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『彼女もまた青春をしている』

 



 朝早くに目覚めてしまい、俺は学校へと向かった。

 今日は朝から食欲がなかったので、有栖のための朝食を簡単に作り、置き手紙でも置いといた。


 学校の昇降口に着くと靴をスリッパに履き替えて一年二組の教室へと向かう。


「あーらら、バレちゃってた?」


 そう、俺が早く来た理由の一つとして、目の前にいる人物の行動を予想していたからだった。


「おはよう、笹木美紀さん」


「なんでバレたんだろ〜?今日だけ早く来るってタイミング良すぎない?」


「何故だろうな、笹木さんが動きそうなのは金曜の放課後か月曜の早朝かの二択になってるからね、金曜日は笹木は部活無かったし、アルバイトでもあったのかな?早く帰ってたからね」


 当てられたことに驚いたのか、口が半開きになっていた。


「探偵のモノマネ?それなら才能あると思うよ柊くん」


 彼女は聞き終えると俺の顔を睨んでそう言った。


「そう?将来は探偵志望になろうかな...ちなみに何をしようとしてたかも当てようか?」


「何って何もしてないけど?()()()


「そうだね、じゃあ、君が今手に持ってるものを当てようか?それはね油性ペンかな?志乃亜の机に落書きでもしようとしてたんだろうね」


「な、なんでそう思うの?持ってるものは当てられても用途までは当てれないでしょ?」


「笹木美紀、中学校時代のことを少しだけとある人に頼んで調べさせてもらったよ、陸上で新聞や、ニュースになるくらい有名人だったんだね、流石に驚いたよ」


「それと何が関係あるの?」


「君がその容姿で学校でもモテていて今の志乃亜くらい持ち上げられていたこともわかっている。君は一番じゃないと納得できない子だった。陸上でも教室でも...ね」


「知ってる?神城ちゃんってさあんまり女子の間では好かれてないんだよね、男を誑かしてるっていわれてるんだよ?これを書いてもなんとも思わないんじゃない?擁護するのは男だけだね」


 そう、笹木美紀という女性は自分が一番じゃないと納得ができない。

 このクラスになり二番目になってしまったことに苛立ちはもちろん、復讐心まで出てきてると思う。


「志乃亜のことを諦めた男子しか言い寄らないこの今の現状に苛立ちを覚えてるんだろう?」


「そうだけど!?何?何がいけないの?私とあの女(神城志乃亜)になんの差があるの?成績?顔?権力?一体何があると言うの!?」


「決定的なもの一つだけある。笹木さん君には噂があったりした。それも悪いような噂だったよ、志乃亜は噂なんか出てきやしない。噂を信じてしまう人たちが出てきたんだろう」


「う、噂?」


 どうやら聞き覚えがないらしい、本人が知らない間に出回った情報なのだろうか?


「君が一番じゃないと納得できないし、影で色々あるって噂だった」


「そう...なんだ」


 少し戸惑っているようにも見える。


「まぁ、ここで君に一つ選択がある」

 

「何?」


「今ここで見てるのは君と俺だけの二人だ、そうだろう?」


「そうだね」


「じゃあこのことを秘密にしておこう、君はその対価として体育祭の時は本気でやってくれ」


「なんでそんな事言うの?柊くん、貴方にとっては体育祭なんか、なんも思わないんじゃない?」


 俺が何故そういうのかわからないみたいな反応だったらしい。


 そう、実際体育祭なんかどうでも良かった、だけど俺の思い出として残るかはわからないが、誰かの思い出になるだろう。


「青春...してみたいでしょ?この三年間で、だから精一杯頑張ってほしいだけだ」


 その言葉を聞くと笹木さんは「あはは!」と大きな声で笑っていた。

 ツボっているみたいで、一時笑いが止まらなかったので少し心配したがどうやら大丈夫だったみたいだ。


「じゃあ私は体育祭の練習の時から本気を出さないといけないね...」


「練習から力を入れておけば本番の時もいつも通りいけばいいだけになるからな、と言っても俺は体力に自信が無いのでどうしようもないけどな」


「へー、柊くん体力ないの?って確かに筋肉なさそうだもんね...」


 俺の体を見て判断する、少し失礼だと思わないか?人は見かけによらないんだぞ...って俺が言っても意味ないな。


「それじゃあ俺はまだ用事があるので...」


 とりあえずそう言ってその場を退散することにした。



 ◇



「これでいいんだろ?」


「はい、ありがとうございます。り、綾」


 俺と志乃亜は密会をしていた、何故かと言うと、志乃亜が笹木さんのことを不思議に思って調べていたからだった。


 本当は今日、志乃亜が笹木さんと対面するはずだったが少し早く来た俺に事情を話し、俺が笹木さんと話をすることになった。


「それにしても推理までは話をする時間がなかったので言ってませんでしたが...どうやって見破ったんですか?」


「持ってる細いものが見えちゃった...だけなんだよな」


 そう、実を言うと俺の視力は案外良い方で教室に入る前に少し観察させてもらっていた。


「そういうことでしたか、噂の方は?聞いたんですか?」


「少しだけだけどな、まぁ多少盛ったけど聞いたのは聞いたけど...」


「そうですか。なら後からバレても大丈夫そうですね、なんなら一度噂でも立ててあげようかなと思ってましたので」


「怖いことするな...」


「大丈夫です。綾が来てくれたおかげで一件落着ですので、後は体育祭当日に向けて頑張るだけです」


「そうだな...」


「あ、後は昨日のこと私の勘違いだったみたいです...ご迷惑をかけてすみません」


「大丈夫だ、迷惑かけるくらいが丁度いいと思うしな」


 そう言ったら志乃亜は少し微笑んでくれた。


 今日の体育祭の練習は体育の顧問が気合いを入れすぎて大変なことになったりしたが何とか初日を乗り越えれた気がする。


 笹木さんはと言うとめちゃくちゃ速くて誰も追いつけなかった。


 彼女もまた、前を向いている、そう思うと彼女も今青春をしているのだろうと思った。






あと少しで第三章も終わります。

第四章は綾の父や有栖の母も出しつつ、千里ともきちんと決着をつけるようにしていきたいと思います。


第四章からは1日1話が多くなると思いますが、毎日投稿は続けていきます。1日2話は第三章までです。



誤字脱字報告ありがとうございます。

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