『父の思い』
いつもより長くなりました。
俺と裕司さんは俺が来たことないであろう場所、高級レストランへと足を運んでいた。
「貸し切りにしてあるから気にせず食べたまえ」
「はい...」
こんな場所に来るのは全くと言っていいほどないので結構緊張している。
席に座ると馴染みのある店らしく「いつもので」と言っていたので俺はすかさず「同じのを...」と言っておいた。
こういう時は選ぶ時間がほとんどないので相手と同じのを選ぶのが得策だと思う。
「さて、待っている間に少し話を進めようか...」
「そう...ですね」
「うちの娘、可愛いと思わないか?」
ん?何言ってんだこの人、さっきまでの雰囲気はどこに消えたんだ!?
「え、あ、はい。そうですね」
「そうだろう!?あの歳であの容姿でさらに完璧ときた、心配になるのは親だろう?」
興奮しているのか知らないが俺の肩に手を置いて揺らしていた。
「・・・すまない」
落ち着きを取り戻してくれたのかすぐさま謝ってくれた。
「大丈夫です。それより、本題にいきましょうか」
「そうだな...」
まだ言い足りないような顔をしていたが渋々本題へ移ることに成功したみたいだった。
「娘の勘違いについて、柊くん君は予想がつくかい?」
「仮説ならありますね」
「それを聞かせてくれないかい?」
俺は自分の仮説を話すことにした、最初は失礼かなと思ったが聞きたいと言ったのはそっちの方だし遠慮なく言うことにした。
話したことは単純なことで志乃亜は母の態度を見て自分の子では無い様に対応されていると勘違いしているのではないか、ということから話し始めた。
裕司さんは興味深く話を聞いており、途中で止めて「ここまで大丈夫ですか?」と聞いておく。
すぐに「続けてくれ」と返事が返ってきたのでその後のことも話をする。
「自分の予想ですが、結依さんと裕司さん二人の間では志乃亜のことで何かトラブルがあるんじゃないかなと思ってます」
「ほぅ、例えばどういうことでトラブルが起きていると思うか?」
目が鋭くなって少し怖く感じたが、俺は続けることにした。
「例えば...そうですね、志乃亜の婚約者とかですかね?母親、結依さんは早く幸せになってほしいということに焦りを覚えていると思います。その一方で裕司さん、貴方は落ち着いて志乃亜の未来は志乃亜のものだと尊重しているようにも見えます、ですがやはり親として心配なのは確かなことでしょう、だから休みの日にはなるべく顔を出すようにと言っているのでしょう」
俺はここまで一通り言い終えるとまだ言っていないことがあることに気がついた。
「裕司さん、貴方と奥さん...結依さんはどちらが志乃亜のことを思っているかということで言い合いにでもなってるんですか?」
「そうだな、俺と結依は志乃亜の将来について日本に来た日から話し合うようになっていた。日本についてすぐに志乃亜が一人暮らしをしたいと言い出して俺と結依で少し言い合いをしてしまった」
少し後悔しているのだろうか?悔やんでいるように見える。
「私は家にいた方が安全面など執事もいるしメイドもいるし、いいと思ったが、結依はそうはいかなかったらしく、『早く自立させてあげた方がいい』と言っていたんだ。まだ可愛らしいからな高校卒業までは家にいるものだと思っていた」
どうやら高校卒業まで、と過保護に思っているのは裕司さんらしく、奥さんである結依さんは早く自立して自分の幸せを見つけて欲しいと思っているようだった。
話を聞く限りどちらとも悪いようには思えない。
なぜならどちらとも志乃亜のことを思って言い合っているだけなのだから。
「そして先日のことだ、結依が焦りすぎて勝手に行動していたのを私は仕事で見破れなかったらしい、勝手に婚約者を見つけて志乃亜に婚約させようとしていたらしい、その後また言い合いになってしまったが、今は志乃亜にゆっくり自立させ、幸せを見つけてもらおうということになった。だが肝心の志乃亜がこのことをきっかけに結依に対して間違った考えを持ち始めたのだ」
裕司さんは自分の失態だと言い、少し困ったような顔をしていた。
「突然志乃亜から『結依さんと私には血縁関係がないんですか?』と聞かれた時驚いてしまった。そんな風に思われることを結依はしていたのか?と疑問と共に私たちは何をしていたのだろうか、と自分たちを悔いた。だが私たちが何を言っても聞いてくれるような状況じゃないことは確かだろう」
「そうですね、今の状況的には志乃亜は結依さんのことを相当嫌っているみたいですね、裕司さんのことは過保護な父親だと言っていました。婚約者を勝手に決めようとしていたことには結構怒ってると思います」
「ふむ...そこで柊くん、君に一つ頼みたいことがあるがその前に質問をしていいかね?」
「なんですか?」
「志乃亜のことを...どう思う?」
「どう...とは?」
「異性として見てみろ、あんな出来のいい子そこらを探してもいないぞ?可愛いし、頭が良いだろ?それに優しいし、気遣いも上手だ。少し表情を表に出すのは難しい子だか君くらいならわかるだろう?」
「異性として見て?とても素敵な子だなと思います。約束も守りますし、自分より俺なんかのことを優先してますしね」
「だよな!?いい子だよな!?」
俺の肩を揺すって興奮している、娘にここまで興奮している父親を俺は今までに見た事があるだろうか?
「それで結局何が言いたいんですか?」
「娘を貰ってくれないか?」
「は?」
何言ってるんだろうこの人、自分の大切な娘である志乃亜を俺に貰ってくれないか?だと?
「何言ってるん「真面目な話だ」」
「結局のところ結衣も志乃亜の幸せをねがっている、もちろん私もだ。志乃亜も君となら受け入れてくれるだろう、どうだい?こんな上手い話ないと思うが、もちろん君の将来についても、なりたい職業がないというなら私の元で働いていずれは継いでくれても構わないぞ?」
もう話が飛躍しすぎていて頭の容量がパンクしてきている。
「要するに他の変な男は嫌だけど、なんか知ってる俺の事なら志乃亜と付き合っても別に構わないということですかね?」
「そういうことだ、無論君のことは私も結衣もある程度調べさせてもらった。念の為聞いてみたが君の両親は大歓迎とのことだったぞ!」
え?そこまで話が持っていってるの?話が飛躍しすぎていてわからない。
「自分は志乃亜のことを好いてはいますが、恋愛とかそういうのは懲り懲りなので...有難い提案ですが断らせてもらいます」
「その事も調べさせてもらったからな、だから今すぐにというわけではない、そうだな...高校卒業までに志乃亜のことを好きだと思えればということでどうだ?ちなみに親の私の立場から言わせてもらえば十年間誕生日の日には『日本に行きたい』とずっと言っていたくらい柊くんのことを思っているぞ?」
そう言われると少し恥ずかしくなってきた。
志乃亜にとって俺という存在は大切だったのだろうか...。
「卒業までですよ...」
ここは折れよう、卒業までに好きになれば志乃亜と付き合うだろうが、今のところそんな心の余裕がない。
口約束でしかないし、今後そうなるともわからない。
「よし、今の全て録音させてもらった!これを志乃亜に聞かせて...家族みんなで仲直りだ!」
「ちょ、ちょっとまっ「何か言ったかね?」」
「な、なんでもないです...」
俺が止めようとするとすぐに睨まれてしまった。
怖かったので諦めたが、その後出てくる料理のせいでそんなこと忘れてしまった。
その日は料理を食べ終えたあと家まで送ってくれてすぐベッドで眠りについた。
父の思い、それが志乃亜に伝わると願って───。
一件落着?




