いに近いかもしれません」
どんな質問をしてくるのだろうかと緊張していたが普通にそういうところをズバズバっと聞いてくる感じだった。
「じゃあ二つ目の質問、例えば話をしたとする。女の子の方はとても、尋常じゃないくらい反省していてやり直したいと言われたらどうする?」
「もう、そういうのは懲り懲りなので断りますね」
「そういうことだ、話しをしたとしてどんなことを話すのかはさほど重要じゃない、重要なことは自分の選択だ」
「選択?」
「例えば君が望めばもう一度やり直したいという選択をすることも可能だ。それでやり直せるかはわからないが選択肢の一つとしてある。彼女と話す中で選択肢が何個も出てくると思う。どの選択を選ぶのかは少年自身だ」
麻里奈先生が言うことはご尤もな発言だった。
結局はどんなことを話したとしても自分で選択するということだ。
千里が何を話すかにもよるが、俺の選択は最初から、やり直しは有り得ないと決めている。
「それにな、少年。相手から話をする場を設けたいと言ってきたんだ、君は話を聞く立場になる。少年が話すことを考える必要なんて最初からないのさ、だからお得意の頭の良さを利用してすぐに選択を決めるんだ、その選択こそ正しい選択だ」
言っていることは全て正しいように聞こえる、なんで色々考えているかも馬鹿らしくなってきていた。
「ありがとうございます。おかげでスッキリしまし───」
「おっと、流石に寝てしまったね、それにしても晴人もいい出会いをしているみたいで良かったよ、柊綾くんかぁ...少年頑張れよ。麻里奈先生って呼んでくれたのは嬉しかったぞ少年、それじゃあな」
◇
目が覚めると保険医は別の先生だということがわかった。
俺の相談に乗ってくれた坂上麻里奈先生はどこに行ったのだろうか?
本当にこの場所にいたのだろうか?
それは、俺だけしか知らない。俺だけのためのカウンセリングだった。
「ありがとうございます。麻里奈先生」
『頑張れよ少年』
そう聞こえた気がした。
この声のおかげで、明日も明後日もその先も頑張れる気がした。
最初に坂上晴人という人物を出した時に姉などの親族を出す予定でした。
ですが、こんな感じに終わらせるのもいいかなと思いました。
第三章が終わり次第短めのお話で坂上先生の学生時代のお話も予定しております、そこで姉についても語られると思います。




